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『ニューズウィーク日本版』2016−2・16
P.50〜51
中東を揺さぶる中国とイランの蜜月
外交:経済制裁の解除に沸くイランへの支援を惜しまない中国の存在が地域の安定化に一役買う可能性も
欧米諸国との歴史的な核合意が実現してから半年余り、長年にわたる経済制裁が解除され、原油の輸出再開にこぎ着けたイランは喜びに沸いている。ただしイランの国際社会への復帰をめぐる最大の勝者は、イランの新たな「親友」―中国かもしれない。
中国の習近平国家主席は先月下旬にイランの首都テヘランを訪問し、ハサン・ロウハニ大統領と会談した。両者は今後25年間にわたって経済・政治・軍事面での協力体制を強化することで合意。核エネルギーの平和利用から、中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」の一部である高速鉄道整備への支援まで17の合意文書に署名した。ロウハニは、両国間の貿易を今後10年間で6000億ドル規模に拡大する考えも示している。
「経済制裁の終了の恩恵を最も受けるのは中国のエネルギー企業だ。習が突然テヘランを訪問したのもそのためだ」と、中国政府の上級顧問を務めるフランス人のジャンクリストフ・イスー・フォン・プフェテン男爵は指摘する。「イランにとって唯一信頼できる国だった中国の積極的関与がなければ、(核合意は)実現しなかっただろう」
イランと中国は以前から強い絆で結ばれてきた。イランにとって中国は09年以降、最大の貿易相手国だ。近年の厳しい制裁下でも中国はイラン産原油の輸入を続け、制裁をかいくぐる形でイランの銀行を利用するなどのサポートを提供してきた。
道路や工場建設、インフラ整備への後押しも惜しまなかった。テヘラン市内の地下鉄建設や世界有数の長さを誇るトンネル建設といった大型プロジェクトを、中国はいくつも受注してきた。イラクとアフガニスタンへの米軍の侵攻に反対している点でも、両国には共通項が多かった。
イランが80年代に核開発計画に乗り出した際に、イスファハン近郊のウラン濃縮施設の建設を支援したのは中国だった。以来、両国の軍事産業面での結び付きは深まる一方。中国の軍事関係者によれば両国は先週、軍事協力に関する極秘の契約を締結しており、中国からの軍事技術や武器の提供は今後一段と加速するとみられている。
好戦ムードに傾くイラン
もっとも、それ以上に重要な意味を持つのは、経済制裁の解除によってイランの上海協力機構(SCO)加盟に道が開けることだ。SCOは中国が主導する濃やかな集団安全保障体制で、ロシアや中央アジア諸国と共にNATOのような共同体を目指している。「イランは長年、SCOへの加盟を待ち望んでいた」と、英王立国際問題研究所のサナム・バキルは指摘する。
制裁解除によって原油収入が激増する上に、中国から軍事技術が流入することで、イランが好戦的な態度を強めるのではないかと懸念する声も上がっている。「イランはアメリカが今後、イランの方針に反対しないことを知り、精神的に強気になっている」と、オクラホマ大学中東研究所のジョシュア・ランディス所長は言う。「物理的にも、戦闘に投じられる資金は増えるだろう」
実際、核合意から半年がたつなか、イランは中東地域での軍事活動を強化している。シリアでは、イラン革命防衛隊とロシア空軍による大規模な攻撃が、シリア政府軍を支援。政府軍がアレッポ近郊などの戦略上の要衝を奪還し、政府軍の拠点であるラタキアから反政府勢力を追い出すことに貢献した。
核合意を支持する多くの欧米諸国は、制裁解除でイランのこうした攻撃性が和らぐことを期待した。だが現実にはロウハニのような穏健派でさえ、中東のシーア派の権利擁護のためには強硬な態度を崩さない。「制裁の終了でイランのリベラル層は勢いづくだろう。だが彼らも戦争には反対しない」と、ランデイスは言う。「彼らはシーア派の仲間を助けたいと思っている。邪悪でイランの安全保障を脅かすスンニ派の原理主義と戦うことは正しいと考えている」
しかも革命防衛隊の幹部を含むイランの保守強硬派は、宿敵サウジアラビアやアメリカとの緊張を高めることに忙しい。先月、サウジがシーア派宗教指導者を処刑したことに反発したイランの群衆が、在テヘランのサウジ大使館を襲撃。このとき、イランの保守系テレビ局は群衆をけしかけた。10月には、イスラエルを射程に収める弾道ミサイルの発射実験をしている。
イラン国内に対立する勢力があることを示したのが、先月に米海軍の船舶2隻がイラン海域で拿捕されたときの展開だ。
結局は1発の弾丸も発射されず、拘束された米兵らは翌日に解放された。一方でイランは、両手を頭の後ろに組んでひざまずく米兵のビデオ映像を公表。革命防衛隊の司令官アフマド・ドラビは国営テレビで自慢げに語った。「アメリカ兵の弱さ、臆病さ、恐怖心を私は見た。米軍は最高の訓練を受け、最新鋭の武器を持っているが、十分な信仰と信念がないため防衛隊に立ち向かえなかった」
中国がイランとの問わりを強めれば、イランとサウジの対立が抑えられる望みもある。原油輸入の70%近くを湾岸諸国に頼る中国にとって、「中東の混乱は悪しきことだ」とバキルは言う。多くの中東諸国と強い結び付きがあり、欧米諸国よりも穏やかに彼らと話ができる中国は、この地域の重要な「仲裁人」になれるかもしれない。
覇権争いには関わらない
中国はサウジとの接近も試み、イランとの友好関係とバランスを取ろうとしている。習はイラン行きの直前にサウジの首都リヤドを訪問し、中国が投資した製油所の操業開始式典に出席。イエメンやシリアの内戦をめぐり、サルマン国王とも会談した。
ただし親しい関係を演出しても、中国は長年サウジを警戒している。90年代以降、中国の新彊ウイグル自治区ではウイグル人のイスラム教徒(スンニ派)の独立運動が盛んだが、彼らとサウジのつながりが噂されるからだ。シーア派国家のイランはウイグル人との結び付きは強くない。だから中国政府も安心して付き合える。
サウジのアデル・アルジュペイル外相は、アメリカがペルシャ湾地域に対する軍事的関与を低下させることは危険だと警告する。「空白地帯ができることを誰もが心配している。空白や真空ができれば、邪悪な力が流れ込む」と、アルジュペイルは先月にロイターに語った。
近い将来、その空白を中国が埋めるとは思えない。中国政府は「内政不干渉」を繰り返し表明している。つまり第二次大戦後のアメリカとは違い、中東の覇権争いに直接関わる意欲はほとんどないということだ。
中国はイランに大規模な投資をし、イランは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に創設メンバーとして参加した。これらはイラン経済の繁栄を促すだろう。イランの指導者たちも、自国で開花する経済を無謀な地域紛争で台無しにしたくはないはずだ。
「中国人はイラン人をビジネスマン仲問として認識している」と、中国軍に近い人物は言う。「トップの将官たちでさえ、関心があるのは戦争をすることよりも金儲けをすることだ」
オーエン・マシューズ
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