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藤井教授に再反論する 「大阪都構想」は都市経営として合理的だ  大阪都=大阪市廃止分割は、大阪を弱く不便にする
http://www.asyura2.com/15/senkyo184/msg/808.html
投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 15 日 07:38:23: tW6yLih8JvEfw
 

2015年5月15日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]

藤井教授に再反論する
「大阪都構想」は都市経営として合理的だ

大阪都構想は都市経営の
適正サイズを求める問題

大阪の行方は、全国が注目している 
Photo:Paylessimages-Fotolia.com

5月11日付の本ダイヤモンド・オンラインのコラムにおいて、藤井聡・京都大学大学院教授は、大阪都構想への反対意見について、学者の数の多さを強調している。私の意見はきわめて少数であるという。だが、学問の世界では、数は意味がなく、中身が問題だ。

 大阪都構想に反対の学者のリストがあり、そこに各人の所見があったので、一応読んでみたが、少なくともデータに基づく社会科学の議論でないと感じた。

 大阪都構想は、都市経営において、適正サイズを求めるものだ。大きすぎれば分割し、小さすぎれば合併して、適正サイズに近づける。実務経験のない学者は、このあたりがさっぱりわからないようだ。

 この分野の日本における嚆矢は、故・橋本徹先生だろう。現大阪市長の橋下徹氏と同音同名であるが、名字は違う。元関西学院大学経済学部教授であり、1996年に亡くなられた。筆者は、先生のお名前を存じていたが、役人だったこともありそれほど深い面識があるわけではない。ただし、多くの門下生がいて、自治体研究で学会をリードしていたことは知っていた。

 関西の経済学界では、橋本・関学グループと本間・阪大グループ(本間正明・元大阪大学経済学部教授)が立派な実証分析を数多く出し、多くの優秀な研究者を輩出し、関西からの全国への意見発信をしてきた。

基礎的自治体の適正規模は30〜50万人
大阪都構想はその観点から合理的

 実は、前述のリストに両グループの人がいるかどうか、気になっていたが、どうも杞憂のようだった。

 それは当たり前で、少なくとも、基礎的自治体の適正規模について、学会ではある一定のコンセンサスがあるからだ。

 ざっくり言うと、基礎的自治体では、ある程度の人口があれば集積の経済性が出て、総所得(便益)が増えてくる。一方、基礎的自治体の運営では、一定の費用が行政にかかる。その行政サービスを行う上で、ある程度の人口があったほうが規模の経済を発揮でき、コストを安くできる。

 以上の条件の下で、便益と費用の差を最大化できるような人口規模を考えると、人口が少なすぎても、多すぎてもダメで、適正な人口規模がある。

 もちろん、このような計算はいろいろな条件に基づき行われるので、学者でも同じ解になるわけではないが、30〜50万人程度という、おおよそのコンセンサスはあると考えていい。

 ちなみに、通常の市より、権限がやや大きい「中核市」という制度があり、人口要件は20万人(かつては30万人)とされているのは、こうした基礎的自治体の適正規模の研究をある程度反映したものだ。

 都市経営を実際に行う立場から言えば、この適正規模はいろいろな場面で感じられる。

 大阪都構想では、特別区は5つであるが、適正規模の観点から合理的である。これを具体的な行政で当てはめて考えてみよう。

大阪市は適正に区を統合しなければ
効率的な行政ができない

 ここでは、清掃工場(ゴミ焼却施設)を一つの基準として考えてみよう。

◆図 清掃工場の規模(横軸:1工場当たり人口万人)とカバーする区数の関係

&emsemsp;この図は、大阪市を含む政令市について、横軸が1清掃工場当たりの人口数、縦軸がカバーする行政区の数をプロットしたものだ。

 もちろん市の行政はゴミ焼却以外にも多くあるので、実際には清掃工場だけの観点では考えることができない。

 ただ、各政令市でゴミ焼却事業は共通のものであり、その規模に応じて1つの清掃工場がカバーする区の数に一定の関係がある。それを使って、カバーする区の標準的な数より、大阪市のそれが大きければ、大阪市の区の数が多いとみなすことができる。

 大阪市はともに傾向線よりかなり上に位置している。その分、区の数が多すぎるのだ。傾向線の上にあるためには、大阪市は今の24区から17区へ減少させていいくらいだ。大阪市で区長公選を行うなら、少なくとも清掃工場基準で見ても、今の24区を17区に減らさなければ効率的な行政ができない。

 しかし、これは大阪市の清掃工場の規模があまり大きくなく、効率的でないことを前提とした数だ。東京特別区並みを目指すなら、大阪市は今の24区から5区に統合する必要がある。

 こうした効率的な清掃工場は迷惑施設ではなく、地域のエネルギーセンターになる。大阪都構想ができれば、住民サービスと一石二鳥になる清掃工場の再編も一緒に行えるだろう。

大阪市の規模が過大なのは事実
学問の世界は数ではない

 冒頭リストに乗っている学者には、こうした都市経営の話は理解不可能だろう。筆者の知り合いの学者たちは、少なくとも適正規模の観点から見れば、大阪市が基礎的自治体として過大であることには異論がない。したがって、大阪都構想の方向性について、自治体経営から見れば、まったく当然の話である。

 ただし、今回の大阪都構想に関わる議論があまりに政治的になりすぎたので、公の意見表明をしたくないようだ。しかも、徒党を組むのは筆者も含めて得意ではない。

 最後に、学問の世界では数はまったくあてにならない事例を挙げておこう。それは、昨年4月からの消費増税である。

 2013年夏、政府は多くのエコノミスト、学者から消費増税の影響をヒアリングしたが、日本の代表的な一流学者を含む多くの学者が影響なしと言った。ところが、実際には予想外の悪影響があり、2014年度の経済成長率は大きく落ち込んでしまった。

 学問の世界では多数決で物事を決めるのではない。ただし、政治の世界では、本件について住民投票による多数決で、一応の結論は5月17日に出される。

 大阪市は基礎的自治体として適正規模を超えているという事実に対して、住民がどのような判断をするのだろうか。筆者は、社会科学の学者として、興味深く思っている。

 
http://diamond.jp/articles/-/71532



大阪都=大阪市廃止分割は、大阪を弱く不便にする

住民投票間近 上山信一・慶応義塾大学教授と異なる視点からの分析


2015年5月15日(金)  村上 弘

5月17日、大阪市役所の運命が決まる

 5月11日、日経ビジネスオンラインでは大阪都構想の推進派である上山信一・慶応義塾大学教授の記事を掲載し、大きな反響があった。そこで17日の住民投票を前に、反対派の論客である村上弘・立命館大学教授の論考を掲載する。

 大きな「市」の廃止をめぐる住民投票としては、ベルリン市(都市州)と周辺州の合併を問う事例(1996年、否決)と並ぶギネス級の投票が迫る中、行政学、地方自治論の視点から、しかし批判的に、大阪都の内容と進め方について論じる。

1.東京からは見えない大阪都問題

 最初に指摘しておきたいのだが、不思議なことに、橋下徹市長以外の維新の党の政治家は、テレビなどの討論会に出席しない。(4月30日の弁護士会シンポジウムは、維新側が直前にキャンセルし中止になった)。つまり、ほとんど橋下氏の弁舌だけが、大阪都構想を支えている。

 書店に並ぶ本は、大阪都反対が圧倒的に多い。5月5日、大阪での学者による記者会見には、批判意見を持つ106人が名前を連ねた。橋下市長などが職員に発言を禁止し、批判する記者や学者を「個人攻撃」する中ですら、反対意見が続々登場していることは、注目できる。

東京では分からない大阪の事情とは

 賛成論は、東京の数名の学者だけが述べている。それらに対するコメントは別のところで試みたので、本稿では、東京から見えない大阪・関西の事情というものをご理解いただけるよう、解説を試みる。

  1. よく指摘されるように、東京の「都区制度」(東京市を廃止し都に吸収したシステム)にも欠点があるが、大阪に適用すると、より矛盾が増幅する。大阪では東京と違い、特別区への財政調整の税源が豊かでなく、かつ市が府に占めるウェイト(=府から配慮を受ける程度)が人口で3分の1しかないからだ。
  2. 東京では国が各種施設を作ってくれるが、大阪(そして東京以外の地方)は少なく、府県や指定都市の責務が大きくなる。たとえば、東京には国立大学が11もあるのに、大阪は2つで、その分、府立大と市立大が、住民に良質の高等教育の機会を提供している、といった見方が合理的だ。
  3. 東京の発展を「都区制度」の成果だとする主張は研究者レベルでは聞かれず、むしろ首都への機能集中とグローバリゼーションが原因だと考えられている。言い換えれば、大阪の「没落」は、先進国共通の現象として理解するべき側面がある。人口、GDP(国内総生産)、大企業本社数などの統計を見ると、マンチェスター、リヨン、釜山が首都に対して持つ比重よりも、関西の東京に対する比重はまだしも大きい。

     ただ、大阪の経済力の伸びは全国平均と同程度だが、東京には差を付けられている。研究を要するが、本来は首都に及ばない「第2都市」が、歴史的蓄積と、大阪府と市という2つのエンジンの努力によって、何とかその地位を保っているとは解釈できないだろうか。

 筆者も、もちろん大阪には頑張ってほしいが、東京との量的な競争ではなく、むしろ「質的な」競争を期待したい。

2.大阪都構想=大阪市廃止分割=特別区設置

 大阪都構想は、一言でも、1行でも定義できない。おもに4つの制度変化を含むからで、基礎知識として知っていただきたい。この複合性に応じて、呼び名も1つではなく、推進派は夢を語る「大阪都」、反対派は実体を直視する「大阪市廃止分割」、行政は法的には正しいが分かりにくい「特別区設置」を、それぞれ使っている。

都構想がもたらす4つの制度変化

 4つの制度変化とは、図表1のとおりである。すなわち、

(1)指定都市・大阪市とその24区を廃止する。
(2)市の大きな権限・税源・施設を、府が吸収して強くなる。
(3)市の小さな権限・税源・施設を、新設の特別区(区長と議会は公選)に移す。
(4)府は市から吸収した税源の一部を、特別区に配分する

というものだ。

●<図表1>
図表1 大阪都=大阪市廃止分割構想によるおもな制度変化
(筆者作成)

 大阪都構想を評価するには、おもにこの4つの制度変化が、成長戦略や住民サービスなどにどう影響するかを考えることになる。それはかなり複雑な作業で、抽象論ではなく具体的に考えないと間違えたり、だまされたりしてしまう。

3.成長戦略…大阪市の廃止で政策力が弱まる

 ここから、メリットとデメリットを4つの面に分けて考えよう。広域行政(または成長戦略)を府に一元化する、というのは、大阪都のアピールの1つだ。しかし、具体的に考えてみよう。府への権限・財源集中で初めて可能になる政策は、いくつあるのか。その答えは、驚くほど「空っぽ」である。

期待される新規効果は、ほぼカジノだけ

 維新のウェブサイトでさえ、「うめきた」2期開発、鉄道、都心部環状高速道路の完成、カジノを含む統合リゾート、の4つしか挙げていない。しかも、このなかで「うめきた」第1期はすでに市と府で完成させ、にぎわっている。高速道路も少しずつ作ってきた。地下鉄との相互乗り入れや、私鉄、JRの都心部乗り入れは、規模の大きな東京圏よりは少数だが、南北で2路線、東西で4路線が完成している。

 南大阪方面との相互乗り入れ(採算性がある場合)や、JR関空快速の高速化(和歌山行きとの分離・停車駅減)は、今の市長と知事が連携して推進すれば、大阪都にかけるエネルギーの5%くらいで実現できるはずだ。結局、ほぼカジノだけが、大阪都に期待される「効果」であり、都市計画権限が市から府に移るために、市民の意見を無視しても建設しやすくなる。

 他方で、都市の成長戦略は、巨大事業ばかりではない。京都、神戸、金沢、デュッセルドルフ、マンチェスターなどの市も成功しているように、道路・歩道・公共交通・緑地・景観・水辺などの整備、歴史的なビルの保存、市民活動、高等教育、文化事業、観光宣伝などが、住みたい人、訪れたい人、立地したい企業などを増やしてくれる。そうした中規模の政策は、大阪市が得意としてきたところだ。大阪市の廃止によって、まちづくりや文化の政策力が失われることが、心配になる。

4.効率化…有益な「良い二重行政」まで廃止

 財政効果については、計算の方法をめぐって議論があるが、論理的には、府と市の重複を減らすことのプラスと、市の特別区への5分割(部局の重複、庁舎建設など)で生じるマイナスの、合計ということになる。前者のプラスは、とくに府と市の二重行政をどれほど減らすかによって変わる。

 大阪都の推進派は、「二重行政=ムダ」という単純化アピールにかなり成功してきた。しかし、府と市が同種の施設を持っていても、@地域を分担していたり(公園、公営住宅など)、A機能分担していたり、Bニーズが大きければ、ムダではなく、「良い二重行政」と考えるべきだ。

 ところが維新のウェブサイトでは、二重行政として、中央図書館や中央体育館(@Bに当たる)、グランキューブとインテックス(会議場と見本市会場なのでA)なども、批判されている。その整理のために大阪都=大阪市廃止にする、というわけだから、市の廃止後、これらの施設の一方は廃止縮小するのだろう(そうしなければ、市をつぶす意味がない)。それは、節約にはなっても、大阪の都市としての力(インフラ)と、住民サービスを明らかに弱めてしまう。

「ケチケチ都構想」でいいのか?

 兵庫県、愛知県、京都府など、府県と指定都市がともに充実した施設を提供しているなかで、大阪の人々だけ1つだけで我慢せよという「ケチケチ都構想」で、良いのだろうか。

 もちろん、京都府・市などでも、明らかにムダな二重行政は話し合って一本化している。橋下市長と松井知事が大阪都に費やすエネルギーの5%で、大阪でももっと整理できるかもしれない。

5.住民サービス…横ばいまたは低下

 この問題には、複数の要因が作用する。自治体としての特別区になり、公選市長が競争することで、政策が改善されるメカニズムはある。(ただし、大阪市と、神戸、横浜などの競争メカニズムは、消える。)

 しかし、いくら競争しても、先立つもの、つまり権限、財源、人材が必要だ。権限がない分野では、特別区はほとんど何もできない。府の財政需要も大きいなか、特別区への交付金が減らされると、区はむしろサービス切り下げ競争をすることになる。同様に心配なのが、大阪市の職員組織が分割され、スケールメリット(規模の経済)や専門性を失うことだ。

 それに加えて、これまでの大阪市の充実した施設(=府との二重行政)や、24区ごとにあった施設は、次第に縮小されていくだろう。なお、防災行政や伝染病予防については、バックアップ体制を考えると、今の府と大阪市の2つの「司令塔」や組織があった方が、安心できる。目的が明確で一致するのに、府と市が調整できないというのは、理解できないことだ。

6.自治…大きな決定は住民から遠く、小さな決定は近くなる

 2で述べたとおり、都市計画や産業振興が、府に移り、地域や住民から遠くなるのは、「住民自治」の理念に反する。再開発やカジノ建設といった問題にも、住民は参加しにくくなるだろう。一方、福祉や保健衛生は、特別区に移るので近くなる。

 5つの特別区は今の区よりは強いが、政令指定市の大阪市と比べると弱くバラバラの存在に「格下げ」されるわけだ。近畿地方くらいの地図には載らないという点でも、一般市より弱い。

7.代替案はある

 橋下市長はしばしば「反対派は代替案を出せ」と言うが、大阪都への代替案は2014年の地方自治法改正で用意されている。

反対派は代替案を出している

(1)総合区… 区の役割を拡大し、区長も議会の同意を得て選ぶようにする。
(2)指定都市と府県の調整会議

 まずこうした、大阪市を廃止しないソフトな改善策を、大阪都=大阪市廃止と言う(夢が大きい代わり)リスクも大きい「大手術」に踏み切る前に、試してみることのほうが、明らかに賢明だ。総合区なら、有能な区長が一定の政策を進められるし、区選出議員や住民がそれに参与する制度を設けてもよい。調整会議も、政策評価制度や財政難の圧力も借りるなら、政策調整を進め、二重行政のムダな部分を整理していけるのではないか。

8.東京都、大阪「都」の制度は、先進国ではきわめて例外!

 大都市圏に適した自治制度は、何だろうか。今やウィキペディア(日本語および原語)で、世界の各都市の情報が簡単に手に入るが、私がそれ以外の文献も加えて調べたところでは、広域の大阪府と中心都市の大阪市の2つを置くやり方は、実は民主主義的な先進国の常識、標準なのだ(異論のある人は、データを示してほしい)。

 例えば、パリ/イルドフランス州、バルセロナ/カタロニア州、ミラノ/ロンバルディア州、ベルリン/ブランデンブルグ州、フランクフルト/ヘッセン州、アムステルダム/同県、台北/旧台北県、シカゴ/イリノイ州などなど、中心都市の「市」(人口100〜300万程度)/広域自治体の県や州(人口1000万程度にもなりうる)が並ぶ「二重システム」を採用している。その中で、中心の「市」が広域自治体から独立した「特別市」タイプ(ベルリン、台北など)と、独立しないが一般市よりも強い権限等を持つタイプ(パリ、フランクフルト、シカゴなど)が分かれる。日本の政令指定都市は、後者のタイプだ。

 逆に、東京のように、広域自治体(都)が中心市(旧東京市)を併合した「一重(単一)システム」は、先進国では例外だ(特別区は分割され弱いので、強い自治体の勘定には入れない)。他には、グレーターロンドンが「一重」でその全域が特別区に分かれるが、それでも大阪府よりは狭く、また実際の都市が巨大なので、実体と自治体のサイズが一致する。

 しかし大阪は、人口300万程度の市を900万の府が飲み込むなら、身長の3倍のサイズの服を着るような違和感が生じる。(ただし、集権的な国家では、上海、北京、ピョンヤンのように、広域自治体が中心市を兼ねる制度が見られる。東京市も、1943年に戦時総動員体制下で抵抗空しく廃止されたのだった。)

 「二重システム」には、市と府県・州の重複や議論のコストが発生し得るが、ニーズのある施設や政策の重複はむしろ便利で、議論も有益な場合がある。そして、こうした多少のデメリットを上回るメリットが存在する。まず、中心都市と大都市圏・郊外という質的に異なるさまざまな課題を分担できる。

 かつて大阪市は、市内の人口減を居住支援や環境の整備で食い止めたが、府庁の方は郊外開発に忙しく、また郊外人口さえ増えていれば危機感を持たなかっただろう。上の3.〜5.で書いたように、とくに課題や人口の大きい大都市圏では、「2つのエンジン」「2人のパイロット」で政策能力を高めることが、総体としての成果につながるわけだ。

海遊館やUSJ、都市整備などは大阪市の成果

 これまで大阪市は、市のことしか考えなかったと言われるが、市域内については責任を持って仕事をしてきた。WTC(世界貿易センター)やフェスティバルゲートなどの失敗もあったが、梅田の南北や天王寺などの再開発、中之島公園の整備、大阪城などの公園、文化・スポーツ施設、公共交通の整備、海遊館やUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の誘致などの成果を収めてきた。そうした施設は、大阪府や他府県の人も利用し、集客している。大阪の街は、経済力では差がついても、都市(ただし都心部)の魅力では東京に勝っていると、私はいつも感じている。

 大阪都が成立した場合、大阪市域の整備や発展について、広域担当の府がどこまで関心と熱意を持てるかは疑問だ。論理的にはおよそ次の通りで、ただ従来の2〜3倍の能力を持つ知事などが現れた場合にのみ、大阪市域への政策力が維持される。

●<図表3>
9.「大阪市廃止」という重要事項を隠す住民投票は、違法のおそれも

 2011年の知事・市長ダブル選挙のとき、マスメディアの記者に「大阪都とは大阪市の廃止だ」と説明すると、「そんなことを言って維新に抗議されませんか」と驚かれた。さすがに今回はそうした反応はないが、大阪都構想の複雑さを利用して、良い部分だけを単純化して宣伝する戦術が、続いている。

 その極め付けが、市長による住民説明会と、住民投票の用紙だ。前者の「説明パンフレット」(平成27年4月)では、大阪市の廃止もそのデメリットもほとんど説明されないで、良い話ばかり述べられる。住民投票用紙(図表2)も、大阪市を残したまま特別区を置くと誤解しやすい文章になっている。

●<図表2>
図表2 住民投票の投票用紙
(大阪市選挙管理委員会ウェブサイトより)

有権者の誤解を誘う投票用紙

 いくら大阪都を可決させたいと言っても、これでは詐欺のようなものだ。候補者の経歴詐称よりも、はるかに悪質だ。選挙管理委員会は、政治的圧力によって中立性を捨てたのか。このような投票用紙は、国の根拠法の1条に「関係市町村を廃止し」とあり、7条2項に「分かりやすい説明をしなければならない」とあるのに違反している。住民投票のあとで、投票は違法で無効だという訴訟が起こされる可能性もある。

 当面は、マスコミが、これは「大阪市廃止分割構想」への投票だと繰り返し報道し、それを有権者が確認したうえで、みんなで投票に行くことが大切だ。

10.大阪都の政治的な狙いは?

 大阪都構想は、残念ながら、政治やイデオロギーによって引き回され、その分、大都市にとって最適な自治制度は何かという合理的検討が足りない。実際には、推進する側の強烈な政治的意図・利益として、次の5種類が推定できる。

  1. 「大阪市の権限、力、金をむしり取る」…2011年6月の橋下府知事の有名な発言は、大阪市への不満や支配願望が都構想の原点だったことを証言する。美しく表現すれば、「大阪市の資源を大阪全体のために活用する」という妥当な面もあるが(しかし府も大阪市域から徴税している)、この原点を絶対化した結果、上で述べたように、大阪市の独自性を根絶させ、これまでの市の功績や役割を無視するような極端なモンスター構想が生まれてしまった。

    「府と市は対立ばかり」と維新は強調するが、京都府は京都市を、兵庫県は神戸市を、尊重し相互協力している。「市は府県に絶対服従せよ」というのは、明治「維新」の頃のイデオロギーで、地方分権の21世紀には似合わない。20年前の大阪市の2〜3の失敗を根拠に、市の働きや貢献を無視してつぶしてしまおうとする論理も、世間では通用しないだろう。

  1. 「ニア・イズ・ベター」… 特別区の長所をアピールする理念だが、区議会議員の定数が東京に比べて少なく、大阪市の重要な権限は府に移って住民から遠くなるなど、この理念は広い範囲で放棄されている。
  2. 「効率化最優先」…大阪市廃止のチャンスに交通局などの完全民営化が企図されるが、東京でさえ地下鉄の一部とバスは都営のままだ。もし節約だけが地方自治の目的なら、不便になっても公的サービスや府市の施設を減らし、優秀な職員・教員が集まらなくなっても給与を下げればよかろう。
  3. ポピュリズム(大衆扇動政治)による集票効果 … 制度改革は、結果を出すためではなく、政治的アピールのために掲げられることがある。大阪都は、維新の党にとって大きなメリットがある。党のシンボルとして、単純化された夢と批判者への攻撃によって、「おもろい」ことが好きな大阪人の一定の支持を獲得してきた。

    政治的な大波に襲われる大阪

     都構想成立に必要な府会・市会の議決は、公明を方針転換させることによってクリアし、残る住民投票でも、9.で述べた重要事項の説明回避で「考えさせない政治」が推進される。もちろん、野党やマスコミの責任も重いが、今回はかなり対抗情報の発信に努めているといってよい。

  4. 自民党1強政治の維持 … 安倍政権が大阪の発展策を研究しているとは思わないが、大阪都の挫折=維新の衰退を避ければ、大きな利益を得られる。第1に、全面改憲への支持だ。第2に、自民党への批判票が民主、維新などに流れる構造があるなかで、維新が党勢を維持すれば、民主の回復を抑え、結果としてとくに小選挙区(衆院)や1・2人区(参院)で自民が大勝できる。

 有権者の皆様におかれては、こうした政治的な大波に大阪の運命を任せず、「大阪都=大阪市 廃止分割」構想の住民投票にぜひ行かれるようお願いしたい。

【おもな参考文献】

『大阪都構想』の危険性を明らかにする学者記者会見(意見提出者106名)、2015年5月5日

村上弘『日本政治ガイドブック』法律文化社、2014年
*6章(民主主義の4つの条件など)、7章(ポピュリズム・大阪都)、10章(道州制)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150512/281008/?ST=top  

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