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月面基地が現実に? 月に巨大地下空洞発見
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「2001年宇宙の旅」や「機動戦士ガンダム」など、映画やSF小説に登場する月面基地。今は空想でしかありませんが、将来、現実になるかもしれないという研究成果が、JAXA=宇宙航空研究開発機構などの研究チームから発表されました。
10年前に打ち上げられた日本の月探査衛星「かぐや」の観測データを詳しく分析した結果、月の地下に長さが50キロにもなる巨大な空洞が存在することがわかったのです。東京の都心から江ノ島までに匹敵する長さのこの巨大空洞。宇宙から降り注ぐ放射線や300度近くにもなる月面の温度差など、過酷な環境から人類を保護し、月での最適な居住空間になるかも知れません。
JAXAの研究チームは、数万人が住む月面都市も作れる大きさだと言います。世界各国が、再び月を目指す構想を発表する中、初めて見つかった月の巨大な地下空洞はどのような可能性を秘めているのか。詳しく解説します。
(科学文化部記者 古市 悠)
地下空洞は地球の方を向いた場所に
巨大な地下空洞が見つかったのは、月面最大の火山地帯「マリウス丘」と呼ばれる場所です。「マリウス丘」は、月の表側、つまり地球の方に向いた場所にあり、地上から望遠鏡でも見ることが出来ます。
発見のきっかけとなったのは、2007年に打ち上げられた日本の月探査衛星「かぐや」の観測データです。月の軌道を1年半にわたって回りながら、レーダーなどで調べた月内部のデータを詳しく分析した結果、その存在が明らかになりました。
注目されるのは、その大きさ。幅およそ100メートル、高さ数十メートル、全長はなんとおよそ50キロにもなります。都心から江の島までが地下空洞でつながっているイメージです。
この地下空洞は、「溶岩チューブ」と呼ばれる火山の溶岩が溶けた後にできた空洞とみられていて、「マリウス丘」で火山活動が活発だったおよそ35億年前に誕生したと推定されています。
このタイプの地下空洞は地球にも数多く存在し、日本では富士山のふもとに存在します。中でも天然記念物に指定されている「西湖コウモリ穴」は観光地としても有名です。
人類の生存により適した環境
この月の巨大地下空洞が注目を集めるのは、これまで人類が住むには適さないと思われていた月のイメージを変える可能性があるからです。
月は地球からの距離が38万キロと最も近い天体ですが、地上と月面の環境は大きく異なります。大気に覆われておらず、地磁気がない月の表面には、宇宙からの放射線やいん石がそのまま降り注ぎます。
月表面の放射線量は年間100ミリシーベルトから500ミリシーベルト。地上の300倍から1400倍です。NASA=アメリカ航空宇宙局は、宇宙飛行士が一生に浴びる放射線の許容量を4シーベルト以下とガイドラインで定めていますが、人生80年とすると、月面では1年間に許容される放射線量を1か月から半年で浴びてしまいます。
さらに月面の温度は、昼は摂氏110度まで上がり、夜は摂氏マイナス170度まで下がるとされ、その温度差は300度近く。人が活動するには極めて過酷な環境です。これまで人類は1969年から1972年にかけて、アメリカのアポロ計画で6回、月面に到達していますが、滞在期間は、最長でも3日間です。
これに対し、月面の地下空洞は、中に入れば人類の生存により適した環境になります。空洞内部の温度は、推定マイナス20度。地球上のふだんの生活に比べれば寒いですが、なんとかなりそうなのです。空洞内は、気密性が高いため、出入り口を塞いで気圧や温度を調節できれば、宇宙服を着なくても、人が活動できる天然の宇宙ステーションができる可能性さえあるということです。
さらに、地下の岩石は水を含んでいる可能性も指摘されています。岩石から水を取り出す技術が確立すれば、生活用水にできるかも知れません。
研究チームによりますと、地下空洞のスペースは、数万人が生活できる規模だということです。将来、宇宙飛行士が有人探査を行うための月面基地としてだけでなく、一般の人が月面旅行を楽しむためのホテルなどを備えた月面都市も建設可能かも知れません。
JAXA=宇宙科学研究所の春山純一助教は「非常に危険な月面に対し、地下空洞は安全だ。月の地下に基地、さらに村、都市を作ることで人類の活動領域が大きく拡大すると考えられる」と話しています。
有人宇宙活動で再び月に注目が
実は今、月は、人類の宇宙活動のターゲットとして再び注目を集めています。人類が月に立ったのは、1969年から72年にかけてのアポロ計画で、その後、40年以上、月への有人探査は行われてきませんでした。
この間、人類が宇宙活動の主な舞台としてきたのは、地球の上空400キロを回るISS=国際宇宙ステーションです。アメリカ、日本、ロシア、カナダ、それにヨーロッパが共同で運用するISSでは、放射線や無重力状態が人体に与える影響を調べたり、食料としてレタスなどの野菜を育てる研究など、人が宇宙で活動していくための基礎的な研究が続けられてきました。しかし、ISSの運用は2024年までとなっていて、その後の運用方針は決まっていません。
こうした中、ISSで得られた知見を生かして、月やさらに遠い火星など「深宇宙」=ディープスペースを目指す構想が次々と発表されています。この中で月は、より遠くの宇宙に向かうための中継基地や、宇宙空間で人類が生活するための技術実証の場として注目が集まっているのです。
アメリカは今月、トランプ政権の下で初めての国家宇宙会義を開き、ペンス副大統領が、アメリカ人宇宙飛行士を再び月に送り、火星から先に向かうための基盤を作ると発表しました。
またNASAは、月の近くを回る宇宙ステーションを2020年代後半までに完成させる構想を発表していて、先月、ロシアの宇宙開発公社と共同開発することで合意しました。ヨーロッパ宇宙機関も有人の月面探査を検討していて、月の土を使って月面に基地を作る構想を発表しています。
このほか、ロシアや中国なども有人の宇宙探査を検討しています。日本ではことし6月にJAXAが2025年以降に日本人宇宙飛行士を月に送る計画を提案していて、今後議論が行われることになっています。今回見つかった地下空洞を利用する新たな有人月面探査の構想が発表されるかもしれません。
人類の宇宙での移住先?
現在、有人宇宙活動の最終的な目的地は、地球に最も近い惑星、火星です。火星は、質量がおよそ地球の10分の1。自転の周期は、地球とほぼ同じで24時間40分ほどです。月よりも豊富に水が存在するとみられ、生命が存在する可能性も指摘されるなど、人類が生存してくためには月よりも適していると考えられています。
すでにNASAが2030年代の有人火星探査を目指す計画を発表しているほか、アラブ首長国連邦が100年後の火星移住計画などを打ち出しています。さらに民間でも、アメリカの宇宙開発ベンチャー「スペースX」が将来的な火星移住を目指して2024年にも有人の宇宙船を火星に着陸させる計画も発表しています。
実際に移住するかどうかは別として、地球以外の天体に移住するための知見や技術を確立しておくことは、恐竜の絶滅など地球の歴史から考えても重要だと考えられています。これまで夢物語だった人類の宇宙への移住。ポスト国際宇宙ステーションの時代となる2025年以降の宇宙開発がどこへ向かうのか。目が離せません。
科学文化部記者
古市悠
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