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2015年3月11日
あの地震、津波、原発事故から4年の歳月が流れた。
この日に、時間をかけて見ていただきたい講演録がある。
京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏が2月27日に行った最終講演である。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/235922
岩上安身氏が現場に復帰されたが、岩上氏が主宰するIWJがアーカイブ映像を配信している。
全篇は会員のみ視聴可能で、ダイジェスト版が一般公開されている。
質疑応答も含めて長時間の動画映像であるが、じっくりと視聴していただきたい内容が盛り込まれている。
京都大学原子炉実験所は大阪府の熊取町にある。
この実験所の6人の研究者が反原発の研究活動を継続してこられた。
地名に因んで「熊取6人衆」と呼ばれている。
その1名が小出裕章氏である。
「熊取6人衆」は
1980年から
自主講座「原子力安全問題ゼミ」
を開講し続けてきた。
その第111回ゼミナールが、この2月27日に開講され、小出裕章氏が
「原子力廃絶への道程(みちのり)」
のタイトルの下で講演を行った。
小出氏はこの3月に定年を迎える。
定年に際して、最終講演を行なったものである。
原発の問題は、原爆=核兵器の問題と実は直結している。
日本政府が原発を推進する最大の動機がこの部分にある。
これが「熊取6人衆」が、日本で最も早い段階で公にした見解である。
小出氏の主張の裏側には、この認識が存在していると思われる。
核武装に必要不可欠の三つの技術がある。
ウラン濃縮、原子炉、核燃料再処理
核兵器の独占保有を維持している第二次大戦戦勝国で国連安保理常任理事国以外で、この三つの技術を保持しているのは、実は日本だけである。
小出氏は、この事実を指摘する。
1969年9月25日の日本政府による外交政策大綱は、日本の核武装オプションの保持を明確に宣言している。
1954年に中曽根康弘氏、正力松太郎氏が主導して急始動した日本の原子力開発の裏側には、日本の核武装潜在能力の保持の狙いが存在していたと考えられる。
小出氏は政治嫌いである。
そして、裁判嫌いである。
その理由は、日本の政治と裁判の本質を見抜いてしまっているからであると考えられる。
小出氏は若い時代に原子力の平和利用に夢を抱いた。
その夢を実現するために原子力研究の道を選んだ。
しかし、その後に、原子力の未来が自分が思い描いた方向とは正反対のものであることを知った。
爾来、原子力を廃絶するために活動を続けてきた。
原子力を廃絶するためには、現実的には、政治を避けて通ることはできない。
裁判を避けて通ることはできない。
しかし、戦後日本の現実のなかで、小出氏は、政治と裁判に関わることをしないことを決定した。
その判断はいまもぶれない。
その代り、小出氏は、自分でしかできないこと、自分だからできることに特化して活動を続けてきたのである。
小出氏は原発事故を引き起こしてはならないと考え、そのために行動を続けてきたが、福島の事故は起きてしまった。
原発推進勢力は、「原発絶対安全神話」を唱え続けてきたが、原発事故が起きた。
広島原発168発分の放射能を撒き散らした福島原発事故を発生させたにもかかわらず、責任ある当事者が、誰一人として責任を問われていない。
小出氏は、「責任者」ではなく「犯罪人」であると明言する。
法律がありながら、法律を踏みにじる罪を犯すと、法律そのものを踏みにじってしまう。
こんな国の、政治と裁判に期待できるものは何もない。
小出氏がそう考えるのは当然のことかも知れない。
しかし、その小出氏が、昨年5月21日に福井地方裁判所の樋口英明裁判長が示した判決を高く評価する。
あの福島原発事故が発生して、日本の司法もようやくこの段階にたどり着いたと率直に評価するのである。
しかし、判決は一審のものである。
優れた判決は、下級裁判所からしか示されない。
上級裁判所に進むに連れて、司法判断の腐敗が進行するからである。
樋口英明裁判長判決の勝ちは限りなく高いが、この判決が闇に葬られることのないよう、市民が監視しなければならない。
しかし、その市民が問題なのだ。
現実を冷徹に見つめる小出氏の現状判断は極めて厳しい。
先の大戦で、一般国民は、戦後に
「私たちは騙されていた」
と自己を正当化したが、本当に騙されていたのかと問うのだ。
「騙されていた」のではなく、「積極的に戦争を推進していたのではないか」と問うのである。
すべての国民が、あの原発事故から4年たったいま、小出氏の問いを見つめ直す必要があるだろう。
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