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http://diamond.jp/articles/-/68114
誰の気持ちも傷つけないのが「表現の自由」なら憲法21条は不要
[橘玲の日々刻々]
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フランスの週刊誌『シャルリー・エブド』などに掲載された風刺画をまとめた本が出版されたというので近所の書店を回ってみたら、どこも「うちには入荷していません」とのことでした。報道によれば、大手書店でも販売を自粛するところが大半のようです。
こうした対応について、「ひとが嫌がるようなことをする表現の自由はない」と支持する意見が多いようですが、もしそうなら、同じ書店に、特定の民族や国家を揶揄・中傷する本が並んでいるのはなぜでしょう?
その理由は、わざわざ説明するまでもありません。相手がどれほど嫌がっていようと、気に食わない奴らをバッシングする自由はあるわけです。書店もムスリムの気持ちに配慮しているわけではなく、抗議されたら困ると思っているのでしょう。
もっとも、こうした風潮をいちがいに批判することはできません。欧米諸国とイスラームの複雑な歴史に日本は無関係で、「アタマのおかしい奴らを刺激 して火の粉が飛んでくるのは真っ平だ」と一般のひとが思うのは無理もありません。書店は無防備ですから、抗議行動で混乱が起きれば対処できないと考えるの も当然です。
この件でどうにも理解できないのは、マスメディアや“識者”の反応です
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700万部が売れたという事件後の『シャルリー・エブド』特売号の表紙を日本のメディアはほとんど掲載しませんでしたが、これを「ムスリムに対するヘイトなのだから当然だ」と擁護する“リベラル”なひとたちがいます。しかしそうなると、この“ヘイト本”を買った700万人や、「私はシャルリー」の言葉を掲げて街頭に立った350万人のフランス人はイスラームを差別する「極右」ということになってしまいます。
これはどう考えても荒唐無稽な話ですが、そう思ったひとが自分で判断しようとしても、肝心の風刺画を見ることができません。「私はヘイト表現だと感じた。だから掲載するな」というのは、個人的な判断を一方的に読者に押しつける知識人の横暴以外のなにものでもありません。
もちろんここで、「風刺画を見たければネットにいくらでもある」との反論もあるでしょう。しかしそれを認めるのはメディアの自己否定で、「真実はす べてネットにあり、新聞やテレビはウソばかりだ」ということになってしまいます。そしてこれは、ネットを使ってISIS(イスラム国)が信じ込ませようと していることなのです。
書籍は、自らの意思で手に取ったひとしか内容がわかりません。表紙に風刺画を使っておらず、ムハンモドの顔をモザイクで隠した本ですら販売させない というのは、明らかに行きすぎです。日本の市民社会を律しているのは日本国憲法であり、シャリーア(イスラーム法)ではありません。誰の気持ちも傷つけない「表現の自由」しか認めないのなら、(言論・出版の自由を定めた)憲法21条など不要ですから、さっさと削除してしまえばいいでしょう。
もちろん日本に住むムスリムには、風刺画を掲載した新聞社や出版社に抗議する自由があります。しかしそれと同時に、自由な市民社会のルールを尊重しなければなりません――こんな当たり前のことをいちいちいわなければならないのは、ほんとうに残念です。
『週刊プレイボーイ』2015年3月2日発売号に掲載
【後記】
『新文化』2015年2月10日号に『イスラム・ヘイトか、風刺か』を出版した第三書館の北 川明社長のインタビューが掲載されていたので、その一部を引用します。なお北川氏は、本書の企画意図について、「(シャルリー・エブドは)風刺漫画なのだ から、漫画を出さずに議論することはありえない」と述べています。
――イスラム教関係者が本を置かないように要請した書店もあったと聞くが。
北川 いつも常備を入れている書店にはイスラム教徒が押しかけ、注文がキャンセルになってし まった。本の内容を見てからならまだわかるが、この度の一連の書店の反応には愕然とした。中国・韓国を貶める『ヘイト本』はかなり悪質だが、書店は売れる から売る。それはいいが、本書を読んでもいないイスラム教徒が来ただけで、この本を売らないという。
では、韓国人、中国人が(ヘイト本を)置かないでほしいと言ったらどうするのか。在日の人が『売らないで』といっても書店は売るだろう。それは書店人の“差別”だと思う。
――本に対する反応は。
北川 本を読まずして非難している。抗議しているイスラム教徒にも「読んでみてほしい」と いったが、「いらない、読みたくない」との答えだった。彼らはこの本が『シャルリー・エブド』を礼賛していると勘違いしている。イスラム教徒としては預言者ムハンマドが否定されている本は一切知りたくないという心情はわかるが、取り上げること自体がけしからんという立場だ。
http://diamond.jp/articles/-/70470
2015年4月20日
反日映画が日本で上映できないなら日本は「自由な社会」ではない
[橘玲の日々刻々]
乳腺切除と卵巣・卵管切除で話題となった米女優アンジェリーナ・ジョリーの監督作品『アンブロークン』の日本公開が危ぶまれています。
ベルリンオリンピックに米国代表の陸上選手として参加したルイス・ザンペリーニ氏は、太平洋戦争で搭乗機が洋上に墜落して47日間漂流し、奇跡的に助かったものの日本軍の捕虜となり、収容所で2年半にわたる過酷な日々を過ごします。戦後、ザンペリーニ氏は自分を虐待した日本兵への復讐心に苦しみますが、キリスト教の「救い」と出会って過去を乗り越え、1998年の長野五輪では80歳の聖火ランナーとして日本を訪れることになります。
映画の原作となったノンフィクション作品は全米ベストセラーとなり、アマゾンでは2万3000ちかいレビューが付けられ、そのうちの85%が5つ星ときわめて高い評価を受けています。歴史に埋もれていたヒーローを発掘したことに加え、サバイバルから憎悪の克服、愛と許しの境地へと至る「不屈(アンブロークン)」の物語がアメリカ人のこころをつかんだのでしょう。
報道によると、昨年夏頃から「日本を貶める映画」との批判がネットで上に現われ、アメリカなど50カ国以上で公開されながらも、ボイコット運動の影響で配給会社すら決まらないとのことです。
当たり前の話ですが、読んでもいない本や、観てもいない映画を批判することは誰にもできません。アンジーは、「反日映画ではなく許しの物語だ。映画を見てもらえばわかる」と述べていますが、これは監督としてもっともで、それに対して「観なくてもわかる」というのでは駄々っ子と同じです。こんな理由で映画が上映できないのでは、民度の低さを世界に晒し、かえって日本を「貶める」ことになるでしょう。
より問題だと思うのは、「リベラル」と呼ばれるひとたちが、この露骨な「表現の自由の圧殺」をほとんど取り上げようとしないことです。その理由は明らかで、彼らはフランスの出版社『シャルリー・エブド』襲撃事件の際、「テロは言語道断だが下品な風刺画を載せた方も問題だ」として、「ひとが嫌がるようなことをする表現の自由はない」と主張していたからです。
ムハンマドの顔をモザイクで隠した風刺画を載せた書籍は、日本在住のムスリムの抗議でほとんど書店の店頭に並びませんでした。それについて出版社の社長は、「抗議しているイスラム教徒にも『読んでみてほしい』といったが、『いらない、読みたくない』との答えだった」と述べています*。
『アンブロークン』の上映に反対する会の事務局長は、「映画は見ていないが、事実無根の思い込みや決めつけによる作品で、上映の必要はない。日本人性悪説に基づいた人種差別だ」と語っています**。
両者の態度はまったく同じですから、ムスリムに配慮して風刺画を掲載しなかったリベラルなメディアは、「私が不快だと感じる“反日映画”を上映するな」と叫ぶひとびとを批判することができません。なぜならそれは、尊重すべき正当な「人権」なのですから。
日本は「自由な社会」だそうですが、そこでは「風刺画や映画を見て自分で判断したい」という当たり前の権利すら認められないようです。
*[参考記事]
●誰の気持ちも傷つけないのが「表現の自由」なら憲法21条は不要
**「反日?映画、遠い公開 旧日本軍の捕虜虐待描くアンジー作品」『朝日新聞』2015年3月17日朝刊
『週刊プレイボーイ』2015年4月13日発売号に掲載
<橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、政治体制、経済、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ最新刊 『橘玲の中国私論』が発売中。
●DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)にて
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