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試練続く欧州(上)統合と分断が同時進行
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投稿者 あっしら 日時 2015 年 10 月 14 日 16:28:18: Mo7ApAlflbQ6s
 

試練続く欧州
(上)統合と分断が同時進行

遠藤乾 北海道大学教授

 欧州連合(EU)に難民が押し寄せ、域内で対立が絶えない。EUはどこに向かうのか。構図は簡単ではない。


 ギリシャ発のユーロ危機、ウクライナをめぐるロシアとの対立、スペインの極左政党ポデモスに代表される反緊縮ポピュリズム(大衆迎合主義)のうねり。これに加えて、日に1万人弱の難民が押し寄せ、その数は今年、100万人に達すると見込まれている。EUが多重の試練にさらされているのは確かである。

 しかし、瓦解まで語られるEUの「危機」には誇張が含まれている。

 まず、ユーロ危機については構造的な問題が残っているが、2月3日付本欄で論じたので、そちらに譲りたい。

 次に、ウクライナ危機はこう着状態にあり、欧米とロシアの対立は続くものの、状況が極端に悪化しているわけではない。その対立は、EUの分解よりもむしろ結束を強める方向に作用する。EUのどの加盟国も、一国ではロシアに太刀打ちできないからだ。

 さらに、ポピュリズムの挑戦にしても、EUの転覆につながりそうにない。ギリシャでは、急進左派連合(SYRIZA)政権が今年3度目の全国的選挙を経て緊縮財政を受け入れ、中道・穏健化した。今年12月のスペインでの総選挙では政権交代もありうるが、ギリシャ債務危機のてん末を受け、有権者も対抗政党も穏健化した。反緊縮が大きなうねりになるには、より多くの政治勢力が結集する必要があるが、仮にそうなったとしても、それはEUの瓦解ではなく再編に向かう契機となるだろう。

 これらに比べて、シリアなどの内戦を契機に今夏に激化した難民の流入は、規模が甚大で、EUへの影響も大きいように映る。ただし、それがEUにとって歴史的に未曽有の性格のものか、議論の余地がある。

 というのも、1990年代のボスニア紛争から生じた難民を、当時12カ国からなる欧州共同体(EC)は91年に約67万人受け入れた。2001年には、コソボ紛争と米同時多発テロ(およびアフガニスタン攻撃)が重なった時期にも、当時15カ国のEUは42万人を受け入れた。現在28カ国のEUにとって、100万人という数は、天地がひっくり返るほどの規模ではない。

 もちろん、問題は総数のみで語れない。まず、難民流入のスピードが、しばしば受け入れ国の能力を超える。また、この間EUでは、域外との境界管理システムが実効的に整備されなかった一方、シェンゲン協定により域内自由移動が深化してきた。そうした状況下での難民流入であることには留意が必要だ。

 加えて、国内の同質性の高い(特に東側の)加盟国は、イスラム系の人々を外から受け入れた経験に乏しく、受け入れを進めるドイツなどとの間で対立が深まっている。また、難民流入を失業、犯罪、テロと結びつける人は多く、受け入れ国内でも対立が見られる。将来、極左・極右勢力の伸長につながる可能性も排除できない。

 EUでは、ユーロ圏と同様に、統合と分断の双方が同時に進行しているのが実情である。裏返して言うと、これは、EUの全面崩壊でも理想的な連帯のどちらでもない。

 現在進行形の対立は、EU域内の自由移動が東西にまたがり全面化したこと、つまり統合が進んだがゆえに起きている。一方で、統合は後戻りが難しい。いったん国境を撤廃してしまえば、EU市民であれ、外から流入した非市民であれ、制御は困難である。いきおい、対策は外向きにならざるを得ない。難民の制御が困難なギリシャなどに対してEU共通の域外境界管理を課したり、震源地のシリア周辺への共通の支援政策も増強したりする必要が生じよう。

 他方、統合は分断を伴う。例えば域外からの難民受け入れをEUとして進めるとき、それは統合でもあるのだが、実態は国別の割り当てとなる。自由移動が原則ゆえ、実際に難民が、割り当てられた国に居続けるのかどうかは疑問だが、それでも国別に難民を埋め込まざるを得ない。

 その背後にあるのは不信である。難民への手当てが厚い高福祉国家からすると、放っておけば、難民は自国に集中してしまうし、域内の低福祉国はそれを見て見ぬふりをするだろうという不信がある。逆側から見ると、慣れない移民を受け入れるという主権的決定を、一方的に押しつけられた感覚が残る。こうして、共通化(つまり統合)と不信・分断が並行して進む。

 人々は対立劇に焦点を当てがちだ。しかし、欧州でその対立が繰り広げられるフォーラム(場)が、なぜEUの首脳・閣僚会議であり続けるのか、という問いは希薄である。

 近年のユーロ危機や難民問題をめぐり、EUやユーロの首脳たちはほぼ月に1回のペースで会っている。10〜12年のユーロ危機のさなかに独仏首脳は、40回近くも顔を突き合わせていた。財務関係の閣僚の行き来も激しい。つまり、対立にもかかわらず、EUで問題を集合的に対処するしかないという高次の合意は揺らいでいないのである。

 その合意は、主に加盟国エリートによるものだが、それを下支えしているのが、各国の政党政治の相対的な安定である。前述のように、反EUのポピュリズムは言われるほど吹き荒れてはいない。特にドイツは、加盟国の中で概して親EUの政党政治が最も安定している。あまり指摘されないことだが、これがEUを根底から支えているのだ。

 逆に言うと、ここが綻んで、反EU政党の支持なしに政権や予算が成立しなくなると、EUは真の意味で危機に陥るだろう。しかし今のところ、その兆候は見られない。

 問題は、統合とともに埋め込まれる分断の中身である。当然、難民の入国を許すのと、社会に受容するのとは異なる。とりわけその多くがイスラム教徒であるとき、表現の自由や男女平等などの価値をめぐる紛争が見込まれる。

 ここでも、EU各国の包摂政策は収れんしており、共通化の素地ができている。というのも、加盟国が自国独自の価値として受容を迫るものの内実は、自由や平等にほかならず、ほぼ同一だからだ。しかし、その欧州基準が、預言者ムハンマドの風刺画や女性のベールをめぐり、実質的にイスラム教徒(ムスリム)の慣行や価値と衝突するとき、国ごとの分断とは異なる分断がイスラムとの間に生じる。

 もう一つの分断は、ユーロやシェンゲン協定の形で先行統合した大陸欧州と、そこから外れた英国などとの間にあり、それは深まっている。

 ユーロ圏では構造的問題に取り組むため、今後、銀行同盟など機能的統合を深化させざるを得ない。同様に、シェンゲン協定においても、難民認定の迅速化(統一手順・基準など)、境界管理のテコ入れ、紛争隣接国への支援など、統合圧力が強まるだろう。実際、それらの一部は既に現実のものとなっている。

 問題は、英国がおおむねそれらの枠外にあって、動きの速い日々の実務的統合からさらに外されながら、17年末までにEU残留を問う国民投票を実施する予定ということだ。これはまるで裂けゆく体の一部を、一体だと主張し続けるような曲芸となろう。

 崩落はしないが、統合の度に分断を内に埋め込むEU。そのドラマは単純ではない。

ポイント
○EUは過去にも大量の難民受け入れ経験
○各国首脳らが頻繁に協議する姿勢は不変
○大陸欧州と英国の分断は深まりつつある

 えんどう・けん 66年生まれ。オックスフォード大博士(政治学)。専門は国際政治

[日経新聞10月7日朝刊P.30]

 

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