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[FINANCIAL TIMES]格差が生んだトランプ現象
チーフUSコラムニスト&コメンテーター エドワード・ルース
旅先から米国に戻った時、おしゃべり好きな入国審査官にでくわした。私の英国のパスポートを返しながら、彼はこう言った。「あの時、君たちは(イスラム勢力を攻撃した)十字軍遠征をやり遂げるべきだったんだよ」。最近、似たような経験を何度もした。
米大統領選の候補、ドナルド・トランプ氏の台頭は、投票前のネタ枯れ時期の空騒ぎなのか、それとも米国政治の劇的な大変動の真っただ中にいる証左なのか。私自身、どちらか分からない。だが、直感では事態は悪い方向へ変わりつつあると思う。
この数カ月間、外国に行くたびに同じ質問をされた。「トランプが大統領になる可能性はあるのか」。恐らくなれない、というのが答えだが、この1年、経験豊かな観測筋が米国の政治について見誤っていることは留意すべきだ。
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ただ、それでもトランプ氏は共和党の指名候補にならないというのが大方の予想だ。党の指名候補になっても、大統領選挙では負けるだろう。奇跡的に勝ったら、悲惨な大統領が誕生するだろう。では「トランプ氏の人気をあおっているのは何か」。
ある共和党支持者は、トランプ氏をツェッペリン飛行船になぞらえてみせた。この飛行船はガスが充満しており、不気味な様子で我々の上に浮かんでいるが、ある日突然、爆発する。ところが爆発しても、今度はもっと多くの飛行船が姿を現す。トランプ現象はトランプ氏よりも長続きするというわけだ。
米国のブルーカラーの経済的な苦境を見ても、都市部のエリート文化に対する反発や排斥主義的な感情の高まりを見ても、トランプ氏の原動力となっている要因はすぐに消え去ることはなさそうだ。
事態が混沌として見える時、距離を置くことが全体像を見るのに役立つ。最近の日本訪問で、トランプ氏に対する関心の高さに驚かされた。日本は四半世紀にわたり、先進国世界の「病人」だった。日本は「失われた20年」を経験しており、経済成長率が経済協力開発機構(OECD)平均を大きく下回っている。
ところが、日本にはトランプ氏は存在しない。1人か2人のポピュリストの市長を除けば、日本の政治は中道派が持ちこたえてきた。右寄りの安倍晋三首相は人気があるが、それは多少の成長を取り戻したためだ。外国人恐怖症の人が劇的に増えているわけではない。日本の政治が(経済的苦境の)スケープゴートを探すことなく、中間層の閉塞感の中をうまく切り抜けてきたとしたら、なぜ米国はできないのか。
その答えは安心できるものではない。トランプ氏がこの答えを気に入る可能性すらある。米国とは違い、日本は依然として移民に対し門戸を閉ざしているからだ。日本はまだおおむね均質な社会で、それが変わる兆しは見えない。米国と比べると、日本が自国の経済問題を外国人や新参者のせいにするのはずっと難しい。外国人の数が極めて少ないからだ。
対照的に、米国は既に学校ではマイノリティー(少数民族)がマジョリティー(多数派)の社会になっており、向こう四半世紀内にすべての年齢層でその現象が起こる。さらに、米国には少なくとも1100万人もの不法移民がいる。米国の労働者が賃金停滞を、安価な賃金で働く新参者のせいにするのは簡単だ。移民はそれだけ目立つ。一方、日本の停滞には、成長力の欠如以上に、米国とは対照的に人口の縮小という問題が横たわる。
エコノミストたちは、日本の経済状況について思い悩むかもしれない。だが、一般市民は自分の懐のお金で物事を判断する。その懐のお金は、以前よりペースが緩やかにせよ、増え続けてきた。
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大きな違いは格差だ。米国では格差が急激に拡大する一方、日本では比較的小さいままだ。日本企業の経営者の報酬は平均的な従業員の67倍。これに対して米国は331倍だ。言い換えれば、米国と比べて、日本が自国民をスケープゴートに仕立てるのは難しいのだ。
日本にはトランプ氏がいないように、(左派路線の大統領候補の)バーニー・サンダース氏もいない。長期的には、米国の人口動態の方がダイナミックだ。米国では人口が増えるにつれ、経済も拡大していく。一方、日本は膨れ上がる年金受給者層の資金を賄うために、よりハードに働かなければならない。
もちろん、我々は皆いつか死ぬ。ただ、その前に、米国の有権者は今、そこにある問題に取り組まなければならない。米国は、トランプ氏が呼びかけているように外国人に門戸を閉ざしたいのか。それとも、トランプ氏の支持者は、白人の若年人口が大幅に減る中で「成長とは若さだ」という事実と折り合いをつけられるのだろうか。
(18日付)
[日経新聞1月24日朝刊P.13]
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