http://www.asyura2.com/15/senkyo181/msg/245.html
Tweet |
同志社大学大学院で教授を務める内藤正典氏(C)日刊ゲンダイ
イスラム専門家・内藤正典教授が明かす「トルコ政府が用意した人質交換シナリオ」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/157798
2015年3月9日 注目の人 直撃インタビュー 日刊ゲンダイ
■安倍首相のカイロ演説、TV討論はひどかった
「イスラム国(IS)」の人質事件発覚から1カ月半が過ぎた。湯川遥菜さんと後藤健二さんが殺害される悲惨な結果になったが、政府の対応のどこに問題があったのか、どう動いていたのかなど、まだ解明されていない疑問は多い。トルコに精通するイスラム世界の専門家である同志社大学大学院教授の内藤正典氏(58)は、「官邸の判断ミス」と切り捨てた上で、トルコ政府が用意していたシナリオも明らかにした。
――人質事件で官邸と外務省が最後まで2人を助けることができなかったことに国民は失望しました。当時、さまざまな情報を得て発言した専門家の立場から、事件をどう見ていましたか。
まず疑問だったのが安倍首相のカイロ演説です。あの前後の文脈はおかしい。難民・避難民を受け入れているトルコとレバノンに人道支援を行いますとし、その後にISILと闘う周辺各国にと言っている。そうなると、文脈から考えると周辺各国にはトルコとレバノンが入りますが、どちらもISとは闘っていない。トルコはISへの軍事作戦を拒否している。では、周辺各国とはどこを指すのか。ISと敵対しているヨルダンの他は、有志連合に参加しているサウジアラビアやUAE、カタール、バーレーンなどということになる。サウジのようなお金持ちの産油国に日本が援助するということか。それは不自然です。
――やはり、安倍首相のカイロ演説が残念な結末に影響したとお考えですか。
影響したかどうか断定できませんが、腑に落ちない点があります。カイロ演説に関しては“あの一文(ISILと闘う周辺各国を支援)は官邸主導で入れた”という趣旨の報道をしたテレビ朝日が外務省から抗議されましたが、安倍さんは「闘う」という言葉を入れたかったんじゃないか。その揚げ句、ISに揚げ足を取られた。むろん、揚げ足を取ったISが非道な集団であることに疑問の余地はない。しかし、あの場面では人道支援するとだけ言っておけばよかった。
――政府の対応や認識に問題が多いということですね。
1月25日、安倍首相がNHK「日曜討論」に出演した時もひどかった。トルコからの難民はISのせいだと言ったのですが、トルコから難民など出ていない。トルコは難民を受け入れている国です。それだけなら、言い間違いかと思ったのですが、ISがトルコやイラクに侵入したとも発言しています。そもそもISはイラクで生まれた組織ですし、ISはトルコに侵入などしていません。仮にISがトルコに侵入したら、強固なトルコ軍に撃退されてしまうでしょう。果たして、いま中東で起きていることを理解しているのでしょうか。
■ヨルダンの副大臣ぶら下がり会見は右往左往をさらしただけ
「交換はトルコ飛び地しかなかった」(C)日刊ゲンダイ
――安倍首相は後藤さん殺害後も「テロには屈しない」と強気の発言を繰り返しました。しかし、むしろやるべきことは再び邦人が危険にさらされないための危機管理のはずです。
日本政府は、こういう新しい事案に対する危機管理が弱い。シリアの日本大使館はヨルダンに避難しているので、ヨルダンに現地対策本部を置いたことは悪いとは思いません。しかし、問題は中山泰秀外務副大臣を派遣して、現地対策本部がヨルダンにあると宣言したことです。副大臣がいるということで日本のメディアがぶら下がり会見に群がる。マスコミに情報をあげるという極めて永田町的な“アリバイ”を、あんなところでやる必要はなかった。しかも、副大臣が交渉に当たっても何かできたはずがないし、ぶら下がりをやっても交渉のプロセスをしゃべれるはずもない。結局、右往左往する様子に衆目が集まるだけでした。そこをISに突かれて、ヨルダンが巻き込まれたようにも見えます。
もともと、パイロットを拘束されていたヨルダンは、自国が解放交渉に当たらねばならなかったのに、日本政府の相手もしなければならなくなった。そこで狡猾なISは、後藤さんとリシャウィ死刑囚の交換に話をすり替えた。そもそも官邸が一元的に情報を管理すると言っていたわけだし、(相手にわからないように)特使を分散させて派遣すればよかった。官邸の判断ミスです。
――先生はメディアの対応にも批判的ですね。
政府が行くなと言ったところに、行った人が悪いという自己責任論が大きくなりました。私は、ジャーナリストであれ誰であれ、行く前には、言語も含めて十分な準備をするべきだという意味で責任を負うと思います。しかし万一、人質という事態になったら、国家が引き取らなくてはいけないと考えています。
今回、マスコミの記者たちでさえ、トルコで取材用のプレスカードを取っていなかった。そしてアラビア語もトルコ語もできない“素人”集団が「後藤さんが釈放されるんじゃないか」とIS支配地域の目の前にある国境の町に群がっていた。現地は難民であふれているうえにIS側の人間も出入りしている。そこでISに写真を撮られ、ISのサイトに掲載されたカメラマンまでいた。現地では人質ビジネスが横行していて「日本人記者を誘拐しろ」といわれているという記事を、アクチャカレから送ってきた記者までいた。そんな人に自己責任うんぬんなんて言う資格はありません。
――そもそも、アクチャカレで後藤さんが解放されると推測してマスコミが集まったことにも疑問をお持ちだそうですね。
去年、トルコはイラクのモスルにあるトルコの総領事館が襲われ、総領事以下49人が人質になる事件がありました。粘り強い交渉の結果、全員解放されましたが、その間、マスコミも大騒ぎはしません。交渉に当たっていたのは国家情報機関ですが、政府も情報機関を信頼していることだけを伝えています。人質が解放された時にトルコの国境のアクチャカレから出てきた。フランス人の人質も同じアクチャカレで見つかりました。そこで日本のメディアは、またそこだろうと殺到した。しかし、出てくるはずはなかった。
――それは、どうしてですか。
今までのケースでは人質だけが解放された。だから、国境から歩いて出てきた。ところが、今回は最後の段階でヨルダンにいるリシャウィ死刑囚との「交換」になっていった。交換ということは後藤さんがシリア領にいて、リシャウィ死刑囚がトルコ側にいて対面で行われる。つまりヨルダンが釈放した死刑囚の身柄をトルコが預かるということです。
ISが人質の交換場所として“トルコ国境にいること”というメッセージを出しました。それでトルコがすでに関与することはわかっていた。もし、アクチャカレの国境などで交換したら、カメラの放列の前でリシャウィ死刑囚が映し出される。仮にその映像が出たら、有志連合による軍事作戦に参加していないトルコはテロに屈したと言われ、世界中からバッシングされる。ヨルダンもそうです。そんなことをトルコ政府が容認するはずがない。論理的に考えると、人質の受け渡しはマスコミが殺到する国境ではないことはわかったはずです。
――今回の事件で、トルコが大きな役割を果たしていたのですね。
実はトルコ政府は最後のところで動いて、シナリオも用意していました。イスラム国の支配地域であるシリア領内に、ユーフラテス川沿いのスレイマン・シャー廟というトルコの飛び地がある。オスマン朝開祖の祖父の墓です。これは推測にすぎませんが、人質交換をやるならここしかなかった。トルコがリシャウィ死刑囚の身柄を預かってそこまで運ぶ。周りはISの支配地域だから人知れず消えて行ける。一方、後藤さんの身柄を預かったトルコはガジアンテップというこの地方の中心都市から首都アンカラまで運び、エルドアン大統領の記者会見に同席させる。エルドアン大統領は「テロとの戦い」に協力しないといわれて批判が多いけれど、それで一気に名誉を挽回できる。そのくらいの見せ場を用意しなければ周辺国は動きません。2月21日、トルコは戦車39両、装甲車57台を連ねてシリア領に進攻し、ついにスレイマン・シャー廟を守っていたトルコ軍兵士を救出しました。ISは一発も撃ってこなかったそうです。
▽ないとう・まさのり 1956年生まれ、東大卒。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科長・教授。専門は中東の国際関係で、9・11以後はイスラムと西欧世界の関係について積極的な発信を続けている。「イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北」(集英社新書)など著書多数。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK181掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。