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時論公論 「ロシア軍事介入 新局面のシリア内戦」
石川 一洋 解説委員 / 出川 展恒 解説委員 2015年10月10日 (土)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/229220.html
(出川展恒 解説委員)
内戦が続くシリアでは、先月30日、ロシアが空爆作戦を開始しました。
ロシアは、過激派組織IS・イスラミックステートを排除するためとしていますが、アメリカなどは、事態を複雑化させるとして強く批判しています。
新たな局面を迎えたシリア内戦について、ロシア情勢担当の石川一洋解説委員とお伝えします。
(出川)
石川さん、まず、ロシアの空爆作戦、どのように行われているのか、簡単に説明してください。
(石川一洋 解説委員)
ロシアは、ソビエト時代を含めて、これまで中東への直接の軍事介入は避けてきましたが、 今回の空爆は、この「不介入政策」を大きく転換するものです。ロシアは、地中海沿いのラタキア郊外の空港に40機あまりの空軍部隊を展開させ、空爆を始めました。
7日には、カスピ海から巡航ミサイルによる攻撃を始めました。 攻撃地点は、シリア北部のラッカ付近などISの拠点も攻撃していますが、主に、アサド政権側の支配地域と反政府勢力の境界付近を攻撃しています。
アサド政府軍と密接な連携が見てとれます。
ロシアは、ISなど「イスラム過激派のテロリスト」を攻撃しているとしていますが、アメリカなどは、IS以外の反政府勢力を攻撃していると非難しています。
(出川)
4年前に始まったシリアの内戦は、当初、アサド政権 対 反政府勢力の攻防でしたが、 去年、ISが台頭し、いわば「三つ巴」の戦いになっています。アサド政権をロシアが支援し、反政府勢力をアメリカを中心とする「有志連合」が支援しています。
ただし、反政府勢力と言いましても、さまざまな集団の寄せ集めで、内戦の構図は、非常に複雑です。
アサド政権は、ISと反政府勢力の攻勢を受けて、支配地域を次々と失い、シリアの西部を中心に、国土の4分の1程度しか統治できなくなっていると指摘されています。
石川さん、ロシアが、シリアへの空爆に踏み切った理由をどう見ていますか。
(石川)
理由は3つあります。
▼第1に、アサド政権を支援し、存続させること。
▼第2に、ISがロシアにとっても、現実的な脅威となっていること。
▼第3に、中東地域への影響力を回復・拡大することです。
(出川)
私も、ロシアの軍事介入の背景には、事実上の同盟関係にあるアサド政権を崩壊させたくないという、強い危機感があると思います。
(石川)
ロシアはイラク戦争でフセイン政権を失い、いわゆる「アラブの春」でリビアのカダフィ政権を失いました。
ソビエト時代からの友好国・中東の足場として残っているのは、アサド政権だけです。
またISは、ロシアにとっても、現実的脅威です。ISには、チェチェンなどロシア出身者が多数参加しています。
仮に、アサド政権が崩壊すれば、ISなどイスラム過激派がシリアを支配し、地理的に近いロシアが標的となると恐れています。ロシアへのISの侵入を防ぐ「防波堤」という意味でも、アサド政権を維持する必要があるのです。
(出川)
もう1つは、中東地域への影響力の回復ということですが、ロシアは、ウクライナ問題で国際的に孤立していましたね。
(石川)
はい。ロシアは、アメリカの対シリア政策が破たんし、大量のシリア難民が、ヨーロッパ諸国に押し寄せ、国際的な関心が高まったタイミングをとらえ、空爆作戦に踏み切りました。
イランとイラクという2つの地域大国からの協力も得て、シリアを加え、4か国共同の情報センターを設置しました。
「ISとの戦い」という旗印の下、一気に中東での影響力を回復して拡大する狙いがあるのです。
(出川)
しかし、なかなか、ロシアの思惑通りにはならないと思います。とくに、アサド大統領をどうするか、その処遇をめぐる対立が大きな障害です。
アメリカ、ヨーロッパ諸国、トルコ、サウジアラビアなどは、大勢の国民を殺し、死に追いやったアサド大統領には、もはや正統性がないとして、 退陣を強く要求しています。
これに対し、ロシアとイランは、アサド大統領を退任させることに強く反対し、軍事的、政治的支援を続けています。
石川さん、ロシアは、巡航ミサイルを使った攻撃など、シリアでの軍事作戦を強化していますが、事態をいっそう悪化させることになりませんか。
(石川)
大きなリスクがあります。シリアでは、アメリカ主導の「有志連合」も空爆を続けています。
米ロは、軍同士の情報交換を続けているとしていますが、すでにロシア軍機がトルコの領空を侵犯したり、米ロの空軍機が接近したり、偶発的な衝突が起こる危険性が高まっています。
また地上では、ロシアがアサド政権軍に、アメリカが反政府勢力に、それぞれ軍事支援しており、米ロが「代理戦争」の深みにはまる恐れが出ています。
(出川)
アサド政権、反政府勢力、ISと色分けしましたが、各勢力が入り乱れ、激しい攻防を繰り広げており、支配地域は刻々と変わります。
また、反政府勢力の中で、「ヌスラ戦線」という、アルカイダ系のイスラム過激派組織が急速に台頭しています。
これに対し、アメリカなどが支援してきた「自由シリア軍」という、アサド政権から離反したシリアの元軍人などでつくる組織は弱体化しました。これは、アメリカにとって、大きな誤算でした。
また、アサド政権と、事実上の同盟関係にあるイランの動向も重要です。
イランの精鋭部隊である革命防衛隊が、シリア国内に派遣されたという情報もあります。
(石川)
イランの動きはとても重要です。ロシアの情報筋は、私に対し、「空爆はロシア軍が行い、地上作戦はアサド政府軍とイランの革命防衛隊が行うだろう」と述べています。
(出川)
イランは、イスラム教シーア派の地域大国で、スンニ派の地域大国サウジアラビアと熾烈な覇権争いを繰り広げています。
それだけに、イランが本格的に介入すれば、宗派対立の要素も加わって、シリアの内戦は、周辺国を巻き込んだ地域紛争に発展する恐れもあります。
(石川)
それだからこそ米ロの妥協が重要です。アメリカは、現在はアサド大統領の「即時退陣」にこだわらず、「移行期間」の必要性を認めるようになりました。
また、ロシアも、反政府勢力の中で、これまで敵対してきた「自由シリア軍」とは協力する用意があるとしています。そこに妥協を見出す余地があるように思えます。
(出川)
目下、ロシアとアメリカが一致できる点とは、シリアの内戦に軍事的な解決はなく、政治的な解決が必要だということです。アサド政権と反政府勢力、そして、関係国が交渉を通じて、 内戦終結に向けた妥協点を見出さなければなりません。
ところが、アサド政権に代わる新しい政権を誰が担うのか、「政権の受け皿」をどうするのかという大きな問題があります。
すでに述べたように、反政府勢力は、アルカイダ系の「ヌスラ戦線」も含め、 異なる目標や背景を持つ政治勢力が、全くバラバラに行動しており、「政権の受け皿」となりうる、しっかりとした組織がありません。
内戦を終わらせるとりくみは、お先真っ暗です。
(石川)
結局、アメリカもロシアも互いの国益にこだわる中で、政治解決への道筋が見えなくなっています。
ロシアにしても、今のままのアサド政権では、シリアの統一は回復できないことは理解しています。
先行きが暗いからこそ、アメリカとロシアが、アサド政権と反政府勢力、さらに、宗教や地域の代表を含めた円卓会議のような交渉の枠組みを始めることで協力しなければなりません。
(出川)
内戦を終わらせる取り組み、外交交渉は非常に大切ですが、すぐに成果を期待できない状況ですから、人道危機への対応を最優先に考えるべきだと思います。
シリアでは、人口のおよそ半数が、住む家を追われ、避難生活を送っています。 国内避難民には、食料さえ満足に届いていません。このまま冬を迎えれば、とてつもない悲劇が待っています。
1人でも多くの命を救うためには、どうすればよいか、そういう発想に立って、最も有効な対策を、国連を中心に推し進める必要があります。とくに常任理事国のアメリカとロシアが、共有できる最小限の目標を設定し、 実行に移してゆくべきで、もう一刻の猶予も許されません。
(石川一洋 解説委員/出川展恒 解説委員)
- プーチン大統領 テロ対策と空爆の成果強調〜ロシア国内でテロ組織のメンバー、560人余りを拘束も/nhk 仁王像 2015/10/21 20:17:03
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