2. 2015年11月25日 05:26:09
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韓国にもたどり着いたシリア難民テロ防止法案の行方は霧の中 2015年11月25日(水)趙 章恩 韓国の主な新聞が11月19日、韓国にたどり着いたシリア難民の受け入れの実態を1面トップで取り上げた。 韓国国家情報院は11月18日、韓国にもシリア難民が200人いると国会情報委員会の会議で明かした。同院は大統領直属の情報機関である。パリで起きた同時多発テロの実行犯の一人が「シリア難民」を装っていたのを受けて情報を公開した。 国家情報院によると、2015年1〜9月の間に、シリア難民200人が仁川空港に到着した。出入国管理局はこのうち80人に「準難民地位」を認め、「人道的滞在者」として韓国内に入国することを許した。人道的滞在資格は、難民と認めたわけではないが、人道的な保護が必要として、韓国内の滞在を許可する制度である。出身国で拷問や非人道的待遇を受けたり、生命や身体の自由を侵害されたりする可能性がある外国人に適用する。 残りの120人は空港の外国人保護所に滞在して、入国審査を受けているという。外国人保護所には家族室もあり、食事が提供され、弁護士との接見も認められる。 韓国は難民法に従って難民を定義している。難民とは、人種、宗教、国籍、特定社会集団の構成員であることや政治的見解を理由に迫害を受けると認めるに十分な根拠がある人のことだ。 難民申請者、人道的滞在者、難民認定者は、国連難民協約に規定により、本人の意志に反して強制送還されることはない。シリアから逃れて来た人は、入国審査に時間がかかり空港内の施設に長期間留まらざるを得ないことはあっても、シリアに返されることはない。 法務部(韓国の「部」は「省」)の説明によると、シリア難民たちは内戦を理由に韓国に難民認定を申請している。しかし内戦は個人の属性ゆえに被害を受けるわけではないので韓国の難民法が定める難民の定義に当てはまらない。そのためシリア人は、人道的滞在者として内戦が終わるまで住むことはできるが、難民として認められるのは難しいという。 11月20日付の聯合ニュースと毎日経済新聞によると、1994年1月から2015年9月までの期間に、韓国に難民申請をしたシリア人は884人、韓国が人道的滞在者として入国を認めたシリア人は631人。難民として認められた人は3人。残りの人はまだ審査中である。パリのテロ事件が発生した直後にも、シリア人1人が人道的滞在者として韓国に入国した。 難民申請詐欺も発生 韓国の難民法や難民申請者に対する支援を悪用した事件も起きている。韓国検察は2015年8月、韓国に住むエジプト人難民ブローカーを摘発し、出入国管理法違反で逮捕したと発表した。逮捕されたエジプト人は、韓国の中小企業が招待したと偽ってエジプト人12人を入国させた。12人のうち9人は韓国に入国してすぐに出入国管理局に難民申請をした。 難民申請をすると、審査が終わるまで、わずかではあるが韓国政府が生活費を支給する。最初に韓国に入国する際に取得した在留資格の期限が切れても不法滞在にはならない。難民申請をして6カ月が過ぎると韓国内で就労することも自由だ。難民として認められれば生活保護者となり、住居費、医療費、教育費など生活に必要な最低限の費用が韓国政府から支給される。海外旅行も自由にできる。 テロ関連の人物を水際で阻止 パリの無差別テロ事件で敏感になっている世論をさらに凍り付かせる発表もあった。韓国警察は11月18日、インドネシア国籍の不法滞在者を逮捕したと発表した。この男性は、イスラム系過激派組織であるヌスラ戦線の兵士であると自らをSNSで紹介し、ヌスラ戦線の旗を振る写真を載せた。偽造パスポートを使って韓国に入国し、地方の工場で働いていたという。 さらに国家情報院は同日、テロ組織の関連人物として国際的にマークされていた外国人48人が韓国に入国しようとしたのを強制出国させた、ISの刊行物がテロ対象国として韓国を記載していたとも発表した。 シリア難民の受け入れを巡り賛否が衝突 一連の発表を受けて韓国内では「人道的滞在といってもシリア難民を無防備に受け入れていいものか」と懸念する意見と、「シリア難民こそISから逃れるため脱出した人達である。テロが起こるかもしれないからシリア難民の入国を断るという発想はあり得ない。人道的滞在としてだけでなく難民として認定すべきである」という意見がぶつかり、混乱が続いている。 世論調査会社の韓国ギャロップが11月17〜19日、19歳以上の男女1200人を対象に行ったアンケート調査で、「パリのようなテロが韓国でも起こる可能性があると思うか」と尋ねたところ、70%の人がそう思うと答えた。「韓国でテロを起こす可能性のある集団または国」については、56%が「ISなどイスラム系過激派組織」と答え、14%が「北朝鮮」と答えた。 韓国政府のテロ対応力については、61%が「能力がない」「能力が全くない」と答えた。韓国ギャロップは米国で起きた9.11テロ事件直後にも同様の世論調査をしている。その時は韓国内で同じようなテロが起こる可能性があると考える人は49%、イスラム系過激派組織よりも北朝鮮によるテロの可能性の方が高いという結果が出た。 テロ対策を巡る与野党の攻防が激化 こうした市民の不安を反映してか、パリ同時テロが起きた直後から「テロ防止法案」を早期に立法すべく与野党が話し合いを始めた。テロ防止法案は米国で9.11テロ事件が起きた直後から与野党が準備に着手したが、結論が出ないまま14年が過ぎた。反対派は、情報機関である「国家情報院」が対テロ対策の指揮をとれば、テロ防止を言い訳に人権を侵害する恐れがあると懸念している。 韓国では、国家情報院と国軍司令部がテロ防止対策を担当している。テロを起こした人を処罰する規定はあるが、テロの謀議に加わっただけでは処罰できる根拠がない。北朝鮮と共謀して韓国に危害を与える行為をした場合は国家保安法によって処罰できるが、イスラム系過激派組織に加わりテロを共謀した場合に処罰する法的根拠はまだない。 与党のセヌリ党は、1)「テロ共謀罪」の新設、2)テロ防止のため2016年度の予算を1000億ウォン(約110億円)増額、3)テロ防止のため捜査機関が金融取引の内訳を監視する際の手続きを簡素化する、4)通信の秘密を保護する法律に例外を作るべき、と訴えている。セヌリ党は国家情報院がテロ対策の中心になるテロ防止法案を主張している。 野党の新政治民主連合は、代案を模索している。テロを予防するための法的根拠は必要だが、共謀罪が人権侵害につながる可能性が非常に高く、国民を監視し怖れさせる公安統治となる恐れがあるとの理由だ。新政治民主連合は11月20日、国家情報院ではなく、大統領府と未来創造科学部が中心となってテロ対策を指揮するテロ防止法案を提案した。未来創造科学部はIT・通信・科学技術政策を担当する省庁だ。 韓国メディアも、テロ対策に関して意見が分かれている。保守派の朝鮮日報や東亜日報はテロを防止するため難民受け入れを慎重にすべきという論調。一方、進歩派と呼ばれるハンギョレ新聞やキョンヒャン新聞は、「パリ同時テロを理由にシリア難民の受け入れを拒否するのはテロに屈するのと同じ。韓国政府はテロ防止を言い訳に反政府勢力を監視したいのではないか」「こういう時こそ、冷静に考え、韓国に住むイスラム系外国人に配慮すべき」であると繰り返している。 このコラムについて 日本と韓国の交差点 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか? http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/112400024/?ST=print |