http://www.asyura2.com/15/senkyo184/msg/514.html
Tweet |
「アメリカ現代政治研究所」
安倍首相の議会演説で米国の「歴史認識問題」は決着
米国人の心を鷲づかみにした「痛烈な反省」と「戦没米兵への鎮魂」
2015年5月8日(金) 高濱 賛
安倍晋三総理大臣の今回の公式訪米は大成功だった。とくに45分間にわたって英語で熱弁をふるった米議会演説は、米国人の琴線に触れる文言がちりばめられており、感動の輪を広げた。「日米の歴史の1ページを飾る名演説だった」(米上院外交委員会スタッフ)と称賛する米議会関係者もいる。
日米関係を専門にする5人の識者――大学教授、ジャーナリスト、シンクタンク研究員となど――に演説の評価を尋ねた。
安倍演説の評価は「A−」と「B+」の中間
5人の採点の平均はA−とB+の中間だった。中には「過去の植民地支配や侵略に対するおわびがなかった」「慰安婦問題でもう少し踏み込んでもよかった」といった点を挙げて「減点」する人もいた。が、「アジア諸国民に与えた苦しみについて安倍首相は言及した。これを受けたアジアへの謝罪は8月の『戦後70年談話』などで表明するのだろう」としてA+をつけた識者もいる。
むろん、5人が、安倍首相がこの演説で明らかにした「歴史認識」について今後ぶれないことを前提としていることは言うまでもない。
米国務省は韓国外相の「失望」発言を一蹴
オバマ米大統領夫妻は5月3日、「安倍首相のご訪問に感謝する」とのメッセージをツイッター上でつぶやいた 。日米同盟の強化を確認しあったこともあるが、「歴史認識」について「村山談話」と「河野談話」を踏襲すると安倍首相が明言してくれたことが嬉しかったに違いない。
米国務省が5月1日に行った定例記者会見で、韓国人記者がさっそく「韓国外相は『韓米日3カ国関係にとって優先課題となってきた慰安婦問題について安倍首相は踏み込んだ発言をしていない』と批判している。米政府は失望していないのか」と質問した。
これに対してラテキ報道官代行は、次のように答えた。「4月28日の首脳会談後の記者会見で、安倍首相は『河野談話』を堅持するし、見直す意図はないと発言している。われわれはこの発言に留意している。また安倍首相は(議会演説で)この懸案に対する歴代首相の見解を踏襲すると述べている。この案件についてこれ以上付け加えることはない」
("Jeff Rathke, Acting Deputy Spokesperson, Daily Press Briefing," U.S. Department of State, 5/1/2015)
米上下両院議員の大半は「村山談話」「河野談話」継承で文句なし
安倍首相の演説を直接聞いた米議会はどうだったか。議員たちは以下の2カ所で満場総立ちとなり拍手喝采した。1つは第二次大戦で斃れた米将兵への鎮魂を口にした箇所。これは米国人の心を揺さぶった。もう1つは、慰安婦問題を含む人身売買を踏まえ、「女性が紛争下でつねに傷つく」「女性の人権が侵されない世の中の実現を目指す」と述べたところだ。
慰安婦問題が米国内でクローズアップされた理由の1つに、韓国系運動団体の巧みな戦術がある。彼らはこの問題を「女性の人権」として捉えた。議場でしばらく鳴り止まなかった拍手は、米国で「女性の人権」が最優先課題になっていることを改めて感じさせた。
("Japanese Prime Minister Address to Join Meeting of Congress," C-SPAN. 4/29/2015)
演説終了後、議員たちに感想を聞いて回った米メディアの米国人記者が、筆者にこうメールしてきた。「慰安婦に対する『おわび』について、安倍首相の表現についてうんぬんする議員を見つけるのは大変だった。慰安婦問題に特別な関心を持つ議員とか、明らかに親韓派である議員を除けば、まずいなかった。歴代首相の見解を踏襲するという首相の発言で十分ということではないのか」。
安倍首相の訪米を控えて、25人の米下院議員が佐々江賢一郎駐米大使に書簡を送り、安倍首相が米議会演説で慰安婦たちに謝罪するよう要請した。演説後、この25人の反応に筆者は注目した。
このうち、マイク・ホンダ下院議員とジュディ・チュー、アダム・シェフ、エド・ロイスの5議員は、「慰安婦に対する直接謝罪がない。ショッキングだ」などと発言していた。ホンダ議員は07年に下院で121号決議案(慰安婦への謝罪・補償を日本に対して要求する決議案)を提出した人物。5人はいずれも、カリフォルニア州、なかでも韓国系と中国系の選挙民が多い地域を選出区としている。
安倍首相が訪米する前に「謝罪が必要」と主張していたナンシー・ペロシ民主党下院院内総務(前下院議長)は、演説後、発言を控えている。同氏は安倍首相が訪米する前に訪日し、安倍首相と会っている。春の叙勲では旭日大綬章を受賞した。
「極端なナショナリスト・安倍晋三」だから効果があった
今回の訪米では、「歴史認識」問題が必要以上にクローズアップされた。とくに日本と韓国との外交懸案である「慰安婦問題」があたかも戦後70年を迎える日米関係にとっても重要課題であるかのような議論も出た。
慰安婦問題を勢いづかせたのは、安倍首相の「歴史認識」が原因だ。慰安婦に対する日本政府の責任を明確にし、謝罪した「河野談話」の見直しを安倍首相は言い出した。さらに、日本による侵略戦争や植民地支配を認め、謝罪した「村山談話」まで見直すと言い出した。こうなると、米国政府も議会も黙っているわけにはいかなかった。その後、首相自らがこうした考えを撤回した。が、首相周辺からは見直しを唱える声があとを絶たなかった。
米主要シンクタンクのある日本政治専門家はこう語る。「日米同盟のさらなる強化、深化を進めるにしても、その前に安倍首相が蒔いた『歴史認識問題』のタネを刈り取ることが重要課題になっていた。仮に、今の首相が中曽根康弘氏のようなプラグマティストであれば、歴史認識の問題がこれほど注目されることはなかったはずだ。安倍首相が確信犯的な保守主義者であるために招いた問題だ」。
だが、安倍首相が確信犯的な保守主義者であったがゆえに、今回の議会演説はポジティブなインパクトを米国に与えた。メディアが「極端なナショナリスト」と報じる安倍首相が、英語で米国人に語りかけていること自体、驚きだった。米国の国民感情を小憎らしいばかりに知り尽くしたスピーチライターの達意の文章と、この演説に政治生命を賭けた(?)安倍首相の演出が功を奏した。その出来栄えにさすがの米議員たちも舌を巻いた。
これまで安倍首相の歴史認識と関連する言動に厳しい目を向けてきた新進気鋭の女性政治学者、ジェニファー・リンド ダートマス大学教授は、演説を聴いて、これをポジティブに評価した。ツイッターへのコメントはこうだ。「日米和解のためのたくさんのマイルストーン(里程標)。首脳の議会演説。戦死した米将兵への鎮魂。硫黄島の元米兵と元日本兵の孫との固い握手」
慰安婦問題について東京から執拗に報道してきたニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー記者はこうツィートした。「議会演説への反響はすこぶる肯定的。演説のポイントは、昔の敵は今日の友。日米の共通項は民主主義と自由。首相は米留学時代の下宿の伯母さんの話から自己紹介。みずからを人格化(humanize himself)。議員たちの拍手は安倍首相だけでなく、世界で活躍する日本と日本国民への称賛。中国の対応のせいで今や日本のイメージは上がるばかり」。
安倍訪米の成功を決定づけた1枚のシルエット写真
今回の訪米成功の背景に、オバマ大統領(とオバマ外交チーム)の日米関係強化に対する並々ならぬ意気込みがあった点も指摘しておきたい。
それを端的に示すのが1枚の写真だ。
オバマ大統領は4月27日、ワシントン近郊のアンドルーズ空軍基地に降り立った安倍首相を自分の車に押しこみ、リンカーン記念堂に連れ出した。
ギリシャ・ドーリア式の白亜の建物には、黒人解放を唱えたリンカーン第16代米大統領の坐像が設置されている。米国で最高の観光スポットだ。黒人公民権運動の指導者、マーチン・ルーサー・キング牧師をはじめとするさまざまな人物がここを舞台に演説を行ってきた。
そこに黒人初の大統領が「かっての仇敵」である国の現職首相を伴い、案内する。そそり立つ白亜のワシントン記念碑を眺めながら話し合う2人のシルエット写真――絵にならないわけがない。首脳会談当日の朝、新聞各紙はこの写真を一斉に掲載した。首脳会談の成功を最初から印象づけようとするオバマ大統領の見事な演出だった。
("President Barack Obama, left. and Japanese Prime Minister Shinzo Abe visit the Lincoln Memorial, looking toward the Washington Monument, on the National Mall in Washington, Monday, April 27", AP Photo, Pablo Martinez Monsivais, 4/27/2015)
40年前の昭和天皇訪米を彷彿させた歓迎式
オバマ大統領の歓待ぶりは首脳会談前の歓迎式典(英語ではarrival ceremony)にも如実に表れていた。翌28日午前9時すぎ。小春日和のホワイトハウスの南庭(サウスローン)で催された歓迎式典は、賑々しかった。
40年前の1975年、筆者は読売新聞ワシントン特派員として昭和天皇ご訪米を取材した。当時の大統領は第37代のリチャード・ニクソン氏だった。ホワイトハウス南庭でくり広げられた厳かな歓迎式の様子は今も目に焼きついて離れない。50州の州旗や数十の日米両国旗が春風にたなびいていた。陸海空海兵4軍の儀仗兵が整列する中、車から降りてきた両陛下を出迎えるニクソン夫妻。にこやかに挨拶される両陛下…。
あの時と同じ光景が今回再現された。安倍首相夫妻をオバマ大統領夫妻が出迎える。昭恵夫人は真っ赤なドレス、ミシェル夫人はシルバーホワイト。歓迎の意を示したいというミシェル夫人サイドの提案で、双方が赤と白のドレスを着用した。ホワイトハウス詰め女性記者から聞いた話だ。
「Good morning、おはようございます」。オバマ大統領の歓迎の辞は日本語で始まった。親しみを込めて、首相を「シンゾー」、夫人を「アキエ」と呼び、日米関係を「an indestructible partnership」(不滅のパートナーシップ)と言い切った。このindestructible partnershipという言葉を米首脳が口にしたのは、筆者が記憶する限り初めてだ。
28日夜の晩餐会でオバマ大統領は、「Spring, Green and Friendship, America and Jpan, Nagoyakani」(春、緑、アメリカと日本、なごやかに)と日本語を交えた俳句まで披露した。日系人が多く住むハワイで幼年期を過ごした大統領にとって日本語は無縁ではないのだろう。
("Japanese Prime Minister White House Arrival Ceremony," C-SPAN, 4/28/2015)
対中国戦略で不可欠になった新ガイドラインとTPP
オバマ大統領がなぜこれほどまでに安倍首相の訪米を成功させたかったのか。その理由の1つは、中国が軍事力と経済力を高め、アジアにおける超大国を狙っていること。その一方で米国の国力低下が指摘されている。
ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は今年1月、「Is the American Centurey Over(Global Future)」(米国の世紀は終わったのか)というタイトルの本を上梓した。同教授の答えは「NO」。だが、次のように説を展開している。(1)米国の国力はかってのようにオールマイティでなくなってきている、(2)台頭する中国に対抗して米国が世界をリードし続けるには、共通の価値観を持ち、経済力、技術力のある同盟国との提携が不可欠だ、(3)そのパートナーは、日本だ――というのが同教授の説だ。
(”Is the American Century Over(Global Futures)," Joseph S. Nye Jr., 1/20/2015)
むろん、中国を封じ込めるではなく、米主導で築き上げてきた国際秩序に取り込むことが大前提だ。その具体的な方策が、オバマ政権が2011年11月以降、打ち出したアジアへの「旋回」(pivot)戦略、「再均衡」(rebalance)戦略だ。
中東に重心を置いていた従来の米安全保障戦略をアジア太平洋地域にリバランスする。軍事面の方策は12年1月に「国防戦略指針」を公表し、明確に示した。その軸となるのが日米同盟だ。リバランスを実現するためには新ガイドラインの策定が必要だった。中国の脅威に対抗するためには、米第7艦隊のパワーだけではもはや不十分で、自衛隊の協力がどうしても必要になる。米軍事専門家の一人は、筆者に「新ガイドラインにそって、先ず海上自衛隊にやってもらいたいことは、南シナ海において中国潜水艦を捕捉するオペレーションだ」と具体例に語った。「日米同盟はリバランス戦略の成否を決める保険」(ナイ教授)といえる。
経済面では、アジアに資本を投資し、アジアとの通商を拡大することでこの地域の経済活力を高め、それを米国にとり込む戦略だ。そのための環境を作るのが環太平洋経済連携協定(TPP)の役割である。
任期の終了まであと1年8カ月。オバマ大統領は「大統領として後世に名を残すためにレガシー(遺産)が欲しい。キューバとの国交回復もその一つだが、自ら言い出したアジアへの『リバランス戦略』になんとか目鼻をつけておきたいところだ」(米主要シンクタンク上級研究員)。
中国の動きを見据えたこのアジア太平洋重視戦略を「徹頭徹尾支持する」と誓約した安倍首相は、オバマ大統領にとってまさに願ってもないパートナーだ。それだけではない。過去10年間に6人も首相が代わってきた日本で、ひさびさに長期政権となる兆しを見せる安倍首相は、オバマ政権にとって頼れる貴重な存在になってきたようだ。
このコラムについて
アメリカ現代政治研究所
米国の力が相対的に低下している。
2013年9月には、化学兵器を使用したシリアに対する軍事介入の方針を転換。
オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と自ら語るようになった 。
2013年10月には、APECへの出席を見送らざるを得なくなった 。
こうした事態を招いた背景には、財政赤字の拡大、財政赤字を巡る与野党間の攻防がある。
米国のこうした変化は、日本にとって重要な影響を及ぼす。
尖閣諸島や歴史認識を巡って対中関係が悪化している。
日本にとって、米国の後ろ盾は欠かせない。
現在は、これまでに増して米国政治の動向を注視する必要がある。
米国に拠点を置いて20年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150507/280770/?ST=top
#明らかに過大評価
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK184掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。