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2015年09月29日 (火) 午前0:00〜[NHK総合]
時論公論 「米中首脳会談を読み解く」
加藤 青延 解説委員 / 橋 祐介 解説委員
橋)
こんばんは。中国の習近平国家主席がアメリカを国賓として公式訪問し、オバマ大統領と米中首脳会談を行いました。はたして、どのような成果や進展があったのか、どのような課題が残されたのか、今夜の時論公論は、中国担当の加藤解説委員とアメリカ担当の私のふたりで会談の内容を分析し、今後の米中関係の行方を考えます。
橋)
まず加藤さん、今回の習主席の訪米を中国側はどう位置づけていたのでしょう?
加藤)
今回の訪米を中国側は「信頼関係の増進と疑念払拭の旅」と位置づけていました。ただ、首脳会談を通じて、どこまで信頼増進や疑念払拭ができたかといえば、逆に、お互いの溝の深さの方が浮き彫りになったという印象を受けました。
橋)
両首脳による主な合意事項はこちらです。
▼米中両政府はサイバー攻撃による産業スパイ行為を容認しない
▼南シナ海問題で軍同士の衝突を防ぐため連絡を緊密化
▼そして地球温暖化対策に米中が率先して取り組む
率直に言って、あまり目新しさは感じません。実際、具体的な成果には乏しかったというのがアメリカ側の大方の見方です。
加藤)
確かに「決まったこと」よりも「決まらなかったこと」の方が多かった。例えば、サイバー攻撃にせよ、南シナ海の問題にせよ、人権問題にせよ、若干前進した部分があっても、残りは、ほとんど平行線だったと言えるでしょう。その意味では、「千里の道の第一歩」を踏み出した程度と言えるかもしれません。
橋)
カメラの前で、まるで顔に張り付けたような笑顔をつくるオバマ大統領。ふたりの会談はこれで6回目。しかし、オバマ大統領にとって、習主席ほど「気を遣わせる首脳」は、ほかにいないかも知れません。「新たな大国どうしの関係」を築き上げたいとする中国側の意気込みとは裏腹に、いまのアメリカの世論は中国に対して厳しい眼差しを向けています。その一方で、相手の真意をひとつ読み誤れば、たちまち緊張と対立を増幅しかねない危うさもはらんでいるからです。
そんなアメリカ側が中国への懸念として真っ先に取り上げたのは、サイバー攻撃の問題でした。民間企業から知的財産を盗み出す産業スパイ行為には中国の当局が関与しているのではないか。そうにらんだオバマ政権は「制裁措置も辞さない」として、これまで以上に強い態度で会談に臨んだはずでした。ところが、サイバー犯罪への捜査協力に向けて対話を進めることでは合意に漕ぎ着けたものの、中国政府に実効的な対策を確約させるというアメリカ側が期待していた成果は得られませんでした。
加藤)
中国にしてみれば、サイバー問題で、アメリカの経済制裁を回避できたことが最大の成果といえましょう。ただ、もともと中国側は、自分たちの方こそ外国からサイバー攻撃されている被害者だと主張してきました。アメリカに対するサイバー攻撃にしても、政府自体は関わっていないとしています。ですから、今回の会談で、話し合いの枠組みを作ることになったとはいえ、どこまで効果を期待できるか、やってみないことにはわかりません。
橋)
安全保障の分野で、アメリカは、いま中国が近隣諸国を悩ませている海洋進出の問題も取り挙げました。中国は「平和的に台頭する」と建前では言いながら、現に、南シナ海では岩礁を埋め立てて新たな軍事拠点を築く構えを見せ、アメリカに真っ向から対抗する意図を隠そうともしない。そうした挑戦的な姿勢が、偶発的な衝突のリスクを増しているというのです。
今回の会談で、米中の軍どうしの衝突を防ぐため、新たにコミュニケーションのチャンネルを拡充することが合意されたのは、数少ない成果のひとつであったとは言えるでしょう。しかし、中国側が描く「対立せず互いの核心的な利益を尊重しあう関係」を、アメリカ側がそのまま受け入れたと解することは到底できません。米中が互いをけん制しあう基本構図に変化の兆しは見えませんでした。
加藤)
安全保障面での妥協が難しいということを、中国は事前に分かっていたと思います。そこで今回は、経済に重点を置いて、アメリカ陣営の切り崩しにかかったといえましょう。
中国経済はこのところ成長速度の減速や株式市場のバブル崩壊など世界経済への影響を懸念する見方も高まっていますが、首脳会談を前に、習近平主席は、今回300機の旅客機購入を決めたボーイング社を見学したほか、ITのトップリーダーたちや、著名な投資家と次々に会見し、米中の経済関係がいかに重要であるかをアピールしました。また、首脳会談でも通貨人民元切り下げを警戒するアメリカ側に対して、長期的に人民元切り下げはしないとの姿勢を示しました。経済での対立は極力避けたいという思惑が見て取れます。
橋)
オバマ大統領も、経済面では中国への厳しい批判を抑えてみせました。「今や中国からの投資がアメリカの雇用を支えている」。そう持ち上げて、中国との経済的な結びつきの強化には、リップサービスを惜しみませんでした。中国経済を既存の国際ルールに取り込むかたちで改革と市場開放を促せば、やがてアメリカにも多大な利益をもたらす。そこに、中国への「関与政策」を進めるアメリカ側の本音があるからです。
加藤)
実は、中国側にはアメリカに弱みを握られるのではないかという危機意識がありました。汚職が蔓延する中国では、多くの腐敗幹部が不正な資金を持って海外に逃亡しています。中国ではそうした幹部を「狐」と呼んで、必死に追いかけています。実は最大の大物キツネが、アメリカに潜伏しているのです。かつて国家主席の側近だった幹部の弟です。この大キツネは大胆にも中国の国家機密2700点以上を持ち出し、それを暴露するそぶりを見せているのです。その秘密をすべて暴露されたら中国の政権が崩壊しかねないとまで言われている、まさに「時限爆弾」です。中国は、この大物幹部の身柄を引き渡すようアメリカ側に強く求めています。その取引材料になるのでしょうか。アメリカから中国を訪れた際、違法な活動をしたとしてとらえられた女性がいることも最近、明るみになりました。
橋)
相手に弱みを握られているということで言えば、アメリカから見ても、中国はアメリカ国債の最大の保有国です。しかも、いまや世界第2となった中国経済の変調が、アメリカばかりか世界経済をも揺るがすことも、先の株式市場の混乱によって証明されたばかりです。
米中が、これから相互の依存関係を深めていくのにつれて、交渉テーブルの上ではあれこれ注文を付けあい厳しく批判を応酬する一方で、実はテーブルの下では密かに手を握り合う。そうした場面は増えていくのかも知れません。
ただ、オバマ大統領の任期は残り1年と4か月足らず。次の大統領に誰がなるにせよ、中国に対する外交姿勢は、いまより厳しくなるだろうとの見方もあります。アメリカと中国が、中長期的な関係のあり方を互いに見出すまでには、なお相当な時間がかかりそうです。
加藤)
今回の首脳会談からも見えてきたように、米中の間には、まだ相当大きな溝があります。
ただ、その一方で米中両国は、その関係を決裂させないよう、駆け引きを続けながら共存しようとする動きも今回見えてきました。米中の間には、反発力と吸引力という二つの逆方向の力が入り組んで働いているということを忘れてはならないと思います。
橋)
かつて米中が電撃的に接近して国交を結ぶ以前、ある日本の外交官は、両国が突然、日本の頭越しに手を結んでいる夢をみて慄然としたと言います。夢はのちに現実となり、米中の本音と建前を常に冷静に見定めよという戒めの言葉となりました。今回の米中首脳会談は、そうした多面的で一筋縄ではいかない米中関係の現実に、あらためて目を向けさせる機会になったのではないでしょうか。
(加藤 青延 解説委員/高橋 祐介 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/228191.html
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