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豪新首相、バランス外交へ
前政権の「親日」修正どこまで 対中接近に注目
オーストラリアの与党・自由党の党首が交代し、首相に就任したターンブル氏(60)の内閣が21日に発足した。アボット前首相を「この国に必要なリーダーシップを発揮できていない」と追い落としたターンブル氏は、同性婚を容認するなどリベラル寄りの穏健派とされる。前政権の親日的な外交姿勢や防衛政策を、どこまで修正するだろうか。
「これは生まれ変わりだ」。ターンブル首相はアボット前政権との決別を強調した。内閣は閣僚の半数を入れ替え、顔ぶれを一新。女性閣僚が2人から5人に増え、世代交代も進んだ。
最大のサプライズは、国防相に対外的には無名のマリース・ペイン上院議員を起用したこと。初の女性国防相となったペイン氏は、上院の外交や貿易、防衛委員会で活躍した政策通だ。
国防相の有力候補と目されたクリストファー・パイン前教育訓練相は、産業イノベーション科学相に回った。同氏は造船業が集積する南オーストラリアが地元。国防相に就けば日本やドイツ、フランスが競う「将来潜水艦」の共同開発パートナー選定で中立性に疑問符がつく恐れもあった。
ただ、パイン氏は今後も産業政策を担当し、潜水艦の国内建造を主張する可能性が高い。国内建造を露骨に進めないものの、一定の道筋を付けた手法は、ターンブル氏のしたたかなバランス感覚を物語る。
豪政府は「性能、価格、国内雇用の3点から共同開発相手を決める」と発表。世論対策として雇用重視を打ち出したが、判断の基準はあいまいだ。もし日本を選べば日米豪の連携は深まるが、潜在的脅威とみなす中国の反発は必至だ。
「注意深く、バランスの取れた外交が必要だ」。ターンブル氏は21日、中国との外交に関してABCテレビのインタビューでこう語った。ビショップ外相は前政権時代、中国の東シナ海の防空識別圏設定に強く抗議した。しかし、ターンブル氏の発言は温度差があり、中国に自制を求めつつ直接的な批判は避けた。
実は、ターンブル氏は中国と浅からぬ因縁がある。実業家だった同氏は94年、河北省などと合弁で亜鉛鉱山開発を手掛けた。息子のアレックス氏は、中国共産党員で中国政府に助言する立場にいた要人の娘と結婚している。
中国メディアはターンブル氏の首相就任を歓迎している。特に、同氏の8月6日の講演は中国側の歓心を買った。「広島と長崎に原爆が落とされて25万人が亡くなったが、第2次世界大戦では1千万人の中国人が亡くなった」と指摘。「豪州と中国が対日戦争で同盟国だったと忘れないことが大切だ」と言明した。
豪シンクタンク、ロウイー研究所の非常勤フェロー、マルコム・クック氏は「(新政権で)日豪関係の発展ペースは鈍るだろう」と見る。「アボット氏と安倍晋三首相は親しく価値観が似ていたが、ターンブル氏はより実利的だ」と説明する。
新政権が親中に傾斜すると決め付けるのは早計だ。クック氏は「中国の反発を買わぬよう注意深く振る舞うだろうが、米日との戦略的パートナーシップを弱めることは考えにくい」と分析する。
豪州は中国と自由貿易協定(FTA)の年内発効を目指す。総選挙をにらみ、経済再生を優先課題とする方針だ。ただ実利から中国と接近すれば、地域の安全保障への余波は大きい。
米国もターンブル氏の対中観を注視している。過激派組織「イスラム国」(IS)空爆など軍事活動で足並みをそろえたアボット路線の継承を期待する。
当面の関心は、最初の外遊先にどこを選ぶかだ。アボット氏は日豪間で首脳の相互訪問を毎年実施すると約束した。今年は豪側が訪日する順番。ターンブル氏の決断が注目される。
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内政失点挽回できず、前首相
アボット前首相は労働党から政権を奪還し、炭素税撤廃などで成果を挙げた。なかでも7年越しの交渉を経て日本と経済連携協定(EPA)をまとめたのは大きい。与党幹部は「アボット氏ほど日本に近い首相はいなかった」と言い切る。
しかし、内政では最初の連邦予算発表からつまずき、支持率は低迷した。2期6年務めるのが慣例の首相が、1期目も満了せず退陣したのは異例だ。
ターンブル首相は「内閣の総意で政策を決める」と強調。「キャプテンズ・ピック」と呼ばれる、独断専行型のアボット氏の手法に批判を込めた。代表例が「将来潜水艦」だ。アボット氏は日本の「そうりゅう」型に強い関心を示した。
アボット氏の辞任で日本勢は不利になったとの見方が多いが、必ずしもそうとはいえない。豪州での建造や技術移転の意思を明快に説明すれば、正当な評価を得ることは可能だ。今後、豪州の首相が「日本」に言及する機会は減るかもしれないが、アボット氏が開いた日豪協力の窓口を広げるチャンスは残っている。
(シドニー=高橋香織)
[日経新聞9月27日朝刊P.15]
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