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イエメン・サーワ近郊で配置につくハディ暫定大統領派の武装勢力「民衆抵抗委員会」の戦闘員。サウジラビアは「民衆抵抗委員会」を支持している(2015年10月6日撮影、資料写真)。(c)AFP/ABDULLAH AL-QADRY〔AFPBB News〕
ドイツ諜報機関にダメ出しされたサウジアラビア 原油安で内政も不安定化、今やサウジは中東の火薬庫に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45495
2015.12.11 藤 和彦 JBpress
12月7日のニューヨーク商業取引所の原油先物市場は、OPECが4日の総会で減産を見送ったことから供給過剰懸念が一段と高まり、WTI先物価格は5.8%減の1バレル=37.65ドルと約6年10カ月ぶりの安値となった(その後同36ドル台に下落したが、9日時点で同37ドル台で推移している)。欧州市場でも売り込まれ、北海ブレント価格も一時5.6%減の同40.65ドルをつけた(その後同40ドル割れしたものの、9日時点で同40ドル台で推移している)。
ウィーン本部で開催されたOPEC総会は予想通り大荒れになった。議論が紛糾したため当初4時間の予定が7時間近くに延長されたが、結局減産見送りとなった。
2011年にOPECは日量3000万バレルという生産目標を設定したが、18カ月連続で生産量は上回っている。OPECは今後も、現行の生産水準(日量約3150万バレル)を維持していくとの意思表明を行ったわけである。
イランのザンギャネ石油相の「事実上の天井知らずだ。どの国も皆やりたい放題だ」との発言が示すように、OPECは実質的に生産調整を放棄してしまった。そのために専門家からは「OPECは死んだ。OPEC自身もこれを認めた」との声が多く聞かれた(12月7日付ブルームバーグ)。「つっかえ棒」を失った形の原油市場では、1バレル=20ドル台の可能性がますます高まったと言えよう。
■ドイツ諜報機関がサウジ体制の今後に不安を表明
OPEC総会の結果に何ら驚きはなかったが、筆者は12月2日にドイツの国家諜報機関である「BND」(連邦情報局)が、サウジアラビアの体制の先行きへの不安を示す異例の表明を公表した(独フランクフルター・アルゲマイネ)ことに注目している。
その内容をかいつまんで説明すれば、「2015年1月に国防大臣に就任したムハンマド副皇太子(30歳、サルマン新国王の息子)が、自分たちをアラブ世界の指導者であるかのように見せつけるために、イエメンなどで衝動的な介入政策を進めている。そのため、副皇太子の独断専行に対する王族内の不満が急拡大し、サウジアラビアの体制にかつてないほど危機が迫っている」というものだ。
この見解は筆者がかねてから主張していることと同一であり違和感はない。しかし、サウジアラビアの友好国であるドイツの情報機関がなぜこのタイミングでこのような警告を発したのだろうか。
■サウジに輸出されたドイツの「レオパルド2型」戦車
ドイツは経済面ではサウジアラビアからほとんど原油を輸入していないが、武器輸出の面で太いパイプがあるという特徴を有している。
日本が最近まで武器輸出三原則に従い外国に兵器を輸出してこなかったのに対し、ドイツは2014年に中国に抜かれるまで長らく米露に次ぐ世界第3位の武器輸出大国だった。
「アラブの春」が吹き荒れた2011年3月、バーレーンで市民が民主化を求めるデモが発生すると、隣国のデモが自国に飛び火することを恐れたサウジアラビア政府は戦車部隊を派遣して、バーレーン政府のデモ鎮圧に積極的に協力した。
その直後の7月、ドイツ政府は「レオパルド2型」という最新鋭の戦車200台をサウジアラビアに輸出することを決定する。レオパルド2型は長大な120ミリ砲を装備した62トンの巨体ながら最高時速72キロメートルという高い運動能力を有するなど世界最強の戦車の1つであり、諸外国の陸軍では垂涎の的である。レオパルト2型はデモ隊の鎮圧どころか街自体をも破壊する能力を有していることから、「殺傷能力が高い武器をサウジアラビアに輸出することは問題である」との議論を呼んだ経緯がある。
その後、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が2013年12月から社会民主党(SDU)と大連立政権を組むと、SDUの党首であるガブリエル氏が武器輸出を管轄する経済相に就任したため、ドイツの武器輸出のブレーキがかかるようになる。今年1月26日、ドイツ政府はサウジアラビアに対しても戦車などの武器輸出を中止する方針を決定した。サウジアラビアの人権抑圧政策やあまりに不安定な中東情勢を考慮した結果であると言われている。
■イエメンもISの温床に
ドイツ政府が武器輸出禁止の決定を行ったのはアブドラ前国王死去の直後である。イラク戦争で米国に軍事情報を提供するなど中東地域の情勢分析を得意とするBNDはサルマン新体制がイエメン侵攻を行うとの情報を事前に入手していたのだろうか。
BNDがサウジアラビアに対する警告を発した2日後の12月4日、ドイツ連邦議会はシリアなどで過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開するフランス軍などの後方支援を目的に、偵察機や最大1200人規模の兵士派遣を可能とする政府提出議案を可決した。これによりドイツもISのテロの標的になる可能性が高まることを懸念をしたのだろうか、ガブリエル経済相は12月6日「サウジアラビア政府は宗教過激主義者に対する資金の提供を停止することを期待する」旨の声明を発表した。
しかしテロの温床はシリアばかりではない。12月6日、中東の最貧国であるイエメンの第2の都市アデンで、ISによる車爆弾によって州知事が死亡した。イエメンもISの温床になりつつある。
今年3月、イエメンにサウジアラビアは軍事介入を実施したが、現在に至るまで膠着状態が続いており、サウジアラビア軍がレオパルト2型を主力とする地上部隊を投入する可能性も出てきている。そうなれば内線状態のイエメンで“力の空白地帯”が増大し、これにISがつけ込むリスクが高まる。
それは結果的に、ドイツ国内でISによる大規模テロが発生するリスクを高めることにつながる。このように考えれば、サウジアラビアのイエメンへの軍事介入をBNDが批判するのは納得がいくのではないだろうか。
サウジアラビアの内政も心配の種が尽きない。10月上旬から政府部局に対して倹約令が出されたが、サウジアラビアでは異例中の異例のことである。国民の反感を恐れて実施が困難とされていた国内のエネルギー価格の引き上げも検討されている。サウジアラビアの来年の賃上げ率は5.5%と予測されているが、深刻化する財政事情がこれを許すのだろうか。国内ではテロが頻発し、シリアに向かう若者が拡大し続ける中で、SNSでも体制批判の声が流れるようになったと言われている。
■中国経済の急減速で世界の原油需要がますます減少
このようにサウジアラビアは今や中東における火薬庫となりつつある。その危機を回避するには原油価格の上昇以外に他に方法はない。
米コノコフィリップスとサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのCEOは、「非OPEC加盟国の原油生産量が減少するため、原油価格は来年に回復し始める」と見通しを明らかにした(12月8日付ブルームバーグ)。だが、中国経済の急減速などにより世界の原油需要はそれ以上に減少するのではないだろうか。
第2次産業に代わり中国経済の屋台骨になることが期待される第3次産業だが、その主役を担う金融業界に赤信号が灯っている。
中国では社債発行がブームとなり、今年だけでも12兆元が発行されているが、デフォルトの波が着実に広がっている。しかし投資家たちは「最後は政府が救済する」との安心感からリスクを過小評価しているため、中国の国内社債市場はかつてないほど危険な状態になっている(2015年11月28日付英エコノミスト誌)。
李克強首相は12月4日、一部産業での供給過剰問題を2年間で解決する方針を明らかにした。しかし、「ゾンビ企業」が根絶されるような事態になれば、社債市場の投資家たちはパニックを起こすことになるだろう。
証券会社に対する締め付けもきつくなるばかりである。12月に入り、周永康・元共産党中央政治局常務委員の汚職捜査を指揮した公安部次官が証券業界に対する捜査担当に指名されたことが明らかになった(12月4日付ブルームバーグ)。現在、業界最大手の中信証券社長をはじめ幹部6人が行方不明になっており、混迷の度合いが深まっている。当局はインターネット融資事業に対しても調査に乗り出した(12月9日付ブルームバーグ)。
11月の貿易統計が12月8日に発表されたが、輸出は5カ月連続で減少し、輸入も過去最長の前年割れとなった。人民元を下支えするための人民銀行のドル売りにより11月末時点の外貨準備高は前月比872億ドル減(市場予想は330億ドル減だった)の3兆4400億ドルとなったが、12月に入っても人民元安の傾向が続いている。
「一連の経済指標が2008年の金融危機前に酷似している」と指摘する中国の専門家もおり(12月8日付ロイター)、世界の金融市場も風雲急を告げる状況にある。
■米国でジャンク債市場に異変
原油価格が一向に回復を見せないため、米国ではジャンク債市場での異変に警鐘を鳴らす報道が急増している。シェール企業最大手のチェサピーク・エナジーの株価は懸命のリストラにもかかわらず下げ止まらないため、米投資信託業界に大きな打撃を与えている(12月9日付ロイター)。エネルギー企業関連のジャンク債はベテラン投資家たちでさえ慌てるほどの急落ぶりを示している。
ジャンク債市場全体の運用成績も、リーマン・ショック後初めてマイナスになる可能性が高い。ディストレスト債(経営破綻した企業の債券)投資の世界最大手のCEOは「現在はリーマン・ショック直後以来の好機だ」と不気味なコメントをしている(12月10日付ブルームバーグ)。今後数カ月間にジャンク債のデフォルトが相次げば、ジャンク債の他のセクターも巻き込んで投げ売りを引き起こすような事態に発展し、米国の株式市場にまで悪影響を及ぶとの懸念を生んでいる(12月7日付ウオール・ストリート・ジャーナル)。
中東情勢で危惧すべきなのは、原油をはじめとする世界の需要が伸び悩む中で、「戦争経済に活路を見出すしかない」との悪魔の囁きに心を奪われる指導者が出てくることである。万が一中東で大戦争が起きれば、日本は欧米諸国と異なり原油の安定供給というエネルギー安全保障の根幹が揺らぐことになる。
日本のエネルギー業界は、制裁解除によりイランの原油開発への参入が来年再開されるとの期待から、中東地域にさらに軸足を移しつつある。だが、BNDの警告に今こそ真摯に耳を傾けるべきではないだろうか。
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