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高橋洋一の俗論を撃つ!
【第118回】 2015年4月30日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
「大阪都構想」を逃せば大阪の衰退はさらに進む
大阪都住民投票の焦点
住民参加と二重行政
東京都と比べ、大阪では高速道路など社会インフラの整備が遅れている
Photo:Tsuboya-Fotolia.com
「大阪都構想」の賛否を決める大阪市民対象の住民投票が、27日告示された。「大阪都構想」は大阪市の代わりに今の行政区を5つの特別区へ格上げするものだ。
?争点は、大阪市民の住民参加、大阪府と大阪市の二重行政の2点である。
?まず第一に、人口270万人の大阪市に1人の公選市長より5人の公選区長を住民が選ぶという住民参加の方が、よりきめ細かい行政ができる。270万都市を1人の公選市長、公選議会でマネージメントしている先進国都市はない。ニューヨークでもロンドンでも、基礎自治は小さな単位で自治権を有する特別区とし、住民が参加している。
?今の大阪市の「区」は24もある。しかし、これは、役人区長の行政区というもので、公選区長の東京都の特別区とはまったく違う。大阪都構想が実現すれば、大阪市に今は1つしかない、教育委員会が5つ、児童相談所が5つ、保健所も5つになる。さらに、予算編成権も5つになって、より細かなエリアに対応できる。
?これは、地方政府内で権限を分権化することによって、住民サービスを向上させるものだ。基礎的自治体として必要な教育委員会、児童相談所、保健所が人口270万人で1つではきめ細かい行政はできないはずだ。
?大阪都構想の反対派は、最初に600億円ものお金がかかると言うが、試算では17年間で2700億円ほど浮くからたいした問題でない。これは、後述する二重行政の問題を見れば、初期コストがかかるとしても、改善のための長期投資とも言える。
?第二に、大阪都構想は、大阪市と大阪府の役割分担を見直して二重行政を排除する目的がある。東京都と東京23特別区を見れば、23特別区は福祉や義務教育など身近なサービス、東京都は交通網整備や都市計画等広域行政サービスと役割分担がなされており、二重行政の声はない。ところが、大阪市と大阪府は、「ふ(府)し(市)合わせ」というくらいに、府と市の行政が二重になっている。
?この点、大阪市長の橋下徹氏の言葉によれば、「大阪市民は広域行政を府税で負担しています。さらに大阪市で広域行政をやってきたから市民は二重の負担を負わされてきたのです」となる。
国からカネも引き出せず
人も送り込めない阪神高速
?具体的に見ても、広域行政の目玉である交通インフラが酷い。大阪全体の計画がなく、実行者不在と大問題だ。これを明らかにするために、まず、高速道路について、大阪を東京と比較してみよう。
?大阪の高速道路は、阪神高速道路が運営している。東京は首都高速道路だ。この二つは似たようなエリアで総延長距離も大差ない。ところが、国や地元の関与の度合いを見ると、両者はまったく異なっている。
?まず出資を見ると、両社ともに国が半分の株式を持ち、残りは地元自治体だ。阪神高速で言えば、大阪府と大阪市がともに14.4%だ。一方、首都高速では、特別区の出資はなく東京都に集約し26.7%で地元自治体の中では図抜けている。
?阪神高速、首都高速ともに、国の出資は50%であるが、実額で見れば、首都高速は、首都の高速とあって、関西高速に比べて3割以上多くなっている。国の出資は、無利子融資と同じなので、国は補助金を与えているのと同じである。こうした補助金効果は、筆者が役人時代に導入したものだが、財務省による政策コスト分析によって把握できる。2005年当時において、将来の36年間で、阪神高速は2083億円、首都高速は3199億円の国からの財政支援を得るとされていた。
?これでわかるだろう。阪神高速は首都高速に比べて1000億円も少ない国からの財政支援に甘んじているのだ。この数字について、根拠がないとする声があるが、政府資料(阪神高速、首都高速)に掲載されたものだ。
?と同時に、地元自治体の関与も、両社ではコントラストがある。両社ともに、主要役員は4名であるが、その出身を見ると、阪神高速は、鉄道会社1、国交省2、プロパー1であるのに対し、首都高速は東京都2、国交省1、プロパー1である。阪神高速においては大阪府と大阪市がともに出資して、どちらも1人の役人を送り込めない。しかし、首都高速では、東京都に出資が集約されているので、2人も役人を送り込んでいる。
?要するに、阪神高速は、国からのカネの引き出しもうまくできていないが、さらに大阪府と大阪市は関与できずに、国からの天下りが跋扈している。一方、首都高速は、国からカネをうまく引き出し、役員も送り込んで東京都が運営の主導権を持っているのだ。
?これは、大阪市が、都制をとらずに政令都市制に固執して、結果として得るものがなかったという事例だ。
市と府の張り合いがもたらす
巨大な経済損失
?こうした差は、実際の高速道路運営にも影響している。
出所:『淀川左岸線延伸部の概要』
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?東京、大阪ともに高速道路網では環状線が必要だ。それがないと、通過するだけの無用の車も都市中心部に入ってこざるをえない。このため、東京では中央環状線、大阪では大阪都市再生環状道路が進められてきた。それぞれ総延長距離47km、60kmで、中心部の混雑緩和が期待されている。
?東京の中央環状線は、今年3月7日に全線開通した。筆者の家は東京区部の北にあるが、ドアツードア30分で駐c空港に着く。
?一方、大阪では大阪都市再生環状道路がまだできていない。淀川左岸線延伸部がミッシングリンクになっているのだ(右の図)。
?淀川左岸線延伸部がまだできていない理由はいろいろあるだろうが、そのパンフレットを見て、筆者はピンときた。
出所:『淀川左岸線延伸部の概要』
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?公式の資料にはクレジットが必要であるが、それは問い合わせ先を見ればすぐにわかる。そこには、なんと、国土交通省、大阪府、大阪市の3者が記載されていたのだ。
?要するに、大阪市と大阪府の「ふ(府)し(市)合わせ」なのだ。大阪市と大阪府が対等で張り合い、その仲裁と称して国交省が出張るという最悪の組み合わせだ(右の図)。
?これは、東京ではありえない。東京都と特別区が一緒ということはなく、高速道路は東京都だけがやるものだ。実際、中央環状線で出てくるのは、首都高速と東京都だけだ。国土交通省もほとんど出てこない。
?首都高速は、東京都出身者が重要役員なので、東京都の計画がそのまま反映され、スムーズに高速道路建設ができているのだ。
?それに比べて、大阪では、依然として大阪市と大阪府が張り合っている。今の松井知事と橋下市長の間ではこれまでの歴史で奇跡的にうまくいっているだろうが、これまでの積年の「ふ(府)し(市)合わせ」の結果、淀川左岸線延伸部ができず、大阪都市再生環状道路がいまだにできていないのだ。
?このため、大きな経済損失がある。国土交通省近畿整備局の資料によれば、阪神高速道路放射線(都心方向)と環状線との合流部では1日当たり4時間以上の渋滞が発生しているし、大阪市内の交通渋滞で年間約2700億円の損失が発生しているとされている。こうしたムダをなくすためには、大阪都構想のための初期コスト600億円などはつまらない話だ。
このチャンスを逃せば
さらに大阪の衰退が進む
?こうした大阪における社会インフラの遅れは、高速道路淀川左岸線延伸部だけにとどまらず、関空アクセス鉄道、今里筋線井高野北伸などでも見られる。そのための解決策が大阪都構想だと、筆者は思っている。
?大阪都構想をきっかけとして、大阪が、二極の一つになれば、首都のバックアップ機能を持つようになる。いわば、首都のコピーである。現在のところ、首都のバックアップができるのは大阪以外には考えられない。今、このチャンスを逃すのはもったいない。大阪市は政令市の中で人口減少し衰退している希有な存在だ。大阪都を逃せば、その傾向はさらに拍車がかかるだろう。
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