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『絶頂の一族 プリンス・安倍晋三と六人の「ファミリー」』(講談社)
母親に弟より愛されたい! 安倍首相の岸信介、改憲への拘りは「マザコン」の現れ!?
http://lite-ra.com/2015/04/post-976.html
2015.04.01. リテラ
安倍首相の人間性を検証する本シリーズではこれまで、思想家の内田樹、政治学者の白井聡、芥川賞作家の田中慎弥の3人が語った「安倍晋三」という政治家の分析を紹介してきた。
案の定、安倍親衛隊が本文も読まずに、「ヘイトだ」「名誉毀損だ」とわめいているが、権力チェックにおける為政者のパーソナリティ分析の重要性すら理解できない連中は相手にせず、さらなる検証を続けよう。
今回、紹介するのは小沢一郎の金脈追及などで知られるジャーナリスト・松田賢弥が書いた『絶頂の一族 プリンス・安倍晋三と六人の「ファミリー』(講談社)。タイトルにもあるように、同書は安倍首相だけでなく、彼を取り巻く6人の血族にスポットを当てたノンフィクションだ。祖父・岸信介、父・安倍晋太郎、伯父・西村正雄、異父弟(晋太郎の隠し子とされる人物)、妻・昭恵、そして母親・洋子……。
この6人と安倍首相の関係性を追いかけることで、内田、白井、田中らも指摘していた、安倍首相のメンタリティの正体が実証的に解き明かされていく。
その最大のものが安倍首相の母方の祖父・岸信介への異常なまでの思い入れだ。安倍が憲法改正に突き進むのも、そもそもは祖父の悲願であり、それを自分が引き継ごうとしていることはよく知られた話だ。
しかし、この祖父に対する憧憬について同書ではさらに一歩踏み込んだ分析をする。それは、ゴッドマザーともいわれる母・洋子の愛情を求めた「マザコン」的な心性の裏返しではないかというものだ。
幼少期の晋三は両親不在の家庭に育っている。父・晋太郎は政治家として多忙を極め、母親も選挙区へ帰ることが多かった。そんな環境のなか、晋三は母親の愛情を人一倍求めていったという。
「晋三は洋子の愛情、なかでも男の子ならこの時期(注・6歳頃)、誰しもそうだが、母親の温もりを人一倍求めていた。母・洋子への愛情は祖父・岸信介への思いに繋がっていく。『おじいちゃんを褒めれば、お母さんが喜ぶ』という幼少の記憶が、晋三にはずっと残っていたという」
おじいちゃんを褒めれば、お母さんが喜ぶ──もちろんこれがたんに子供の頃だけなら微笑ましいエピソードかもしれない。しかし、この心性は晋三が政治家となった後もその政治行動に大きな影響力を与えている。それが如実に現れるのが父・晋太郎、そして安倍家への軽視とも思える姿勢だ。
「総理の安倍晋三は祖父・岸信介の面影はことある事に口にしても、もう一人の祖父・安倍寛(元衆院議員)についてほとんど触れることはない」「晋三は祖父である岸信介の足跡は事あるごとに口にしても、それに比して晋太郎の生涯を口にすることは乏しい。ましてや、晋太郎に連なる安倍家の家系についての発言はほとんどない」
これは、父・晋太郎と母・洋子との間にあった微妙な距離感が反映されているのではないか、と著者は見ているようだ。晋太郎は岸家に婿養子に入ったのではなく、あくまで安倍家にこだわった。一方、名門政治一族に生まれ育った洋子の意識は、あくまで政治家・岸信介の娘であり、一族の政治的繁栄だ。そのため夫の晋太郎に政治家として苛立ちと歯がゆさを感じていたという。
例えば1987年の「中曽根首相禅譲」で、晋太郎ではなく竹下登が指名された際、「今回はこれでいいのだ」と淡々とした夫の姿に、洋子の心は収まらなかったという。
「主人は、政治の世界ばかりでなくいつでも、人を押しのけてでも、というような行動をとる方ではありませんでした。皆さんと、本気になって“理想を追っていく主義”の方だったと思います。でも、世の中は、理想だけではありませんし、そうした中でも、もう少し、ある意味での“強さ”といいますか、そういうものもあった方がよかったのかとも思いますね。でも、それは性格ですから、なかなか……ねっ」(「毎日新聞」94年7月17日付)
こうした洋子の意識が“母親の愛情を追い求めていた”晋三に伝わらないはずはない。「お父さんより、おじいちゃんの方が政治家として立派」。そんな意識が晋三に植え付けられていったとしてもおかしくはない。
「晋三が父の晋太郎ではなく、祖父である岸信介の大きな写真を官邸に飾り、岸が唯一なしえなかった憲法改正を目標にしているのは、洋子の気持ちを慮っているからですよ。(略)本心は洋子の愛情を人一倍欲していたんです」(晋太郎の元番記者の証言 同書より)
しかも、政治家になった後、晋三自らを“岸信介”への同化にさらに駆り立てているのが、母・洋子と実弟・岸信夫の関係だという。
安倍家と岸家の関係略図 信夫は養子に出されている
周知のように、岸家という名門一族は、その血を継承するために、養子縁組を繰り返し行ってきた。
信介は旧萩藩士で島根県令をつとめた曾祖父を持つ名門・佐藤家に生まれた。その後、15歳のときに同じ士族で父の実家である岸家の養子となり、佐藤信介から岸信介と改姓する。実弟は佐藤家を継ぎ、その後、兄と同じく総理に登りつめた佐藤栄作だ。
「岸・佐藤家の名門一族が、その血脈を絶やさぬために養子縁組が繰り返され、一族の結束が図られてきたのである」
それは岸信介以降の代も同様だった。岸信介の娘である洋子は安倍家に嫁ぎ、岸家は長男である信和が継いでいる。しかし信和は子どもを授かることはなく、政治の世界にはなじめなかったため、政治家にはならず実業の世界へ入った。
一方、安倍家に嫁いだ洋子には3人の子どもができた。長男・寛信、次男・晋三、三男・信夫だ。そして洋子は自分の産んだ三男を生後すぐ、岸家を継いだ兄夫婦へ養子に出したのだ。
「洋子さんは昔から、岸の血筋、つまり本家筋を絶やさないようにすることが最大の関心事だった。晋太郎さんとの間に生まれた信夫さん(元外務副大臣)を、産んですぐに自身の兄である岸信和さんの養子に出すことを決めたのも洋子さんです」(晋太郎の元番記者のコメント 同書より)
そして、洋子の岸家へのこだわりの集大成といえるのが、信夫の出馬だった。参院選を1年後に控えた2003年夏、それまで岸信介に直系の後継者・信夫がいることさえ伏せられていたが、洋子は支援者に対して、本人に代わり実の息子、信夫の出馬を表明している。関係者は一様に驚いたというが、もちろん出馬は洋子の意志が大きかった。
「岸信介が八七年に死去した後、後継者となるべき岸の直系は出ていない。十六年の空白を経て後継者に名乗り出たのが、岸信介の直系の孫・信夫だったのである。洋子にしてみれば、信夫こそ岸家の血の復興を託す子だったのだろう」
しかし洋子の血脈への執着は、確実に一族に暗い影を落とした。というのも信夫の養父母である岸信和夫妻は息子の出馬の相談すらされていなかったからだ。養父母は「あなたは政治家にならないと言っていたのではないですか」と信夫を責め立てた。そして実は洋子と養母・仲子との間にはそれ以前から確執があったという。
同書には、仲子が1994年頃に、すでに山口県長門市のあるクリニックで診察を受けていたと書いてある。
「異常なほどやせ衰えた仲子は何度も『死にたい』と口走り、尋常な様子ではないことは一目で分かった。歯がぼろぼろに欠け、マスクで顔を隠していた。口にするのは少量の梅酒だけで他の食物は受け付けなかった。極度の栄養失調にも陥っていた。(略)ほっそりとした腕に刻まれたリストカットによるためらい傷が残っていたという」
そして仲子は「信夫に会いたいのに、洋子さんに奪われた」と開業医の親族に泣きながら打ち明けたという。
「洋子は岸家の血が途絶えることに思いを馳せ、信夫を養子に出した。しかし、時を経るとともに養子に出したことを悔やみ、結局信和夫妻が手塩にかけて育てた信夫を、わが子同然のように接し政治家に就かせた。それは洋子が産みの母親であるからこそ超えてはならない一線ではなかったろうか」
洋子は「岸信介の直系の後継者」として信夫を担ぎ、養父母から引き離した。しかしこの事態に動揺したのは養父母だけではない。もっとも不快感を表明したのは、岸信介の唯一の後継者を自負する洋子の次男、安倍晋三だった。02年頃、岸の元側近で自治大臣も務めた吹田ナが、信夫の政界転身の決意を晋三に知らせると、興奮した口調でこういったという。
「会社を辞めるなんて、けしからん。元に戻してやる」
それを諌める吹田に対しても、晋三は、信夫の出馬に関し態度をはっきりさせず、選挙協力を頼んでもしぶしぶといった冷たい態度だったという。著者はこの晋三の態度に対し「晋三は政治家の名門一族の後継者という衣を纏っていなければ不安で仕方がないのだろうか」と指摘しているが、これも、母・洋子の愛情と関心を独り占めしたいという思いの表れだとすれば、理解できる。
そして、以後、晋三は前にも増して、タカ派政策を推し進めていった。信夫にその座をとられないために、政策によって、岸信介の正統な後継者たろうとしたということだろう。
内田樹は『日本戦後史論』(徳間書店/共著・白井聡)のなかで、安倍首相の政治的主張を「借り物」で「腹の底から出てきた言葉ではない」と指摘していたが、たしかにこうして見ると、その意味が分かるような気がする。安倍首相にとっては、改憲ですら、自分自身の頭で考えたものではないのだ。祖父の思いを継承することも、祖父の政治信条に心から共感しているわけではない。その奥にあるのは「おじいちゃんが成し遂げられなかったことを自分が達成すればお母さんに褒められる」というマザコン的なメンタリティ。
しかしだとしたら、そのマザコンを慰撫するために、戦争に引きずり込まれようとしているこの国の国民は、不幸としかいいようがないだろう。
(野尻民夫)
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