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2015年3月 1日
川崎で発生した少年殺害事件と経済政策を直結させることは控えるが、日本でいまもっとも深刻な問題になっているのが「格差」の問題である。
かつて日本には、「一億総中流」と呼ばれた時代があった。
中間所得階層が非常に厚く存在したのである。
企業の社長でも法外に高い所得を得ない。
多くの労働者が正社員として処遇され、経済成長の恩恵を所得の増加で享受できた。
ところが、1980年代頃から状況が大きく変わり始めた。
世界の政治においては、サッチャー・レーガン・中曽根という、新しい流れが強調されるようになった。
経済政策における「自由主義」の思潮が強まったのである。
資本主義経済の根本には「自由主義」が置かれた。
各経済主体が、自己の利益極大化を目指して行動することにより、最適な資源配分が実現し、経済全体の効率が最も高まる。
政府の経済活動への介入を極小化することが経済発展を促すと考えらえた。
しかし、経済活動の結果である果実の分配についても、市場原理にすべてを委ねる結果、分配の格差は拡大の一途を辿った。
「格差拡大」は「自由主義」経済政策の必然の結果であることが明らかになったのである。
「格差拡大」は超過生産を生み出し、深刻な経済活動の崩壊を周期的に引き起こしてきた。
他方、下流に押し流された人々は、生存の危機に晒されるようになった。
20世紀に入って、基本的人権として「生存権」が重視されるようになった。
経済の体制においても、「自由主義」を軸とする「資本主義」の経済体制に対する新しい試みとして、経済活動の結果である果実の分配を政府が人為的に定める「社会主義」の体制が一部の国で導入されるようになった。
他方、資本主義を採用する国においても、結果における果実の分配において、政府が積極的に介入し、「結果における平等」を重視する「修正」が広範に実施されるようになった。
また、経済の安定的な成長を実現するためには、経済活動に対する政府の積極的な関与が重要であるとの経済政策上の新たな主張が支持されるようになったのである。
20世紀は、この意味で、経済政策における
「自由放任」から「政府の介入重視」
「市場原理」から「所得再分配重視」
の方向に、経済政策の基本方向が根底から修正された時代であった。
この流れが再逆転し始めたのが1980年代である。
「結果における平等」の重視が、経済の活力を低下させているとの主張が一世を風靡し始めたのである。
20世紀の国家モデルである「福祉国家」が攻撃の標的とされた。
それはとりもなおさず、「結果における平等」を重視する「所得再分配政策」を否定するものであった。
各種経済的規制の撤廃が主張され、「結果における平等」をもたらすための経済政策が全面的に否定されるようになったのである。
これが、新自由主義の新しい思潮である。
そして、現実に、英国、米国、日本において、この「新自由主義」経済政策が積極推進された。
その結果として、かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会が、世界有数の「格差社会」に移行したのである。
この変化によって利益を得たのは誰であるのか。
この経済政策は、一体、誰のために実施されてきたものであるのか。
結果を見れば一目瞭然である。
資本の利益だけを優先し、社会を構成する市民の利益が犠牲にされてきたのである。
フランスの経済学者であるトマ・ピケティは、長期にわたる所得分配の事実を膨大な検証作業によって明らかにした。
その結果、資本主義経済の下での分配の格差拡大は、長期的な歴史の事実であることを明示したのである。
日本における格差は大きくないと主張する者がいるが、この主張はピケティ氏の実証によって否定された。
日本における所得上位10%の所得全体に占めるシェアは40%を突破した。国際比較上も、日本が格差社会のトップグループに入っていることが裏付けられたわけである。
日本の厚生労働省が相対的貧困率のデータを発表するようになったが、ひとり親世帯の貧困率が極めて高いことが大きな特徴になっている。
他方、日本における社会保障支出においては、機能別分類の「家族」に該当する分野への公的支出が世界最低レベルで推移している。
つまり、日本社会においては、急拡大している経済的弱者に対する対応が、国際比較上も極めて貧困な状況にあるのだ。
社会を構成するすべての人々の生活がしっかり支えられることを重視するのが「福祉国家」の理念であると言えるだろう。
ところが、日本においては逆に、社会を構成する人々のなかで、相対的に弱い立場に置かれた人々が増加することも、その人々が苦しい状況に置かれたままでいることも、放置、あるいは積極推進されている。
「弱肉強食容認」、「弱肉強食奨励」の姿勢が、政策において明示されているのである。
悲惨な少年事件の背景に、この国のこうした深刻な現実があることを見落とすわけにはいかない。
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