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中国主導によるAIIBが動き始めている。日本では反米意識からか、AIIBに参加しろという議論が盛り上がりつつある。しかし、AIIBは中国の軍事戦略の一環である。感情的な反米主義からAIIBを称賛するのはやめた方がいい。感情的な反米主義こそが真の対米自立を妨げていることに気づかなければならない。
ここでは、産経新聞の中で唯一人消費税増税に反対し続けてきた、田村秀男氏のAIIB論を紹介したい。
『月刊日本』5月号
田村秀男「中国の軍事戦略に利用されるAIIB」より
http://gekkan-nippon.com/?p=6800
AIIBは中国の軍事戦略に利用される
―― 中国主導によるAIIB(アジアインフラ投資銀行)が注目を集めています。イギリスやドイツ、フランス、さらにはオーストラリアや韓国なども参加申請し、その数は50カ国以上に上っています。日本では安倍政権が参加申請をしていないことに対して、野党やメディアから批判の声が上がっています。
【田村】 日本ではイギリスを筆頭にヨーロッパ諸国が次々と参加申請を行ったことで動揺が広がり、「バスに乗り遅れるな」といった議論が起こりました。また、ヨーロッパがあれだけ参加しているのだから、AIIBは第二の世界銀行やアジア開発銀行になる、あるいは中国版マーシャルプランだなどといった論調も多く見られます。
これこそ戦後の日本を象徴するような議論です。つまり、いかに中国に甘いか、いかに国際金融の世界を知らないか、ということです。私に言わせれば、中国共産党が運転するバスに乗るのかということです。当然これは警戒してしかるべきものです。
中国の人民銀行や国有商業銀行などの金融機関は全て、党中央の支配下、指令下にあります。AIIBも明らかにその延長線上に位置づけられており、中国共産党の一機関あるいは子会社のようなものになるでしょう。実際、AIIBの本部は北京、総裁は元中国政府高官、主要言語は中国語とされています。
また、AIIBの資本金の5割は中国が出資することになっており、今後出資国が増えても4割以上のシェアを維持すると言われています。ここからも中国の影響力が圧倒的に大きくなることが予想されます。
AIIBは意思決定の方法にも問題があります。一般的に世界銀行やアジア開発銀行などの国際金融機関では、重要事項は理事会で決定されます。理事会は民間企業で言えば常務会のようなもので、頻繁に開催されます。ところがAIIBの場合、中国側の説明を総合すると、中国には中国のやり方があるということで、理事会決定方式を否定しています。これははっきり言えば、トップダウンによって意思決定をしていくということです。
AIIB総裁は党中央の指令下にあるわけですから、重要事項を判断する際には党中央にお伺いを立てます。つまり、突き詰めれば、最終決定権限は習近平が持つということです。日本ではAIIBに参加して注文を出していくべきだといった議論も行われていますが、習近平の代理に過ぎないAIIB総裁に日本代表が物申せば影響力を行使できると信じているのであれば、北京で物笑いの種にされるでしょう。
中国はAIIBを自らの軍事戦略に利用しようと目論んでいます。例えば、ミャンマーやスリランカなど、彼らにとって死活問題であるシーレーンに港を作り、軍艦が寄港できるようにしようと考えています。また、AIIBの資金で南沙諸島に港を作ることもあり得ます。もっとも、これは流石にAIIBに参加している東南アジア諸国の顰蹙を買うと思いますが。
さらに、AIIBは総会の承認があれば北朝鮮に対しても融資することができるようになっています。もしAIIBが北朝鮮に融資を行えば、日本の経済制裁は無力化され、拉致問題や核問題の解決にも影響を及ぼすことになります。
このように、通貨金融政策は軍事や外交にも大きな影響を与えます。この点について日本はあまりにも緊張感が欠如していると言わざるを得ません。
なぜヨーロッパはAIIBに参加したのか
―― なぜ意思決定にほとんど関与できないにも拘らず、ヨーロッパ諸国は参加申請したのでしょうか。
【田村】 それは端的に言って実利のためです。ヨーロッパにとって中国は地球の反対側にあるため、日本とは違い、ほとんど安全保障上の脅威を感じることはありません。それ故、彼らは安心して利益だけを貪ることができます。
これは彼らの戦前から一貫したやり方です。彼らにとって中国は利権の漁り場であり、実利さえ上がればよいのです。例えば、戦前のドイツは日本と同盟関係にあったにも拘らず、日中戦争中に国民党に武器を流していました。イギリスは1949年に中華人民共和国が建国された時、直ちに承認しています。また、天安門事件が起こった際、民衆運動に参加していた香港市民たちが北京のイギリス大使館に逃げ込んだところ、香港は当時イギリス領だったにも拘らず、イギリス大使館は門を閉ざして彼らを中に入れませんでした。
最近でもイギリスはチベットやウイグルなどで行われている人権抑圧や虐殺について一切コメントしようとしません。それは、イギリスが人民元の国際決済センターをロンドンのシティーで一手に引き受け、手数料を得ようとしているからです。(以下略)
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