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2015年04月09日 板垣 英憲(いたがき えいけん)「マスコミに出ない政治経済の裏話」
◆中谷元防衛相は4月8日午前、来日(7日)した米国のアシュトン・カーター国防長官と防衛省内で初めて1時間余り会談した。会談に先立ち、カーター国防長官は、防衛省の講堂で、陸上自衛隊の儀じょう隊の栄誉礼を受けた。
中谷元防衛相とカーター国防長官は、4月下旬に開く、日米の外務・防衛の閣僚協議、「2+2」で日米防衛協力の指針、いわゆるガイドラインの見直しについての「最終的な取りまとめ」を目指して、詰めの調整作業を加速させていくことで一致したという。
問題は、オバマ大統領が、チャック・ヘーゲル前国防長官(1946年10月4日、ネブラスカ州ノース・プラット生まれ。ブラウン・カレッジ、ネブラスカ大学オマハ校〈B.A.〉卒。共和党上院議員=ネブラスカ州選出、オバマ政権第2期目国防長官、在任期間:2013年2月27日〜2014年11月24日)をクビにして、カーター国防長官を就任させたことにより、「米国の国防政策」がどう変わったのかということである。併せて、なぜヘーゲル前国防長官をクビにしたのかという疑問を氷解させておかなくてはならない。オバマ大統領が、国防政策をチェンジしているのに、安倍晋三政権が、それに気づかないまま、従前の防衛政策を続けていると、日米の平仄が合わなくなるからである。
◆カーター国防長官は1954年9月24日、ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。
イェール大学、オックスフォード大学卒。民主党所属。第1期クリントン政権下の1993年から1996年まで、ウィリアム・J・ペリー国防長官の下で国防次官補(国際安全保障政策担当、1994年の第1次北朝鮮核危機ではその対応において中心的な役割を果たす)、国防次官(調達・技術・兵站担当、在任期間: 2009年4月27日〜 2011年10月5日)、国防副長官(在任期間:2011年10月6日〜2013年12月3日)を経て、2015年2月17日、国防長官に就任した。
政権から離れていた2006年、ウィリアム・J・ペリー元長官と共同で「If Necessary, Strike and Destroy (必要なら、攻撃し破壊せよ)」と題する論文をワシントン・ポスト紙に寄稿し、このなかで、「北朝鮮に対する先制攻撃論」を展開、ペリー元国防長官は、「タカ派とは言わないが、アメリカの力で何ができるかについてはかなり強気で人にゆずらないところがあり、適切だと判断した場合はその力の行使も辞さないだろう」と評したと言われている。「タカ派の積極的戦争論者」である。
◆オバマ大統領が、ヘーゲル前国防長官から、「タカ派の積極的戦争論者」のカーター国防長官に交代させたことは、オバマ大統領が2011年11月のオーストラリア訪問時に宣言した「リバランス政策」の放棄を意味している。
「リバランス政策」とは、「米国の世界戦略を見直して、その重心を中東からアジア・太平洋地域に移そうとする軍事・外交上の政策=再均衡政策」のことである。ヘーゲル前国防長官は、この政策の継続を図ろうとした。このリバランス政策によって、オバマ大統領は、「安全保障戦略面のアジアへのピボッティング(軸足移動)」することと「国防態勢に大きな穴を開けずに、統合参謀本部議長の了解を得て国防予算の削減を実施」することを促した。
中東紛争からの出口戦略を後押しすることをオバマ大統領に期待されて、国防長官に任命されたヘーゲル米国防長官は、ブッシュ前大統領が遂行した「アフガニスタン空爆・イラク戦争→アフガニスタン戦争」に米軍が敗北した反省に立ち、中東紛争再介入への誘惑を断固排し、イラクとアフガニスタンの戦争から最終的に完全に手を引くことを目標にして「リバランス政策」を遂行した。
ヘーゲル前国防長官は、ネブラスカ大学オマハ校在学中の1967年に兵役により陸軍に入隊し、ベトナム戦争下のベトナムに従軍、ベトナムでは第9歩兵師団隷下の第47歩兵連隊に配属され、歩兵分隊の分隊長を務め、戦闘時の功績などによりベトナム共和国武勲十字章や名誉戦傷章(パープルハート)、陸軍称揚章などを受章して、1968年に三等軍曹の階級で名誉除隊している。この戦歴から、安全保障問題に精通し、戦争好きな共和党に所属する上院議員だったけれど、民主党のオバマ大統領と同じくイラク戦争に始めから懐疑的な見方をしていた。要するに戦争反対の姿勢を取り、アフガニスタンからの米軍撤退も支持してきた。だが、この姿勢が、中東紛争への介入に消極的で、しかも「反イスラエル」姿勢と受け取られることにもなり、ヘーゲル前国防相を苦しめる結果になった。
ところが、オバマ大統領の「リバランス政策」は、米軍が2012年末までに完全徹底した中東に「軍事的な真空状態」を招き、「シリアの内戦」と、それと並行した「イスラム国」の台頭という2つの脅威を招いた。
オバマ大統領は2013年9月10日夜(日本時間11日午前)、シリア情勢について演説し、シリアのアサド政権に化学兵器の放棄を求める国連安全保障理事会の決議採択を目指す方針を示し、一触即発となった。しかし、大統領は、国防予算削減が裏目に出て、最終的に軍事攻撃を断念せざるを得なかった。
2014 年になると、イスラム教スンニ派過激武装勢力「イスラム国=ISIL」がシリアから、次にイラクで急速に台頭、シリアでは、米国が支持していた穏健派の自由シリア軍が「イスラム国=ISIL」に駆逐される恐れが生じ、イラクでは米軍が「イラク戦争開始」以来、過去10年間にわたる戦争で手にした利権が一瞬のうちに奪われてしまった。だが、ヘーゲル前国防長官は、イラクへの米軍再介入に消極的なオバマ大統領に不満を募らせる国防総省(ペンタゴン)・軍部上層部と、イラクに戻ることを渋っていた大統領の板挟みになってしまう。思い余ったヘーゲル前国防長官は、ホワイトハウスにメモを送り、「オバマ政権の対シリア政策が明確でない」と不満と怒りを爆発させた。
しかし、オバマ大統領は2014年11月の中間選挙で民主党が惨敗したことから、米軍再介入を求める共和党からも厳しい追及を受けて、「リバランス政策」の放棄に舵を切らざるを得なくなり、ヘーゲル前国防長官の「クビ切り」に追い込まれた。
安倍晋三首相、中谷元防衛相は、オバマ大統領が就任させた「タカ派の積極的戦争論者」のカーター国防長官と意気投合し、「戦争する国家」へと向かい、なおかつ「第3次世界大戦」の道へとひた走るオバマ大統領に平仄を合わせて、日米同盟強化、日米防衛協力の指針「ガイドライン」の見直し、「安保法制整備」、さらには「米軍沖縄普天間飛行場の辺野古への移設強行」などを「手土産」にして、4月26日〜5月3日の日程で訪米し、28日に日米首脳会談、29日に米議会演説に臨むことになる。
【参考引用】 NHKNEWSwebは4月8日午後0時13分、「日米防衛相 ガイドライン見直し調整加速で一致」というタイトルをつけて、以下のように配信した。
中谷防衛大臣は、日本を訪れているアメリカのカーター国防長官と初めて会談し、日米防衛協力の指針、いわゆるガイドラインの見直しについて、今月下旬に開く、日米の外務・防衛の閣僚協議、2+2での最終的な取りまとめに向け、詰めの調整を加速させていくことで一致しました。アメリカのカーター国防長官はことし2月の就任後、初めて日本を訪問し、8日午前、防衛省の講堂で、陸上自衛隊の儀じょう隊の栄誉礼を受けたあと、中谷防衛大臣と1時間余りにわたって会談しました。
会談の中で、中谷大臣は、日米防衛協力の指針、いわゆるガイドラインの見直しについて、「日米同盟をかつてない強固なものにする歴史的な取り組みで、なるべく早い時期に協議を終了し、2+2につなげていきたい」と述べました。これに対し、カーター長官は「ガイドラインの見直しは、この地域だけでなく世界に対しても非常に大きな影響を持ち、日米同盟にとっても大きなチャンスを提供するものだ。まもなく2+2の会議に、お迎えできるのを心待ちにしている」と述べ、今月下旬にアメリカで開く、日米の外務・防衛の閣僚協議、2+2での最終的な取りまとめに向け、詰めの調整を加速させていくことで一致しました。
会談後、両閣僚は共同記者会見に臨み、中谷大臣は、政府と沖縄県との間で対立が続いているアメリカ軍普天間基地の移設計画について、「名護市辺野古への移設が普天間基地の継続使用を回避するための、唯一の解決策であることを再確認した。私から、沖縄の基地負担軽減について、引き続きの協力を要請し、両閣僚で協力していくことで一致した」と述べました。
一方、カーター長官は、「この問題を前進させようとしている日本政府の取り組みに感謝している。アメリカも基地の返還や施設の沖縄からの移転などで努力を続けている。地元への影響を最小限に抑えるため沖縄のアメリカ軍の再編を進めている」と述べ、アメリカ政府としても、沖縄の基地負担の軽減などに努める考えを示しました。
また、カーター長官は、中国が周辺で領海侵入を繰り返している沖縄県の尖閣諸島について、「オバマ大統領が約束したように、日本の施政権が及ぶすべての地域に日米安全保障条約は適用される。尖閣諸島に関する日本の施政権を損なういかなる一方的かつ挑発的な行動に強く反対する」と述べ、これまでのアメリカの立場を改めて強調しました。
さらに中谷大臣は記者会見で、「宇宙やサイバー空間の安定的な利用に対するリスクが日米共通の安全保障上の課題となっており、この分野での協力強化を確認した。そして、それぞれの事務当局に対して、宇宙に関する防衛当局間の新たな作業部会の設置を検討するよう指示した」と明らかにしました。
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