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『あの日』(講談社)
STAP騒動とは何だったのか? 小保方晴子氏の静かで強烈な怒りが込められた手記『あの日』
http://www.cyzowoman.com/2016/02/post_19050.html
2016.02.23 サイゾーウーマン
STAP細胞をめぐる問題で、小保方晴子さんが理化学研究所(理研)から「ES細胞」を盗んだ容疑で、兵庫県警から任意での事情聴取を受けている――。2月18日、そんな衝撃的なニュースが飛び込んできた。これは、昨年1月に、理研OBの男性が容疑者不詳で窃盗容疑の告発状を県警に提出し、捜査が進められていた件で、現在はあくまで参考人の1人とされており、真相は不明だ。
先月28日に出版された、小保方さんの手記『あの日』(講談社)には、「私がES細胞を混入させたというストーリーに収束するように仕組まれているように感じた」と記されており、さらに大きな騒動になるかもしれない。この本は、「真実を歪めたのは誰だ? STAP騒動の真相、生命科学界の内幕、業火に焼かれる人間の内面を綴った、衝撃の手記。」というセンセーショナルな帯に包まれ、初版発行部数は5万部。発売当初は書店だけでなく、通販サイトでも手に入らないほど爆発的に売れ、最近、ようやく書店にも並び始めていた矢先のことだった。
「研究が進めば、もしかしたら夢の若返りも目指せると考えています」
小保方さんがキラキラとした笑顔で、STAP細胞についての論文発表を行ったのは、2014年の1月28日。あれから2年以上がたった。当時30歳という若さと、かわいらしい見た目で、“リケジョの星”として注目を浴び、瞬く間に時の人となった。あの日、現在のような未来が待ち受けているとは、予想もしていなかっただろう。
物語は、「あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、私はこれまでの人生のどの日を選ぶだろうか。一体、いつからやり直せば、この一連の騒動を起こすことがなかったのかと考えると、自分が生まれた日さえも、呪われたように思えます」という、絶望的な書き出しから始まる。
253ページ、全15章。第1章ではなぜ再生医療研究者を目指したのか、第2章では再生医学の分野で権威である、ハーバード大学医学部のチャールズ・バカンティ氏の研究所への留学、第3章ではバカンティ氏のすべての組織に共通する、スーパー幹細胞が存在しているのではないかという仮説を元に、現在のSTAP細胞へとつながる研究を始める経緯が綴られている。第4章では帰国し、科学的な根拠を示すために、キメラマウス(人工的に作られるマウス)作りに挑戦するべく、CDB(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター=当時)の若山照彦氏の元を訪れるところが描かれる。
それ以降、小保方さんは若山氏の誘いでポスドク(博士研究員)として働き始める。STAP細胞の論文を書きつつ、若山氏から指示された解析や実験を進めていく。そんな日々を過ごすなか、若山氏がキメラマウスの作製を独自に成功。すると、「いつでも再現できる」「iPS細胞よりすごいものを作った」と興奮し、この成果も含めて論文をまとめるよう、小保方さんに指示を出した。しかし、論文を書いてみたものの、小保方さんは自分で再現ができない。そのことから、若山氏に技術を身につけたいと懇願するが、「小保方さんが自分でできるようになっちゃったら、もう僕のことを必要としてくれなくなって、どこかに行っちゃうかもしれないから、ヤダ」と言ったそうだ。
ここから先はSTAP騒動の渦中へと突入し、もうどろどろだ。24時間マスコミに追いかけ回され、毎日新聞の須田桃子記者に関しては、取材という名目の脅迫が続いたと、名指しで怒りを爆発させている。それに加え、高圧的な調査、論文撤回……息をつく間もなく、押し寄せるさまざまなできごとにより、思考が停止するほど追い込まれていく様子が記されている。11章から最終章に至っては、いってみれば若山氏への宣戦布告ともとれる内容で、「あなたが何か捏造したのでは?」と伝わるほど痛烈に批判している。
今回の一連の騒動に関して、個人的な意見でいえば、小保方さんが科学者として向いていたかどうかは別にして、かなり同情している。世の中が、寄ってたかって攻撃してあざ笑うかのようなイジメ的なやり方は、分別ある大人としてどうなのかと思う。そのことで追い詰められ、犠牲となった理化学研究所発生・再生科学総合センター副センター長だった笹井芳樹氏の死は、無念というほかない。
しかし、そのこととは別に、本を読んだ感想としては、小保方さんのプライドの高さと怒りの感情が強く出すぎてしまって、多くの人から反感を買いそうな内容であることは否めないとも感じた。しかも、STAP細胞がある、という科学的な根拠が新たに出されているわけではないので、信じようにも信じられる要素がない。若山氏との間でどういうやりとりがあってこうなってしまったのか、若山氏との意見がまったく食い違っているので判断ができず、どうにもならないのだ。
本書の最後は、こんな文で締めくくられている。
「不思議と今でも夢を見る。心はもちろんウキウキしていて、ピペットマン(科学実験器具のひとつ)が押し返してくる感触を右手に感じる時すらあるのだ。でも、その夢から覚めた時、思い描いていた研究はもうできないんだなと思うと、胸が詰まり、涙が勝手に込み上げてくる」
小保方さんには、研究をする場がもうない。いまや県警まで動き出し、それどころではなくなっている。小保方晴子という30代のひとりの女性の人生は、今どこへ向かっているのだろうか?
(上浦未来)
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