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石川和男の霞が関政策総研
【第43回】 2015年4月6日 石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表]
ドイツの脱原発・再エネ促進を礼賛する日本マスコミの不勉強 ドイツの再エネ賦課金累計は約13兆円
欧州エネルギー政策取材団の記事に感じた大きな違和感
ドイツのエネルギー政策への関心は高いが……。写真は同国の風力発電設備
Photo:Manuel Schönfeld-Fotolia.com
新聞報道だけで判断してはいけない。やはり実際に自分で話を聴きに行くべきだ──。
今年2月上旬、日本記者クラブ取材団が欧州のエネルギー政策を取材するため、スウェーデン、アイスランド、ドイツを訪れた。それらの取材結果は、関係各紙が直後に縷々報じていた。特に、ドイツに関する記事には注目した。ドイツは、日本が再生可能エネルギー政策の雛形と仰いでいる国。同国の制度を大いに参考にしつつ、日本は固定価格買取制度(FIT)を導入した。
この取材団に参加した中央紙・地方紙から発せられるドイツ関連報道の中には、大きな違和感を覚えるものが多数あった。
私は、翌3月中旬、実際に自分でドイツに出向き、連邦政府や州政府、産業団体や消費者団体など計10ヵ所で調査ヒアリングを行った。その結果、上記の違和感の理由は予想通りのものだった。
取材先のドイツ政府高官の発言を、何の突っ込みもなく、疑念も抱かず、語ったままを報じていると思われる記事があまりにも多い。これは報道ではない。ただの聞き取りでしかない。
この取材団の記事には、ドイツ連邦経済エネルギー省のバーケ次官のコメントが頻繁に登場する。ドイツのエネルギー政策の方向性を決める立場にある高官だ。バーケ氏の発言趣旨が書かれた記事の抜粋を日付順に書き出すと以下の通り。
2月12日付愛媛新聞:「新型設備では競争力ある発電ができる」、「(日本で導入しているFITは)過去の政策だ」、「(今後は)安い風力や太陽光に絞って促進」、「(日本の原発再稼働問題やアジア各国の新増設について)それぞれが決めるべきこと」
2月22日付産経新聞:「再エネ発電比率は26%。いまや最大の電力供給源」、「技術開発のための助成は終わった」、「(北部に多い風力発電基地と南部の消費地を繋ぐ送電網の整備は脱原発と再エネ拡大の)エネルギー転換のかぎ」
2月26日付新潟日報:「ドイツの再エネ技術は最先端。新しい風力や太陽光の施設は、新型の火力発電所と同じコストで発電できる」、「かなり金のかかる学習(をして、風力や太陽光発電の技術を育てた)」
2月26日付毎日新聞:「(2000年のFIT施行から)わずか14年でここまできた」
2月27日付新潟日報:「太陽光や風力で十分な電力が得られたときは、ノルウェーに輸出する。逆のときは、ノルウェーから水力の電気を輸入する」
2月27日付東奥日報:「(FITを変えて)再エネに市場の競争原理を導入したことで今後、一層の価格低下が期待。送電網の整備が再エネをさらに増やす上での課題」
2月28日付新潟日報:「ドイツでは脱原発と言わなければ選挙に勝てない」
3月3日付愛媛新聞:「今は、再エネ推進と脱原発を掲げなければ国民の支持は得られない」、「事故の懸念や放射性廃棄物の処理の問題から、私は長年原発には反対だった」、「反原発が世論の大勢を占める」
3月4日付静岡新聞、3月14日付中部経済新聞:「脱原発の議論は福島の事故以前から進んでおり、原発の運転寿命を40年代にまで延長するとの10年の政府の決定が、国民の大勢の意見に反するものだった」、「(送電網の整備について)着実に進んでいる。反対住民の説得などに時間はかかるが透明性の高い形で進めたい」
3月5日付愛媛新聞:「10年後には、再エネで国内需要を超える発電がされる日も来るだろう」、「買取制度は過去のもの。競争性を導入していく」
3月11日付中日新聞:「(FIT導入で)電気料金が値上がりし、低所得者の生活苦が議論されたが、料金のせいではない。低所得者は本来、福祉で解決されるべきものであり、エネルギー問題ではない。再エネのコストは下がっており、電気料金は今後抑えられると思う」、「昨年の法改正で新しく風力や大型太陽光の設備を建設した再エネ事業者が電力を直接販売する仕組みにした」、「大口需要家には料金負担を軽減し、競争力が維持できるようにしてきた」、「2014年でドイツ製品などの輸出が伸び、輸入を大きく上回った。私たちの政策は間違っていない。CO2排出量は過去5年で数年は前年を上回ったが、EUが経済危機に見舞われた09年を除けば、14年は最も排出量が少なかった」
ドイツ緑の党のバーケ氏が
前向きなコメントをするのは当然
バーケ氏は、ドイツ緑の党の党是の一つである“脱原発・再エネ拡大”を推進する役割を背負っているとされる。だから、バーケ氏のコメントが、脱原発や再エネ拡大に関して前向きで力強いものになるのは当然なのだ。
それを記事に書くことは、決して間違ってはいない。私がこの記者団に問いたいのは、取材の時にバーケ氏に対して、いささかの突っ込み質問もしなかったのかということだ。例えば、次のような疑問をぶつけたりはしなかったのか?
──北部と南部を繋ぐ送電線の建設が2022年の原子力ゼロ化に間に合わなかった場合、南部が電力不足に陥らない方策は何か?
──10年後に再エネで国内需要を超える発電がされる日が来たとして、その際のベース電源は何か?
──ドイツの電気料金はEUの中でもかなり高い方だが、今後これをいかに引き下げていくのか?
──ノルウェーに輸出する太陽光や風力による電気と、ノルウェーから輸入する水力による電気では、コスト面で大きな差があるのではないか?
──新型の火力発電所と同じコストで発電できる風力・太陽光の発電施設があるならば、それを見せてもらえるか?
筆者が直接聞いた関係者の声は違う
再エネ賦課金を後悔するコメントも
冒頭で述べたように、私は今年3月にドイツに出張し、連邦政府関係者など多数の方々から話を聞く機会を得た。そして、多くの疑問や懸念を直接ぶつけてみた。
その結果、例えば、南北送電線の建設が2022年までに間に合わない場合の代替手段について、連邦政府関係者や州政府関係者からのコメントを総合すると、「脱原発時期の延期は考えられないが、フランス(の原子力発電所)からの電気の輸入、ロシアからの輸入天然ガスによる火力発電の利用、電力市場の南北2分割などがあり得る」との回答があった。
また、北部の州政府関係者に対して、再エネ導入に伴う電気料金上昇に関する状況について聞いたところ、「家庭需要家を中心とした“エネルギー貧困”という問題が浮上しつつある。今以上に高い電気料金は払えないと悲鳴を上げる家庭需要家が出てきている」と懸念の表情を見せた。
さらに、再エネ賦課金は2000〜2014年の累計で1000億ユーロ(約13兆円)を超えたが、「これを例えば技術革新に投入していたらどんなに良かっただろうか」といった再エネ拡大に対する諦観めいたコメントが発せられた。
原子力については、2022年の脱原発は揺るぎないとしながらも、「原子力を他の電源に替えれば電気料金が上がるのは当然」、「原子力はCO2排出量削減に関してとても有効。フランス、ベルギー、スイスなどドイツ周辺諸国では、今後とも原子力発電が推進されていくだろう」などの原子力に対する前向きな評価コメントも少なくなかった。
下手に煽ると脱原発や再エネ拡大が
かえって阻害されてしまう
ある物事を推進したい立場の人を取材すれば、それを推進することに関して自信や熱意に満ち溢れた力強いコメントが返ってくるのは当たり前のことである。そのコメントだけを拾って記事にすれば、読者は誰でもその物事が必ず進むものだと思い込んでしまうのではないだろうか。
上記の記事の中には、ドイツ高官のコメントの後に、記者の見方として送電網整備や再エネ拡大の実現への疑問や懸念が書かれているものもある。だが、それはあくまでも記者の感想でしかない。その疑問や懸念をなぜ取材先であるドイツ高官に直接ぶつけないのか?
原子力や再エネを巡る報道では、多くの記事が“脱原発・再エネ拡大”への誘導を企図して書かれるのだろうと改めて思ってしまう。誘導的でない、中立的な記事もないではないが、残念ながらそうした報道はまだまだ多くない。
マスコミが“脱原発”ありき、“再エネ拡大”ありきで下手に煽ると、“円滑な脱原発”や“適確な再エネ拡大”が逆に阻害されてしまう。東日本大震災以降のエネルギー政策の動向を見ると、実際にそうなっていることがわかる。
原発報道や再エネ報道で中立的な報道をしている新聞社やテレビ局は、今の日本にいったいどれだけいるだろうか? 私の見立てでは、今はまだ、片手の指の数よりも少ない。
http://diamond.jp/articles/-/69538
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