4. 2015年10月07日 06:33:20
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中国脅威論が台頭する米国、有名大学には空前の寄付金またも同じ間違いを繰り返した米中首脳会談 2015.10.7(水) 渡部 悦和 ローマ法王、米国に到着 オバマ大統領一家ら出迎え 米首都ワシントン郊外のアンドリューズ空軍基地で、到着したフランシスコ法王を出迎えるバラク・オバマ大統領(2015年9月22日撮影)〔AFPBB News〕 中国の習近平国家主席が米国を公式訪問したが、中国側にとってはローマ法王の訪米と重なる最悪のタイミングであったし、対立が顕著であった米中首脳会談を経て極めて気まずい訪問となったと思う。 中国側は、習主席の訪米のタイミングがローマ法王の米国訪問と重なることにかねて懸念を示していたが、その懸念通りになってしまった。 米国のマスメディア特にCNNなどのテレビ局は終日ローマ法王のワシントンDC、ニューヨーク訪問を報道し、習主席の米国訪問はほとんど報道されなかった。米国民にとってローマ法王の存在感に比し習主席の存在感はなきに等しい状況なのである。 首脳会談全体の評価については厳しい論評が米国においても日本においても多いと思う。外交的に合意を演出して見せたが、合意事項の今後の実行に関しては疑問が残るという評価であろう。 バラク・オバマ政権は中国の国家ぐるみのサイバー作戦に対して事前に経済制裁をちらつかせるなど従来に比し厳しく対応する姿勢を見せた。 8月末にスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官を中国に派遣し、米国企業に対しサイバー戦により情報を窃取した中国企業25社を経済制裁の対象であることを通告したという情報もある*1。 しかし、結果的には制裁は表明されなかった。また、南シナ海における中国の人工島建設についても米中の主張が対立したまま実質的な成果がなかった。オバマ大統領は、米国の国益を毀損する中国の不当な言動に対して断固たる姿勢を示すことができないという過去何回も犯してきた同じ間違いを繰り返してしまった。 オバマ政権は、政権誕生以来6年以上にわたり「中国の平和的台頭を期待する」と言ってきた。しかし、中国の現実は、東シナ海や南シナ海における不法な活動、米国などに仕かける不法なサイバー戦などで明らかな様に決して平和的な台頭ではなく強圧的な台頭であった。 オバマ大統領は、首脳会談の前に、「米中の対立が不可避であるとは思わない」と発言したが、「米中の対立は不可避である」と私は思う。 米国で生活していると、米国内には中国をいかに認識し対処するかに関し多様な意見があることを実感する。米国内の対中認識に関しては3つのグループに分けると理解しやすい。 第1のグループは、中国の横暴な現実に直面しても主張を変えず、「中国との対話を重視し、中国を国際社会のルールを守り世界の諸問題の解決に貢献する国家に導くべきだ」という意見である。 第2のグループは、かつては中国との対話を重視したが、中国の現実に接して自分たちの対中国認識が間違っていたと反省し、中国に対して厳しく対応すべきであると主張を変えた人たちである。 第3のグループは、昔から一貫して中国の覇権主義的な本質を理解し「中国の台頭は強圧的になる」と主張してきた人々である。 *1=9月29日付朝日新聞記事 ここボストンではハーバード大学を中心として第1グループに該当する教授たちが多い。一方、ワシントンDCのシンクタンクの研究者の中には第2のグループに該当する人達が相当数いる。国防省の職員や軍人には第3グループに該当する人たちが多い。 最近の全般的な傾向としては、中国に対してより厳しい姿勢で対応すべきだと主張する人たちが多くなってきたと思う。 オバマ大統領は、中国に対して寛容な指導者であり、第1グループに該当する。そのため、国内外の多くの人々から「中国の本質を理解しない、中国に対して弱い大統領である」と批判されてきたのである。 今回の米中首脳会談を観察すると、さすがのオバマ大統領も習近平主席が率いる中国の横暴ぶりを少しは認識したのではないか。もしそうであるとすれば、その認識の変化が今回の米中首脳会談の最大の成果であろう。 しかし、オバマ大統領の残り任期は1年3か月ばかりであり、対中認識の変更は遅きに失した。オバマ氏の次の大統領に期待するしかないと思う人は米国のみならず、アジア太平洋地域の同盟国や友好国にも多いのではなかろうか。 本稿においては、米中首脳会談についてサイバー戦と人工島問題に絞って評価するとともに、問題となっている米国の対中認識について代表的な意見を紹介し、「米中の対立は不可避である」ことを結論とする。 1 米中首脳会談の主要な合意事項と疑問 今回の首脳会談における主要な合意事項に関しては、米中投資協定交渉の加速や気候変動に関し途上国向け金融支援の表明などの合意があるが、米国で最も注目されたサイバー・セキュリティ分野での合意や南シナ海における人工島建設問題での合意に関しては様々な問題点があるので以下で説明する。 (1)サイバー・セキュリティ分野での合意と疑問 今回の首脳会談における最大の対立点の1つがサイバー・セキュリティであることをオバマ政権は様々なチャンネルを通じて中国側に伝達してきた。米国企業に対するサイバー犯罪を繰り返す中国企業に対する経済制裁をちらつかせてもいた。 そしてこの分野における合意事項も発表されたが、いずれの合意事項もオバマ大統領が発言したように「今回の合意は一歩前進だが、我々の仕事は終わっていない」のである。 結論的に言えば、中国はこの合意を守らないであろう。中国経済の発展や軍事力の増強はサイバー戦などで窃取した情報や技術に負うところが大きかったからである。中国経済の変調が明らかになった今、米国をはじめとする外国企業などからの技術情報の窃取なくして中国経済の発展は容易でないからである。 ホワイトハウスの発表文の「サイバー・セキュリティ」の合意内容は以下の通りであるが、合意内容を子細に点検すると抜け穴が多いことに気づく。 ●サイバー犯罪などに関し、「それぞれの国内法および関係する国際的な責務に従って協力する」と記述されている。下線部が問題で中国は中国の国内法に基づき協力することになるが、この記述は実質的に「中国は自国に不利益になるような協力はしない」ということを意味する。 ●米中両国政府は、サイバー作戦による知的財産(貿易上の秘密やその他のビジネス上の秘密を含む)の窃取の実行や支援をしないことに合意した。しかし、この合意は守られないであろうという意見が多い。 中国の過去のサイバー作戦は国家ぐるみで実施してきたが、習主席が発言したように、「13億の国民をコントロールするのは難しい」とサイバーによる窃取を個人の責任にし、「中国政府は関与していない」と言い逃れることができる。 ●「2015年7月の国連情報と通信分野における政府専門グループの報告書を歓迎する」と記述されているが、これは中国の従来からの主張であるサイバー作戦に関しては国連における合意を追求すべきであるという主張に符合し、その本音は国連の合意や決議は有名無実化することが容易である点にある。 ●サイバー犯罪などと戦う「ハイレベルな統合対話メカニズム(high-level joint dialogue mechanism)」を設置することに合意し年間2回協議するとしている。しかし、現在存在する実務者レベルのサイバー戦に関する対話枠組みに中国は極めて消極的な対応しかしてこなかった。 残り1年3か月余りしかないオバマ政権と中国側が真剣に協議するとは思えない、ハイレベルなメカニズムは中国側の時間稼ぎの手段となろう。 以上を総括すると、米中対話により合意されたとする内容はいずれも問題を抱えていて、将来に期待の持てる合意ではない。米中が決定的な対立に陥ることを避けた妥協の産物であり、またもやオバマ政権はサイバー戦分野において断固たる決定打を放つことができなかった。 一連のオバマ政権の対応を観察していると、交渉相手に見くびられても仕方のない脆弱さを感じるのである。 (2)南シナ海における人工島建設問題 米中の軍用機の偶発衝突事故を回避するための行動規範で合意したとあるが、過去にもこのような行動規範で合意しているが、中国軍機による危険な接近飛行がしばしば報告されている。合意した行動規範を末端のパイロットまで徹底できるか否かが重要である。 習主席は、人工島建設の問題で人工島を軍事化しない(No Militarization)と初めて公に明らかにした。しかし、彼の発言が実際の人工島の活動に効力を発揮するか否かは疑問である。 彼の発言は、彼の部下たちがジョン・ケリー国務長官らに言ってきたことと同じだからである。中国は従来から、「海洋の安全、気象のモニター、それに従事する者の生活環境の向上のための設備だ」と主張している。 しかし、IHSジェーン・ディフェンス・ウィークリーによるとファイアー・クロス・リーフ(Fiery Cross Reef)の人工島の2マイルの滑走路は完成し、ヘリパッドも設置されている。航空機によるパトロールの可能性を指摘している。 No Militarizationの定義を明確にすべきである。人工島で戦闘機を使わないことか、ミサイルを配備しないことか、港を軍港化しないことなのか、防空識別区を設定しないのかなどの質問に答える必要がある。 この人工島問題に関連して、有力なシンクタンクであるCNAS(Center for a New American Security)の研究員であるパトリック・クローニン(Patrick Cronin)*2氏の米国下院外交委員会アジア小委員会における証言「南シナ海における米国の安全保障上の役割」は参考になる。 彼は中国を極めて冷静かつ緻密に分析する研究者であり、その証言で「アジアにおける海洋の緊張は増大するし、継続するであろう。中国はスローモーション覇権(長い時間をかけて獲得する覇権:slow-motion hegemony*3)を南シナ海全域で達成するだろう」と主張している。彼の証言の要約を紹介しておく。 「南シナ海における米国の安全保障上の役割」(要旨) ●数年前から、南シナ海における熾烈な競争の時代に入った。 ●アジアにおける海洋の緊張は増大するし、継続するであろう。しかし、その緊張関係は軍事紛争には至らない状態で推移すると思われる。 ●米中間で大きな交渉の成果や戦略的な和解が求められるが、米国は、次期政権に至るまで、「戦争と平和の間の不確かな中間の道(the messy middle ground between war and peace)」を航海するであろう。 ●南シナ海における競争の主要な要因は、「21世紀における主要なグローバル・パワーの地位を確保する」という中国の目標と、その目標達成の過程で、近隣国や隣接海域においてその影響力を拡大しようとする中国の能力と願望である。 ●南シナ海は単なる岩、岩礁、資源の問題だけではなく、世界経済と強く結びついている。すべての海洋パワーは南シナ海に依存している。 ●ルールと秩序がアジアと南シナ海における米国の国益の中心(the heart of America’s interest)。 ●中国は戦略的地位を高めるため、サラミ・スライス戦術を採用し、エスカレーションを避けながら、現状を徐々に変更している。 ●南シナ海における島の建設は、国際法に基づき南シナ海を統治することなく、現状を変更する試みであり、同地域での優位性を確保し、近隣諸国を威圧することを意図している。これは中国の三戦に合致している。 ●中国は軍事費の伸びについて現在のペースを維持するであろう。弾道ミサイルや巡航ミサイルへの投資は、米国の精密攻撃の優位性を侵食している。 ●中国は、東シナ海、南シナ海および台湾周辺の海・空・宇宙・サイバーのドメインを支配するために費用対効果のある施設を建設している。 *2=クローニンは氏、CNASのアジア太平洋安全保障プログラムのシニア・アドバイザー兼シニア・ディレクターである。 *3=slow-motion hegemonyとは、パトリック・クローニン氏が使用する単語で、中国がサラミ・スライス戦術を使いながら、徐々に獲得していく覇権のこと。 2 学者、シンクタンク、マスメディアの中国に対する認識の違い ハーバード大学の中国を専門とする教授の対中国認識は概して中国に寛容である。学問的に突き詰めて研究すると、「中国と対話し、国際社会のルールに従うように導くことが重要である」という結論になった人もいるであろう。 しかし、他の様々な要因も考えられ、中国や香港からの多額の寄付金が影響しているという指摘もある。 ちなみに、ハーバード大学は全米一の寄付金を受けているが、2014年9月にはハーバード大学史上最大の3億5000万ドルが香港の大富豪兄弟から寄付され、公衆衛生大学院の名称が「ハーバード大学THチャン・スクール」となった。 また、中国の不動産会社からは中国人留学生の奨学金として1500万ドルが寄付されている。これらの寄付は大学にとっては貴重であり、中国批判の論調を抑制する効果はあると思う。 (1)プリンストン大学トーマス・クリステンセン(Thomas J. Christensen)*4教授の主張 中国研究で有名なトーマス・クリステンセン教授の最新刊“The China Challenge”の出版を受け、同名のタイトルの講演を受講した。 クリステンセン教授の対中国政策の特徴は、中国に対する一般的な「関与(engagement)とヘッジ(hedgeing)」戦略の「関与」を重視する立場であり、中国との対話、中国を世界的な諸問題の解決に責任を果たすことを期待する立場である。 そのため、関与が失敗した時のヘッジの手段である軍事ではなく、関与の手段である外交を重視する立場である。クリステンセン教授の経歴が外交官であったことが彼の主張の大きな要因となっていると思う。 クリステンセン教授は、中国と米国の軍事対立の可能性は低いと評価している。また、予想し得る将来にわたって中国の軍事力は米国軍事力に追いつけないと評価している。 中国が今にも世界を支配する段階であるという一部の北京ウォッチャーの見方を否定する。また、国防省や安全保障のシンクタンクが考えている、最悪のシナリオとしての米軍による中国本土への攻撃に対しても批判的である。 中国国内で起こっていることに対しては批判的だが、とにかく「中国の話をよく聞くことが大切である」と主張し、交渉しようという意見である。 外交について、「成功する外交は、問題に対処 (manage) したり、即座に解決するということではなく、中国の大国としての台頭を受け入れ、奨励し、他国に対する不法な行為を差し控えるようにさせることが重要である。成功は、一方で強さとタフさが必要であるが、他方で中国に耳を傾け、安心させることが必要である」と主張している。 中国側が主張する「米国の対中政策は、基本的に中国をダウンさせることであり、中国を分裂させたり、西欧化するための封じ込めや中国包囲の政策である」というプロパガンダは中国国内の批判を国外に向けさせるためのものである。 米国の対中政策について、「米国の対中政策は、冷戦下のソ連や1950〜60年代の中国に対する封じ込めではない」と説明した。 しかし、教授は「中国は発展途上国(developing country)であるから仕方がない」という表現を数回使用したが、私には違和感があった。 中国が発展途上国であることの説明に「1人当たりGDP(国内総生産)がエクアドルと同じであり、誰もエクアドルにグローバルな統治に大きく貢献しろとは言えない」と発言したが、この説明は中国がしばしば使用する表現であり、私には納得がいかなかった。 中国は経済的にも軍事的にも世界第2位の大国であり、アジアにおける覇権国である、と認識するほうが自然であろう。 私が教授に、『シカゴ大学教授のミアシャイマー*5がその著書「大国政治の悲劇」の中で、中国の平和的台頭はないと言っているがどうか』と質問したが、「ミアシャイマーは間違っている。彼の考えは危険である」と極めて率直に答えた。ミアシャイマーの主張が気に入っている私としては同意できない回答であった。 *4=クリステンセン教授は、プリンストン大学の「戦争と平和の国際政治」の教授である。2006年から2008年まで国務次官補代理(東アジア太平洋担当)として中国・台湾・モンゴルを担当した。 *5=John J. Mearsheimer。シカゴ大学教授でネオリアリズムの代表的論客である。 (2)マイケル・ピルズベリー(Michael Philsbury)*6氏の「百年マラソン」 中国は米国にとって代わる世界覇権を目指していると断定するマイケル・ピルズベリー氏の“The Hundred-Year Marathon”を紹介する。 ピルズベリー氏は「私は数十年にわたり、中国に技術的・軍事的支援を与えるよう、米中の政権を駆り立てる派手な役回りを演じる時があった」と赤裸々に自らの失敗を告白している。 そして、「中国政府は最初から中国主導の世界秩序を構築する隠された計画を持っていた。米国の対中戦略が米国の歴史の中で最も組織的かつ重大で危険な失敗であった」と結論づけている。 そして、ピルズベリー氏は、中国の極秘文書を根拠に、「共産党指導部に影響力をもつ強硬派が、中国建国100周年の2049年までに、米国に代わって世界の支配者になることを目指している」と暴露する。 習主席周辺の強硬派は、「2049年目標」を隠そうともせず、公然と「100年マラソン」と呼んでいるという。 彼が指摘する中国に関する間違った仮定は以下の5点だという。そしてこれらの仮定がすべて間違っていたというのである。 1.関与(engagement)は完全な協力をもたらす。 2.中国は民主化の過程にある。 3.中国は壊れやすい花である。 4.中国は米国のようになりたいと思っているし、現実に米国のような国である。 5.中国のタカ派は弱い。 つまり、中国に対する関与戦略は中国側の協力をもたらさなかったし、中国は民主化しようなどと思っていないし、中国は壊れやすい花ではなく周囲を圧倒する強い存在だし、中国は決して米国のような民主主義国にはなろうとしていないし、中国のタカ派は強い影響力を持っているのである。 そして、中国の戦略には9つの原則があるとしているが、代表的なものに「勝利を獲得するためには何十年もまたはそれ以上の間、忍耐強くあれ」、「敵のアイデアや技術を戦略的目的のために盗め」、「覇権国は、圧倒的な地位を確保するために極端な向こう見ずですらある行動をとることを認めよ」などがある。 クリステンセン教授とピルズベリー氏の意見の違いは大きい。私は、ピルズベリー氏の意見を支持するが、クリステンセン教授のような関与に重点を置く教授はハーバードやMITに多い。 エズラ・ボーゲル教授の考えもクリステンセン教授の考えに極めて近い。それに反し、ワシントンDCのシンクタンクの外交問題評議会(CFR:Council Foreign Relations)やCNASなどは中国に厳しい見方をしている。これが民主主義国米国の多様な意見の一例である。 *6=ニクソン大統領からオバマ大統領まで長年中国の専門家として国防省、ハーバード大学、ランド研究所などに勤務。現在、ハドソン研究所の中国戦略センター長。 (3)CFRの論文「米国の対中大戦略を修正する」(“Revising U.S. Grand Strategy Toward China”) CFRのロバート・ブラックウェル(Robert D. Blackwill)氏とアシュレィ・ティリス (Ashley J. Tellis)氏がその論文“Revising U.S. Grand Strategy Toward China”で、中国に対して従来の関与を主体とした寛容な対処ではなく、より強力な対処をすべきであると主張している。その要旨は以下の通り。 ●中国のグランドストラテジーは、アジアにおける最大のパワーである米国にとって代わることである。 ●中国に対しては、支持や協力を強調するよりもより圧力や競争に重きを置くべきである。ヘッジよりもより積極的な対処が必要である。 ●従来の米国の中国に対する寛容な政策は、米国の死活的に重要な国益を擁護するものではなかった。 ●米中の競争が新たな通常(new normal)となる。 ●中国の米国に対する批判は以下の5点であり、突き詰めると「中国がアジアにおける主導的なパワー(leading power)として米国の立場にとって代わる」ことを主張している。 1.米国のアジアにおける同盟システムは冷戦の産物であり、解体すべきである。 2.米国のアジアにおける同盟国と友好国は米国との連帯を緩めるべきである。そうしないならば必然的に中国のネガティブな対応を招くことになる。 3.米国のアジアにおける現在のプレゼンスとパワーは中国封じ込めの試みであり、非難されるべきであり、抵抗すべきである。 4.米国のアジアにおける戦力投射能力は危険であり、削減されるべきである。 5.米国の経済モデルは、基本的に搾取的であり、アジアには適用できない。 (4)ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のオバマ政権批判 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、9月25日付の社説「中国の新世界秩序(Beijing’s New World Order)、中国の侵略には米国のより力強い対応が必要である」においてオバマ政権を批判しているが、正論である。 社説の主要部分を以下に紹介する。 WSJは、ケ小平が1979年に中国共産党のトップとして初めて米国を訪問して以来、米国の主要貿易パートナーとして、また責任ある世界の大国として台頭する中国を積極的に支持してきた。 しかし、今や中国が米国との関係や世界秩序の規範を再定義しようとしているのを無視するわけにはいかない。習主席の下、中国政府は自国を米国のパートナーではなく、戦略的ライバルと見なしている。 中国の外交政策は次第に攻撃的かつ無法になっている。これはオバマ政権にさえ明白になった現実だ。米国はこうした態度に抵抗する意志を示す必要がある。 中国の無法ぶりは海上とサイバー空間で最も顕著だ。中国によるサイバー戦による窃取は史上最大の窃盗と言えるだろう。中国は必要性が明白な改革を一段と進める方針を示しているが、これまで経済的略奪者になることがあまりにも多かった。 米国は数十年にわたり、中国政府のナショナリスト的な強硬手段に対して静かな反応しか示さず、一方で中国を世界経済に組み入れようと試みてきた。 米国の目的は、冷戦後の秩序の中で責任ある「ステークホルダー(利害関係者)」になるよう中国を懐柔することだった。だが中国は米国の自制を「利用できる弱み」だと見てきたことが次第に明らかになっている。 地域の覇権国家、ひいては世界の支配的パワーになりたがっているライバルに対し、米国はそれにふさわしい、より力強い対応をする必要がある。特に国家安全保障の分野で、略奪的な行為を断固として押し返すことが必要だ。 ホワイトハウスが取り得る対応の1つは、米海軍の艦船を南シナ海にある人工島の12カイリ(約22キロメートル)内に入り込ませることである(そこは公海上である)。米国が渋れば、中国は自国が主張する領有権が黙認されたとみなす。 米国はまた、データを盗んだ中国企業に制裁を課すべきだ。次の大統領は米国の経済成長を復活させて防衛を建て直すことに注力し、太平洋の軍備を見直すべきである。 無法な行動に対して明確な線を引き、中国が計算を間違える可能性を減らすことだ。中国の指導者が侵略行為の代償に気づくのが早ければ早いほど、彼らが後退する可能性は高くなる。米国の政策立案者にとっての課題は、危機や衝突に見舞われる前に自らの考えを早く改めることだ。 3 結論としてのジョン・ミアシャイマー教授の「大国政治の悲劇」 オバマ政権は、6年以上にわたり「関与」を重視して中国に対処してきたが、堪忍袋の緒が切れる時期が来たのではないか。少なくとも次期米国大統領が誰になったとしてもオバマ大統領よりは強い態度で中国に対処するであろう。 オバマ大統領が米中首脳会談前に発言した「米中の対立が不可避であるとは思わない」という発言は、ミアシャイマー教授の「大国政治の悲劇」を意識した発言だったかもしれない。 ミアシャイマー教授は、「大国政治の悲劇」の中で「中国の台頭は平和的なものにはならないし、新興覇権国の中国は必然的に覇権国である米国と対立する」と主張している。 そして、「米国は世界唯一の地域覇権国として、ライバル大国の出現を絶対に許しておらず、米国は中国封じ込めのために多大の努力をするだろうし、中国のアジア支配を不可能にするためには何でもするであろう」とまで書いている。 確かに、オバマ大統領以前の大統領は、ライバル大国の出現を許して来なかった。その点でオバマ大統領は、歴代の米国の大統領とはずいぶん違う柔らかい大統領である。彼には「ライバル大国の出現を絶対に許さない」という姿勢は見られないし、「中国の封じ込めはできないし、適切ではない」と言っている。 ミアシャイマー教授の主張とは反対の外交政策をとってきたのである。しかし、その対中関与政策は破綻している。だからより強い対中政策を求める声が高まっているのである。 繰り返しになるが、次期大統領が誰になるにしろ対中政策はより厳しいものになるであろう。そして、その政策はミアシャイマー教授が主張するようにライバルである中国の強大化を許さないものになるのではないかと思うのである。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44933
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