http://www.asyura2.com/15/senkyo183/msg/673.html
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ウクライナ・クリミア問題をめぐり、日本ではプーチン批判が吹き荒れている。しかし、ロシアが一方的に悪く、ウクライナとそれを支援するアメリカが善だというのは、あまりにも一面的な見方だ。アメリカに従い対ロ制裁を続けることが本当に日本の国益になるのか、一度冷静に考えてみる必要があるだろう。
ここでは、元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏のインタビューを紹介したい。
『月刊日本』5月号
「プーチンはなぜ『核に言及したのか」より
http://gekkan-nippon.com/?p=6785
なぜプーチンは核にまで言及したのか
―― 3月15日、プーチン大統領はロシアのテレビ番組で「ロシアはクリミア情勢が思わしくない方向に推移した場合に備えており、核戦力に臨戦態勢をとらせることも検討していた。しかし、それは起こらないだろう、とは考えていた」と述べました。プーチン大統領の狙いはどこにあると考えられますか。
【馬渕】 プーチン大統領の真意をつかむためには、この発言に至るまでの一連の流れを押さえる必要があります。 まず、2月27日にロシアの野党勢力の政治家であるネムツォフ元第1副首相が暗殺されました。一部ではプーチン大統領が暗殺を指示したなどと言われていますが、それは的外れです。ネムツォフの支持率はわずか1%に過ぎず、もはや何の影響力もない過去の人でした。他方プーチンの支持率は86%もあります。プーチンには危険を冒してまでネムツォフを暗殺するメリットは何もありません。
もとより、ネムツォフ暗殺は行きずりの犯行ではありません。あの暗殺には二つの狙いがあったと思います。一つは、プーチンに対する警告、すなわちプーチンも暗殺のターゲットになっているぞという脅しです。もう一つは、プーチンが暗殺の黒幕であるかのように見せることで、プーチンを貶めることです。
プーチンはこれらのメッセージを正確に受け止めたのだと思います。だからこそ10日間以上に亘って表舞台から姿を消したのです。その間、ロシア政府としてどのように対応するか、何度も協議を重ね、周到な計画を立てていたのでしょう。それが今回の発言につながったのだと思います。
プーチン発言が念頭に置いているのはもちろんアメリカです。『世界を操る支配者の正体』(講談社)の中でも詳しく述べましたが、ウクライナ危機を起こしたのはアメリカです。もっとも、厳密には、アメリカを動かしているウォールストリートや軍産複合体、ネオコンなどの勢力と言うべきでしょう。彼らの狙いはロシアをグローバル市場に組み込むことです。これは陰謀論でも何でもありません。我々日本人の経済感覚からは理解し難いことですが、彼らは金儲けのためならば手段を選びません。それ故、これは陰謀論ではなく「ビジネス論」と呼ぶべきです。
このようにアメリカがどれほど理不尽な振る舞いをしようとも、プーチンは自制し、堪えてきました。しかし、ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょう。核にまで言及したということは、ロシアは絶対に譲歩しない、これ以上ロシアに手を出すならばこちらにも覚悟があるぞということです。
とはいえ、プーチンは何も核戦争の準備をしていると言っているわけではありません。臨戦態勢をとる必要があるかどうか検討していた、つまり、臨戦態勢の前段階について検討していたと述べただけです。この点はニューヨークタイムズでも正確に報じられています。ところが、日本の新聞の中には「プーチン核発言に呆れる」などと言って、見当違いな分析をしているものもありました。私はむしろこの報道内容にこそ呆れてしまいました。
対ロ制裁をやめたいヨーロッパ
―― プーチン発言を受けて、欧米のロシアに対する対応は変化するでしょうか。
【馬渕】 ヨーロッパにはそもそもロシアと敵対する意図はなく、その能力もありません。彼らは地理的にもロシアのミサイルの射程範囲内に入っており、またエネルギーの大部分をロシアに依存しているからです。ロシアに代わってアメリカが天然ガスや石油を供給することもできない以上、ヨーロッパはロシアと共存するしかありません。
それでも彼らはこれまでアメリカに言われて仕方なく制裁に付き合ってきましたが、もはや嫌気が差していると思います。ヨーロッパとアメリカの関係はかなり悪化していると見た方がいいでしょう。
その点、4月8日にギリシャのチプラス首相がモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談することは大きな意味を持つと思います。ロシアとギリシャは共に正教文化圏であり、強い紐帯で結ばれています。それ故、ロシアがギリシャに対して何らかの支援を打ち出す可能性もあります(編集部註:4月8日、プーチン大統領とチプラス首相は首脳会談を行い、農業やエネルギー分野での経済協力を拡大していくことで一致した)。
ここから先は思考実験になりますが、もしロシアがギリシャに対して金融支援を行えば、表向きは別として、ドイツのメルケル首相は喜ぶでしょう。EUの一員であるギリシャが対ロ制裁に反対し、EUがまとまらない可能性があり、これを口実にアメリカに対してEUはもう対ロ制裁には付き合えないと言えるからです。もちろんこれは微妙な政治的綱渡りではありますが、あり得ないことではありません。
他方、アメリカの目的はプーチンを倒すことなので、プーチンの核発言があったからと言ってこのまますごすごと引き下がることはないでしょう。現在アメリカは戦略の練り直しを行っていると思います。その間は表立っては何も起こらず、情勢が安定したかのように見えるでしょう。しかし、それは米ロ関係が改善して平和が訪れたということではありません。既に米ロ双方ともルビコン川を渡ってしまった以上、後戻りはできません。(以下略)
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