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2015年2月 9日
『神州の泉』を主宰されてきた高橋博彦氏が逝去された。
生前の真摯なご活動に深い敬意を表するとともに心より哀悼の意を捧げ、故人のご冥福をお祈り申し上げる。
高橋氏は私が巻き込まれた冤罪事案について、徹底的な事実の検証と、その背景の考察に多大なるご尽力を注いでくださった。
事件関係書類ならびに公判内容を徹底的に精査され、膨大な検証記録をまとめて下さった。
その集大成の一部が、副島隆彦氏との共著書である
『国家は「有罪(えんざい)」をこうして創る』(祥伝社)
に提示されたのである。
私は冤罪事案について、現在、再審請求を申し立てているところであるが、冤罪立証に際しても、極めて重要かつ貴重な論点摘示を賜った。
ご体調を崩され昨年12月にご入院ご療養中のところをお伺いし、お話をさせていただいた。
顔色も悪くはなく、次の著作の構想をお伺いいたし、その執筆を心待ちにしていたところ、悲しい報せをいただき、胸が詰まる思いである。
高橋氏とご親交の深かった響堂雪乃氏がすでに追悼文をネット上に公開されているが、高橋氏はこの国を愛し、この国の人々を心から大切に想い、その想いから、数多くの重要な問題提起をされ、貴重な時事評論を発表されてきた。
その真摯な姿勢、貴重なご業績に対して、深く敬意を表する次第である。
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高橋氏が警鐘を鳴らされてきた近年日本の政治思潮の流れが、いわゆる新自由主義と呼ばれるものである。
2001年4月に発足した小泉純一郎政権は竹中平蔵氏を閣僚に登用するとともに、新自由主義経済政策を日本に強要した。
そこには、三つの重要な特性が観察された。
第一は、経済政策運営における「弱肉強食原理」の浸透である。
第二は、土下座外交と言って差し支えのない、卑屈な対米従属、対米隷属の姿勢である。
そして、第三は、これらの施策が、グローバル強欲資本への利益供与という、政治利権の新しい創作を伴うものであったことである。
第一の「弱肉強食原理」について考えてみたい。
産業革命以降の近現代国家においては、当初、アダムスミスに代表される古典的な自由主義の思想をベースにおいて経済が運営された。
18世紀的な基本権が自由権とされるように、当初は自由な経済活動が結果としての資源配分の効率を高めることが期待されたのである。
ところが、経済政策運営における自由主義の浸透が新しい問題を引き起こすようになる。
基本的人権の分野では、19世紀に入って、広く国民に参政権を付与することが重視されるようになり、さらに20世紀に入ってからは、
「機会の平等」
ではなく、
「結果の平等」
の重要性が強く認識されるようになった。
市場原理にすべてをゆだねることによってもたらされる新しい経済問題が拡大し、その是正が経済政策運営上の重要問題として浮上したのである。
自由主義、資本主義は大きな修正圧力を受けることになった。
20世紀における経済政策においては、
「市場原理」
に対して、
「政府による所得再分配機能」
が重視されるようになったのである。
経済活動に対して政府の介入を極小化させる小さな政府
=「夜警国家」
の主張から、
政府の積極的な役割を重視する
「福祉国家」
の主張が強まりを見せた。
基本的人権の分野では20世紀的な基本権として
「生存権」
が掲げられるようになったのである。
第二次大戦後の世界においては、一方に社会主義国の誕生という新しい状況が生まれ、この脅威が資本主義陣営に迫りくる中で、修正資本主義の行動が広がりを見たのである。
ところが、1960年代、70年代を通じて、福祉国家の理想を追求した国家において、経済活動が停滞する事態が生じた。
その反動から、1980年代以降、再び、市場原理を軸とする自由主義の主張が台頭し始めた。
レーガン、サッチャー、中曽根のトライアングルなどの言葉が取り沙汰されるようになった。
その流れの延長上に、この主張を純化させた政権が小泉純一郎政権だったのである。
そしていま、世界経済に弱肉強食と格差拡大=新しい貧困問題が広がりを示しているのである。
日本における新自由主義のもう一つの特徴は、その主張が、対米追従主義=対米隷属主義と表裏一体をなしていることである。
高橋博彦氏は、この点を冷徹に見つめ、その政策遂行が日本国民の幸福実現、幸福追求の視点に根ざすものではないことを喝破し、歯に衣を着せぬ厳しい事実摘示を貫かれた。
実際にお会いしてお話をすると、微笑を絶やさない、温厚さと冷静さを併せ持つ、思慮深さの極みを示されるのであるが、言説においては毅然とし、そして隙のない発言を展開し続けられた。
最後まで筆を休まれることのなかった強い精神力とご尽力に改めて深い敬意を表すとともに、故人のご冥福をお祈り申し上げる。
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