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失礼ながら、紹介されている伊藤隆敏著「日本財政「最後の選択」」を買って読む気はない。ということで、日経新聞に掲載されている土居丈朗慶応大学教授の書評をベースに論評させていただく。
伊藤隆敏氏そういうことも言い出しかねない学者だと思っていたが(それでも伊藤元重氏よりはまだましだとおもっている)、「消費税率は少なくとも15%まで引き上げなくては、2020年代半ばに財政危機が起きるケースが多い」という話はまだしも、「「好景気」が6カ月継続した場合には、3カ月後に消費税率を引き上げるという「逆景気弾力条項」を設けることを提案」しているのだから、驚くというより吹き出してしまう。
(政治的思惑の発言ではなく、伊藤氏が本気でそう考えているのなら、学者を辞めたほうがいい)
評者である土居丈朗慶応大学教授も、財政健全化の有効な政策として、「税制の重点を所得課税から消費課税へシフトさせることが課題を解決させる」と主張している“奇妙な学者”である。
消費税=付加価値税の導入や増税が、グローバル企業の利益になることはあっても、多数派の国民生活改善とまではいわないが、財政健全化にまったく寄与しないことは、日本の「消費税と財政の関係史」のみならず、欧州銀行危機後のフランス・スペイン・ギリシャ・イタリア・ポルトガルなどのVAT(付加価値税)増税が財政改善に貢献するどころか逆に悪化を招いたことを顧みればわかる話である。
現代先進国における税制の本旨は経済政策であり、税収が財政の“健全性”を左右するわけではない。
先進国における税制の基本的役割は、悪性のインフレを引き起こさないことであり、経済主体の活動をコントロールすることである。(それらを度外視すれば、“無税国家”でもかかまわないのである)
発言のどこまでが本気なのかわからないが、政府御用を勤めるような経済学者の発言は狂気=凶器に近いものを感じる。
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日本財政「最後の選択」 伊藤隆敏著
危機回避策、シミュレーションで示す
第1次安倍晋三内閣で経済財政諮問会議民間議員に就いた著者が、今が財政健全化の最後のチャンスと訴える。本書では、膨らむ日本の政府債務の見方を示すとともに政策選択によって財政が持続可能かどうかのシミュレーションを提示している。日本財政の現状と課題を的確にかつ要領よくまとめている良書である。
日本の政府債務が、他の先進国より群を抜いて多いことは、世界中で有名である。その上、この財政状況にとって不利な事情が加わる。それが、世界史上まれにみる速さで襲う少子高齢化である。本書は少子高齢化の財政への影響を平易に説く。少子化で生産年齢人口が減少すると経済成長率が鈍化し、政府債務対国内総生産(GDP)比が上昇してしまう。貯蓄を積み増す若年世代より、貯蓄を取り崩す高齢世代が増え、家計全体の貯蓄率が低下し、家計貯蓄による国債購入が減少する。そして、年金保険料を負担する若年世代が減って年金を受給する高齢世代が増え、年金財政が悪化する。いったん悪くなった財政を立て直すのをさらに難しくしている。
さらに、本書では、財政破綻を回避するための諸方策について、シミュレーションによって分析している。結論は、消費税率は少なくとも15%まで引き上げなくては、2020年代半ばに財政危機が起きるケースが多いということである。本書では、「財政危機」を、民間部門の国債購入に充てられる貯蓄額を超える国債発行をしないと財政が賄えない状態と定義している。ならば、多少高めのインフレ率になっても、日銀が国債を購入し続ければ大丈夫ではないか、との見方もあろう。しかし、5%のインフレ率を甘受しても、消費税率は15%に上げなければ、日本の財政は持続可能にはならないという。インフレが財政問題を解決するわけではないことがよくわかる。
これらを踏まえ、著者は、消費増税と社会保障支出の際限なき増加にどのように歯止めをかけるのかが、20年までの経済のかじ取りにとっても重要と説く。「好景気」が6カ月継続した場合には、3カ月後に消費税率を引き上げるという「逆景気弾力条項」を設けることを提案しており、興味深い。財政出動によってはこれ以上成長率が上がらない状況にもかかわらず、政府が過剰な財政刺激策を続けてしまうと、成長率は上がらない上に財政赤字が膨らみ、むしろ逆効果だとの指摘は、政府が今最も肝に銘じるべきことで至言である。
(日本経済新聞出版社・1800円)
▼いとう・たかとし 50年生まれ。政策研究大学院大教授、米コロンビア大教授。著書に『不均衡の経済分析』『インフレ目標政策』などがある。
《評》慶応大学教授 土居 丈朗
[日経新聞3月8日朝刊P.21]
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