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本当の狙いは人質事件を利用して“普通の国”の仲間入り? 内藤正典氏(左)と内田樹氏が謎多き安倍外交を斬る!
内田樹×内藤正典 「安倍政権は本当に何も知らない外交オンチか、それとも狡猾なのか?」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150203-00042911-playboyz-pol
週プレNEWS 2月3日(火)6時0分配信
ふたりの日本人が人質として捕らわれていることを知りながら、イスラム国と敵対する中東の国々への歴訪を決行し、しかもイスラエル国旗の前で「人質を解放せよ!」と火に油を注ぐ、あの声明は一体なんだったのか…?
謎多き安倍外交をイスラム研究の専門家・内藤正典(ないとう・まさのり)と思想家・内田樹(うちだ・たつる)が斬る!
*? *? *
内藤 日本人人質事件のことでまず言いたいのは、安倍総理がイスラム国の殺害予告に対して、イスラエルで声明を出した(1月20日)ことについてです。あまりにも危険なことをしてしまった。イスラエルの国旗を前にして、人質を直ちに解放するよう訴えましたね。あまりにバカげたミスです。
イスラエルというのは、中東だけでなく、世界中のイスラム教徒から相当な怒りを買っている。昨年夏にも、パレスチナのガザを集中的に攻撃して、2000人以上の死者を出した。うち500人は子供ですよ。テロとの戦いという理屈では、説明できないことをしている。その国の旗の前で「ふたりの人質を解放してくれ」と、世界にアピールしますか? これは基本的な外交リテラシーの欠如の表れ、と私は見ました。
内田 私は何通りかの解釈があると考えます。安倍さんは本当にバカなのか? バカなふりをしているのか? それともバカなふりをさせることで裏でコントロールする人間がいるのか? 今回の事件を見ていても、人質解放を最優先するより、むしろその後に起こるかもしれないイスラム国に対する日本人の反テロ感情に期待する向きがあるんじゃないかと思うのです。
現在のフランスのように反イスラム感情が醸成されていって、テロリストに対しては容赦なく戦うしかない、というタイプの国論が巻き上がってきて、集団的自衛権の行使だとなれば、安倍政権にとっては願ってもない展開であるわけです。
内藤 私は新著(『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』)で、集団的自衛権の行使容認について批判的なことを書いていますけれども、これまでの集団的自衛権というのは、アメリカが日本に対して要請し、日本がそれに応える、というものでした。首相が何度も説明していたのもその筋書きだと思います。
ただ、今回のような事件が起きた場合には、その筋書きを反転させることもできます。日本がアメリカに対して集団的自衛権の行使を要請できることになる。自国民がテロの脅威にさらされている、と。
アメリカはすでに軍事介入してるわけですから、日本の要請に応じるでしょう。内田先生がおっしゃったように、そこまで読んでのことなら、“バカげた”と言ったのは撤回します(笑)。非常に賢い先見であると言わざるを得ません。
内田 そうなったら集団的自衛権の行使容認を閣議決定したのは正しかったとなりますね。世論をそういうふうに形成することになるでしょう。そうならないように、われわれが早め早めに発言して政府の思惑を潰(つぶ)しておかないといけません。そういう選択肢もあるよと先に言っておけば、いざというときにみんなが驚かなくて済みますからね。
内藤 ええ。イスラム国というのは、国連もテロ組織だと認定しているので、これに関する被害を受けた国というのは、個別的、集団的かはどうであれ自衛権の行使が可能であると国連が認めているわけです。安倍政権としては、国連のお墨付きもあるじゃないか、人質に死の危険があるのだから、米国、あるいは同盟国に対して集団的自衛権の行使をお願いしようじゃないかということもできる。
―殺害されてしまったとみられている湯川遥菜さんは昨年8月、後藤健二さんは10月頃にイスラム国に拘束されたとみられています。日本政府も把握していたはずですが、イスラム国側は、その後長らく外交カードとして取っておいて、安倍首相の中東歴訪に殺害予告をぶつけてきたのでしょうか?
内田 当然そうですよね。
内藤 まんまとタイミングを計られたとみるべきです。今回の歴訪順を見ると、エジプト、ヨルダン、イスラエルという“親米政権の国”ばかり。行き先からしてマズい。ですから人質のことなんて、まったく頭になかったのでしょう。もしあるなら外交日程の中で、人質解放に向けて何か努力をしているという姿勢を示すはずです。
殺害予告が出て初めて安倍首相は(人質について)言及したわけで、しかもその段取りの悪さがイスラエル国旗の前で声明を出すというミスにつながります。湯川さんと後藤さんをなんとかするための行脚ではなかったことは、あれで非常に明示的にわかります。
イスラエル国旗の前にいたということを、これで日本は有志連合の仲間入りをしたと、アメリカは手を叩いて喜んでいるでしょうね。バカだと思っているかもしれませんけどね。
内田 まあ、バカだと思うでしょうね。「日本は自分の上に火の粉が降りかかるようなことをなんでするんだろう?」と。
内藤 そのアメリカですら、イラク戦争など一連の中東での紛争において、イスラエル軍を使ったことはありません。もし使えば、恐ろしく逆効果になるということを知っているからです。
内田 安倍さんはイスラエル国旗が持っている国際社会におけるコノテーション(潜在的意味)というものを、全然理解していないんでしょうね。パレスチナについても何も知らないのかもしれない。
●この続きは、発売中の『週刊プレイボーイ7号』にてお読みいただけます!
(取材・文/長谷川博一 取材協力/川喜田 研 撮影/もりやままゆこ)
●内田樹(うちだ・たつる)
思想家、武道家。武道と哲学のための学塾「凱風館」を兵庫・神戸市で主宰。20 15年度から京都精華大学の客員教授に就任予定。近著に、『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(中田考氏との共著、集英社新書)、『憲法の「空語」を充たすために』(かもがわ出版)、『街場の戦争論』(ミシマ社)などがある
●内藤正典(ないとう・まさのり)
同志社大学教授、イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。日本がイスラム世界と衝突することなく、共存するためには何が必要かを示す、新著『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』(集英社新書・760円+税)が発売中
■『週刊プレイボーイ7号』(2月2日発売)「安倍政権は単なる外交オンチかそれとも狡猾か?」より
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