1. 2015年11月05日 07:35:50
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遅すぎた米国「FON作戦」がもたらした副作用 中国軍艦が「航行自由原則」を振りかざして日本領海を通航する? 2015.11.5(木) 北村 淳 FON作戦を実施した米海軍P8哨戒機 アメリカ海軍駆逐艦が南沙諸島のスービ礁沿岸12カイリ内水域を航行した。スービ礁は中国が人工島を建設中の岩礁である。 駆逐艦には哨戒機も同行し、上空からの偵察監視活動も実施した。本コラムで数回に渡り紹介した「FON作戦」(「航行自由原則維持のための作戦」、以下「FONOP」)がようやく実施されたのである。 (参照) 「人工島に軍用滑走路出現、南シナ海が中国の手中に」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44833) 「ホワイトハウスが米海軍に圧力『中国を刺激するな』」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44877) 「日本がじれったい米国〜南シナ海の中国人工島がどれだけ日本を脅かすか分かっているのか?」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45040) FON作戦を実施した米海軍「ラッセン」 実態は“穏やか”、誤解されがちなFONOP あくまでFONOPの目的は、海洋での航行自由原則の侵害に警告を発するデモンストレーションである。中国による南沙諸島人工島の領有権そのものを否定するための軍事的威嚇が目的ではない。 遅ればせながらとはいえ、アメリカ政府がFONOPの実施にゴーサインを出したのは、「航海自由の原則はいかなる海域においても維持する」というアメリカの国是がいまだ健在であることを改めて目に見える形で示したという点で評価できる。 しかしながら、このようなFONOPの国際海洋法的意味合いは、「領有権紛争への圧力」といった方向へと誤解されたり、曲解されたりしてしまっているのが実情である。 実際に、中国当局は「アメリカ海軍の今回の活動は中国領海内での“軍事的威嚇”であり、国際海洋法に違反する行為である」と非難している。これは、明らかにアメリカ海軍によるFONOPを「中国の領有権紛争に対する介入」へとねじ曲げるための反応である。 米海軍の防御能力を凌駕してしまった中国の対艦ミサイル もっとも、少なくとも第一列島線内海域において極めて強力な海洋戦力を手にしている人民解放軍にとって、アメリカ軍が今回実施したFONOP程度では、現実的な軍事的脅威にはならない。それどころか、軍艦や航空機を繰り出してFONOPを実施するアメリカ海軍側が今回以上の“挑発的”なFONOPを実施するには、人民解放軍からの対艦対空攻撃に怯えざるを得ない状況になってしまっている。 すなわち、オバマ政権下での国防予算の大幅削減に伴って、アメリカ軍の戦力は過去数年間にわたって低下し続けてきている。もちろん量的縮小を質的向上で挽回しようという努力は行われているものの、東アジア海域における海軍戦力の停滞は否定しようがない事実である。 それに反比例して人民解放軍の海洋戦力(艦艇、航空機、そして何よりも長射程ミサイル)が強化され続けているのは、これもまた否定しようがない。 このため、アメリカ海軍関係戦略家たちは「我々が停滞している間に、人民解放軍の持続可能なOPTEMPO(作戦進行速度)は米軍を上回ってしまっている。いくつかの兵器システム、とりわけ対艦ミサイルに関しては我々の防御能力を凌駕してしまった」と嘆いている。 当事者であるアメリカ海軍関係者たちは、このような事態に立ち至ってしまったことに改めて“軍事状況の変化”を痛感しているというのが実情である。 FONOPのタイミングがあまりにも遅すぎた アメリカ太平洋艦隊参謀を務めていた退役将校は、かねてよりFONOPを主張していた。しかし、永らくホワイトハウスがそれを許さなかったことに対して、次のように怒りを隠さない。 「この程度の単純なFONOPを今頃実施するくらいならば、我々がすでに数年前から主張していたように、南沙諸島での定期的なFONOPを継続していれば良かったのだ。そうすれば、中国側も大騒ぎをせずに我々の警鐘を受け止めることになったであろう。 しかし、人工島がほぼ完成してしまい、米連邦議会でFONOPを実施すべきであることが取り上げられ、さらにそれから数カ月経ってようやくゴーサインが出るという事態は、まさに戦略的大失敗の一言に尽きる。 ホワイトハウスの優柔不断な態度によって、FONOPが実施されるのか否かに関して内外のメディアなどが注目してしまったために、中国側も“大仰に”反応せざるを得なくなったのだ」 もちろん米海軍関係者たちは、「FONOPの実施そのものはアメリカが公海自由原則の守護者であることを表明するためには必要である」という点に関しては異論はない。しかし、上記のようにタイミングがあまりにも遅すぎた点を批判しているのである。 FONOPを口実に地対艦ミサイルを設置か 今回のFONOPに対して、中国当局は「領域紛争への介入であるアメリカ軍艦による中国領海12カイリ水域内航行には断固抗議する」との態度を表明した。それだけでなく人民解放軍は、南シナ海に対する前進拠点である永興島にJ-11戦闘機を展開させ“アメリカの軍事的威嚇”に備える姿勢を示している。 人民解放軍が永興島に展開させたJ-11戦闘機 ここまでは、今回のFONOPが予期していた通りである。しかし中国側の反応は、おそらくそれだけでは済まない。 「中国共産党は“FONOPによって中国の主権が著しく脅迫されている”と言い立てて、“中国の領土”である南沙諸島をアメリカ軍の侵攻から防御することを口実として、7カ所の人工島に地対艦ミサイルと地対空ミサイルを設置するであろう」と予測する海軍関係者も少なくない。 つまり、タイミングが遅かったFONOPのおかげで、人民解放軍に対して“正々堂々”と各種ミサイルシステムを人工島に配備させる“立派な口実”をアメリカ自身が与えてしまったのである。そして、人民解放軍が持ち込むであろう地対艦ミサイルと地対空ミサイルの中には、アメリカ海軍にとって防御困難な極めてやっかいな代物が少なくない。 このように「純軍事的には、中途半端なFONOPと引き換えに、人工島の要塞化を後押ししてしまったかもしれない」のである。 FONOPにはFONOPを 今回のアメリカ海軍のFONOPは、中国が建設している人工島、スービ礁、の沿岸12カイリ以内の水域を駆逐艦ラッセンが単に航行して通過しただけである。追尾していた2隻の中国軍艦に対して(中国海軍が時折行うように)レーダーを照射したり砲口を向けたりしたわけでもなければ、12カイリ内水域で各種調査活動を行ったわけではない。 軍艦を派遣した側の真意がいかなるものであれ、軍艦が沿岸12カイリ内水域を「ただ通過」しただけならば、それがある国の領海内であろうがなかろうが、何ら国際海洋法に抵触する行為とは見なされない(もっとも、どこの国の領海とも見なされない沿岸12カイリというのは南極沿岸だけである)。 したがって、「中国が今回のFONOPを逆手にとって、アメリカや同盟国に対する“中国版FONOP”を実施するかもしれない」という警戒の声も上がっている。 すなわち、次のような可能性があるというのだ。 「数週間前に中国海軍小艦隊がアリューシャン沖12カイリ内水域を航行した(本コラム「アラスカ沖のアメリカ領海を中国艦隊がパレード」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44738)ように、中国艦艇がグアム沖やハワイ沖で『無害通航』を実施し、公海自由原則の尊重を逆アピールするに違いない」 「それだけではない。調子に乗って、人民解放軍軍艦が尖閣諸島(中国側によれば中国領域だが)や沖縄、それに東京湾口沖12カイリ内水域を『無害通航』しないとも限らない」 アメリカのFONOPに支持を表明した日本としても、中国海軍艦艇による日本領海内での“中国版FONOP”に備えなければなるまい。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45163 |