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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150401/279488/?ST=print
農地が痩せたのはだれのせいか?ここにもあった減反の罪
2015年4月3日(金) 吉田 忠則
日本の食料問題を考えるための指標として、新たに「食料自給力」が注目を集めている。いざというときに、田んぼや畑で食料をどれだけつくれるのかを示す指標だ。だが農地の広さだけ測っても、食料の供給力が分かるわけではない。日本の農地の地力はどうなっているのか。農業・食品産業技術総合研究機構の中央農業総合研究センターで土壌の研究をしている新良力也上席研究員に話を聞いた。
大豆をつくる水田は肥沃度が低い
日本の農地の地力はどうなっていますか。
地力の低下に警鐘を鳴らす新良力也氏(つくば市)
「我々が調べているのは、水田の地力です。本州以南の地域は水田が大部分を占めている。その地力が広く落ちている可能性があります。とくに注目しているのが、生産調整(減反)の結果、水田で稲以外の作物をつくっている農地の地力です」
「例えば、富山県では、減反が始まったころ、転作作物として水田で大豆をつくると、10アール当たりで250キロぐらいとれていた。最初は一生懸命つくったので収量が増えた。ところがその後、減り始め、最近では150キロぐらいしかとれなくなった」
「そこで現場の農家や普及員の間で、『最近とれなくなったよね』『土がやせているんではないか』という声が出始めた。これが、我々が地力を調べ始めたきっかけです。10年くらい前から調査を始めました」
結果はどうでしたか。
「減反を始めたころの地力を調べて比べることはできません。そこで、稲をつくり続けている水田と、転作で大豆をつくっている水田を比べてみました」
「土の肥沃度はいろんな要因が左右します。まず窒素、リン酸、カリウムのような栄養分がある。病気が出にくい土壌というのもある。水はけが適度にいいかどうかも影響する。そのなかで、最も重要な栄養分である窒素を調べました」
「実験室でビーカーに土と水を入れ、一定の時間内にどれだけ窒素、具体的にはアンモニアが出てくるかを調べました。その結果、はっきり分かったのが、稲をつくらず、大豆をつくる年数の多い水田ほど、肥沃度が低いということです。地力の消耗と、過去に何回畑作をやったかが関係しています」
なぜ転作の回数が多い土ほど、地力が低いのですか。
「有機物が分解され、栄養分として植物に窒素が供給されます。田んぼに水を張っていると、有機物の分解が抑制される。それに対し、水を抜いて転作作物をつくると、水田が畑の状態になるので、分解が速まってしまうんです」
「有機物は炭素が主体ですが、畑だと酸素がいっぱいあるので、それとくっついて二酸化炭素になる。これが有機物の分解と関係しています」
手間ひまかけて土づくりを
それは、減反による転作とは関係なく、ふつうの畑にも言えるのではないですか。
「水田を畑にして転作作物をつくっても、ある段階までは、ずっと畑だった場所よりは土が肥沃な可能性はあります。問題はさらに地力が落ちた点にあります。水田はあまり手間をかけずに地力を維持できる。その感覚で、転作作物をつくってはまずいということです」
「手間の問題は、稲作農家の高齢化と米価の下落も影響してきます。労力と資金面の両方から、地力を維持するための手間をかけにくくなっているのです」
なぜ、地力の低下がそれほど問題になってこなかったのでしょうか。
「富山県でかつては大豆が250キロとれたと言いましたが、これはすごく収量が多い例です。転作でつくった大豆の収量が、ずっと150キロ程度しかない県もたくさんある」
「転作作物を一生懸命つくることを、もともと考えてこなかった可能性があります。地力の低下がいままであまり問題になってこなかったのは、そういうことも関係しているのかもしれません。『とれなくてもいいんだ』という感覚だったんでしょうか」
「しかも、同じ田んぼでずっと大豆をつくり続けるわけではないので、稲と大豆を完全に分けて考えることもできません。例えば、このごろ猛暑がよくありますよね。すると高温障害が起きて、コメの品質が落ちやすくなりますが、それも地力の低下が助長している可能性があるんです」
水田の地力をどう維持するかが今後の課題となる
化学肥料で地力は維持できますか。
「化学肥料だけを入れても、作物は育ちます。でも、昔の人は『田んぼにも堆肥を入れましょう』と言っていた。長い時間を考えるなら、『有機物を入れて、手間ひまかけて土づくりをしましょう』と言ってきたことは正しいんです」
「有機肥料は徐々に分解するので、植物に供給されるまでに時間がかかる。畑や田んぼに入れても、そんなに簡単には流れません。ところが、化学肥料は水にとけて、さっと流れていってしまう可能性がある」
「有機物を入れると、土壌に適度な隙間ができて、水が通りやすく、根が入りやすくなります。ところが、土壌に有機物がないと、隙間がなくて土がかちんかちんになる」
「乾田直播」の普及に期待
化学肥料と有機肥料で農家の労力は変わりますか。
「化学肥料の場合、20キロの肥料に窒素が4キロぐらい入っていて、それが即効的に効く。これに対し、堆肥のなかの窒素の量ははるかに少ない。もしかしたら、10アールで1トンまかなければならないかもしれない。この労力はとても大きい」
「野菜農家なら、それも可能でしょう。野菜は単価が高く、狭い面積で経営が成り立つからです。でも、稲や麦や大豆は広い面積が必要になる。5年や10年で収量の変化が目立ってこないなら、手間ひまかけて土づくりをする気にはなりにくいかもしれません」
どうすればいいのでしょう。
「まず田んぼで稲をつくるにしても、転作で大豆をつくるにしても、合計の穀物の生産量を上げることを考えるべきです。そうすると、大豆の収量をもっと増やさないといけない。堆肥を入れるのは労力がかかると言いましたが、例えば、田んぼに緑肥のタネをまいて、すき込むという方法もあります。そうすれば、1トンもの肥料を運ばなくてすむ」
「これは地力の問題ではありませんが、大豆の収量を落とす原因のひとつに湿害があります。稲を一生懸命つくって、湿ったままの田んぼで大豆をつくるから、収量が上がらない。考えを変えて、大豆もきちんとつくるなら、水はけをよくする土づくりが必要です」
「乾いた田んぼに稲のタネをまいて、後から水を入れる乾田直播のような技術もあります。これだと、田んぼの土が畑と同じような状態になります。しかも、苗づくりをしなくていいので、圧倒的に労力が少ない。これから担い手に農地が集中していけば、こういう技術が広まっていくと期待しています」
新良氏の発言は、地力の低下を専門家の立場から論じたもので、農業政策の是非を直接問うのが目的ではない。だが、その内容は今後の農政のあり方を考えるうえで示唆に富むので、補足しておこう。
まず考えさせられるのが、減反政策が日本の食料供給力に大きく影響してきたという点だ。この連載で以前とりあげた岩手県の盛川農場(2014年7月11日「最強の農業経営のヒミツ」)などは例外で、多くのコメ農家は転作作物を本気でつくってこなかった。
乾田直播で田んぼを畑のように使う盛川農場(岩手県花巻市)
盛川農場の場合、麦や大豆など転作作物の生産をほかの農家の分まで引き受けて規模を拡大し、生産性を高めてきた。その結果、新良氏も推奨する乾田直播に出会い、コメを畑作と同じような栽培体系でつくることに成功した。
兼業化が急激に進んだ多くのコメ農家はそうではなかった。田植えと稲刈りを除けばほとんど作業がいらないコメ以外の作物をまじめにつくる意欲を失い、転作作物の生産性の向上を目指さなかった農家も少なくない。
これは、新良氏が指摘するコメ農家の高齢化と米価の下落が進む以前から起きていたことだ。減反面積はいまや水田の3〜4割に達している。その広大な農地で、地力の維持という農業にとって最も大事なことに十分な関心が払われてこなかったのだとしたら、減反の罪はけして軽くない。
「地力」維持に臨む農家の後押しを
2018年には国が各県に主食のコメの生産上限を提示する減反制度が廃止になる。農水省はそこで主食ではなく、家畜が食べる飼料米の生産に誘導しようとする。コメ農家をこれまで以上に補助金づけにし、経営力の向上を阻むこの制度の弊害はくり返し指摘してきたので、ここでは省く。
政府が3月31日に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」は、日本の食料自給力が危機的な状況にあることを示した。栄養的にみてバランスのいい食事をとろうと思うと、国内だけでまかなうことのできる食料はカロリーベースで7割しかない。
農地の耕作放棄はなお進行中だ。高齢農家の引退で担い手が不足し、荒れ地がさらに増えるとともに、農業技術が十分に次代に伝わらない懸念もある。しかも、その背後で地力の低下も進んでいるのなら、日本の今後の食料自給力を楽観することはできない。
答えはシンプルだ。まじめに農業をやろうと思う農家は、土づくりを通した地力の維持にも正面から向き合う。そういう農家を後押しする政策をどれだけ打てるかに、食料自給力の行方もかかっている。その危機感を、農業界も農政も共有していくしかない。
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このコラムについて
ニッポン農業生き残りのヒント
TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加が決まり、日本の農業の将来をめぐる論議がにわかに騒がしくなってきた。高齢化と放棄地の増大でバケツの底が抜けるような崩壊の危機に直面する一方、次代を担う新しい経営者が登場し、企業も参入の機会をうかがっている。農業はこのまま衰退してしまうのか。それとも再生できるのか。リスクとチャンスをともに抱える現場を取材し、生き残りのヒントをさぐる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43372
本当にオランダの農業に学ぶべきなのか?大規模施設栽培、ハイテク農業、日本では難しいこれだけの理由
2015.4.3(金) 有坪 民雄
日本は地域によって気候が千差万別。作物栽培はその土地の気候にあった環境制御が求められる(資料写真)
最近、日本の農業はオランダに学べといった論調が多くなっています。オランダがモデルとして扱われるのは、国土が狭く、農業を行う環境が良くないにもかかわらず農産物の輸出大国として成功しているからです。
しかも、世界2位の農産物輸出大国ですから、たいしたものです。そうなった要因はいろいろありますが、作物栽培に関しては以下の2点が挙げられます。
(1)選択と集中で花卉(かき)やトマト、パプリカを中心とした大規模な施設栽培の比重が高く、輸出品として競争力を持っている。その反面、食糧自給率は低いままで捨て置かれている。
(2)ハイテク環境制御システムを駆使して施設内の環境を整え、安定的に高品質の作物を生産することが低コストで可能となった。
農業の危機とは、要するに所得の問題です。農業に携わる者の所得が向上すれば解決するわけです。もともと農業の適地とは言えなかったオランダは、それゆえに作物としてはチューリップなどの花卉やトマトなどに力を入れ、栽培法としては施設栽培に力を入れてきました。そんな国が、食糧自給を最初からあきらめて自分たちの勝負できる土俵で成功したと言うことで、オランダに学べという意見が出てくるのも当然でしょう。
食糧自給率を無視した農業政策を行えば活路は開けるのではないかと思う人にとって、オランダの成功事例は特に魅力的に見えるので近年話題に上るようになったのだと思われます。
日本でも試されていたハイテク農業
ところが、こうしたニュースの陰で忘れ去られていることがあります。作物を絞り込んで、ハイテクを駆使した環境制御によって作物を作ろうとしたことは、過去に日本でも何度かあったのです。
筆者の知る最も古い例は、今から30年前、つくば万博に展示された「ハイポニカ農法」です。1本の苗からトマトが1万7000個なるとして当時大いに話題になりました。オランダのトマトの収量は日本の3倍ほどあるそうですが。ハイポニカの収量はオランダのはるか上を行きます。ハイポニカ農法は今でも行われていますが、今なお普及途上です。
1997年にはオムロンが農業に参入して、同社お得意のハイテク制御機器を駆使したトマト生産を始めましたが、生産開始から3年も経たないうちに撤退に追い込まれました。
同じ頃、ユニクロが農業に参入したことも話題になりましたが、こちらに関しては農家もけっこう“お手並み拝見”的に見ていましたし、2年も経たずに撤退した時も別に驚きはなかったと思います。
しかしオムロンは、ハイテク施設栽培に使用可能な制御機器のメーカーとして真っ先に候補に挙がってもおかしくない会社です。そんな技術力と実績を持つ会社でも失敗するのかと、けっこう驚く人が多かったと記憶しています。
オランダのやり方に学べと言っても、日本ではとうの昔から行われ、失敗していることも多いのが実情なのです。
オランダと日本の気候風土の違い
もちろん、ハイテク施設栽培の全てが失敗しているわけではなく、カゴメのような成功例もあります。しかし、そうした成功例を見ていて思うのは、これは相当に強固な財務基盤と根性がないと無理だということです。
いわゆる植物工場の初期の成功例としては、合併してJFEになる前の川崎製鉄が有名ですが、かなりの期間、赤字経営が続いたと聞いています。カゴメの場合も1999年に、今話題のオランダに学んだハイテク栽培を始めましたが、安定収穫までに5年、黒字化は2012年までかかりました。
カゴメと言えばおそらく日本で最もトマトを知り尽くしている会社です。そんな会社ですら、10年以上の赤字に堪え忍ばなければならなかったのです(「こだわりの国産トマトで世界と戦う【1】」プレジデントオンライン)。
そうなった理由は、1つには気候と風土が挙げられると思われます。オランダは緯度的には北海道よりも北にあるものの、海洋性気候で比較的温暖ですが、夏は暑くならず比較的冷涼な気候です。食べる作物としてはテンサイやジャガイモが最も多く生産されていることから分かるように、夏の気温は北海道並み、冬は北海道ほど気温は下がらず、日本の本土並くらいという、季節の寒暖差は少ない国です。
また「山がない」と言われるほど平地ばかりの国ですので、地域によって気候に大きな差は出にくいと思われます。1つのノウハウが確立できれば、それを全国に拡散するのも容易なのでしょう。
これに対し、南北に長く、山も多い日本の場合、地域によって気候は千差万別です。施設栽培をするなら、当然その土地の気候にあった環境制御が必要になってくるわけです。制御できるレベルによって、同じトマトでもできるものとできないものがあるだろうくらいのことは、農家なら容易に想像できます。おそらくは、立地している場所によってノウハウは違ってくるでしょう。
すなわち、作物栽培の部分だけでも、単純にオランダのマネをしようとしても簡単ではないということです。それでもやるなら多額の投資をするだけでなく、10年レベルの赤字に耐え得る財務基盤と、それだけの長期間の赤字垂れ流しを許容する経営者の根性が必要になってくるのです。
伝えられないオランダの農業の現状
オランダの農業に学ぶところがないとは言いません。大いに学ぶところはあります。しかし近年のオランダ絶賛の論調は、正直なところ「大量生産すればコストが下がって国際競争力がつく」みたいな、単純な思い込みによるものに見えて仕方がありません。
最後に一言。現在のオランダは、輸出商品の生産過剰による価格の低迷と、スベインやポーランドの台頭で競争力を失いかけていること。そして、次に手がける有力な作物が今のところ見当たらないという状況にあること。これは専門家には知られているようですが、一般メディアで書かれていないのはなぜなのでしょう?
コメの“味”が分かるコンバイン
田畑や建設現場でIoTが浸透
2015年4月3日(金) 市嶋 洋平 、 多田 和市
日経ビッグデータが4月21〜22日に開催するイベント「BigData Conference 2015 Spring」では、本記事に登場するクボタから、専務執行役員 研究開発本部長 水・環境総合研究所長の飯田聡氏が登壇し、「農家の課題解決を追求した、次世代農機の新事業」と題して講演をする予定。
※本記事は、日経ビッグデータで過去に掲載した記事から再構成した。肩書きなどは掲載当時のもの。
クボタのコンバインはスマートフォンで様々な情報を確認できる
様々な機器に備えたセンサーからデータを収集するIoT(モノのインターネット)は、現実世界から大量のデータを集めて、価値あるビッグデータ分析を生み出す技術として注目を集めている。技術の最先端を走るIoTは、意外にも田畑や建設現場から浸透している。どんな活用がされているのか、クボタとコマツの取り組みを見ていこう。
クボタは農機から得られるデータを活用した新事業を2014年6月に始めた。農家がコメのおいしさを把握したうえで、収量とのバランスを保ちながら土壌を改良できるようにした。
「農機の機器販売から、栽培や経営の支援まで踏み込むことで農家の課題を解決したい。市場環境は大きく変化しており、いち早く取り組む必要がある」
クボタ農機第一事業推進部の長網宏尚・KSAS業務グループ長は、クボタスマートアグリシステム(KSAS)の開発に乗り出した背景をこう説明する。
クボタはコンバインやトラクター、田植機に新型センサーと通信機能を搭載し、肥料の投下量やコメの収量などの作業記録を管理することで、農業経営を支援するサービス「KSAS」事業を昨年6月に始めた。
味と収量の最適化支援
プロジェクトに取り組むにあたっては“農業の基礎”を社内外の知識を使ってもう一度学び直した。農家の経営を安定させるため、おいしいコメをより多く収穫するためクボタができることは何かということを追求するためだ。「どのデータが役立つ数字に結びつくのか、なんとか相関関係を見つけ出したかった」(長網氏)。
こうして製品化されたのが、収穫量だけでなく食味まで測定できるセンサーを備えたコンバインである。内部に搭載する新型センサーが、コメに含まれるタンパク質と水分量を測定し、そこから食味を想定するというものだ。収穫時に1反当たり5〜6回計測して平均値を算出する。
これらのデータはコンバインの運転席にあるパネルに表示されるほか、専用スマートフォン(月1400円の通信料が必要)を介してクラウドサービスにデータを送信。圃場(ほじょう、田畑のこと)ごとに収量や食味をビジュアルに分析できるようになっている。
コメのタンパク質の含有量が高いと、固く粘りが少なく、食味が劣るという。一般に含有率が5〜8%であるとおいしいとされ、この範囲にあるコメの値付けを高くするといったことが可能になる。コメの水分含有量も分かるので乾燥の時間を調整すれば、電気代の節約につながる。
さらにデータを基にして、次の作付けにおいて改善するPDCAサイクルを回せるようにもした。
具体的には、作付け時に田植機やトラクターでどの程度の肥料を投下したのかを調整しながら管理する。肥料に含まれる窒素成分が多いほど、収量は増える。ただ窒素が多いと、タンパク質の含有量が増え過ぎてしまう恐れがある。
クボタが農機に装着したセンサーとそれによって実現するメリット
実地で15%の収穫増を確認
農家で試行したコメの食味と収量の改善
これらの仮説を基にある農家において、2011年から13年まで3年間のフィージビリティスタディを行ったところ、15あるすべての圃場でタンパク質の含有率を目標の5.5〜6.5%に収めることができた。収量についても改善が見られ、単位面積当たりの収穫量が約15%増えたという。
複数の圃場を持つ大規模農家にとってはそれぞれの圃場の品質のバラツキも頭の痛いものだったが、そうした悩みも解消できたのだ。
KSASはクボタ自身の改革の象徴でもあった。
プロジェクトが始まったのは2012年の4月。その時点でクボタの技術部門は、食味や収量を向上させる方法、クラウドサービスによる営農支援、車載用の無線技術などを個別に研究しノウハウを持っていた。
長網氏ら5人が集まって、こうした技術を集結させることで、農家の経営に必要なことができるのではないかとコンセプトを整理して企画書をまとめあげた。農機の自動運転も話題の1つに上がったという。
農機とITの融合という未知領域
最初にやるべきことは組織や人員体制の整備だった。「次世代農機の開発は農機とITの融合という未知の領域であり、さらにクラウドを活用した本格的なサービスの提供も初めてだった」(長網氏)。
クボタの経営陣もこうした融合領域に向けた手を打ち始めていた。プロジェクトの立ち上げと時を同じくして2012年4月に全社的な組織改革を20年ぶりに実施。農機技術本部を設置して、コンバイン、トラクター、田植機、汎用、車両基礎など各技術部を束ねる組織に刷新した。
KSASプロジェクトは技術やサービス面の検討を重ねて2012年12月に開発に着手。13年4月には事業化へ向けた検討を本格化させた。大阪の本社内に大部屋を用意してもらい、当初メンバーに加えて、技術部やIT子会社のクボタシステム開発など、合計約40人が1カ所に集まった。「事案が発生するごとにメンバーを招集していては、問題解決のスピードが落ちてしまう」(長網氏)からだ。
クラウドなどのIT面ではクボタシステム開発が要件定義や実装、販売会社向けの研修などを担当した。
通信の確保とデータ形式の統一が課題だった。KSASは運転者が持つ専用スマホを通じて、クラウドサービスにデータ送信する。運用する際には、通信に使う無線LANが途切れることも想定される。「農機の種類によって情報の出力が違うことがあった。実際に農機のセンサーで得たデータがきちんとクラウドサービス側に情報として登録されるのか、慎重に検証をしていった」(クボタシステム開発のビジネスソリューション事業部ソリューション第二部SASプロジェクトチームの水原祥光主査)。
新潟と東海地方の協力農家で評価
もちろん本社に閉じこもってばかりいてはだめだ。工場や事業所内で農機の動作を確認したうえで、新潟と東海地方の協力農家に実機を持ち込んで評価やヒアリングに飛び回った。ITの担当者も農家に同行し、実際の現場における操作性や環境に依存した問題点を把握していった。
現在のところサービス全体で700件、食味などセンサー情報をフルに活用する上位サービス(月額6500円、加入当初の無料期間あり)は100件と契約数の増加はこれからだ。ただ環太平洋経済連携協定(TPP)などによる海外との競争激化、後継者難などにさらされ、農業の効率化は喫緊の課題である。大規模化するにも一定の基準を設けて、従業員の作業を管理したいという要望もある。
クボタは今後もこうした課題をクリアすべく、ビッグデータの活用を進めていく。例えば、熟練者の操縦を学習し、自動で運転できるようにすることも検討している。地域によって農機の扱いや部品の劣化などに差があることも見えてきた。こうした情報を次なる商品やサービスの開発に生かしていく。
一方、データ活用で新たな価値を創造する製造業として、日本の代表格といえるのがコマツである。建設機械のIoT化をいち早く進めてきた。
コマツ取締役常務執行役員ICTソリューション本部長の黒本和憲氏
同社の機械稼働管理システム「KOMTRAX」は世界に約33万台以上ある建設機械からGPS(全地球測位システム)による位置情報や各種センサーなどの情報を自動収集し、遠隔での監視・管理・分析を可能にし、稼働状況がリアルタイムに把握できる。2001年にオプションから標準装備に切り替え、今日では建機を使う顧客の現場を見える化する強力なツールになっている。自社製品のIoTを実現しているといえよう。
コマツ取締役常務執行役員ICTソリューション本部長の黒本和憲氏は、「コマツは重厚長大産業だが、製品そのものの価値だけでなく、製品を売った後のサービスによる価値、そして顧客との関係性をさらに深めてソリューションやコンサルティングの価値を提供できるようになってきた」と、昨年4月のイベント「BigData Conference 2014 Spring」内の講演で語った。KOMTRAXのデータ活用によって製造業としてのコマツの事業がここ十数年で、どう進化してきたのか。「新しい製造業」に向かって突き進んでいるコマツの現状について語った。
新しい製造業は、製品を売った後に価値あるサービスやソリューション・コンサルティングによって稼ぐビジネスモデルに基づいている。製造業が手掛ける事業を3つのフェーズに分けて説明。フェーズ1がこれまでの製品中心の事業モデルである、フェーズ2と同3が製品を売った後のサービスなどを指す新しい製造業だと話した。
製品の性能や品質で勝負するフェーズ1では、燃費や作業性、操作性、機能、耐久性などのうちどれか1つか2つで他社が3年追いつけない「ダントツ商品」を作る。しかも、グローバルワンデザイン。地域ごとに商品を作らず1モデルに統一している。ダントツ商品の代表例は燃費性能が高いハイブリッド建機などだ。
新しい製造業として、黒本氏はフェーズ2と同3について説明した。フェーズ2は、製品を売った後の修理サポートなどの「ダントツサービス」を指す。KOMTRAXによる「機械の見える化」によって建機が壊れる前に修理するメンテナンスなど、顧客満足度の高いダントツサービスを実現している。
フェーズ3では、「施工の見える化」によって顧客による施工の効率化やコスト削減などを実現する「ダントツソリューション」を提供する。
はるかに大きい運用コストを減らす
「建機のライフサイクルコストの内訳を見ると、製品価格であるイニシャルコストに比べて製品を売った後の運用コスト(保守費、燃料費、オペレーション工賃など)の方がはるかに大きい。建機は生産財なので『儲かる機械』であることが重要。従ってコマツとしては運用コストを下げることが重要な関心事になっている」と黒本氏は話した。
KOMTRAXによって顧客の見える化が可能になったため、建機の使い方が手に取るように分かるようになった。そのためにフェーズ2と同3で付加価値の高いサービスやソリューションを提供できるようになった。
実際に建機を使って作業している時間やエンジンをかけたままのアイドリング時間、省エネモードを使っている時間などが把握できるため、より効率的な建機の使い方や、燃料費の節約、負荷を下げる方法などを、代理店を通じて顧客に提案できるようになった。
講演では、ある顧客に対してエコモードを使ってアイドリングを減らすようにしたら、建機1台について1カ月当たり143.5リットル、1年間でドラム缶8.4本の燃料を減らすことができたという。
2008年には、鉱山で使う無人ダンプトラック運行システム「AHS=Autonomous Haulage System」を事業化した。AHSは、フェーズ3におけるダントツソリューションの1つだ。「AHSによって計画的安定生産、生産コスト低減、新規鉱山開発の容易化、居眠りや未熟運転などによるトラック関連事故の撲滅、CO2排出量低減を実現できる」と黒本氏はAHSのメリットを解説した。
黒本氏は講演の冒頭、KOMTRAXを説明する際、全世界の稼働状況を示す画面を見せた。建機の稼働を示す赤いプロットがほぼ全国にある日本列島はまさに真っ赤。南米のペルーでは標高4000メートル級の高山地帯やイースター島などにも赤いプロットがいくつも見えた。
カーソルの操作だけで、ある1台の建機に関する情報を見たり、国別・地域別の稼働状況やエコモードの使用率などを把握したりできることを示した。IoTを通じてどんなデータ、情報が手に入るのか、聴講者は食い入るようにKOMTRAXのデモ画面を見ていた。
ゲームチェンジャー 〜データ&デジタル化で競争のルールを変える〜
ビッグデータ、デジタルメディアの浸透で、企業の新事業開発やマーケティングにおける過去の常識が一変する“ゲームチェンジ”が起きている。新たな勝機を探る、各社の挑戦を取り上げる。
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