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フランス北部の港湾都市カレー郊外にある一部撤去が始まった移民キャンプ通称「ジャングル」で、燃える小屋の前に立つ男性(2016年3月3日撮影)。(c)AFP/PHILIPPE HUGUEN〔AFPBB News〕
「もう限界」100万人を超える難民に欧州が悲鳴 フランスは英国に警告「EU離脱したら難民を流入させるぞ」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46371
2016.3.21 山口 昌子 JBpress
ヨーロッパ各国は増加の一途をたどる難民の対策に頭を痛めている。
シリアやイラクの政情悪化にともない、安住の地を求めてヨーロッパ大陸を目指す難民は昨年だけで100万人(UNHCR:国連高等難民弁務官事務所)に達した。今年に入ってからも増える一方で、すでに13万人(同、3月初旬)を超えている。
難民の増加にともない、地元民とのトラブルも増え、「反難民」「反EU」を掲げる極右勢力や主権主義者への支持が広がっている。
■EUとトルコが驚きの取引
難民ルートは、地中海を渡ってイタリア、フランスを経由し英国を目指すルートと、トルコからギリシャ、マケドニア経由でドイツを目指すバルカンルートの2つがある。
この数年で増え続けているのが、トルコ、ギリシャ、マケドニアを経由するバルカンルートのほうだ。英国を目指すルートが昨年約15万人、今年1月以来で約9000人なのに対し、バルカンルートは昨年約82万人で、今年は1月以降すでに12万2600人である(同)。
このバルカンルートの難民流入をどう防ぐかがEUにとって大きな悩みの種となっている。3月7日にベルギー・ブリュッセルで開かれたEU首脳会議では、EU加盟28カ国の首脳に加え、トルコのアフメト・ダウトオール首相も出席。難民をギリシャからトルコに送り返すことと、EUがトルコにその見返りとして30億ユーロの支援金を支払うことで基本合意した。
ギリシャにはトルコ経由の難民が週に1万5000〜2万人到着し、4万人以上が難民キャンプでの悲惨な生活を強いられている。その内訳は、イスラム国(IS)のテロの恐怖に怯えて祖国を脱出したシリアからの難民がトップで41%、次いでアフガニスタンからが26%、イラクからが16%だ(同)。
EUとトルコのこの基本合意に関しては、「最悪だ。このような合意は状況を悪化させるだけだ」(週刊誌ヌーベル・オプセルヴァトール)と、早くも効果のなさを指摘する声が強い。
また、フランスの極右政党「国民戦線(FN)」のフロリアン・フィリッポ副党首は、「トルコはすでに多額の支援金を受け取っている。そのうえトルコはEU加盟に関する交渉の再開を狙っているのだ」と憤慨する。今回の基本合意はトルコに利するだけというのだ。
■積極的に難民を受け入れてきたドイツだが
3月13日、ドイツのバーデン・ビュルデンベルク州など3州で州議会選挙が実施された。大きく躍進したのが、反難民、反EUを標ぼうする極右政党「ドイツのための選択枝=AfD(アーエフデー)」である。
一方、アンゲラ・メルケル首相の出身母体であるキリスト教民主同盟(CDU)と、連立政権を組む社会民主党(SPD)はとともに票が伸びず、政権地盤の弱体化が危惧されている。
メルケル首相は第2次世界大戦中のナチスの蛮行への贖罪と反省の意味合いもあって、EU加盟国内では「難民受け入れ」に最も積極的だった(トルコとの基本合意では、トルコの提案を受ける形で、オランダのアフメト・ダウトオール首相とともに案を練った)。
今回の選挙結果によって、ドイツは難民対策の変換を余儀なくされるとの見方も出ている。ドイツはすでに世論を考慮して、今年1月1日から6000人以上の難民をオーストリアに送還している。
AfDは、欧州単一通貨「ユーロ」の導入に反対する反欧州統合グループが母体となっている。来年実施される総選挙でも勢いに乗って議席を獲得する可能性があり、そうなると第2次世界大戦後、ドイツに初めて極右議員が誕生することになる。
AfDは、協定参加国の間の出入国審査を免除する「シェンゲン協定」にも、「難民の流入を許す」として当然のことながら反対している(シェンゲン協定には、EU加盟国を主体に、スイスなどEU非加盟国4カ国を含む26カ国が参加している)。
「シェンゲン協定」はユーロと並んで欧州統合の具現化の象徴である。しかし、オーストリアはマケドニアからの難民流入を阻止するため、一時的に国境の審査を復活させて国境封鎖に踏み切った。ドイツ、スウェ―デン、デンマーク、ノルウエー、ベルギー、フランスも国境審査を再開している(3月中旬時点)。
極右政党や主権主義者らは「プチブルジョアが週末にビザ(査証)なしでバルセロナにサッカーの観戦に行きたいという夢を実現させただけ」「協定は失敗に終わった」などとシェンゲン協定を痛烈に批判している。
■フランスの港湾都市カレー周辺に難民が集結
フランスでは、北部の港湾都市カレーとその周辺に、英仏海峡を渡って英国を目指すアフガニスタンなどからの難民が2000年頃から集結し始めた。
カレーに近いサンガットには、仏赤十字が管理する広大な難民キャンプ(1999〜2002年)が設立され、一時は7〜8万人が収容されていた。
無秩序なキャンプ生活は“ジャングル”と呼ばれ、地元民の生活を圧迫した。地元民からの苦情で閉鎖され、一時期は数百人に減ったが、その後また増え、現在は5500〜6000人(フィガロ紙、2015年10月現在)が劣悪なキャンプ生活を送っている。
難民による窃盗事件も急増し、女性へのレイプ事件まで発生したため、仏当局は近くに収容施設を建設して移動させたり、仏各都市での滞在許可証などを与えて分散させようとしている。しかしキャンプに居残って、英国入りを狙う難民も多い。英仏海峡を往来する超特急列車ユーロスターやトラックなどに隠れて海峡を渡る者も珍しくない。
■英国がEUから脱退すると何が起きるのか
英国は6月にEU加盟の是非を問う国民投票を実施するが、フランスのエマニュエル・マクロン経済相は、「英国がEUから脱退したら、カレーの難民はいなくなるだろう」(フィナンシャル・タイムズとの3月3日の会見)と述べた。EUとしてはもちろん英国に脱退してほしくない。脱退したらカレーの国境管理をやめて難民を英国に流出させるぞという警告である。
英国のキャメロン首相も同様の趣旨を述べ、国民にEU残留を訴えている。「難民」が国民投票のカギを握っているのだ。
英国は元来、EU懐疑論者、主権主義者が多く、ユーロにもシェンゲン協定にも参加していない。とはいえ英国がEUから脱退するとなると、EUの存在理由が問われかねない。英国にとっても政治的、経済的、軍事的孤立化を招く恐れがある。
難民問題は「人道問題」でもあるだけに、欧州としては無責任に放置したり追い返すわけにはいかない。テロ組織ISやアルカイダによるテロの拡大阻止が先決問題だが、これまた難題だ。
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