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中国、ソロス氏に警戒感 人民日報「絶対にハードランディングしない」
【上海=土居倫之、ニューヨーク=山下晃】著名投資家のジョージ・ソロス氏が唱えた“中国売り”に中国が警戒感を強めている。中国は外貨準備高が減少しており、世界の投資家に強い影響力を持つソロス氏の発言をきっかけに人民元安や資本流出が加速しかねないためだ。中国共産党が「喉と舌(代弁者)」と位置づける党機関紙の人民日報や国営新華社通信は相次いでソロス氏の主張に対する反論を掲載、中国経済に対する不安払拭に躍起になっている。
「中国経済は絶対にハードランディングしない」。28日、人民日報は1面と2面にこうした記事を掲載した。ソロス氏は世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「中国経済のハードランディングは不可避」と発言し、アジア通貨の空売りを宣言した。記事はソロス氏の発言を紹介した上で、「中国の政策ツールは少なくなく、経済が下振れしても中国には対応する能力がある」と主張した。
人民日報は26日にも海外版に商務省研究院の梅新育研究員によるソロス氏への反論を掲載したばかり。梅氏は「中国経済は世界の大国のなかで相対的に好調」と強調し、人民元や香港ドルの空売りなどソロス氏による“中国売り”を一蹴した。
ソロス氏は1992年、英中央銀行のイングランド銀行を相手に回し、英ポンドを売り浴びせたことで一躍有名になった。イングランド銀行は1日に2度も公定歩合を引き上げたが防戦しきれなかった。97年にはタイのバーツなど東南アジア通貨に対する空売りによりアジア通貨危機を招いたとしてマレーシアのマハティール首相(当時)らから批判を浴びた。
ただソロス氏は現在は慈善活動に活動の軸足を移すためファンド規模を縮小し、かつてのような影響力は失われている。それでも中国が警戒感を隠さないのは、人民元を防衛するための手段が限られてきたためだ。
人民銀は昨年8月11日、人民元売買の基準となる対ドルレート「基準値」の設定方法を、前日の市場終値を参考にする方法に改めた。従来と比べて透明性が高まった半面、人民銀にとっては基準値設定の裁量が減り、人民元相場の安定のために為替介入に頼らざるを得なくなっている。
ただ中国の外貨準備は15年に約5千億ドル(約60兆円)減り、23年ぶりの減少を記録した。たび重なる元買い介入は外貨準備の減少を通じてかえってソロス氏のような投資家を元売りに向かわせる逆効果を強めている。
人民元は対ドルで約5年ぶり、上海株は約1年2カ月ぶり安値圏にある。国有メディアが指摘するように中国の経済成長率はまだ相対的な高水準を保っているが、投資家が重視する企業業績は減速が鮮明だ。
バンクオブアメリカ・メリルリンチの株式ストラテジスト、アジェイ・カプール氏は「中国企業は利益率が低下しており、市場はどこまで利益率が下がるのか見極めようとしている」という。
「人民元の空売りをしたいと思っている短期筋は少なくないが、市場の仕組み上、大規模には仕掛けにくい」(米ヘッジファンド)との見方も多い。
[日経新聞1月30日朝刊P.8]
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