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[グローバル オピニオン]米の弱点突いたロシア 米ブルッキングス研究所所長 ストローブ・タルボット氏
ロシアのプーチン大統領という人物はしばしば、(戦略的な思考の持ち主を意味する)チェスのプレーヤーに例えられる。だが、実際には高度な戦術の使い手と言った方がしっくりくる。彼は柔道の選手としても知られるが、柔道の試合のように相手の弱点を見抜き、自らの力を最大限に活用するのだ。
ロシアがシリアへの軍事介入を決めた背景には、ウクライナやクリミア情勢からシリアへ、別の言い方をすれば欧州から中東へと世界の耳目を移す目的があった。奇術師がうさぎを帽子から出すトリックの肝は、人々の視線を別のところに向け、同時に別の場所で何かをやることにある。
もう一つ、プーチン氏が恐れ、怒り狂っている重要な問題がある。それは彼の政権を米国が「力」によって転覆させようとしている、と彼が思っていることだ。彼はジョージア(グルジア)、ウクライナなど旧ソ連圏内で起きた「革命」を心底、嫌悪している。ウクライナのヤヌコビッチ政権は米国によって転覆させられたと信じている。その怒りの根底にあるのは、米国がロシアの政権交代も望んでいるという疑心なのだ。
シリアのアサド大統領は彼の父の時代からロシアの同盟相手であり、そのアサド氏を西側陣営が追い落とそうとしている、とプーチン氏は見ている。建前として彼は平和的解決のための環境整備と言うつもりだろうが、本当の目的がそこにあるとは思わない。
彼は、ロシアを中心としてイスラム教シーア派の各勢力―イラン、ヒズボラ、イラクのシーア派、そしてアサド氏に近いアラウィー派をまとめた連合体を創り出した。しかし、シリア問題はシーア派だけでは決して解決しない。対立するスンニ派の意見、存在も取り込まなければならない。つまり、プーチン氏の狙いは問題解決ではなく、戦争を長引かせ、アサド政権を延命させることにある。
プーチン氏がその先に何か究極のゴールを定めているのかと問われれば、そうは思わない。彼はただ「これはよい機会だ」と思い、そこに乗じただけなのだ。そこに戦略がないとまでは言わないが、彼は基本的にオポチュニスト(日和見主義者)だ。米国などに問題解決の手立てがないと見抜き、そこを突いてきた。
その結果、米国はバタバタしている印象だけを残し、ロシアが敢然と立ちあがったように見えた。それが情勢を変えているように思わせているが、実態はアサド氏を権力の座にとどめ、米国を間抜けに見せる方策にすぎない。あえてロシアの最終的な目標を想定すれば、旧ソ連時代のような力の均衡、ロシアを中心とした新しいバランス・オブ・パワーを中東に創り出したいのだろう。
(談)
Strobe Talbott 米エール大卒。「タイム」誌の記者などを経て、1994〜2001年に米クリントン政権の国務副長官として対ロシア政策などに関わった。69歳。
[日経新聞11月2日朝刊P.4]
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