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[核心]地域大国が中東を揺らす
サウジ・トルコにリスク 本社コラムニスト 脇祐三
「アラブの春」から5年。米オバマ政権が関与に消極的だったため、中東ではグローバルなガバナンス(統治)のタガが外れた。米国や欧州諸国が核開発問題でイスラム教シーア派の地域大国イランに歩み寄り、イラン封じ込めという地政学の大前提も変わった。
イスラム教スンニ派の地域大国であるサウジアラビアやトルコは、内政の延長や域内の覇権争いの思惑で動く傾向を強めている。サウジがイランと外交関係を断絶し、宗派対立が激しくなったが、両国とも直接衝突は避けようとする。当面の焦点は、イランやロシアがアサド政権を支援し、サウジやトルコが反体制勢力を支援してきたシリアでの「代理戦争」の行方だ。
サウジでは昨年1月にサルマン国王が即位した後、慎重な外交から「我を通す」外交への変化が目立つ。国王の若い息子であるムハンマド・ビン・サルマン王子が、副皇太子兼国防相として権力の中枢に加わった影響もあるだろう。
サウジはまず、シーア派の部族勢力が首都サヌアを占拠するイエメンへの軍事介入を主導した。さらに昨年12月、スンニ派諸国による「イスラム軍事同盟」を立ち上げると発表した。そしてイランとの断交だ。
それでも、スンニ派諸国がみなサウジと足並みをそろえているわけではない。アフリカのスーダン、ソマリア、ジブチはサウジに追随してイランと断交した。しかし、サウジが盟主の湾岸協力会議(GCC)加盟国の中で、イランと断交したのはバーレーンだけだった。アラブ連盟もイランへの具体的な対抗措置には踏み込んでいない。
情勢がより複雑なのはシリアをめぐる国際関係だ。
難民殺到とテロの広がりをきっかけに欧州諸国は、難民流出の元で過激派組織「イスラム国」(IS)の温床にもなっているシリアの内戦をとにかく終わらせたいと考えるようになった。この変化を見て昨年9月から軍事介入したロシアは、IS以外の反体制勢力の支配地域を狭めた。
アサド政権側は、首都ダマスカス周辺と交通の要衝ホムスの大半、アサド一族の本拠地である地中海岸のラタキア、ロシア海軍が港を利用するタルトゥスなどの支配を続けていた。だが、シリア第2の都市である北部のアレッポとは支配地域がつながっていなかった。
今年2月のロシア軍と政権側の攻勢によって、アレッポが政権側の支配地域とつながった。アレッポ以北の反体制勢力の支配地域も一気に細ったうえ、アレッポ以南と分断された。勢力図の重要な変化だ。これを踏まえてロシアは暫定停戦を提案し、ISとの戦いを最優先するようになった米国も事実上この動きに相乗りしている。
この展開にトルコのエルドアン政権が焦る。シリアの反体制勢力への物資の補給などが難しくなったからだ。
トルコと米国の不一致も深刻になった。米国は、ISと最も対抗しているクルド系勢力との連携を進めている。ところがトルコは、クルド人の勢力拡大阻止を優先する。シリアのクルド人組織がトルコでテロ組織とされるクルド労働者党(PKK)の姉妹組織であることから、トルコはこれもテロ組織とみなしてクルド系支配地域への攻撃を繰り返す。
そういう状況下でサウジとトルコは先月、シリアに地上軍を派遣する用意を示した。トルコの安全保障専門家は「シリアがロシアやイランの手に落ちると、トルコだけでなく中東全体の姿が変わり、米欧が影響力を失う」と語る。サウジのメディアには「時には軍事力の行使が不可欠。米国が動かないから、ロシアが主導権を握る」「米国が動かないなら、自ら動く」といった論説が載っている。
派兵の用意について、サウジとトルコの政府はISと戦うためだと説明するが、ロシアと偶発的に衝突するリスクも排除できないだろう。米国が同盟国であるトルコやサウジの動きを制御しないと、シリア情勢はさらに混乱しかねない。
もう一つのスンニ派の地域大国エジプトでは、統治の強化と秩序の立て直しを重視するシシ政権の姿勢が鮮明だ。シシ政権はサウジが呼びかけたイエメン介入やスンニ派の軍事同盟構想に距離を置き、シリアについてもロシアや政権側の攻勢に理解を示す。
中東のこれ以上の流動化を避けたい米欧も、強権的な統治に目をつぶって、再びエジプト支援を進めるようになった。
イランでは2月末、最高指導者を選ぶ権限を持つ専門家会議の選挙と国会選挙で、経済制裁解除にこぎ着けたロウハニ大統領を支持する穏健・改革派が躍進した。米欧との対決姿勢が強い保守強硬派の退潮で、ロウハニ政権の米欧との対話路線に追い風が吹き、イランは国際的な影響力の回復をめざす。この流れをサウジが警戒する。
シリアでは、ロシアと米国の共同イニシアチブで2月27日から暫定停戦に入った。停戦がおおむね順守されれば、国連の仲介で政権側と反体制勢力の和平協議が再開する。
風向きが変わる中で、サウジとトルコはこれからどう動くのか――。米欧のパートナーだった国を、米欧が政治的な障害と感じ始めている変化。そこに、宗派対立とは別の、新たな中東の地政学リスクが見える。
[日経新聞3月7日朝刊P.4]
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