1. 2015年10月16日 10:55:12
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混迷する朝鮮半島 核兵器を片手に北朝鮮主導の朝鮮半島統一へ北朝鮮、党創建70年記念パレードから見えたもの 2015年10月15日(木)武貞 秀士 劉雲山・中国共産党政治局常務委員(左)と共に軍事パレードを観閲する金正恩第1書記(写真=AP/アフロ) 10月10日、北朝鮮が、朝鮮労働党創建70年を祝う軍事パレードを実施した。ここから何が読み取れるか。
演説で中国に言及はしなかったが… この日、午後になってようやく始まった軍の閲兵式は異例づくめだった。まず、女性兵士の踊りで幕が開いた。行進する女性兵士の数は前回のパレードより増えた。金正恩第一書記がただ一人の来賓、劉雲山・中国共産党政治局常務委員にリラックスして説明する姿が印象的だった。自分がプロデュースした軍事パレードだと説明していたのだろう。金正恩第一書記の演説には3つの注目点がある。 第一に、米国の存在を意識していた。「自分たちの軍の力は米国が望むどんな形の戦争にも対応し、祖国の青空と人民を守れる」というくだりは、米国との核戦争に勝つと宣言をしたものであり、核弾頭を搭載できる大陸間弾道弾を保有するに至ったことを示唆している。北朝鮮は最近、米国との核戦争になれば米国も被害を受けるという発言を繰り返していた。 第二に、演説では中国についての言及が全くなかった。朝鮮労働党は中国共産党との長い友好の歴史があり、党と党の緊密な関係を考えると異例だった。ただし、朝鮮労働党70周年に中国共産党との友好関係を語ることがなかったのは、冷却した中朝関係を意味しているのではない。 冷却していたら中国は、大量破壊兵器を行進させることが明白である平壌での軍事パレードに、政治局常務委員を派遣することはなかった。金正恩第一書記が観閲の壇上で、劉雲山常務委員の手をとって挨拶することもなかったはずだ。むしろ、強力な軍隊を保有するようになったのは朝鮮労働党の単独の業績であると強調するために中朝協力の歴史には言及しなかったのだろう。 70周年行事に習近平国家主席が出席しなかったのは当然だ。金正恩第一書記がまだ北京を公式訪問していないからだ。 第三に、演説は党と人民の関係について多くを割いていた。「我が党が信じることができるのは、偉大な人民だけだった」と述べ、人民重視の姿勢を強調したのは、金正恩第一書記が人民の生活向上を重視し、食糧の増産、電力事情の改善、干ばつと洪水への対策を重視しているからである。 軍事パレードで米東海岸を攻撃する能力があること誇示 行進した武器に関して、注目すべき点は、やはり三つある。 T-34という古い戦車を行進させた。ヘリコプターの飛行はなく、ミグ29の姿もなかった。だが、新型の300ミリ多連装ロケットが行進した。2013年5月、日本海に向けて6発を発射したことがあるものだ。この多連装ロケットは一度に複数の弾頭を発射するので、防御することは難しい。200キロ先の目標を破壊できるので、38度線から200キロ以内の距離にある大田(テジョン)まで届く。ここには韓国の陸海空軍の本部がある。韓国が最大の脅威と見ている武器である 最大のハイライトは大陸間弾道弾のKN08だった。2012年4月15日のパレードのときとは違い先端が丸くなっていた。北朝鮮のテレビのナレーションが「多種化、小型化した核弾頭を搭載した戦略ロケットが敵の牙城を火の海にする報復の意志を持っています」と説明していた。1万2000キロを飛翔する、ワシントン、ニューヨークを射程に入れたこのロケットが、すでに弾頭の小型化を終了したと誇示したかったのだろう。「米国とのいかなる戦争にも勝つ」という金正恩第一書記の演説に関連する武器であった。 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は今回、行進しなかった。2015年5月に実験をした際、金正恩第一書記が現場で視察をしていたものだ。この水面下から発射するミサイルは、技術的に難しく、まだ完成していないからだろう。 テポドンミサイル発射なし 北朝鮮の関係者らが長距離弾道ミサイル発射を示唆していたが、10月14日現在、発射をしていない。その理由はいくつかあるだろう。中国が序列第5位の常務委員を観閲式に派遣したので、北朝鮮は中朝関係に配慮した。米国ほかの国際社会の警告が効いた。ミサイルの発射準備がまだ整っていなかったことなどである。 なかでも、北朝鮮が大量破壊兵器技術を急速に発展させており、自信を深めていることが重要だ。あえて、外交的リスクを冒して発射をする必要はないと考えたのだろう。2012年12月、テポドン2号改良型の実験を成功させた時、北朝鮮は同国製の部品を多数使っていた。技術的に発射実験を急ぐ必要がないのであれば、10月16日の米韓首脳会談など、外交上の動きを注視しながら、ミサイル発射の時期を決めるのではないか。 米韓関係が疎遠になるのを機に米朝正常化目指す 北朝鮮の動向で目立つのは自信である。北朝鮮の眼には、韓国が積極的な対中接近策を取ったことで、米国と韓国の関係がギクシャクすると見えるだろう。 その中国は、軍事的、経済的、政治的に北朝鮮にとってのスポンサーである。北朝鮮軍ミサイル部隊が使用する運搬車両は中国から輸入した車両だ。中国から北朝鮮に向けた原油供与は続いているし、資源の国際価格が下落しても中朝貿易は横ばいだ。北朝鮮の核開発について中国は「核兵器を持たざるを得ない背景を考えるべき」と言ってくれる。米中対決のムードのなかで東アジアの動向は北朝鮮にとって悪くはないと北朝鮮は判断し、国際情勢を楽観している。 北朝鮮は、核兵器開発と経済再建を並行して進める路線を取っている。米東部を核兵器で攻撃することが可能になったと米国が信じるときまで、核開発を続ける。北朝鮮が大陸間弾道弾を完成したら、米国は米本土を危険にさらしてまで世界の警察官の役割をすることを放棄すると金正恩第一書記は読んでいる。 核開発が最終段階に近づいたので、これから北朝鮮は、米朝関係正常化を急ぐだろう。米朝不可侵協定を締結し、在韓米軍を撤退させ、米韓同盟の終焉を見届けながら、米朝国交を樹立することへの期待を高めるだろう。北朝鮮は核兵器開発が進めば進むほど、対米国交正常化に熱心になってきた。米国の軍事介入を阻止する枠組みができたときには、南北間交流を進めて北朝鮮主導の統一を図るにちがいない。 8月、38度線で地雷が爆発したあと、南北協議で6項目合意ができたのは、北朝鮮が積極的に南北融和策に乗り出したからだった。米韓関係がギクシャクすればするほど、北朝鮮は離散家族再会事業復活、開城工業団地拡大、金剛山観光事業再開への期待を高めることになる。 北朝鮮は10月10日の行事で中国との良好な関係を発展させることを確認した。北朝鮮は沿海州の経済発展をてこ入れするというロシアのプーチン政権の新東方政策との連携を進めており、羅先市の経済特区への投資をロシアが拡大することに期待しているだろう。 核兵器を片手にした北朝鮮主導の朝鮮半島統一 日本に関しては、拉致問題解決の優先順位は低下している。北朝鮮は、昨年3月、日朝赤十字協議に応じ、特別調査委員会を設置するなど、日朝関係を重視していた。いまは朴槿恵政権との協議、中国とロシアからの投資と支援、米朝協議の模索を優先しているように見える。 これらの政策を推進する金正恩体制の内部に、権力抗争が起きている気配はない。黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長、崔龍海(チェ・リョンヘ)国家体育指導委員会委員長、朴永植(パク・ヨンシク)人民武力部長、李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長らの側近が支えるなかで、権限を一手に握って統治をしている。 大陸間弾道弾KN08に小型化した弾頭を付け、300ミリ多連装ロケットを行進させた金正恩第一書記の次の一手は、南北融和策と対米関係正常化になる。そこに「核兵器を片手にした北朝鮮主導の朝鮮半島統一」というグランドデザインが見えてきた。 武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏 拓殖大学大学院特任教授。 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院修了。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国は日本をどれほど嫌いか』、『北朝鮮深層分析』、『恐るべき戦略家・金正日』、『東アジア動乱』など ■変更履歴 記事掲載当初、3ページ目で「朴永植(パク・ヨンシツ)」としていました。正しくは「朴永植(パク・ヨンシク)」です。お詫びして訂正します。[2015/10/15 11:10] このコラムについて 混迷する朝鮮半島
朝鮮半島の動向から目が離せない。 金正恩政権は、事実上のミサイル実験と見られる「人工衛星打ち上げ」を計画。 この成否は、日本に対する核の脅威を変質させる可能性がある。 金正恩氏の政治基盤の安定にも影響する。 一方、韓国では4月に議会選挙が、12月に大統領選挙が予定されている。 現・李明博大統領は日米と緊密に連携している。 しかし、次期政権が同様とは限らない。 韓国の動きも、北朝鮮の変化も、日本の政治・経済・社会に直接の影響を及ぼす。 その変化をウォッチし、専門家の解説をお送りする。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230558/101400002/
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