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「大阪都構想」公式ホームページより、動画でアピールする橋下徹・大阪市長
橋下徹の大阪都構想に106人の専門家が反対の声をあげた!「催眠商法」「まやかし」との批判も
http://lite-ra.com/2015/05/post-1087.html
2015.05.11. リテラ
大阪市を廃止し5つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」の住民投票が5月17日に迫ってきた。だが、投票権を持つ大阪市民にすら構想の中身や住民投票の意味が正確に理解されているとは言いがたい。
「大阪都になれば、府と市の二重行政は解消され、自治は拡充し、東京のように都市開発と企業誘致が進んで経済発展する」というようなもっともらしいストーリーばかりが、橋下徹大阪市長以下、維新の党やその支持者によってしきりに広められている。
しかし、上記はウソと希望的観測で塗り固められたプロパガンダにすぎない。それどころか、126年の歴史をもつ人口269万人の政令指定都市はいま、「戦後最大の詐欺」「催眠商法」とも形容される悪質なやり口によって、存亡の危機に瀕しているといっていい。
いったい「都構想」とは何であり、どういう経緯をたどり、どこに問題があるのか。なぜここまで誤ったイメージが流布してきたのか。検証してみたい。
■橋下の思いつきで始まり、官邸の介入で復活した「大阪市解体プラン」
橋下は2008年2月に府知事に就任しているが、当初は都制度に否定的だった。翌09年3月の「大阪発“地方分権改革”ビジョン」では「市町村優先を徹底し、遅くとも平成30年には、関西州を実現し、大阪府を発展的に解消する」と、市ではなく、むしろ府をなくす方向に向いていた。それが豹変したのは10年1月。府と市の「二重行政」の象徴とされた水道事業統合の頓挫──当時市長だった平松邦夫は、府下の他市町から反対された橋下が収めきれず、一方的に合意を破棄したと語っている──がきっかけとされる。
「競争する行政体になるためには、大阪府ぐらいのエリアで誰か1人が指揮官になり、財布を一つにしてやっていかなきゃいけない」「東京都の23区を例にしながら、280万のところ(※発言ママ。大阪市のこと)に公選で選ばれた長一人というのはいびつだということを市民に提示したい」と会見でぶち上げ、以後、「都構想」と称して熱中していくわけだが、その過程で橋下の本音と取れる発言がいくつも顔を出す。有名なのは11年6月、政治資金パーティーでの発言。その秋に想定されていた知事・市長のダブル選挙へ向け、大阪市役所に「抵抗勢力」のレッテルを貼って、こんなことを言っている。
「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」
「今の日本の政治で一番重要なのは独裁。独裁と言われるぐらいの力だ」
「大阪市も大阪府も白紙にする。話し合いで決まるわけない。選挙で決める」
しかし、大阪市をはじめ府下の市町の自治を奪うことになる「都構想」には当然反発が強く、橋下が大阪市長に就いた後も迷走した。13年9月の堺市長選では維新の候補が惨敗。やはり長い自治の歴史をもつ政令指定都市である堺市民が、橋下言うところの「都」に組み入れられることを拒否した結果で、これによって、府下の市町をまとめて再編する目論見だった「都構想」は一転、単なる「大阪市廃止分割構想」へと大幅にスケールダウンした。
大阪市議会でも維新以外の会派から反対・異論が続出。特別区設置協定書の内容を詰める法定協議会も紛糾つづきで、苛立った橋下は14年3月、「法定協のメンバーを入れ替えるため」と出直し選挙を仕掛ける。再選で「民意を得た」と言うためだったが、他会派はまったく相手にせず、6億円の選挙費用を浪費しただけの空騒ぎに終わる。ついには法定協から他会派を締め出し、維新の議員だけで協定書を決定したものの、14年10月の府・市両議会であえなく否決。ようやく葬り去られたかに見えた。
それが14年暮れになって突然復活する。公明党が住民投票賛成に転じたためだ。大阪維新の会幹事長であり、橋下の右腕でもある松井一郎府知事が旧知の菅義偉官房長官に働きかけ、創価学会幹部や山口那津男公明党代表を動かしたと言われている。大阪の公明市議らは「協定書には反対だが、住民投票には賛成」という苦しい立場を強いられ、構想への批判も抑制するよう言い含められているという。報道各社による住民投票の事前アンケートでは賛否が拮抗し、公明票の行方が結果を左右すると見られている。
以上、駆け足で経緯を振り返ってみるだけでも、「大阪都構想」なるものが橋下の思いつきと官邸との談合でごり押しされたかなりいい加減なものであることがよくわかるだろう。そもそも「都構想」という呼び方すらウソである。住民投票で賛成多数になっても、府は府のままで「都」にはならない。名称変更には、特別法を成立させたうえで府民の住民投票にかけるか、地方自治法を改正するか、いずれにせよ国会というハードルがある。現状では、ただ市だけが廃止され、権限も財源も不十分な5つの特別区に分割されるだけなのだ。
■「無駄な二重行政」は存在しなかった! 都構想で逆に赤字が膨らむ
経緯や名称がどうであれ、大阪の行政がよくなり、経済が発展するならよいと考える人もいるかもしれない。実際、アンケートの賛成理由には「二重行政の解消」「経済成長」を挙げる人が多い。だが、それらの効果も専門家によってことごとく否定されている。
筆頭は、『大阪都構想が日本を破壊する』(文春新書)を4月に出版した藤井聡・京都大学大学院教授。公共政策論や都市社会工学の研究者であり、内閣官房参与も務める藤井は、同書や「新潮45」(新潮社)5月号の特集「『大阪都構想』の大嘘」において、今回の協定書を「論外」と切り捨てている。その理由として、先述の名称問題や、実態は市の解体であることに加え、以下のような事実を列挙する。
「大阪市民は、年間2200億円分の『財源』と『権限』を失う」
「2200億円が様々に『流用』され、大阪市民への行政サービスが低下する恐れ」
「特別区の人口比は東京7割、大阪3割だから大阪には東京のような『大都市行政』は困難」
特別区設置協定書では、新たな特別区(現在の大阪市域)が引き継ぐ一般財源は4分の3だけで、残りの4分の1、金額にして2200億円は府に吸い上げられることになっている。それがそのまま特別区に還元されればいいが、府内の人口比率で見れば圧倒的に少ないところに予算が振り向けられる可能性は低い。しかも、橋下市政以前から財政状況が改善してきた大阪市と違って、大阪府は6.4兆円もの債務を抱え、地方債の発行を規制される「起債許可団体」である(橋下が府知事時代に財政を好転させたというイメージもウソで、逆に悪化のペースを早めた)。その借金返済に流用される可能性がきわめて高いことを指摘しているのだ。
そもそも橋下や松井は当初、「都構想で二重行政が解消されれば年間4000億円が浮く」と大風呂敷を広げていた。ところが精査すればするほど効果額は減り、年間1億円がいいところとわかった(このあたりの橋下の説明の変転については次回詳述する)。これに対し、市の廃止・特別区への移行にかかる初期費用は680億円、さらに毎年20億円のランニングコストが見込まれている。これは「無駄な二重行政」がほとんど存在していないこと、市の解体で「無駄を省く」どころか、赤字が膨らむ一方になることを示している。
さらに、藤井はこうも指摘する。
「東京23区には『特別区はダメ、市にしてほしい』という大阪と逆の議論がある」
「東京の繁栄は『都区制度』のおかげでなく、『一極集中』の賜物」
ひと言で言えば、東京の都区制度は自治体として不十分なものであり、それでも栄えているのは企業や人口が集中する首都だから、という話である。大阪の行政の仕組みを東京に似せて変えたからといって東京のように経済発展するはずがない、そもそも各都市の行政機構のかたちと経済情勢の間にほとんど関連がないことなど、子どもでもわかりそうなものだが、橋下は「金持ち東京みたいになるんです」と吹聴しつづけてきた。東京コンプレックスの強い大阪人につけ込む詐術的弁舌である。
こうした状況に藤井は警告を発する。今回の協定書を「何となく」「雰囲気」で安易に支持すれば、小泉純一郎元首相が熱狂的な支持を受けて断行したものの大失敗に終わった郵政民営化や、民主党政権が「霞ヶ関には10兆円や20兆円の埋蔵金がある」と主張しながら結果的に1.7兆円しか捻出できなかった「事業仕分け」と同じ結果になるだろう、と。
■さまざまな分野の専門家が都構想の危険性を警告
「大阪都構想」の危険性に警鐘を鳴らすのは藤井ばかりではない。藤井らの呼びかけによって106人(5月6日時点)の研究者たちが所見を発表(外部リンク:「大阪都構想を考える|藤井聡」)し、5月5日にはこのうちの一部が出席して記者会見が開かれた。政治学、行政学、財政学、経営学、都市計画や地方自治論から教育、歴史、環境、防災、工学に至るまで、あらゆる専門分野、政治的立場もさまざまな学者から寄せられた批判・反対論は、抜粋(外部リンク:同上)だけを読んでも壮観だ。
〈自治体政策論の立場で考えれば、今回の大阪都構想はズサンな制度設計案といわざるをえず、その政策意思決定プロセスにおいても『いいことづくめの情報操作』『異論封じ込めの政治』が行われました〉(大矢野修・龍谷大学教授/自治体政策論)
〈市民の疑問を解消し、質の高い市民意思の表明のための条件となるべき住民説明会は、「催眠商法」と揶揄されるほど、賛成誘導に偏した、法の規定にある「わかりやすい説明」とはほど遠い内容のものとなっている〉(柏原誠・大阪経済大学准教授/政治学・地方自治)
〈政治学的に分析するなら、大阪都構想とは、思い付きに過ぎない政策を否定された維新の会が、これを実現するために、権力と財源を府に、そして一人の知事に集中すること目指したものである。これを進めてきた手続きは、行政学・政治学的に考えて適正なものではなかったし、行われた説明は願望とまやかしに基づくものであった〉(木谷晋市・関西大学教授/行政学・政治学)
〈一見、民主的な印象を与える住民投票でカモフラージュしているが、今の大阪市の状況は、手続的にも内容的にも民主主義と地方自治の危機である〉(真山達志・同志社大学教授/行政学)
〈集権的な体制をつくるため、東京府・東京市が廃されて東京都・特別区がつくられた歴史的経緯を忘れるわけにはいかない〉(荒井文昭・首都大学東京教授/教育学)
〈防災・減災は選挙の票につながらないと素人政治家は判断し、今回の大阪都構想における大阪市の区割りや大阪府との役割分担において、防災・減災は全く考慮されていない〉(河田恵昭・京都大学名誉教授/防災学)
いくらでも紹介したいが、あとはリンク先で読んでもらおう。橋下は以前、「都構想を批判する有識者はいなくなった」とツイッターで豪語していたが、それは、あまりにも荒唐無稽で論外だから相手にされなかっただけで、蓋を開ければ、これだけの批判が集まったのである。逆に、橋下の側についている学者といえば、上山信一、高橋洋一、佐々木信夫といった行政組織=公務員憎しの“脱藩官僚”で、大阪市特別顧問を務める“お友達”ばかりである(佐々木は3月末で退任)。
しかし、橋下はこれだけの批判を浴びながらも、一向に反省することなく、「実務を知らない学者が批判している」といった反論を繰り返している。公務員を叩き、学者や教師を叩き、マスコミを叩き、大衆の「負の感情」を煽って自らの支持に変えてきたいつものやり方で、この住民投票を乗り切ろうとしているようだ。
しかし、有権者は今度こそ、こうした橋下の反知性主義的な詐術に騙されてはならない。「大阪都構想」などというデタラメによって甚大な被害を受けるのは、ほかでもない、大阪市民自身なのだから。
(安福 泉)
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