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新年度予算が衆議院を通過し、国会論戦のテーマは安保法制の整備に移ることとなる。安倍晋三内閣は、昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定を具体化するのみならず、自衛隊の海外派遣を広範に可能にするという法律整備を打ち出している。自民、公明両党が協議を続けているが、政府自民党が過大な提案をし、公明党の出番を作る形で若干の修正をするという出来レースのようである。安倍政権は、平和国家あるいは町人国家と言われた戦後日本という国の性格を変え、国際社会におけるサムライの仲間に入ることに執心している。ナショナル・アイデンティティ(国是)をめぐる政治が70周年の終戦の日に向かって政治の大きな争点となるであろう。
たんに武力を行使したいというだけでサムライの仲間に入れてくれと言っても、他国は相手にしてくれない。したがって、実力行使には何らかの大義名分が必要となる。この政権が価値観の問題について従来の政権よりもはるかに雄弁なのは、その点に由来する。
政治は一面で権力をめぐる争いであり、綺麗事だけでは通用しない。それだからこそ、規範や建て前が重要となるということもできる。綺麗事を一切否定すれば、政治は単なる野獣の行動と同じになるからである。過去の歴史の中で権力者が虐殺・粛清や差別を行ったことは、今日では絶対的悪として否定されている。また、人間の尊厳や自由という基本的価値に帰依することは、政治家が文明社会の一員とみなされるための絶対的必要条件となる。その点で、主義主張は違っても政治の土台となる価値を共有するという気風を培うことは、日本では戦後70年たってもできていない。
衆議院予算委員会における質疑を見ても、安倍という人は価値観を語るに足る知性、品性を備えていないと痛感させられた。民主党の議員が西川公也前農水相の政治献金問題を質しているときに、安倍首相は日教組の献金はどうするのとヤジを飛ばした。首相は日教組が事務所を置く日本教育会館から民主党議員に政治献金が行われているので相打ちだと言いたかったようだが、そのような事実は存在しない。つまりこれは単なる言いがかりである。9年前に民主党の若手議員が偽メールをもとに、自民党幹事長が裏金をもらったと追及したことがあったが、首相のヤジもそれと同列である。ただし、首相の場合は虚偽が判明した後も悪びれることなく、遺憾の意を表明しただけであった。他人の意見をよく聞いて議論しようとか、嘘や偽りで他人を貶めてはいけないというのは、小学生に教え諭す議論のルールである。つまり、わが国の首相の品性は小学生並みということである。
安倍首相が民主主義や人権という価値を共有すると主張しても真剣さが伝わってこないのは、価値観をめぐる言動と実践の間に大きな距離があるからである。先日、曽野綾子氏が南アフリカのアパルトヘイトを例に出して、人種隔離を是認する文書を新聞に書いた。アパルトヘイトそのものをどう思うかと言われれば、政治家はみなこれを否定するだろう。しかし、アパルトヘイトを是認するような人物を政府の主要な審議会のメンバーに据えることは、アパルトヘイトを容認することを意味する。それが世界の常識である。曽野という人が人権や差別についてどんなことを言ってきたかは明らかであり、政治家の側が知らなかったと言い訳できる話ではない。どこの国にも差別を肯定する人間はいるものだが、そうした人々は政治の中で居場所を与えられないキワモノである。日本の場合、キワモノが権力と近い所に位置し、影響力も持つ。だから、日本の政治家は人間の尊厳という価値について真面目ではないと映るのである。
言論の自由についても、安倍政権が実際にしているのは、たとえばNHKの会長と経営委員の人事に介入して、自分と親しい人間にNHKをコントロールさせることである。最近、経営委員長代理を退任した上村達男氏は籾井会長の発言が放送法違反だとはっきりと批判していた。これは異常事態であり、それをもたらしたのは政権の人事介入である。
価値観にかかわる政治課題として、戦後70年談話と憲法改正の2つがこれからの大きな争点となるだろう。憲法改正については、最近自民党の推進派の主張がやや柔軟化している感がある。9条や人権規定など、自民党らしさが表現される部分よりも、環境権や私学助成など抵抗の少ない部分を先行させるという主張が相次いでいる。自民党の改憲草案は国民の理解を得られるものではないと、自民党の政治家自身が理解しているのであろう。
70年談話については、この談話のありかたを論じる有識者会議の座長代理である北岡伸一氏が昭和の戦争について日本の侵略という性質は明らかと主張している。北岡氏の思いは、歴史認識についてのグローバルスタンダードを日本が共有したうえで、まさに価値観の土台の上に安定した日米の同盟関係を構築したいということだろう。日本が世界のサムライの仲間に入れてもらうためには、過去の戦争を正当化してはならないという厳しい現実を北岡氏は安倍首相に伝えたいのだと私は理解している。
安倍首相が価値観を前面に打ち出すことは、実は自ら大きなリスクを作り出していることを意味する。彼が技量のある政治家で、自分の個人的思いと日本の指導者としての役割とを区別する知性と策略を持っているなら、北岡氏の建言を容れて、安倍らしからぬ談話を出すはずである。安倍首相が個人的な思いに固執して、世界の常識と相容れない価値観を正直に打ち出せば、それは日本に対する不信を招来し、安倍首相の権力基盤自体も大きく揺るがすことになるだろう。
価値観に触り、それを争点化するということは、政治家の知的器量がじかに問われる場面を作り出すことになる。
週刊東洋経済3月28日号
http://www.yamaguchijiro.com/?cid=4
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