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大阪市民は果たしてどう決断を下すのか
「都構想」は大阪の衰退を決定づける“論外の代物”
http://diamond.jp/articles/-/71331
2015年5月12日 藤井聡 [京都大学大学院教授] ダイヤモンド・オンライン
■100名以上の学者が一瞬で「都構想」にダメ出し
いわゆる「大阪都構想」、すなわち「大阪市の廃止五分割」(以下、『都構想』と略称)をめぐる住民投票日、5月17日が目前に迫ってきた。今、大阪では激しい論戦が繰り広げられており、世論調査によればその賛否はおおむね拮抗している状況だ。本ダイヤモンド・オンラインでも(大阪市特別顧問でもある)高橋洋一氏が「『大阪都構想』を逃せば大阪の衰退はさらに進むhttp://diamond.jp/articles/-/70878」という自説を公表しているが、この主張はもちろん、橋下市長率いる「維新」の勢力のそれと同様だ。
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しかし、この高橋氏の見解は学術界では極めて「特異」なものであり「圧倒的少数派」である。学術界では「大阪市を廃止して、5分割して、東京都のような都区制度を導入すれば、大阪は衰退していくだろう」という見解が圧倒的多数なのだ。
例えば賛成派の学者は先月、大阪市内で、都構想のメリットを主張する記者会見を開いているが、参加した学者はたった2名。しかも両名とも大阪市の特別顧問経験者(上山信一・慶応大学教授、および、佐々木信夫・中央大学教授)で、それ以外の(大阪市との特別顧問関係を持たない)一般の学者は含まれていなかった。
一方で筆者は4月末日、「大阪都構想の危険性を明らかにする学者記者会見〜インフォームド・コンセントに基づく理性的な住民判断の支援に向けて〜」を5月5日に開催するとして、さまざまな分野の学者に「都構想」についての所見を供出するよう、インターネット等を通して呼びかけた。
ふじい・さとし
京都大学大学院工学研究科教授、同大学レジリエンス研究ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、同大学助教授等を経て現職。専門は公共政策論、都市・国土計画。『大阪都構想が日本を破壊する』、『凡庸という悪魔〜21世紀の全体主義』など著書多数。
当初筆者は7、8人集まれば御の字、あわよくば10名以上集まればありがたいと考えていたのだが、これほど多数の学者が一瞬にして「都構想の危険性」についての各自の独自の所見を寄稿したのには、正直驚いた。
これだけの学者が、「自らが知る都構想の危険性を有権者・公衆に伝えねばならぬ」という「学者の良心」に基づいて所見寄稿をしたという事実はまさに、あらゆる分野の学者が、「都構想」について強い危機感を抱いていたことの証左としか言いようがない。
いずれにせよ、このように学術界では都構想に賛同する学者はほとんどいない一方、その危険性を指摘する声が圧倒している(というより、あくまでも事実として申し上げるが、上山氏や佐々木氏、そして高橋氏のように、大阪市役所等の推進勢力との一定の関係があった学者を除けば、筆者は都構想に「賛成」している学者を文字通り一人も見たことがない)。その実情は、関西大学の鶴田廣巳教授(財政学)の次の記者会見での発言に全て集約されている。
「大阪都っていうのは本来これだけ注目されますと学会等でも取り上げられるかと思いますけれども、学会では全くですね、荒唐無稽過ぎて取り上げるに値しない。そういう代物だと言うことを是非、ご理解いただきたいと思います」
すなわち、「都構想」なぞ、真面目な学者にとっては本来なら「取り上げるに値しない、そういう代物」、つまり「論外の代物」なのである。
さて、この発言も含めた、106名の学者からの寄稿、ならびに、それに基づく記者会見や講演会は全て筆者のHPhttp://satoshi-fujii.com/に掲載しているので、是非、そちらをご覧いただきたい。それら所見は、実に様々な視点から「都構想」が如何に「論外」な代物であるかが指摘しているのだが、ここでは特に、高橋氏が論じたような「都構想で大阪を活性化する」という見通しが、如何に「荒唐無稽で、学会等では本来取り上げるに値しない程の代物」であるかを明らかにすべく、「都構想による大阪の衰退」についての様々な学者所見を紹介することとしよう。
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■「都」になれば繁栄するというのは間違い 「都区制度」自体が“粗悪品”である
まず、都区制度を導入している東京都が繁栄しているから、大阪も都区制度にすれば繁栄するだろう、と考えるのは完全な間違いだ。
なぜなら東京が繁栄しているのは、日本の有力企業の大半が、その本社を東京に置いているからだ。事実、数少ない「賛成派」の学者の一人として紹介した、大阪市特別顧問であった佐々木信夫氏(行政学)ですら、特別顧問就任前の2011年には、「都になれば成長するわけではない。東京が繁栄しているのは企業の本社機能が集まっているためで、都制という自治制度とは関係ない」と言明していたのである(日経2011年12月11日)。
佐々木氏は、顧問就任以後、こうした方向の発言は控えるようになっているようだが、それ以外の学者は、この佐々木氏と同様、都区制度そのものに辛辣な批判を差し向け続けている。
例えば、地方財政論の遠藤宏一・大阪市立大学名誉教授は次のように述べている。
「『大阪都』という行財政制度をつくれば、東京都に匹敵する経済力・行財政力になるというのは本末転倒した錯覚としか言いようがない」
地方自治論の池上洋通氏(千葉大学)は、「もともと東京都の特別区制は、憲法の『法の下の平等』原則に反する疑いがあり…なぜ『都』になりたいのか、全く理解できない」とまで言っている。なぜなら、憲法学者の今井良幸・中京大学准教授が主張するように「『特別区』は憲法上の地方公共団体とは解されておらず、その制度的な根拠は立法政策に委ねられることになり、その存在は不安定なものである」からである。
さらには、行政学の今村都南雄・中央大学名誉教授は、(大阪が)「特別区になったその日から自治権拡充の闘いが始まることを覚悟しなければならない」とも指摘している。
なぜ、そんな闘いが始まるのかと言えば、都区制度に移行すれば、大阪市から2200億円以上の財源とまちづくりの権限が「府」に吸い上げられると同時に、まちづくりの都市計画部局もまた解体されるからである。そもそも、都区制度というものは、「本質的には中央集権化の手段として案出されたもの」(竹永三男・島根大学名誉教授・歴史学)であり、「分権の流れに逆行」(入江容子・愛知大学教授・地方自治論)するものなのだ。行政法が専門の紙野健二・名古屋大学教授が指摘するように、「東京都23区の多くは、数十万の人口を擁しているのに、市ではなく自治を大幅に制限されている」のである。
こうした実情に鑑み行政学の堀雅晴・立命館大学教授は、「『大阪都構想』は…『特別区への格下げ』という“粗悪品”である」とまで断じている。
■特別区に“格下げ”となれば大阪の「都市力」「都市格」が低下する
このように、大阪市が自治、財源、権限が著しく制限されている特別区に「格下げ」になれば、その結果として、大阪市内のまちづくりが著しく停滞するのは明白なのだが、「都構想」で大阪の街がさびれるのはそれだけが理由ではない。
大阪市が5分割され、それによって行政手続きが一挙に複雑化し、そこに行政パワーも財政も削がれることとなり、その結果として、「大都市の活力を削ぎ、長期低迷を生む」(木村收・阪南大学元教授・地方財政学)ことともなるのである。
しかも、これから都心まちづくりを担う大阪府には、その経験もノウハウも十分ではない。そしてこれまで120年にわたって都心まちづくりを担ってきた「大阪市長」は都心投資に専従できたが、数多くの郊外自治体を抱えた「大阪府知事」は都心投資を優先できなくなるのも明白だ。事実、北山俊哉・関西学院大学は「大阪都構想は…大阪府に…都市計画を任せてしまうものです。大阪市は府の3割しかなく、都市計画がうまく進むとは思えません」と主張している。
こうなれば必然的に大阪府、関西を牽引する大阪都心の投資はその質も量も低下し、必然的に大阪の街は衰退していくことになる。
例えば、宮本憲一・元滋賀大学学長(財政学、都市経済学)は、「大阪地域は京都市や神戸市に比べて都市力や都市格ははるかに低いものになるであろう」と述べ、中山徹・奈良女子大学教授(都市計画学)は「大阪都構想では大阪の活性化は望めず、破綻への道を歩むことになるだろう」と述べている。
■「二重行政」が税金のムダづかいを生むという主張には根拠がない
最後に、多くの一般の方々が素朴に信じている「二重行政を解消して大阪を豊かにする」という言説が、如何に学術界では否定され尽くしているか、という点について付言しておきたいと思う。
「二重行政論」については、106名の学者達から様々な批判が寄せられているが、それを紹介する前に再び、都構想推進派の2名の大阪市特別顧問学者のもうお一方、上山氏の言葉を紹介しよう。彼もまた、特別顧問就任直前、次のような辛辣な批判を、維新が喧伝する「二重行政論」に対して差し向けている。「図書館が府と市で2つあって無駄だとか…けち臭い話…稼働率が高けりゃ置いとけばいいし、改善が進んでいる(府も市もあほじゃない)」(2011日10月26日ツイッター)。
つまり、既に府と市で調整がほぼついており、二重行政なんてほとんどない、と、橋下市長があつい信頼を寄せる上山特別顧問がおっしゃっているわけだ。
もちろん、現在、橋下維新側は、17年間で2700億円程度の財政効果があると喧伝し、これが都構想賛成論の重大な根拠とされているが、この金額の内訳を知る人々は一般にはほとんどないだろう。しかし財政学者はその中身を冷静に分析し、これが如何に「粉飾」された「盛りに盛りまくった数字」であるかを明らかにしている。
財政学の森裕之・立命館大学教授は次のように指摘する。「大阪府市は特別区になった場合の財政シミュレーションを示しているが、再編効果には大阪市の事業の民営化(地下鉄・バスや一般廃棄物事業など)や『市政改革プラン』など、『大阪都構想』による二重行政の解消とは関係のないものが意図的に盛り込まれている。それらを差し引けば、純粋な再編効果は単年度でせいぜい2〜3億円程度」。要するに、「大阪府と大阪市の二重行政が税金のムダづかいを生むというのが、『維新の会』が『大阪都構想』を主張する最大の根拠になっています。しかし、その主張には根拠がありません」(鶴田廣巳・関西大学教授・財政学)ということなのである。
そもそも、政令市の府と市の二重行政が問題なら、20もある政令市のどこかで、それが問題視されているはずだ。その点に着目した平岡和久・立命館大学教授(地方財政学)は、全国の政令市を対象に調査を行っている。そして、平岡教授は、次のような結論を導き出している。「道府県と政令市とのいわゆる『二重行政』については、多くの場合ほとんど問題になっていないことから、そもそも政令市を解体する理由にはならない」。
つまり、「二重行政を解消し、豊かな大阪をつくる」というキャッチコピーは、政治的プロパガンダ以上の意味を持たない、単なるデマである疑義が極めて濃厚なのである。
■「都構想」は大阪の衰退を決定づける事実と論理に基づく判断を
以上、いかがだろうか。多くの読者にとって、本稿で述べた諸事実は、意外なものであったに違いない。
しかしそれは当たり前のことだ。そもそも学者というものは、一般世間の常識を疑い、事実と論理と理性に基づいて結論を導こうとするものなのだから、学者が言うことは常に一般の人々にとっては一見、意外なものに見えるのである。むしろ、政策項目を問わず政治的スローガンにすら一致するような当たり前の主張を繰り返す学者は、学者としての価値は低いとすら言えよう。
しかし、学者たちの論理は決して難しいものではない。以上に述べた事を丁寧にお読みいただければ、あるいは、その原文http://satoshi-fujii.com/を丁寧に読めば、たやすくご理解いただけるはずだ。
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いずれにせよ、(一部の大阪市特別顧問らを除けば)彼らの主張は、驚くほど一貫している。それはつまり、「大阪都構想など、論外だ」ということなのである。大阪市をつぶし、数多くの学者が一貫して批判し続けている都区制度に移行すれば、必然的に大阪は衰退する他ないのである。
彼らの主張(そしてそれは、筆者がこれまで著書『大阪都構想が日本を破壊するhttp://satoshi-fujii.com/book/』で論じた主張と完全に軌を一にする主張だ)に是非、耳を傾けていただきたい。言うまでもなく今、大阪の「住民投票」にて求められているのは、特定政治家に対する好き嫌いやイメージやムードに基づく判断などでは断じてない。事実と論理に基づく理性による判断以外に、何も必要ないのである。
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参考:本稿に合わせて、是非、下記をご参照願いたい。
●106名の学者所見
http://satoshi-fujii.com/scholarviews/
●その抜粋版
http://satoshi-fujii.com/scholarviews2/
●記者会見の様子
http://satoshi-fujii.com/informedconsent/
●所見についての説明会の様子
http://satoshi-fujii.com/briefing/
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