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2019/04/02 19:28:08
ダークマターの正体、原始ブラックホールではない可能性高まる - Kavli IPMU
小林行雄
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宇宙 Kavli IPMU 東京大学 ブラックホール
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は4月2日、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」で得た地球から約260万光年の距離にあるアンドロメダ銀河のデータを解析した結果、アンドロメダ銀河と天の川銀河の間に存在するダークマターが原始ブラックホールではない可能性が高いことが観測的に明らかになったと発表した。
同成果は、Kavli IPMUの高田昌広 主任研究者、大学院生の新倉広子さん、大阪大学大学院理学研究科の住貴宏 教授、東北大学大学院理学研究科の千葉柾司 教授、プリンストン大学、インド天文学天体物理学大学連携センターの研究者からなる国際共同研究チームによるもの。詳細は英国科学雑誌「Nature Astronomy」に2019年4月1日付で掲載された。
宇宙には通常の物質の約5倍の総量のダークマターがあるとされているが、ダークマターの正体はよくわかっておらず、未発見の素粒子であるという説や、宇宙が高温かつ高密度だった宇宙初期に形成されたかもしれないブラックホール(原始ブラックホール)であるという説などが候補として挙げられている。
原始ブラックホールの可能性については、スティーヴン・ホーキング博士が1970年代に提案したものだが、これまで月質量(太陽の質量の約2700万分の1)より軽い原始ブラックホールがダークマターである可能性は、従来の観測からは否定されていなかったという。
そこで研究チームは今回、原始ブラックホールがダークマターである可能性についての調査を実施。具体的には、天の川銀河とアンドロメダ銀河の間にあるはずの大量のダークマターがもし原始ブラックホールであれば、重力レンズ(重力マイクロレンズ)効果で10分から数時間程度の短い時間で星の明るさの変化が生じることが期待されることから、約9000万個の星の同時測定を実施したという。
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重力マイクロレンズの概念図。上はすばる HSCによるアンドロメダ銀河の画像。原始ブラックホールがアンドロメダ銀河の星の前を横切った場合、重力レンズ効果が引き起こされ、星の明るさが短い時間で変化する (C)Kavli IPMU
得られたアンドロメダ銀河の画像を詳細に解析した結果、約1万5000個の時間変動する星を発見。そのうちの1個が重力マイクロレンズ候補星であることを確認したという。しかし、ダークマターが原始ブラックホールである場合は1000個程度の重力レンズ効果を発見できるという予言に対して1個だけであるため、本当の原始ブラックホールであったとしても、原始ブラックホールの総量はダークマターの約0.1%程度の質量にしか寄与していないことになる計算結果となったとする。
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今回の観測で見つかった重力マイクロレンズ効果の候補天体の明るさの変化。観測開始から約4時間後に徐々に明るくなり、約4時間40分後に最大の明るさとなって以降、徐々に暗くなり、もとの明るさに戻った (C)Niikura et. al
また、この結果などから、ダークマターが原始ブラックホールである可能性を検証したところ、太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるシナリオが棄却されたものの、太陽質量の1〜10兆分の1程度の原始ブラックホールがダークマターである可能性は棄却できなかったとしている。
このため研究チームでは、今回の成果について天文学だけでなく、素粒子物理学にも影響を与えるものと説明しており、今後、アンドロメダ銀河をHSCでさらに観測することで、時間変動天体、原始ブラックホールの重力マイクロレンズ効果の探索研究を発展させていくことで、より詳細な成果につなげていきたいとしている。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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https://news.mynavi.jp/article/20190402-800985/
2018/02/27 20:37:00
ダークマターの3次元地図の作成に成功 - すばる望遠鏡・HSCの初期成果が発表
田中省伍
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宇宙 天文学
国立天文台は2月27日、「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」を用いた日本・台湾・プリンストン大学の200名以上の研究者からなる国際共同研究において、2014年のファーストライト以降、約50晩の観測データを用いた研究成果がまとまったことから、同日、記者会見を実施した。
これらの研究成果が掲載された、日本天文学会欧米研究報告書「Publications of the Astronomical Society of Japan(Vol.70,No.SP1) すばるHSC特集号」には、HSCの観測データに基づいた、太陽系天体の探査、銀河、活動銀河核、銀河団、宇宙論などといった幅広い研究に関する40編もの査読論文が掲載された。
HSCは、アメリカ・ハワイのマウナケア山の頂上にある、満月9個分の点域を一度に撮影できるという性能を持つカメラだ。東京大学などの研究チームは、同カメラを用いて、ダークマターの分布を高い精度で描き出し加速膨張宇宙の謎に迫るために、従来のカメラでは観測が不可能だった暗い天体を1000平方度(満月5000個分)もの天域に渡って高解像度で撮影する探査観測を進めている。この大規模な探査観測は、2019年の末まで続く予定だ。
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超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」は、太陽系から銀河、AGN(Active Galactic Nuclei)、宇宙論に至るまで、幅広い分野での活用がなされている (画像は記者会見時の配布資料より)
観測データから「ダークマターの地図」を作成
数々の研究が実施される中で、国立天文台、東京大学らの研究グループは、HSCを用いた大規模探査観測データから、銀河団の質量を測定する有力な手法である「重力レンズ効果」の解析に基づく史上最高の広さと解像度をもつ、「ダークマターの地図」を作成した。
また、この地図からダークマターの塊の数を調査したところ、もっとも単純な加速膨張宇宙モデルでは説明できない可能性があることが分かった。これは、加速膨張宇宙の謎を解き明かすうえで新たな知見をもたらす成果であるという。
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HSCの銀河の形状から弱重力レンズ効果を利用して再構成した、ダークマターの2次元分布図。濃い部分がダークマターのかたまりが観測された場所を表し、特に集中している場所はオレンジの丸で示されている (画像は記者会見時の配布資料より)
さらに、観測された点域の画像の比較、および重力レンズ効果による天体像のゆがみにより、銀河の距離ごとに解析を行うことで、断層写真を撮影するように、「ダークマターの3次元分布」を得ることにも成功した。
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作成された、ダークマターの3次元分布図。背景銀河の奥行き情報(赤方偏移)と組み合わせ、弱重力レンズ効果を利用して推定されたもので、色の濃さがダークマターの密度を表現している (出所:国立天文台Webサイト)
それに加えて研究グループは、ダークマターの塊の個数や質量を計測し、重力レンズ信号の強度との関係性をヒストグラムにした。その結果、最新のプランク衛星による宇宙マイクロ波放射の観測結果と単純な宇宙モデル(LCDM)を組み合わせた理論予想値と比較したところ、観測結果が一定の有意度で下回っていることが分かった。
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HSC のデータに基づいて作成したダークマター地図から計測したダークマターの塊の個数とそれぞれの質量の関係 (ヒストグラム) と、最新の宇宙望遠鏡「プランク」による宇宙マイクロ波放射の観測結果と標準的な LCDM を組み合わせた理論予想値(赤線)との比較 (画像は記者会見時の配布資料より)
これらの成果に関して、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の高田昌広氏は、「『単純な宇宙モデルの予想よりも、今回観測されたダークマターのかたまりの個数が少ない可能性がある』という、仮説と異なる結果となり、宇宙の膨張史の新たな扉を開けつつあるように感じる。しかし、今回の結果は観測計画全体の16% のデータに基づくものであり、まだピークのサンプル数が小さく誤差があるため、より詳しい解析を続けていく」などとコメントした。
• https://www.youtube.com/watch?v=V-bWbQ5KonU
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• HSCの銀河の形状から弱重力レンズ効果を利用して再構成した、ダークマターの2次元分布図 (c)国立天文台
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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2018/02/13 11:18:28
遠方銀河「ケンタウルスA」の観測データ、ダークマター理論と矛盾
荒井聡
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宇宙
天文学者の国際研究チームは、地球から1300万光年先にある大質量の楕円銀河「ケンタウルスA」の観測データから、多数の矮小銀河がケンタウルスAのまわりに随伴し、狭い円盤状の領域内で回転運動していることがわかったと発表した。この観測結果は、宇宙論のモデルとして有力視されているダークマター理論とは矛盾する点があり、ダークマター理論の妥当性の再検討を促すものであるという。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。
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今回の研究対象である楕円銀河ケンタウルスA。ダークマターの影響では予測できない矮小銀河の回転運動が見つかった (出所:Christian Wolf and the SkyMapper team / Australian National University)
ダークマターは、宇宙の全質量・エネルギーの27%程度を占めているとされる未知の重力源である。観測可能な天体からの重力だけでは説明がつかないさまざまな天文観測データから、電磁波による観測ではとらえることができない大量の重力源の存在が示唆されている。これを仮にダークマターと呼んでいるわけで、その正体はいまのところ謎に包まれている。
ダークマターの正体に関する仮説はいくつかあるが、その中で有力視されているものの1つが、「冷たいダークマター粒子」と呼ばれる未発見粒子がダークマターであるとする説である。
冷たいダークマター粒子の存在とダークエネルギーを織り込んだ宇宙模型は「ΛCDMモデル」と呼ばれ、ビッグバンから宇宙の大規模構造が形成されるまでの宇宙の進化をかなり上手く説明できるため、現代宇宙論の標準的な理論モデルとなっている。
研究チームのメンバーであるカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のMarcel Pawlowski氏によると、ΛCDMモデルに従った場合には、矮小銀河は主銀河の周囲に多かれ少なかれランダムにばらついて存在するはずであり、またそれらの矮小銀河は全方向に向かって動くはずであるという。
しかし、これまでの観測から、私たちの住む天の川銀河やその近傍のアンドロメダ銀河では、矮小銀河の分布と動きはランダムではなく、中心の主銀河のまわりを回転運動していることがわかっていた。
今回の発見は、天の川銀河やアンドロメダ銀河といった私たちのまわりの局所的な宇宙だけでなく、1300万光年先の遠方の銀河でも、やはり矮小銀河が主銀河の周囲の軌道上を回転している証拠を確認したものであるという。
遠方の宇宙での矮小銀河の動きを観測することは簡単ではないが、研究チームによると、ケンタウルスAの周囲の矮小銀河16個のうち14個が、天の川銀河やアンドロメダ銀河でみられるのと同様の規則的な回転運動のパターンをもっていることがわかったとする。
矮小銀河の動きは、地球から見たときの視線方向の速度を調べることによって推定できる。地球から見て遠ざかっていく矮小銀河は光の波のドップラー効果によって赤方偏移し、逆に近づいてくる矮小銀河は青方偏移することになる。矮小銀河のうち赤方偏移するものと青方偏移するものの分布は、それらが狭い円盤状の領域内で主銀河を中心にして回転運動しているとしたときのモデルと一致するという。
ΛCDMモデルが正しいとした場合、天の川、アンドロメダ、ケンタウルスAという3つの銀河について、周囲の矮小銀河の運動がいずれもランダムではない軌道上の回転運動をしているという観測結果は、確率的にありそうにない事象ということになる。
Pawlowski氏は、今回の発見について「われわれが何かを見落としていることを意味している」とコメントしている。そして、その見落としとは「シミュレーションを実行するとき何か重要な構成要素が欠けているか、あるいは基本的なモデルに誤りがあるか」であると指摘している。
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2016/12/22 12:59:17
ダークマター存在せず? - 「エントロピック重力理論」と観測データが一致
荒井聡
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宇宙
ライデン天文台(オランダ)の天文学者マーゴット・ブラウワー氏らの研究チームは、宇宙における重力分布の測定データを分析し、「エントロピック重力理論(ヴァーリンデ理論)」と一致する結果を得たと報告した。エントロピック重力理論は、2010年にアムステルダム大学の理論物理学者エリック・ヴァーリンデ教授が発表した重力についての新理論。重力とは「電磁気力」「強い力」「弱い力」と並ぶ自然の基本的な力ではなく、実は「見かけの現象」に過ぎないとする理論であり、発表当時、物議を醸した。この理論に立つと、宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めるとされる目に見えない未確認の重力源「暗黒物質(ダークマター)」を想定しなくても良くなる点も注目されている。ブラウワー氏らの研究論文は「英国王立天文学会月報」に掲載された。
研究チームは今回、3万3000個超の銀河の周囲での重力分布を測定し、それらのデータがヴァーリンデ理論による予測値と一致するかどうかを調べた。その結果、観測された重力分布はヴァーリンデ理論とよく一致していることが確かめられたという。
重力分布の測定には「重力レンズ効果」を用いる。銀河の重力によって銀河の周囲の空間が歪むため、歪んだ空間がレンズの役割を果たし、その空間内を通る光の進路が曲がる。これによって手前の銀河のまわりでは背後の銀河の像がわずかに歪む。この歪みを測定することで重力分布を調べることができる。
重力レンズ効果による銀河の像の歪み(出所: Netherlands Research School for Astronomy)
重力レンズを使って調べると、銀河の周囲では、アインシュタインの一般相対性理論から予想されるより強い重力が、銀河の半径の数百倍に及ぶ範囲に広がっていることがわかる。一般相対性理論に矛盾しないようにこの重力分布を説明するには、見えない重力源であるダークマターの存在を仮定する必要がある。一方、ヴァーリンデ理論では、ダークマターを想定せず、目に見えている天体だけを重力源として計算しても観測結果を上手く説明することができる。
ブラウワー氏は「ダークマターを仮定しても銀河のまわりの重力分布は説明可能である」と指摘する。つまり、今回の研究によってダークマターの存在が直接否定されたわけではない。ただし、ダークマターによる説明では、実際の観測で得られたデータと合致するようにダークマターの質量を決める必要がある。つまり、理論と現実を一致させるための自由変数として、ダークマターの質量が使われている。一方、ヴァーリンデ理論はこうした自由変数を利用しておらず、理論から直接導出した予測値が実際の観測結果と一致するという強みがある。
今年11月には、理論提唱者であるヴァーリンデ教授本人も、エントロピック重力によって「銀河の回転速度問題」を説明できるとする論文を発表した。渦状銀河の外縁部は、非常に速い速度で回転していることがわかっているが、目に見える通常の天体の質量にもとづく計算ではこの速度の説明がつかない。この問題を既存の重力理論の枠内で説明するには、目に見えない大量のダークマターを重力源として想定する必要があった。
エントロピック重力理論では、重力とは「物体の位置に関する情報量の変化によって生じるエントロピー的な力である」と説明される。物体の位置が変動することによって、情報量としてのエントロピーが変化し、この変化が重力という形を取って現れるという。つまり、重力とは、エントロピー変化にともなう見かけ上の現象ということになる。
この主張は、「電磁気力」「強い力」「弱い力」と並ぶ自然の基本的な力として重力をとらえる従来の物理学理論とは大きく異なっている。また、「情報」という概念を使って重力について説明しているところも、エントロピック重力理論の特徴である。三次元空間内の情報はすべて二次元平面に保存されるとする物理学上の仮説「ホログラフィック原理」とも深く関わっている。
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エントロピック重力
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ヴァーリンデ(Verlinde)の重力の統計力学的記述、ニュートンの万有引力の法則、古典的な物体の間に働く力は距離の二乗に反比例するを正しくエントロピック重力は導くことができる。
エントロピック重力(Entropic gravity)または創発的重力(emergent gravity)は、現代物理学の理論であり、重力をエントロピックな力として記述する。エントロピックな力は、(電磁気力の光子や強い核力のグルーオンのような)場の量子論やゲージ理論を媒介とした基本相互作用ではなく、物理系のエントロピーを増加させようとする傾向の確率論的な結果のことを言う。この提案は、物理学会で論争されていて、重力の熱力学的性質の研究の新しい方向を呼び起こした。
目次
• 1起源
• 2エリック・ヴァーリンデの理論
• 3批判と実験的検証
o 3.1エントロピック重力と量子コヒーレンス
• 4参照項目
• 5参考文献
• 6外部リンク
起源[編集]
重力の確率論的な記述は、少なくとも1970年代中期のヤコブ・ベッケンシュタイン(Jacob Bekenstein)とスティーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)のブラックホールの熱力学まで遡る歴史を持っている。これらの研究は、重力と熱の振る舞いを記述する熱力学の深い繋がりを示唆している。1995年、テオドール・ジャコブソン(英語版)(Theodore Jacobson)は、相対論的重力を記述するアインシュタイン方程式が、等価原理と一般的な熱力学を結びつけることにより、導出できることを示した。[1] その後、他の物理学者は、著名なのはタヌー・パドマナブハン(英語版)(Thanu Padmanabhan)であるが、重力とエントロピーのあいだの繋がりを探求し始めた。[2][3]
エリック・ヴァーリンデの理論[編集]
2009年にエリック・ヴァーリンデ(英語版)(Erik Verlinde)は、エントロピックな力として重力を記述する概念的なモデルを開示した。[4] 2010年1月6日に、彼はOn the Origin of Gravity and the Laws of Newtonというタイトルの29ページの論文をプレプリント(英語版)として出版した。[5] この論文は、2011年4月にはJournal of High Energy Physicsに掲載された。[6] その論理は300年以上の論理をひっくり返すような論理で、重力は「物質の位置に関連付く情報」の結果である」と議論している。このモデルは、ジェラルド・トフーフトのホログラフィック原理を持つ重力と熱力学的アプローチを結びつけている。これは、重力は基本相互作用ではなく、ホログラフィックスクリーン上にエンコードされたマイクロスコピックな自由度の統計的振る舞いから創り出された現象であることを意味している。論文は、科学界からの様々な反応を引き起こした。ハーバード大学の弦理論の研究家アンドリュー・ストロミンジャー(Andrew Strominger)は、「それは誤りであるという人もいれば、それは正しいがもう分かっていることだよという人もいる。つまり、それは正しくて深く、正しくて自明なことである」と。[7]
2011年7月、ヴァーリンデはさらに発展させたアイデアであるダークマターの起源についての説明できるのではとの考えを、the Strings 2011 conferenceで提案した。[8]
ヴァーリンデの論文は、多くのマスメディアの注目を集め[9][10]、宇宙論のフォローアップ記事[11][12]、ダークエネルギー[13]、宇宙の加速度的膨張(英語版)(cosmological acceleration)[14][15]、宇宙のインフレーション[16] やループ量子重力理論[17] についてもすぐに書かれることとなった。また、ある特別なマイクロスコピックモデルが、実際、大きなスケールで現れるエントロピック重力をもたらすことを示したものもある。[18]
批判と実験的検証[編集]
ヴァーリンデにより提案されたエントロピック重力理論は、アインシュタイン方程式を再現し、ニュートン近似では重力の 1/r ポテンシャルも再現する。とはいえ現時点において、この理論はニュートン力学や一般相対論を超える新しい物理的な予測をするわけではないため、この理論を既存の実験的方法によって反証することはできない。
それでも現段階の形のエントロピック重力は、正式な根拠を強く批判されている。ニュージーランドのウェリントン大学の数学教授のマット・ヴィッサー(Matt Visser)は、「Conservative Entropic Forces」[19]の中で、一般のニュートン力学の場合の保存力のモデル化する試みの中から(つまり、任意のポテンシャルと無制限の数の離散的な質量)、要求されているエントロピーが非物理的な要求であることを導き、異なる温度の熱浴の不自然な数値を意味することを導いた。ヴィッサーは次のように結論付けている。
エントロピック重力が物理的な現実であることについて合理的な疑いがあり、また、古典的(準古典的)一般相対論が熱力学に密接に関係しているということについて合理的な疑いがある [52–55]。ヤコブソン(Jacobson) [1-6] やタヌー・パドマナブハン(英語版)(Thanu Padmanabhan) [7– 12] や他の仕事に基づいても、完全な相対論のアインシュタイン方程式が導出可能であるとする熱力学的解釈も疑うにたる合理的な理由がある。ヴァーリンデの特別な提案 [26] はどこでも基本に近いということは理解できない --- ヴァーリンデの設定のような n-体のニュートン重力を正確に再現することを必要とする、むしろバロック的な構成は、暫く止めておく。
エントロピック重力の見方からアインシュタインの方程式を導出するため、タワー・ワン(Tower Wang)は、[20] で、エネルギーモーメント保存と宇宙の等質性と等方性の意味は、厳しくエントロピック重力のポテンシャル的な変形を制限するし、そのうちのいくつかはアインシュタイン方程式のエントロピックモデルの特異性を持つことを超えた一般化に既に使われていることを示した。ワンは、次のように主張している。
ここに示したように、(2)の形の変形されたエントロピック重力(理論)は、完全に殺さないまでも、非常に狭い部屋を、エネルギーモーメント保存を確認し、等質で等方的な宇宙へ適用しようとするものである。
エントロピック重力と量子コヒーレンス[編集]
エントロピック重力には他にも批判があり、エントロピックな過程は量子コヒーレンス(英語版)(quantum coherence)を破るはずであるというのがその理由である。最近の地球の重力場内の極度に冷やした中性子の実験では、重力がいかなるデコヒーレント要素も持たない保存ポテンシャル場であると考えられるシュレディンガー方程式が予言することと全く同じく、中性子が異るレベルにあることが示されている。アーチル・コバキッゼ(英語版)(Archil Kobakhidze)は、この結果がエントロピック重力の反証であることに、賛成している[21][22]。
参照項目[編集]
• 理想チェーンのエントロピックな弾性(英語版)(Entropic elasticity of an ideal chain)
• エントロピックな力
• 重力
• 引き起こされた重力(英語版)(Induced gravity)
参考文献[編集]
1. ^ Jacobson, Theodore (4 April 1995). “Thermodynamics of Spacetime: The Einstein Equation of State”. Phys. Rev. Lett. 75 (7): 1260–1263. arXiv:gr-qc/9504004. Bibcode 1995PhRvL..75.1260J. doi:10.1103/PhysRevLett.75.1260.
2. ^ Padmanabhan, Thanu (26 November 2009). “Thermodynamical Aspects of Gravity: New insights”. Rep. Prog. Phys. 73 (4): 6901. arXiv:0911.5004. Bibcode 2010RPPh...73d6901P. doi:10.1088/0034-4885/73/4/046901.
3. ^ Mok, H.M. (2004年8月13日). “Further Explanation to the Cosmological Constant Problem by Discrete Space-time Through Modified Holographic Principle”. arXiv:physics/0408060 [physics.gen-ph].
4. ^ van Calmthout, Martijn (2009年12月12日). “Is Einstein een beetje achterhaald?” (Dutch). de Volkskrant 2010年9月6日閲覧。
5. ^ Verlinde, Eric (2010年1月6日). “Title: On the Origin of Gravity and the Laws of Newton”. arXiv:1001.0785 [hep-th].
6. ^ E.P. Verlinde. “On the Origin of Gravity and the Laws of Newton”. JHEP. arXiv:1001.0785. Bibcode2011JHEP...04..029V. doi:10.1007/JHEP04(2011)029.
7. ^ Overbye, Dennis (2010年7月12日). “A Scientist Takes On Gravity”. The New York Times 2010年9月6日閲覧。
8. ^ E. Verlinde, The Hidden Phase Space of our Universe, Strings 2011, Uppsala, 1 July 2011.
9. ^ The entropy force: a new direction for gravity, New Scientist, 20 January 2010, issue 2744
10. ^ Gravity is an entropic form of holographic information, Wired Magazine, 20 January 2010
11. ^ Fu-Wen Shu; Yungui Gong (2010年). “Equipartition of energy and the first law of thermodynamics at the apparent horizon”. arXiv:1001.3237 [gr-qc].
12. ^ Rong-Gen Cai; Li-Ming Cao; Nobuyoshi Ohta (2010). “Friedmann Equations from Entropic Force”. Phys. Rev. D 81(6). arXiv:1001.3470. Bibcode 2010PhRvD..81f1501C. doi:10.1103/PhysRevD.81.061501.
13. ^ It from Bit: How to get rid of dark energy, Johannes Koelman, 2010
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22. ^ Kobakhidze, Archil. “Once more: gravity is not an entropic force”. arXiv:1108.4161.
外部リンク[編集]
• It from bit - Entropic gravity for pedestrians, J. Koelman
• Gravity: the inside story, T Padmanabhan
• Experiments Show Gravity Is Not an Emergent Phenomenon
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