2. 2015年10月08日 07:18:47
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京都議定書の失敗を繰り返すな COP21は「フリーライダーの祭典」 2015.10.8(木) 池田 信夫 地球温暖化、2100年までに気温2.7度上昇 報告書 ドイツ西部ボットロップにあるコークス炉から立ち上る煙(2014年12月29日撮影、資料写真)。(c)AFP/PATRIK STOLLARZ〔AFPBB News〕 地球温暖化に関する「京都議定書」が国会で批准された2002年、経済産業研究所で関係各省庁の会議が開かれた。その場で、環境省のある課長は「京都議定書の目標(1990年比マイナス6%)を達成することは不可能だ」と言った。それは最初から勝てないと分かっていて始めた日米戦争のようなものだったが、国会は満場一致で可決したのだ。 そして京都議定書は失敗に終わり、次の枠組づくりは難航しているが、11月末からパリで始まるCOP(国連気候変動枠組条約会議)21では話し合いがまとまると期待されている。日本は2013年比マイナス26%という目標を持って行くが、それは実現可能なのだろうか。 京都議定書はEUとアメリカの罠だった 1997年に調印された京都議定書は、EU(ヨーロッパ連合)の仕掛けた罠だった。わざわざ1990年という基準年を設定したのは、そのころEUの温室効果ガス排出量が最高になったからだ。社会主義が崩壊して東ヨーロッパがEUに統合され、非効率な国営工場がどんどんつぶれ、EUのCO2(二酸化炭素)排出量は大きく減少した。 放っておいても目標の2012年までには15%ぐらい減るのに、EUは7%という楽な目標を設定し、省エネが世界一進んでいた日本には6%という目標を押しつけた。アメリカは8%というもっと大きな枠をゴア副大統領が約束したが、彼が京都に来る前に、米上院は全会一致で議定書に反対していた。 つまりゴアは、どんな数字を約束しても議会が批准しないことを知っていたので、いくらでも大胆な約束ができたのだ。彼が温暖化の危機を訴えた著書『不都合な真実』はベストセラーになって映画化され、彼はノーベル平和賞を受賞したが、アメリカ政府は温室効果ガスを削減していない。 こうして日本はだまされたのだが、2010年に鳩山由紀夫首相(当時)は「1990年比で25%削減」という突拍子もない国際公約をしてしまう。この結果、鳩山政権はエネルギー基本計画を大きく修正し、2030年までに原発比率を53%にするために少なくとも14基の原発を新増設するという野心的な目標を掲げた。 しかし翌年の福島第一原発事故で、民主党政権はいきなり「原発ゼロ」に転換する。その翌年の2012年は京都議定書の期限だったが、日本の排出量は10.8%も増えたため、数千億円で排出権を中国やロシアなどから買い、目標を形式的には達成した。しかし実際にCO2を削減したかどうかは検証できず、違反しても罰則がない。 エネルギーミックスは実現できるのか 2030年までに温室効果ガスを2013年比で26%削減するという日本の目標の前提として想定されるエネルギーミックスは、次のようなものだ。 ・再生可能エネルギー:22〜24%程度 ・原子力:20〜22%程度 ・石炭:26%程度 ・LNG(液化天然ガス):27%程度 ・石油:3%程度 これが実現できると、電力に由来するCO2排出量は34%も減るというが、再生可能エネルギーのうち9%は水力で、これはほとんど増えないので、残りの13〜15%を太陽光などの新エネルギーでまかなうことになる。そのコストは固定価格買い取り制度で電力利用者に転嫁され、大きな国民負担になる。 CO2を減らすもっとも効率的な手段は原子力である。2010年のエネルギー基本計画では、2030年までに電力の半分以上を原子力で発電する計画だったが、これなら温室効果ガスの削減で経済成長を阻害する心配はない。 しかし現状で動いている原発は、鹿児島県の川内原発だけだ。それを2030年までに22%にするためには30基程度の原発が稼働する必要があるが、原子力規制委員会の安全審査は大幅に遅れている。 このペースでやると、あと15年で15基の審査を終えるのが精一杯だろう。その間に40年で廃炉というルールが適用されると、原子力の構成比は最大でも15%にしかならない、と経産省も認めている。 次の図で明らかなように、CO2の排出量は経済成長とパラレルである。2009年にはリーマン・ショックでマイナス成長になったため、排出量が減ったが、2011年以降は原発を止めたために大幅に増えた。これを正常化しない限り、CO2も正常化できない。 日本の温室効果ガス排出量(出所:環境省) 温暖化問題には原子力の正常化が必要だ 日本人はいまだに国連に対する幻想をもっているが、COPのように190カ国以上が全員一致しないと何も決められない会議で、実質的な意思決定はできない。こういう国際会議は、実際には各国の政治的宣伝の場である。 人口数万人の島国も日本と同じ1票をもっているので、延々と「温暖化で沈没する」と演説する。おまけにNGOが政府と同じ扱いで発言するので、会場は「環境より金を優先する資本主義」への非難の大合唱になる。 90年代に温暖化問題が盛り上がったのは、社会主義という宗派に集まっていた各国の反体制派が、冷戦の終了でイデオロギーを失い、エコロジーという宗派に集まり始めたためだ。3.11後は、彼らは日本の提供した「反原発」という新しいテーマで盛り上がった。 こういうフリーライダーが環境問題を混乱させている。「地球を守れ」とか「原子力村が環境を汚している」などと正義を叫ぶのは気持ちいいだろうが、問題の解決にはならない。地球環境をもっとも破壊しているのはアフリカの焼畑農業などによる砂漠化で、これを止めるほうがはるかに効果的だ。 中国では毎年、100万人以上が石炭による大気汚染で死んでいると推定される。もちろん原子力にもリスクはあるが、この50年間で全世界で死亡事故は1回だけだ。どっちが危険かは自明だが、原発は法的根拠なく止められ、電力会社は石炭火力を増設する。それは環境団体もマスコミも騒がない「政治的に安全な」エネルギーだからである。 安い石炭火力が増えると、電力会社の経営は安定するが、再エネのCO2削減効果は打ち消される。原発が動かない限り、26%削減は不可能である。安倍政権は、不可能な約束をした京都議定書の愚を繰り返してはならない。削減目標は拘束力のない紳士協定とし、日本は技術開発などの得意分野で貢献すべきだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44955 |