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[真相深層]焦る習氏の唐突な3特使
訪米失敗、孤立回避探る中国 「包囲網」打破へ先手
中国国防省サイトに驚くべき論文が載った。「日本海軍は開戦後、4時間で中国東海艦隊を消せるとうそぶく。笑い話とは言えない。中国は勝てなければ国際問題が国内問題になる」。共産党体制が揺らぐ恐れにまで触れ、極力、戦争は避けるべきだと説いている。
軍説得に動く
筆者は軍最高位の上将で、国防大学政治委員の劉亜洲。タカ派論客として知られる。かつての反日的な言動から一転し、尖閣諸島の問題は両国関係の重点ではないとした。対日関係を米中関係に近い「大国関係」と表現したのも異例だ。
劉亜洲らは2年前、中国崩壊を狙う米国の陰謀を軍内で宣伝する扇情的な映像を制作した。軍内タカ派勢力は2008年、日中両国が合意した東シナ海ガス田共同開発も批判していた。
軍内の基盤が弱かった当時のトップ、胡錦濤は肝煎りの合意を事実上、覆され面目を失った。「08年合意が履行されれば10年の(尖閣沖)漁船衝突の対立、12年の反日デモもなかった」。来日した中国の外交専門家が漏らした本音には、強硬派への批判がにじむ。
劉亜洲の妻、李小林は元国家主席、李先念の娘で、中国対外友好協会長を務める。革命戦争を戦った党幹部の子弟を指す「紅二代」人脈から、国家主席、習近平と太いパイプを持つ。
「習は軍の論客の口を借り対日関係修復の観測気球を上げた。だが真の狙いは対米関係だ」。中国の安全保障問題の研究者が解説する。南シナ海で米国と戦えば必ず負け、体制も揺らぐので今は戦えない、と軍を説得する暗喩だという。
習は焦っていた。原因は9月下旬の訪米失敗だ。米大統領のオバマとは南シナ海問題でぶつかり、共同声明も出せなかった。中国が埋め立てた岩礁から12カイリ内を米艦船が「自由航行」するのは時間の問題だった。
外交戦術も修正
内では軍を抑え、外では中国包囲網を破る先手を打つ――。劉亜洲論文が出回った10月前半、習は特使を三方に差し向けた。戦術修正した習の特命は難しい。緊張を強いられた3特使は慌てて目的地に向かった。
1人目は平壌入りした劉雲山。10月9日、北朝鮮トップの金正恩と会い、習の親書を手渡した。最高指導部メンバー訪朝は実に5年ぶり。冷え切った中朝関係を何とか動かし、金正恩の初訪中も視野に入れる。
第2の特使、国務委員の楊潔篪には日本行きを命じた。習政権下で初の外交責任者の訪日は唐突に打診され、数日後には東京入り。同14日には首相の安倍晋三と面会した。尖閣問題の冷却化で懐柔する一方、南シナ海への介入はけん制する。劉亜洲論文に沿った日本への秋波だった。
第3の特使は台湾担当の張志軍。同14日、中国・広州で台湾側の責任者と会い、中台首脳会談に道筋をつけた。「習が独断で決めた。国共合作の演出で、独立志向の強い野党、民進党をけん制し、南シナ海問題での孤立回避も図った」。内情を知る台湾の中台関係専門家の指摘だ。
1949年の中台分断後、初の首脳会談の見せ場はただ一つ。習と、台湾総統の馬英九が1分半にわたってにこやかに握手した場面だった。
確かに台湾も南シナ海で領有権を主張しており、中台は暗黙の連携が可能だ。とはいえ民主化した台湾に習の戦術が通用するのかどうか。総統選が迫るだけに台湾の有権者の反応は複雑だ。
10月27日の米艦の「自由航行」時、中国軍は危険な行為だけは慎んだ。劉亜洲論文による説得は功を奏したかに見える。
孤立を避けたい習はなお動く。欧州は経済力を武器に籠絡した。自ら訪英し、独仏首脳も訪中した。それでもアジアは厳しい。標的はベトナムだ。南シナ海で争う“敵地”には自ら乗り込んだ。中越は1970年代から何度も戦い、昨夏も危機一髪だった。中越関係の安定は米国に隙を与えないためにも重要とみた。
習が戦術を修正した今、日本にとって有利な形で対中関係を動かす好機である。とはいえ相手はしたたか。米国、中台、朝鮮半島、東南アジアの力学を読む確かな眼力が要る。
=敬称略
(編集委員 中沢克二)
[日経新聞11月11日朝刊P.2]
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