整合性も普遍性も見えない大阪都構想　永田町の裏を読む/高野孟
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/159743
2015年5月14日　日刊ゲンダイ

　橋下徹大阪市長の政治生命を決するといっても過言でない「大阪都構想」の住民投票を目前にして、朝日新聞・朝日放送の調査では同構想への反対が４３％と賛成の３３％をかなり大きく上回った。共同通信の調査でも、反対４７．８％に対して賛成３９．５％で、あと数日でこれをひっくり返すのはむずかしそうな形勢である。公明党が住民投票に賛成したので、その分、賛成が増えると予想されたが、朝日調査では公明党支持層の７割以上が反対で、橋下としては完全にアテが外れた格好になった。

　橋下は、同構想を理解してもらうには「はしょってしゃべっても１時間かかる」とボヤいているそうだが、そもそも１時間も説明しないと分からないようなものは（安倍の安保法制も同じだが）政治家の提案として落第だ。しかも橋下は、「税金があがる」といった反対派の宣伝にだまされている市民が悪いかのような言い方をしているが、そうではなくて、この構想自体が彼個人のかなり衝動的な“思い付き”から始まっているために、整合性も普遍性も欠いていて、市民だけでなく部外者にとっても理解しにくいものになってしまうのである。

　府と市の二重行政を解消するというが、市を５つの特別区に分解しただけで、なぜそれが解消されるのか。今度は府と区の間の権限や権能についてのプロフェッショナルで精密な制度設計が必要になるはずだが、そこがよく見えてこないし、よく考えてみると、府と市の間でもそういう落ち着いた議論は可能だったのではないか。２７０万都市を叩き壊すというのはいかにもドラマチックで、心理的ショック療法を狙ったのだろうが、それで大阪の人々が本当に幸せになるかどうかの保証はない。

　普遍性というのは、大阪はそれでいいとしても、他の府県はどうすればいいのかということである。政令指定都市を抱える府県はみな似たような弊害を抱えている。では、京都府は京都市を壊し、北海道は札幌市を壊して「都」になるのだろうか。

　これは広い意味での地方分権制度をどうすべきかという議論の一部であるはずで、仮に道州制が導入されて「関西州」などが誕生して、都道府県制は屋上屋を重ねることになるので廃止しようということになった場合には、都や府の方がなくなって、市が残ることになる。維新の党も「道州制」を政策に掲げているが、それとこれとはどう接合しているのか。分からないことだらけのまま、ともかくも住民投票は１７日に行われる。

▽〈たかの・はじめ〉１９４４年生まれ。「インサイダー」「ＴＨＥ　ＪＯＵＲＮＡＬ」などを主宰。「沖縄に海兵隊はいらない！」ほか著書多数。

コメント
01. 2015年5月14日 08:24:25 : NbJFForHgg 何の為に大阪「都」にした方が良いのか、さっぱりわからないが、批判解説もよく分からない。 ＜府と市の二重行政を解消するというが、市を５つの特別区に分解しただけで、なぜそれが解消されるのか。今度は府と区の間の権限や権能についてのプロフェッショナルで精密な制度設計が必要になるはずだが・・・＞ 大阪都になってまだ、都と区の調整でなく、何故「府」と区の制度設計が必要なのか、ちょっとしたこういう事が分からない。
02. 2015年5月14日 09:06:53 : lTYnhv7UDg >>1 ＞大阪都になってまだ、都と区の調整でなく、何故「府」と区の制度設計が必要なのか、ちょっとしたこういう事が分からない。 住民投票で賛成が上回って市が区に分解されても、府が都にはならないからじゃないか。府が都になるには国会での法律改正が必要で、当面は府と区の役割分担の調整になるからだ。 このあたり、賛成派には誤解というか無視というか、おかしな議論が多い。 考えれば、どんなところにも組織が違えばその境目が生じて、二重になったり空白になったりする可能性は高い。国−府−市が、国−都−区になったって、三重の構造は変わらず、境目は多くある。三重を二重にすれば境目は少なくなるが、きめ細かな住民への対応は失われるかもしれない。他方、末端を小さくすれば統合性が損なわれる。 ま、どれも一長一短で、地道に改善するほかないんではないかな。システムそのものの問題でなく、運営の仕方による問題と思う。
03. 2015年5月14日 14:14:35 : NbJFForHgg ＞０１さんへ いやあ、どうも有難うございます。大阪「都」構想だから、府も市も無くす前提で話が進んでいるものとばかり思っていましたもので。 成程、「府」の問題は国家事項であるから、地方が勝手にいじれないののですね、そこをはしょって都構想をあれこれしても、意味が無い。 いずれにせよ、行政単位を変えるメリットが、どこにあるかが、最終的焦点ですね。
04. 如何なる星の下に 2015年5月14日 14:26:14 : h32LnYEYev5jw : feMyYbFqrj 大阪都構想なんて、市民、府民のことなんかこれっぽっちも考えていない不毛な権力闘争にすぎない。 大阪が都になろうと府・市のままだろうと、要は住民の生活が豊かになればいいのだが。 大阪が「都」になって二重行政を廃止したら、その分だけ行政サービスは半滅する。これはあたりまえのことだ。 たとえば図書館。いま、東大阪市に府立中央図書館があり市内に私立中央図書館がある。橋下はこれを統廃合するといっている。馬鹿かといいたい。これを統廃合されたら、市内に住む人はとても東大阪市まで行けないし、東大阪市周辺の人たちも市内中央区までいくのはたいへんだ。何度も乗り継ぎをしなければならない。 橋下という人は、市民のことなど毛ほども考えていない。じぶんが大阪周辺都市の王様になりたいだけだ。 こんな愚劣なめくらましの政治に騙される大阪府民とは思えないので心配はしていない。政党としては橋下に投票しても、こういう問題になると「それはそれ。政党として橋下を応援しても、大阪市がなくなるのはいややし、サービスが半滅するのもいやや」というのが多くの声だ。これが大阪人の現実的なところだ。 もし、橋下の愚劣なめくらまし政治に騙されるようでは大阪もほんとうにおしまいだ。

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