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自衛隊の文民統制崩壊、最大のリスクは安倍首相〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150402-00000004-sasahi-soci
週刊朝日 2015年4月10日号より抜粋
安全保障関連法案と同様に注目されているのが、自衛隊の文民統制(シビリアンコントロール)にかかわる防衛省設置法の改正だ。防衛官僚(背広組)の優位をやめ、防衛大臣を制服組が直接補佐できるようにする。かつて関東軍が極端な暴走をしたことから出来たものだ。しかし、いまやその統制も利いていないと軍事評論家の田岡俊次(たおか・しゅんじ)氏が語る。
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――法改正で文民統制が弱まり、日本が戦争に向かう可能性も指摘されている。
法改正で文民統制が弱まるとは言い切れません。実際には、政治家や文官のほうが、政治情勢や強硬な世論に迎合して派兵や主戦論に傾くことも、欧米諸国でよくあるのです。
米国は文民統制が利いていますが、戦争をしていない年は近年まれです。今の日本で最も自衛隊の海外活動に「積極的」なのは安倍首相や外務官僚です。防衛官僚も保身のため内閣や官邸に同調していて、歯止め役になっていない。「内局は“無い局”になった」と自嘲する声も出ていました。文民統制は具体的には安倍首相をトップとする「安倍統制」だから、首相が陣頭に立って突進すれば、止めることはできません。
イラク攻撃前の米国では、主戦派は大統領や副大統領、国防長官、ネオコンの補佐官たちで、陸軍参謀総長のエリック・シンセキ大将(日系人)らは「長期戦になる」と警告していた。ソ連のアフガニスタン介入前にも参謀総長オガルコフ元帥は出兵反対を唱え、防衛官僚出身のウスチノフ国防相と対立した。
軍人は実務的困難や勝算の有無を考え、部下を無駄に死なせたくないし、最悪の事態を想定する訓練を受けているから優秀な将校は概して政治家より慎重です。昭和前期の日本軍部は権力拡大をはかり、政治結社と化していたから、無謀な戦争に国を引きずり込んだのです。
――今の「安全保障法制」論議も、政治家と官僚による文民主導で進む。自衛隊が実際に海外に出るとなると、政府の統制が利きにくくなるかもしれない。考えられる最悪のシナリオとは――。
私がその点で気にしているのは、他国の軍の後方支援を随時行えるようにする恒久法案です。安倍首相は「自衛隊が活動している場所が戦闘の現場になれば、直ちに活動を休止、中断する。武器を使用して反撃しながら支援を継続することはない」と答弁したが、これは非現実的です。
前線にいる他国軍へ食糧、水、弾薬、燃料などを運ぶ「輸送車列」は、ゲリラにとって攻撃が容易で効果も大きい。攻撃を受けて車列が停止し、Uターンしようとすればかえって危険だし、突然補給が切れれば前線部隊は動揺し、壊滅しかねない。友軍から見れば寝返り同然で、憎まれます。
多国籍軍などの司令部に、「戦闘になれば撤退します」と申告しておけば別だが、それではいなくてもいい配置にしかつけられない。他国軍からバカにされるだけで、行かないほうがマシなくらいです。
輸送部隊が襲われたら応戦して突破し、補給物資を届ける任務をはたすしかない場合もありうる。現場の指揮官が状況に応じ、政府が表明した方針、政策に反した行動を取って死傷者が出ても、それが合理的であれば指揮官の処分はしにくい。部隊運用の責任者である統合幕僚長などが防衛大臣や首相にその行動の追認を求め、敵中突破をした隊長はメディアで英雄視される可能性が大です。一度そうした先例ができると、独断で行動する指揮官が次々と出て、文民統制は雲散霧消しかねません。
今の安全保障法制論議では「迅速性」が強調されるが、「兵(戦い)は国の大事、死生の地、存亡の道」(孫子)で単に早ければよい、というものではない。「慎重性」をどう確保するかを考えるのも不可欠です。
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