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憲法改正に意欲を見せる安倍総理。国家にとっての「正しい目的」が何かを、改めて考え直していただきたい Photo:ロイター/アフロ
“手段”に過ぎない憲法改正が“目的”になる危うさ
http://diamond.jp/articles/-/67627
2015年3月2日 北野幸伯 [国際関係アナリスト] ダイヤモンド・オンライン
安倍総理が、念願の「憲法改正」を実行しようとしている。総理は2月20日の衆院予算委員会で、憲法改正について、「国民投票にかけようか、発議をしようかというところに至る最後の過程にある」と語った。
これを聞いて、「いよいよここまで来たか!」とワクワクしている人もいるだろう。逆に「日本は、また『戦争できる国』になるのか!」と嘆いている人もいるだろう。
筆者の思いは、もう少し複雑である。筆者は、終戦直後に米国がつくった「米国製日本国憲法」を神聖視していない。できることなら、「改正」どころか、日本人の手で「自主憲法をつくれ!」とすら思う。しかし、そう単純にいかないのが、国際社会の複雑さだ。今回は、この難問、「憲法改正」について考えてみよう。
■「正しい目的」を忘れたときに起こる“悲劇”
全然関係ないような話からはじめる。月収30万円のAさんは、一念発起して「月収を100万円にする!」と決意した。期限は、「3年後の12月31日」。Aさんは、「目標」を設定したのだ。
ところで、Aさんは「なんのために」月収を100万円にしたいのか?これが、「目的」である。たとえば、それは「家を買うため」かもしれない。家を買うのは、「月収100万円」の「目的」であると同時に、「目標」でもある。さらに突っ込んで、「なんのために家を買いたいのか?」と質問してみる。すると、「家族がより幸せに暮らせるため」と答えた。これが、Aさん「究極の目的」であり、「正しい目的」である。Aさんは片時もこのことを忘れるべきではない。
次に「どうやって月収を100万円にするのか?」という問題が出てくる。給料が3年で3倍以上上がることはあり得ないので、他の方法を考える必要がある。「株」「FX」「不動産」「個人輸出」「せどり」「アフィリエイト」「オークション」などなど、調べてみれば、副収入を得る方法は、たくさんある。
「どうやって月収を100万円にするのか?」その方法は、目的と目標に達するための「手段」である。
ところで、なぜ「正しい目的を忘れてはならない」と書いたのか?Aさんは副業にのめり込み、会社から戻ると深夜まで、そして土日返上で働いた。結果、3年後の12月、見事「月収100万円」を実現した。
しかし、奥さんは子どもたちを連れて実家に帰り、離婚届を送りつけてきた。そう、Aさんは、「手段」である副業にはまり、奥さんと子どもたちを事実上放置したのだ。それで、目標は達成したものの、家庭は崩壊し、「家族を幸せにする」という目的は果たせなかった。
人はしばしば、当初の尊い「目的」を忘れる。それは、個人、家族、あるいは会社が「不幸な結末」を迎える原因になるのだ。そして、国の指導者が、「目的」と「手段」を取り違えると、トンデモナイことになる。実例をあげてみよう。
■「日本はなぜ第2次大戦で負けたのか?」 日本を破滅に追い込んだ「満州国問題」
今の日本にとって、第2次大戦の敗因を分析することは、非常に重要だ。ところが実際には、ほとんどの知識人が、別の質問をしている。すなわち、「日本は第2次大戦で、『悪』だったのか?『善』だったのか?」という質問だ。
数年前まで、「悪だった」という意見が圧倒的だったが、最近は、「善だった」という世論が優勢になりつつあると感じる。しかし、「善悪論争」より、「なぜ負けたのか?」を分析することが大事だ。なぜなら、ここがきっちりわかっていないと、「また敗戦」ということになりかねないからだ。
歴史を調べてみると、「満州国建国」(1932年)「国際連盟脱退」(1933年)が分岐点だったことがわかる。これで、日本は「世界の孤児」になったのだ。1937年に日中戦争がはじまったとき、中国は、米国、英国、ソ連から支援を受けていた。つまり日本はこの時点で、米英ソ中4大国と戦っていた。これで、勝つことができるだろうか?
常識的に考えれば、勝つ確率は、「1%もなかった」といえるだろう。なぜ、こんな羽目になったのか?
そもそも、日本が満州に進出し、「満州国」をつくった理由は、2つあった。1つは、「安全保障上」の理由である。具体的には、ロシア(後にソ連)の「南下政策」を阻止すること。日ロ戦争(1904〜05年)の主戦場だったことからもわかるように、満州は、「ロシアの南下を食い止めるための最前線」と考えられていた。
もう1つの理由は「経済的利益」である。1910年代、日本は第1次大戦による好景気に沸いていた。ところが、1920年代は、一転して「暗黒の時代」に突入していく。
終戦翌々年の1920年は「戦後恐慌」と呼ばれる。22年には「銀行恐慌」。23年には「関東大震災」が起こり、「震災恐慌」になった。27年には「昭和金融恐慌」、そして1929年には“とどめ”の「世界恐慌」が起こった。日本は、満州に進出することで、この経済的苦境を克服しようとしたのだ。
つまり日本が満州に進出した「目的」は、「安全の確保」と「経済的利益」を得るためだった。これは、国家として、「正しい目的だった」といえるだろう。(もちろん、「善悪」を論じればいろいろ反対意見もあるだろう。しかし、今回は「勝敗」の話なので、「善悪」には触れない)。
1932年に「満州国」を建国した日本。中華民国は、当然これに不満で、国際連盟に泣きついた。国際連盟は、イギリス人リットンを団長とする調査団を現地に送る。そして、「リットン調査団」は、大まかにいうと以下のような結論を出した。
1.満州国は承認できない。
2.満州国には、中国主権下の自治政府を樹立する。
3.日本の特殊権益を認める。
「満州国の建国は認められない」が、「日本の特殊権益は認める」という、日中双方に気を配った内容である。結果、日本はどういうことになったのか?1933年2月の国際連盟総会で、「満州国建国」に42ヵ国が反対した。賛成は、わずか日本1国だった。
この状況を、我々は深刻にとらえる必要がある。当時の日本は、まさに「世界の孤児」だったのである。この状況に至って、日本政府はどういう決断をしたのか?そう、「国際連盟」を脱退したのだ。この時点で、日本は、「敗戦行き」の「超特急列車」に乗ったも同然だった。
■「手段」を「目的」と勘違いして日本を滅ぼした指導者たち
「満州国建国をやめろ」「かわりに日本の特殊権益を認めてあげよう」という、「リットン報告書」。日本の「愛国保守派」の皆さんは、「理不尽だ」「国際連盟脱退以外に道はなかった」と主張するかもしれない。しかし、昭和天皇は、「リットン提案」に賛成だったことをご存じだろうか?日本を代表する知識人・藤原正彦氏の、名著「日本人の誇り」の中にこんな記述がある(太線筆者)。
<昭和天皇もこのリットン報告書は妥当と思われていました。
『昭和天皇独白録』にこうあります。
「私は報告書をそのまま鵜呑みにして終ふ積りで、牧野、西園寺に相談した処、牧野は賛成したが、西園寺は閣議が、はねつけると決定した以上、之に反対するのは面白くないと云ったので、私は自分の意思を徹することを思ひ止ったやうな訳である」>(「日本人の誇り」藤原正彦著 159p)
そして、藤原氏自身は、当時の日本政府の決定について、以下のように書いている(太線筆者)。
<リットン報告書を受諾して、すなわち名を捨て実を取り、アメリカやイギリスにも満州国の利権を一部譲ってやる位のことをしておけば、日本は英米と協力し共産ソ連の南下に対抗できたのです。
絶好の機会を逸した上に日本は世界の孤児になったのです。
冷徹な計算のない、余りに稚拙な外交には嘆息が出ます。>
(同上159〜160p)
同感である。既述のように、日本は1937年、米英ソ中4大国を敵にしていた。これでは勝てるはずがない。しかし、米英に満州の利権を少し譲るといった配慮をすれば、日本にとってソ連の脅威は、大幅に減ったことだろう。そして、米英と戦争をすることも、原爆を落されることも、さらにGHQに「自虐史観」を押しつけられて「洗脳」されることもなかっただろう。
日本は米英とともに「連合国側」で戦い、戦後は「戦勝国」として、国連安保理の「常任理事国」になったかもしれない。もちろん、そんなに簡単には行かなかったかもしれない。しかし、少なくとも米英中ソを同時に敵にまわすより賢明だったに違いない。
では、なぜ日本政府は、誤った判断をしたのか?「手段」を「目的」と勘違いしたのだ。
日本が満州に進出した「目的」は、もともと「安全を確保するため」「経済的利益を得るため」だった。「満州国」は、「安全」と「経済的利益」を得るための「手段」に過ぎなかった。
ところが、日本が満州国を建国し、全世界がそれに反対したとき、満州国という「手段」は、もはや日本に「安全」をもたらさなくなった。世界を敵にまわして、「日本はより安全になった」などということはあり得ない。この時点で、満州国は、「日本の安全と経済的利益」という「目的」に合致しなくなっていたのだ。
しかし、当時の日本政府は、「手段」に過ぎない「満州国」を「生命線」などといって「神聖視」し、それを守るために「国際連盟常任理事国」という有利な地位まで捨て去った。
その決断が間違っていたこと、いまとなっては明白である。決断が正しいものであったなら、日本は戦争で負けなかっただろう。会社を倒産させた経営者の判断が正しいはずはない。同じように、戦争に負けた指導者の判断が正しいはずはないのだ。
■「手段」に過ぎない憲法改正をゴリ押しすればどうなるか?
話を現代に戻す。安倍総理は、いよいよ「憲法改正」に向かおうとしている。しかし、決して忘れてならないのは、「憲法改正」は「ただの手段に過ぎない」ということである。目的はあくまでも、「日本国民の安全を守ること」。つまり、「憲法改正で日本がより安全になるのなら、改正したらいい。より安全にならないのなら、改正する必要はない」となる。
では、憲法改正で日本は安全になるのだろうか?それとも危険になるのだろうか?現時点では、「危険になる」可能性の方が高い。理由は、尖閣・沖縄支配を目指す中国が、日本と米国を分断するために、「日本は右傾化している、軍国主義化している、歴史修正を目指している」と大々的にプロパガンダしていること(日米安保を無力化させれば、中国にとって尖閣侵攻はとても容易になる)。
中国のプロパガンダが欧米に深く浸透していることは、安倍総理の靖国参拝(2013年12月26日)で明らかになった。小泉元総理は、在任中6回靖国を参拝したが、欧米はほとんどノーリアクションだった。しかし、安倍総理が参拝すると、中韓ばかりでなく、米国、英国、EU、オーストラリア、ロシア、台湾、シンガポールなどが、いっせいに非難した。
長くなるので、ここでは詳述しないが、これは、明白に「中国の戦略」によるものである(中国の対日戦略の全貌を知りたい方は、本連載第10回を是非ご一読いただきたいhttp://diamond.jp/articles/-/66110/)。
そして現在、中国は、「日本が米国を中心に作られた戦後秩序に反逆しようとしている証拠」として、「靖国参拝」「歴史の見直し」「憲法改正」などを批判している。
なぜ「憲法改正」が「米国への反逆になるのか?」。いうまでもなく日本国憲法が「米国製」だからである。なぜ日本は、米国製憲法を変えたいのか?当然、「米国の支配から脱却したいから」となるだろう。それで、(中国のプロパガンダに洗脳されている)米国から見ると、「日本の反逆」に見えるのだ。
繰り返すが、筆者は、「米国製日本国憲法教」の信者ではない。しかし、「憲法改正」はただの「手段にすぎない」ことも認識している。もし、憲法を改正し、米中を同時に敵にまわせば、日本は「より安全になる」だろうか、「より危険になる」だろうか?
答えは明らかだろう。そして、靖国参拝直後のことを思い出せばわかるように、米国が反日になれば、欧州もオーストラリアもこれに続く。結果、日本は、欧米中韓オーストラリアなどを敵にまわし、まさに「世界の孤児」になる。
「手段」にすぎない「満州国」を「生命線」と「神聖視」して負けた日本。安倍総理には、過去の失敗から学んでいただき、「憲法改正で日本は安全になるか?危険になるか?」と、100万回自問していただきたい。繰り返すが、「憲法改正」は「ただの手段にすぎない」のだ。
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