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東京のメディアからすれば「維新ブーム」はとっくに終わっているように思うのだが、4月12日投開票の大阪府議会、大阪市議会の選挙結果を見るとなかなか善戦している。何せ、府議会でも市議会でも自民党を抑えて第一党の地位を守ったのだ。しかも市議会では改選前の29議席から36議席へと躍進している。どうも東京で見ているのと状況が違うようなのだ。
それでも大阪維新の会の幹事長である松井一郎大阪府知事は、今回の選挙結果を「負け」だと総括している。定数88の府議会で過半数を獲得できなかったからだ、という。維新は府議会で42議席と改選前から3議席減らした。定数を109から21も削減しており、議会の勢力構成からすれば維新は力を増したわけだが、過半数にはわずかに届かなかった。市議会も議席を増やしたとはいえ、定数86の4割を得るに留まった。
維新が過半数にこだわるのには訳がある。
大阪維新の会の長年の主張である「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が5月17日に控えているためだ。維新は、大阪市営地下鉄の民営化などの議案を提出してきたが、これまでことごとく大阪市議会に反対されてきた。大阪都構想が実現されれば、大阪市がなくなり、「既得権の牙城」として維新が批判し続けてきた市議会もなくなる。
だが、それでも都構想を進めていくには府議会の賛成多数を得ることが必要になる。
つまり、維新にとっては府議会の過半数を取れなければ「勝ち」と胸を張ることはできないのである。松井氏が「幹事長である僕の力不足。都構想の中身を十分に伝えきれなかった」と敗戦の弁を語ったのはこのためだ。
NHKが12日の投票日に投票所で聞いた調査によると、大阪都構想に「賛成」と答えた人が52%、「反対」と答えた人が48%で、ほぼ拮抗している。「賛成」の理由としては、「二重行政の解消」(66%)や「大阪の経済成長」(25%)を選んだ人が多かった。
大阪には府立大学と市立大学が並存しているほか、水道事業も大阪市とそれ以外の市域で別々に行っている。こうした「二重行政」が無駄の象徴として維新のやり玉に挙がっていた。こうした二重行政の解消こそが都構想の「効果」だとしてきたのだ。
もっともこれに対しては、二重行政の統合効果は維新が言うほど大きくないといった批判が他の政党からなされてきた。都構想には基本的に維新以外の政党は反対の姿勢だ。
一方で、NHKの調査で「反対」の理由として選んだ人が多かったものは、「大阪市の存続」(42%)や「議論が不十分」(39%)といったもの。これに「支持する政党が反対している」(9%)といった理由が続いた。伝統ある「大阪市」への愛着がある住民は少なくないだろう。都構想は端的に言えば大阪市の廃止だから、抵抗のある人は少なくないはずだ。
維新の幹部は、反対理由の中で「議論が不十分」といった声が多いことに着目している。大阪都構想のより詳しい内容を、住民投票までに説明していけば、賛成をまだまだ増やせるとみているのだ。
大阪維新の会の政策ブレーンである上山信一・慶応大学総合政策学部教授は、大阪の経済的なジリ貧状態を何とかしなければならない、という危機感は大阪市の住民の間に根強くある、とみる。逆風と言われながらも大阪市議会で議席を伸ばしているのには、大阪人が痛感している大阪の問題がある、というわけだ。賛成理由の中に「大阪の経済成長」があるのはこのためである。
安倍晋三首相が推進するアベノミクスの効果が徐々に出始めているが、そんな中にあって大阪は「取り残されている」感覚が強い、とされる。企業の多くが本社を東京に移すなど「地盤沈下」が著しいことが大きい。
そんな実状を示しているデータをひとつ見てみよう。
日本銀行の統計で、都道府県別の銀行の個人預金残高を見ると、大阪の預金増加率は東京や全国平均を大きく下回っていることが分かる。
安倍内閣が発足した2012年12月の月末の大阪の個人預金残高は36兆8883億円。2015年2月末は37兆8649億円なので、2.6%増えたことが分かる。同じ期間に東京は87兆5947億円から96兆38億円に9.6%も増加しているのだ。全国合計でみても409兆8173億円から433兆804億円と5.7%増えている。
個人預金の残高は給与だけでなく、その他の所得の増加などを反映していると見ていい。アベノミクスによって株価が上昇し、有価証券売買益が増えた結果なども反映されるとみられる。
つまり、大阪はアベノミクスの恩恵をあまり受けていないと見ることができそうだ。
大阪都市部での少子高齢化が進んだ結果、経済活動が停滞し、町から活気が失われているといわれる。こうした経済のジリ貧状態を何とかしなければと思う大阪人の支持が維新に集まっているとみていいだろう。
同じNHKの調査で、「大阪府と大阪市に取り組んでもらいたい課題」を聞いたところ、「大阪経済の活性化」が34%と最も多かったという。次いで「医療・福祉の充実」が32%、「教育問題」が12%、「行財政改革」が11%、「大都市制度の議論」が10%、「観光産業の振興」が1%だったという。
やはり、住民の関心事は「経済」なのである。大阪維新が5月17日の住民投票までに、いかに大阪都構想が大阪経済を立て直すうえで重要かを説明できるかどうかに、勝敗がかかっていると言えそうだ。
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