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対キューバ外交に見るオバマの深謀遠慮ー(田中良紹氏)
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21st Mar 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
オバマ大統領は現職のアメリカ大統領として88年ぶりにキューバを訪問している。
この歴史的訪問は昨年7月の国交回復を確固たるものとし、
アメリカとキューバの人的経済的交流を加速させる狙いがあると言われているが、
これが大統領予備選の真っただ中である事からフーテンはそれ以上の深謀遠慮を感ずる。
深謀遠慮の一つは、レーガン政権以来、反カストロ派のキューバ人を取り込むことで
ヒスパニックへの影響力を強めてきた共和党の選挙戦略を粉砕する事であり、
もう一つはウクライナ情勢で対立するロシアのキューバ接近を防ぐ狙いである。
今回の大統領予備選挙で共和党主流派が期待をかけたマルコ・ルビオも
宗教右派が推すテッド・クルーズも反カストロ派のキューバ人である。
それが「トランプ旋風」に吹き飛ばされ、また飛ばされそうになっている。
一方で2014年のウクライナ危機の際、
アメリカが黒海に軍艦を派遣するとロシアはすぐさまキューバに軍艦を派遣した。
この二つがフーテンの頭の中にある。
アメリカにとって目と鼻の先にある社会主義国キューバは厄介な存在である。
1959年のキューバ革命以来、アメリカはカストロ政権を転覆するため
何度も軍事侵攻や暗殺計画を繰り返したがことごとく失敗し、
キューバが旧ソ連に支援を求めた1962年には米ソ核戦争の危機が勃発した。
危機は旧ソ連の譲歩で回避されたが、
その後も民主党共和党の別なくどの政権でもアメリカとキューバは敵対し続け、
特にレーガン政権は1982年にキューバを「テロ支援国家」に指定、
またブッシュ(子)政権は2005年にキューバを北朝鮮、イランと並ぶ「打倒すべき独裁政権」と名指しした。
ところがオバマ大統領は一転してキューバとの国交回復に舵を切ったのである。
2009年に「核廃絶」や「イスラムとの和解」など歴代政権とは異なる外交方針を打ち出したオバマは、
就任時からキューバとの和解を考えていたと言われているが、
国交正常化交渉が水面下で始まったのは二期目の2013年と言われる。
ラテン・アメリカ出身のローマ法王フランシスコとキューバと友好関係のあるカナダの仲介によって
交渉が始まり、2013年12月10日に南アフリカのヨハネスブルグで行われた
故ネルソン・マンデラ元大統領追悼式でオバマ大統領とラウル・カストロ国家評議会議長が初めて握手を交わす。
その時には誰も正常化交渉には気付かなかった。
ところがその直後の2014年2月に開かれたソチ・オリンピックで
西側諸国の政治家がみな開会式を欠席した。
その理由として「同性愛を認めないロシアとは価値観が異なる」と言われたが、そうでない事がすぐわかる。
ロシアがオリンピックで動けない時期を狙ってウクライナで反政府暴動が起こり、
親ロシア政権が打倒されたのである。それを予知していたかのようにアメリカは、
オリンピックでのテロ対策の名目でアメリカ国民救出のためと称し黒海に軍艦を派遣した。
するとロシアはすぐさまキューバに軍艦を派遣したのである。
これでオバマにキューバとの国交正常化の理由付けが出来た。
水面下で行ってきた交渉をオバマ政権は12月に公然化させる。
翌15年4月にパナマで行われた米州機構首脳会議でオバマとカストロは
59年ぶりの首脳会談を行い、5月にアメリカはレーガン政権以来の「テロ支援国家指定」を解除、
7月には国交が回復された。
これには共和党から強い批判が出た。
共和党が「テロ支援国家」と指定し、北朝鮮、イランと並ぶ「打倒すべき独裁国家」とした国との
正常化だからである。
さらにもう一つの理由として、レーガン政権以来の共和党の選挙戦略を覆されかねない怖れがあった。
かつての共和党はアメリカ社会の上流を形成するWASP(アングロサクソン系の白人でプロテスタント)が
主流であり、民主党は労働者階級や非白人系移民、黒人などのマイノリティを支持母体に持つ政党であった。
アメリカへの移民は60年代半ばからヨーロッパからの白人よりヒスパニックと呼ばれる
メキシコ、キューバ、プエルトリコからの移民が増える。
そしてヒスパニックの人口は増え続け2050年にはアメリカ国民の3人に1人になると予測されている。
ヒスパニックの票を獲得しなければアメリカ大統領になれない時代が来るのである。
レーガン大統領は「ヒスパニックは共和党員だ。
ただ彼らがそれに気づいていないだけだ」と言って、ヒスパニックの取り込みを始めた。
レーガンが言うのは、キューバの社会主義を嫌ってアメリカに逃れてきた反カストロ派キューバ人は
共和党と同じ反共の価値観を持っているという意味である。
その期待を背負ってキューバ系の多いフロリダ州知事になったのがジェブ・ブッシュ氏であった。
彼はメキシコ人の妻を持ちスペイン語をしゃべる。
兄のブッシュ前大統領もスペイン語をしゃべるなど上流WASPのブッシュ家は
ヒスパニック対策を意識していた。
ところが今回の大統領選挙で本命と思われたジェブ・ブッシュは、
「トランプ旋風」の前に出馬断念に追い込まれ、
そしてフロリダ州を地盤とする反共主義者のキューバ人マルコ・ルビオも吹き飛ばされた。
残るはやはりキューバ人で宗教右派のテッド・クルーズがどこまでトランプに迫れるかという情勢である。
本命のトランプが「移民排撃」を掲げてヒスパニックを攻撃し、
白人の貧困層から支持されている光景は、
かつてレーガン大統領が切り拓いた反共主義の価値観でヒスパニックを取り込んだ時代が
終わりに近づいている事を感じさせる。
まるでマイノリティになりつつある白人の貧困層に共和党はしがみつき、
マイノリティから脱する勢いのヒスパニックを民主党の側に押しやろうとしているように
フーテンには見えるからだ。
そしてオバマが押し進めるキューバとの国交正常化は
共和党が反カストロ派を取り込んだ反共主義の価値観を希薄化させ、
レーガン以来の共和党の選挙戦略を粉砕する。
この大統領選挙がどのような結果になるにせよ、
共和党は根本から選挙戦略を立て直さないとこれからの選挙で勝利する事は難しいと
フーテンは考える。
また以前、北朝鮮とアメリカが韓国の頭越しに平和条約を巡る交渉を行っていた事に
注目するブログを書いたが、
ブッシュ(子)政権が「打倒すべき」と名指ししたイラン、キューバ、北朝鮮の3か国のうち
オバマはイラン、キューバと正常化を果たした。
残る北朝鮮に深謀遠慮を巡らせていないとも限らないとフーテンは思ったりするのである。
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