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[風見鶏]習、蔡、安倍3氏、恩讐の17年
「でたらめだ。『二国論』は李登輝(元台湾総統)の祖国分裂を図る本質的な動機を暴露した」。筆者の目の前で声を荒らげたのは、中国の習近平国家主席である。ただし、1999年9月、福建省での話だ。
日経新聞などのインタビューに応じた46歳の習氏は台湾対岸、福建省の代理省長に昇格した直後。妻、彭麗媛は国民的歌手だが、政治家、習氏を将来のトップ候補と見た人は皆無だった。
冒頭の二国論は台湾総統だった李登輝氏が提起したばかり。中台を「特殊な国と国の関係」とした中身に「一つの中国」を訴える中国が激高した。習氏がいた福建省一帯で大きな軍事演習もあり緊張が走った。
李登輝氏の二国論起草を支えたのが気鋭の政治学者、蔡英文氏。民進党の次期台湾総統だ。当時、裏方だった蔡氏を台湾トップ候補と考えた人はいない。習氏と同じだ。だが両氏は既に台湾海峡を挟んで対峙していた。二国論の作り手と、それを潰す側として。
安倍晋三首相の99年はどうだったか。森内閣で官房副長官として名を売る前である。若手議員4人で政策研究グループ「NAISの会」を立ち上げたが、やはり、将来の有力な首相候補とは見られていない。
17年の歳月が流れ、習、蔡両氏は中台トップに立つ。共に中台関係に長く関わっただけにいきなりの衝突はない。だが蔡氏は台湾「本省人」の意識を映す二国論の生みの親の一人だ。昨年、習氏との中台首脳会談に踏み切った国民党の馬英九・台湾総統とは違う。
だからこそ蔡氏は昨秋の訪日時、あえて安倍首相との密会が流布される行動を取り、その故郷、山口県まで訪れた。安倍政権との近さを演出した蔡氏は先の台湾総統選で大勝した。
安倍首相は国会答弁で「台湾との協力関係がさらに進むことを期待する。総統選は台湾の自由と民主主義の証しだ」と歓迎した。祝意を示す公式の外相談話も出た。過去にない高いレベルの祝意伝達である。それでも中国は強い反応を示していない。不可解だ。
長年、対中政策に関わる台湾政界のブレーンが、中国の出方の謎を解いてくれた。「中国は、台湾との関係が良い時、日本に強く出る。逆に台湾と摩擦があれば対日関係を大事にする。米中関係が悪い時も、中国は日本に秋波を送る」
確かに長く日本を袖にしてきた中国の対日外交、経済関係者が続々来日している。6年ぶりの日中ハイレベル経済対話(閣僚級)も視野に入る。安倍首相が施政方針演説で「中国の平和的台頭は日本にとってもチャンス」とシグナルを送ると、中国も「関係改善は共通の利益」と応じた。
心配もある。中国外務省は先に「日本課」を廃止し、朝鮮半島などを担う部署と統合した。対日関係に専念する組織が消えた意味は何か。今、習氏が日本に送る秋波は一過性にすぎず、長期、戦略的な日本重視ではない恐れがある。それならば対処は一層難しい。
日本が議長役の日中韓3カ国首脳会談は今年、日本で開く。中国外交筋は「年前半にも開かれる。李克強(中国首相)訪日はぜひ、公式訪問にしたい」と前向きだ。地方視察を含む久々の中国首相の公式訪問は関係打開への契機になる。
とはいえ李克強氏は中国共産党の序列2位だ。トップ来日は08年、当時の胡錦濤国家主席以来、途絶えている。本当の「日中正常化」は、欧州や中東など西ばかり向いている習氏自身が来日する時である。
その時期は南シナ海で対峙する米中関係と習、蔡、安倍3氏の恩讐(しゅう)も絡む中台関係が左右する。
(編集委員 中沢克二)
[日経新聞1月31日朝刊P.2]
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