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ペルシア湾上の空母カールビンソンからIS空爆に出撃する戦闘機(写真:米海軍)
イスラム国と戦う「有志連合」、 まぎれもなく日本は一員である 国際社会にもイスラム国にも通用しない日本の“部外者”意識
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42822
2015.02.05(木) 北村 淳 JBpress
いわゆるイスラム国(以下、IS)によって日本人人質が殺害されるとともに、安部首相に対して挑戦的脅迫が発せられた。
日本のメディアには、一連の悲惨な結果とISによる「日本国民に対して無差別的に危害を加えるであろう」といった脅迫を受けて、「軍事行動に参加していない日本もいよいよISとの戦いに巻き込まれた」といった論調が目につく。
■当初より有志連合国と考えられていた日本
しかしながら、今回の日本人質虐殺事件によって日本がアメリカ主導の「対IS戦争」に巻き込まれた、と考えるのは誤りである。同様に一部メディアが主張するように1月の安部首相のイスラエルはじめ中東歴訪と「IS対策としての2億ドル拠出」によって日本が反ISの立場を明確にした、と理解するのも誤りである。
すでに2014年8月にアメリカ主導でIS支配地域に対する航空攻撃が開始された当時から、アメリカ政府の説明では、日本も60カ国の「有志連合」に含まれていたからだ。
アメリカ主導の空爆が開始された当時、すでに日本はISによって難民となった北部イラクの人々に対する600万ドルの緊急支援金を拠出していた。したがって、アメリカ政府の定義によると日本は「人道支援を提供する同盟国」と見なされていたのである。
ちなみに2014年9月時点でアメリカ政府が有志連合としたのは、
「何らかの軍事支援を提供する同盟国」が20カ国、
「軍事支援ではなく人道支援を提供している同盟国」が13カ国、
「いまだに軍事支援も人道支援も提供していないが支援を表明している同盟国」13カ国、
「特定の支援は表明していないがアメリカ政府は同盟国と見なしている諸国」が13カ国、
それにアメリカ自身を加えた60カ国であった。
さらにアラブ連盟とヨーロッパ連合も、有志連合による「ISとの戦い」への支援を表明した。
当然のことながら、アメリカ政府にとっては、有志連合国の数が多ければ多いほど、都合がいいため、無理やり同盟国と見なしているとも言えなくはない国々もあった。しかし、当事者のアメリカ政府から独立した見方でも、少なくとも日本は、1月の安倍首相の中東歴訪以前から有志連合の一員と見なされていたことには変わりはない。
例えば、アルジャジーラの特集記事(2014年12月16日英文ウェブ版「Countries countering ISIL」)によると有志連合参加国は35カ国で、次のように分類されていた。
・軍事支援と人道支援を実施する有志連合:17カ国
アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、フランス、オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、デンマーク、カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、エストニア、ハンガリー、チェコ、ブルガリア
・軍事支援だけを実施する有志連合:4カ国
ヨルダン、バーレーン、アルバニア、クロアチア
・人道支援だけを実施する有志連合:14カ国
日本(シリアとイラク領内の難民に対しておよそ2550万ドルの人道支援)、韓国、クウェート、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スペイン、アイルランド、スイス、オーストリア、ルクセンブルグ、スロバキア、グルジア
■武器を使った戦闘だけが戦争ではない
おそらく日本国民の大多数に、このような認識はなかったはずだ。というのは、過去半世紀以上にわたって軍事リテラシーを意図的に制限し続けてきた日本では、戦争と戦闘を混同している傾向が強いからである。すなわち、「軍事」というと武器や装備だけに関心が集中し、武器を繰り出しての戦闘だけが戦争だと思い違いをしてしまっている。
言うまでもなく現代の戦争は戦闘だけでは遂行できない。補給システム、情報収集、情報分析、諜報活動、プロパガンダ、工業生産、農業生産、科学技術など戦闘とはかけ離れた数多くの国力を総動員しなければならない。過激テロリスト集団であるISとの戦いにおいても、このような事情は変わらない。
したがって、ISによって土地を追われたり住居を破壊されたりした難民たちに対する人道支援は、ISの勢力拡大を戦闘以外の手段によって弱体化させる、立派な「ISとの戦い」遂行活動なのである。
■ISとの戦闘の内容
安部首相が中東を歴訪していた間も、日本人人質事件が表沙汰になってからも、そして人質事件が悲惨な結末を迎えてからも、有志連合によるIS要所に対する空爆は継続されている。
現時点での有志連合軍事作戦は、以下のように大別される。
(1)シリア領内のIS支配地域に対する空爆
(2)イラク領内の支配地域に対する空爆
(3)IS軍と地上で戦闘を交える自由シリア軍、イラク政府軍、それにクルド族部隊に対する補給活動
(4)自由シリア軍、イラク政府軍、クルド族部隊に対する軍事顧問団による教育訓練
シリア領内での空爆はアメリカ(航空機からの空爆ならびに艦艇からの巡航ミサイル攻撃)、ヨルダン、バーレーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、モロッコの7カ国軍によって実施されている。イギリスは監視偵察機のみを派遣しておりこの地域での爆撃は実施していない。
イラク領内での空爆は、アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、ベルギー、モロッコの8カ国によって実施されている。この他、ドイツ、デンマーク、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、トルコは、空爆には参加していないが、武器弾薬の供給や軍事顧問団による地上軍の訓練などの軍事支援を実施している。
これまでのところ、有志連合の軍事作戦から地上での戦闘は除外されており、地上での軍事支援は、反IS勢力に対する補給活動や教育訓練に限定されていた。しかし、1月中旬、イラク軍とIS勢力が対峙する前線近くでイラク軍部隊を訓練中のカナダ特殊部隊がIS側から銃砲撃を受けて反撃し、有志連合参加部隊とIS部隊との間での初めての地上戦が勃発した。引き続いて、日本人人質事件が勃発した直後、やはりイラク軍を訓練中のアメリカ地上部隊とIS部隊の間で地上戦が発生したと伝えられている(ただし、アメリカ軍側は否定している)。
いずれにせよ、地上での戦闘は有志連合にとって予定された作戦行動ではなく、前線後方での予期せぬ攻撃に対する反撃とされている。
■日本は人道支援を実施してきた
さて、日本人人質が2名とも虐殺されるという悲惨な結末に対応して安部首相は「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携する。日本がテロに屈することは決してない。食糧支援、医療支援といった人道支援をさらに拡充していく。そして、テロと戦う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たしていく」との決意を表明した。
この文脈での「テロリスト」とはISであり、「国際社会」とは日本も含めた有志連合国である。そして有志連合国の一員として、これまでも実施してきた人道支援をさらに強化すると安部首相は宣言した。ただし「日本としての責任」とは何かに関して、具体的には口にしていない。
当然のことながら、「テロリストに罪を償わせる」と表明した安部首相が「人道支援」よりステップアップする場合、理論的には以下のことを行っていくことになる。
「人道支援プラス軍事支援(武器弾薬の提供)」
「人道支援プラス軍事作戦での補給活動」
「人道支援プラス軍事作戦での戦闘活動」
しかしながら、菅官房長官は「有志連合に対して資金援助や後方支援は行わない」と明言した。この表現は誤解を招くものである。上記のように、人道支援を実施してきた日本は有志連合の一員なのである。ただし防衛関係法令や軍事的能力の制約により有志連合による軍事作戦には参加しておらず、軍事支援も実施していないだけなのである。
したがって、日本政府やメディアは「日本は有志連合の空爆などの軍事作戦にはいかなる形でも参加しないし、兵器弾薬の供給をはじめとする軍事援助も実施しない」と表現しなければならない。そうでなければ、人道支援を通してISとの戦いに貢献している日本が、あたかもいまだに有志連合に参加していないとの誤解を招くことになってしまう。
人道支援を実施する日本は、有志連合の軍事作戦には参加していないが、アメリカはじめ有志連合諸国そしてISからも、名実ともに有志連合の一員と見なされていることを、日本政府はじめ我々日本国民はしっかり認識しておかねばならない。
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