【モスクワ真野森作、エルサレム大治朋子】トルコ軍による２４日のロシア軍機撃墜事件は、ロシア政府によるトルコへの経済制裁に発展した。プーチン露大統領が２８日署名した制裁導入の大統領令により、トルコにとって重要な観光産業や農水産業は深刻な影響を受けるとみられる。制裁発表に先立ち、トルコのエルドアン大統領は２８日、国内演説で撃墜事件が「起きなければ良かった」と言及していた。ＡＰ通信は事件後初めて「遺憾の念」を表明したと伝えたが、ロシア側は正式な謝罪や賠償があるまで圧力をかけ続ける構えだ。

　今回の制裁は、（１）生鮮食料品などトルコ産品の禁輸措置（２）トルコ企業・労働者の活動制限（３）ロシア国民のトルコ観光制限−−の三つが柱。特に観光では、年間約４００万人のロシア人がトルコを訪れており、手痛い収入減となる。

　一方、ロシア産天然ガスの新たなパイプライン「トルコ・ストリーム」や原発建設などロシアがトルコで実施する大型事業や、トルコがロシアに依存する天然ガスの輸出停止といった、ロシアにとっても多大な損害が及ぶ内容は制裁に含まれていない。

　ロシアにとってトルコは第５位の貿易相手国で昨年の貿易額は３１０億ドル。輸入では食料や衣料が大きな割合を占める。制裁実施にはロシア国内でも懐疑的な見方があり、クドリン元財務相は２７日、タス通信に「国内産業の一部はトルコからの製品や部品に大きく依存しており、慎重な判断が必要だ」と指摘していた。

　ロシアでは既に、ウクライナ危機に伴う対露制裁への報復措置として昨年８月に実施された米欧からの農水産物の輸入禁止によって、一部食品の値上がりが起きている。観光分野でも、エジプトでの露旅客機爆破テロ後、今月から両国間の旅客便が運航停止され、旅行会社や中小航空会社にとって痛手となっている。

　このため露国民の間で、対トルコ制裁がロシア経済にさらなる悪影響を与えるのではないかという不安が広がる可能性がある。政府当局者は、こうした懸念を一掃することに躍起になっている。

　フェミチェフ経済発展省次官は「食品値上がりが起きる可能性はあるが、わずかなものに過ぎない」と主張。トルコ企業とトルコ人労働者が一定のシェアを担ってきた建設業界については、メニ建設住宅相が「ロシア人によって穴埋めできる」と強調した。

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