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「 安倍晋三首相のジレンマ 風塵だより25 鈴木 耕:マガジン9」
http://sun.ap.teacup.com/souun/17082.html
2015/4/11 晴耕雨読
2015年4月8日up 風塵だより25 安倍晋三首相のジレンマから転載します。
http://www.magazine9.jp/article/hu-jin/18651/
菅義偉官房長官が、ようやく翁長雄志沖縄県知事に面会した。ほんとうに「ようやく」である。
翁長氏が沖縄県知事に当選してから、もう4カ月以上も経っている。しかも、その4カ月間に翁長氏は何度も東京を訪れ、安倍首相や菅官房長官との面会を要請していたにもかかわらず、首相も官房長官も「話し合うことはない」「会うつもりはない」と、冷たく面会を拒んできた。
その上、沖縄県側が沖縄防衛局へ出した「環境破壊の調査期間中の辺野古の作業停止の指示」も、なんと「行政不服審査法」という、本来ならば国側が使うべきではない法律まで持ち出してはねつけた。そして例によって「“粛々と”作業は進める」と繰り返した。
沖縄のことなど歯牙にもかけない。「下々はお上の言うことに逆らうでない」という封建君主並みのやり方である。
それが突然、菅官房長官が沖縄を訪れ、翁長県知事に面会を申し込んだ。4カ月も経ってからの、安倍内閣の方針転換?
旧知のジャーナリストに連絡をとり、彼の解説を聞いた。要約すると、以下のようなことだという。
もちろん、安倍首相には、工事をやめようなんて気はまったくないですよ。ただ、問題はアメリカの意向です。アメリカ側がこのところの辺野古の状況に、かなり神経をとがらせているのは事実です。
元アメリカ国防次官補で日本の事情にも詳しいジョセフ・ナイ氏(現ハーバード大教授)などは、沖縄に米軍基地が集中していることを批判し始めています。固定化された基地は、むしろ中国の弾道ミサイルの格好の標的になるという危険性も抱えることになる。将来的には米軍基地を日本へ返還し、自衛隊との共用基地という形にして、米軍がそこを巡回するほうが理に適っている、というわけです。
また、現地の住民たちが辺野古新基地建設にこれだけ激しい抵抗を示している現状をアメリカは考えるべきだ、ともナイ氏は言っています。
アメリカ政府内には以前から「基地は地元住民の理解が重要」「住民の反対が強い場所には、基地を造るべきではない」という声があり、沖縄の現状を憂慮して見直し論が出始めています。
そんな意見が出てきていることに、安倍内閣もさすがに不安を感じ始めています。しかも、4月下旬からの安倍首相のアメリカ訪問が控えているので、なんとか沖縄と直接の話し合いが始まった、という状況を作ってアメリカ側の危惧を払拭しておく必要が出てきた。そこで、菅官房長官と翁長知事の会談をセットしたというわけです。
要するに、パフォーマンスですよ。何も解決するつもりなんかないけどアメリカへ『話し合いが始まりましたから、ご心配には及びませんよ』と言いたいだけなんです。
安倍首相の目は、自国民の希望ではなくアメリカ側の思惑へ向いている、とこのジャーナリストは言う。
でもね、安倍首相の思いは捩じれているんですよ。つまり『戦後レジームからの脱却』路線で、最終的には祖父・岸信介氏の悲願であった憲法改正をなしとげるためには、どうしても長期政権を維持しなければならない。とくに、9条の改正なんて、短期間ではできませんからね。長期政権で時間をかけて、改憲国民投票へもっていかなければならないんです。
そのためには、アメリカのご機嫌を損ねてはならない。日米同盟こそが安倍首相の最大の拠りどころなんですから。辺野古の米軍基地建設は、アメリカへの“朝貢外交”ですよ。安倍支持の右翼たちは、なんでこの“朝貢外交”に怒らないんですかね。
でも一方では、安倍首相はアメリカ側から歴史認識や靖国参拝で強く釘を刺されている。これが安倍さんにはとても不満なんです。こんなに尽くしているのに、なんでオレの気持ちが分からないんだ、という思いでしょう。まあ、子どもっぽいといえば子どもっぽいですけどね。その意味では、対米従属から自立したい、という気分も持っている。
これが、安倍首相のジレンマです。
一方ではご機嫌を取りつつ、もう片方ではそこから自立したい。その矛盾を解決できる方策を、安倍首相も取り巻きの側近も官僚たちも持っていない、ということが彼にとっての悲劇なんですよ。
なるほど。
多分、そのジレンマへの苛立ちが、安倍首相の国会審議などの場での異様なヤジや、ほとんど答えにならない答弁に現れているのだろう。実際、安倍内閣の閣僚たちの言葉の軽さは、歴代内閣でも群を抜く。
菅官房長官は、記者会見で沖縄・辺野古の状況について「知事が代わったからといって、前知事が約束したことをひっくり返すのはいかがなものか。それでは、行政の継続性が破壊されてしまう」と言っていた。
仲井真前知事は「普天間飛行場の辺野古移設反対」を掲げて選挙に臨み、当選した。それなのに、公約をあっさりと破ってしまったのだ。翁長現知事は、その公約を元に戻したに過ぎない。どちらに「行政の継続性」があるか、小学生にだって分かる道理だ。
もう少し付け加えれば、歴代内閣が踏襲してきた「集団的自衛権行使禁止」を、安倍首相は閣議決定という掟破りの手法で覆してしまったし、「村山談話・河野談話の継承」もまたその手で葬ろうとしている。
菅官房長官が言うように「知事が代わったからといって、前知事の約束をひっくり返すのはおかしい」のなら、「首相が代わったからといって、歴代内閣が守ってきたことをひっくり返すのはおかしい」というリクツになるはずではないか。
記者会見の様子などを見ていてぼくがイラつくのは、こんな政権首脳のおかしな言葉づかいに、ほとんど噛みつく記者がいないということだ。ぼくが感じていたのだから、翁長氏だってそう思っていたに違いない。
記者たちが追及しないのなら、自分で批判するしかない、と翁長知事は思い定めたのか、初の菅氏との会談で、安倍内閣のやり方を痛烈に批判した。
以下、会談の模様を伝える各紙の記事を見てみる。
翁長氏は会談で「国民を洗脳するかのように、普天間の危険性除去のためには辺野古が唯一の政策というが本当か」と追及。菅氏が新基地建設を「粛々と進める」と繰り返していることに「粛々という言葉を何回も使われ、問答無用という姿勢が感じられる」と不信感を示した。(略)
県幹部によると、これほど激しい口調の翁長氏は珍しいという。菅氏は「沖縄基地負担軽減担当」を兼務しているのに、新基地に反対する翁長氏を「この期に及んで」などと批判してきた経緯から、不満が一気に噴出したようだ。(以下略)=東京新聞4月6日
会談の冒頭で菅官房長官は「国土面積の1%に満たない沖縄県に約74%の米軍基地が集中し、県民に大きな負担をかけている」と切り出し、「負担軽減のためにやれることはすべてやるという基本方針のもと、政府の最重要課題の一つとして、この問題を取り上げている」と辺野古への移設に理解を求めた。(略)
しかし、翁長氏は冷ややかだった。「辺野古に移設しても比率は73.8%から73.1%にしか変わらない」という小野寺五典元防衛相の説明を引用し、「官房長官の話を聞いたら、国民は(負担軽減が)相当進むと思うかもしれない」と皮肉った。(以下略)=毎日新聞・同
(略)翁長氏は「どんなにお忙しかったか分からないが、こういった形で話させていただいて、その中から物事を一つひとつ進めるということであれば、県民の理解はもう少し深くなっていた」と語り、知事就任から面会まで4カ月かかったことを批判した。(略)
翁長氏は「安倍(晋三)首相にもこのような形でお話しする機会があれば、大変ありがたい」と述べ、首相との会談も求めた。しかし、官邸幹部は朝日新聞の取材に対し、「(事態進展に)ある程度のめどが出てこないと会っても意味がない」と話し、当面は首相との会談には応じない考えを示している。(以下略)=朝日新聞・同
翁長知事の怒りがいかに激しかったかがよく分かる。それはまた、沖縄県民の怒りを代弁するものでもあった。
菅官房長官は、翁長知事の発言の間、ほとんど口を挟まず淡々とメモを取っていたという。しかし、反論できなかった、というのが本当のところではないだろうか。
会談の状況は、逐一首相官邸に伝えられていた。口八丁手八丁の菅官房長官ですら、翁長知事の批判にほとんど口を挟めなかったとすれば、相手の言うことなどまるで聞かず理解もできない安倍首相では、翁長知事にやり込められるだけ、と官邸は判断したのかもしれない。だから「会っても意味がない」と、早々に逃げを打っているのだ。
とりあえず、訪米にあたって、沖縄との会談の道筋はできた、というアメリカへの手土産は確保した、というだけの話だ。
菅官房長官、少しは翁長知事の批判がこたえたらしい。6日午前の記者会見で「不快な思いを与えたということであれば、使うべきではない」として、これ以降「粛々」という言葉は使わないと表明した。
だが、言葉を封印したところで、やることは変わらない。
「上から目線の物言い」との批判を受け、中谷防衛相は記者会見で、どんどん工事を進めることを「予定通り堅実に進めたい」と言い換え、菅官房長官は「適切に対応する」と改めた。
まるでお笑いコンビのよう。爆笑問題のいいネタにされそうだ。政治家たちの言葉の軽さが増幅されていくばかり…。
※記事を引用する場合は出典の明記「マガジン9:http://www.magazine9.jp/」をお願いします
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すずき こう
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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