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米中首脳会談を読み解く:テーブル上では厳しく批判を応酬する一方、テーブル下では密かに手を握り合う。今後そうした場面が増加
http://www.asyura2.com/15/kokusai11/msg/479.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 9 月 30 日 02:34:05: Mo7ApAlflbQ6s
 

2015年09月29日 (火) 午前0:00〜[NHK総合]
時論公論 「米中首脳会談を読み解く」
加藤 青延 解説委員 / 橋 祐介 解説委員


橋)
こんばんは。中国の習近平国家主席がアメリカを国賓として公式訪問し、オバマ大統領と米中首脳会談を行いました。はたして、どのような成果や進展があったのか、どのような課題が残されたのか、今夜の時論公論は、中国担当の加藤解説委員とアメリカ担当の私のふたりで会談の内容を分析し、今後の米中関係の行方を考えます。

橋)
まず加藤さん、今回の習主席の訪米を中国側はどう位置づけていたのでしょう?

加藤)
今回の訪米を中国側は「信頼関係の増進と疑念払拭の旅」と位置づけていました。ただ、首脳会談を通じて、どこまで信頼増進や疑念払拭ができたかといえば、逆に、お互いの溝の深さの方が浮き彫りになったという印象を受けました。

橋)
両首脳による主な合意事項はこちらです。

▼米中両政府はサイバー攻撃による産業スパイ行為を容認しない
▼南シナ海問題で軍同士の衝突を防ぐため連絡を緊密化
▼そして地球温暖化対策に米中が率先して取り組む

率直に言って、あまり目新しさは感じません。実際、具体的な成果には乏しかったというのがアメリカ側の大方の見方です。

加藤)
確かに「決まったこと」よりも「決まらなかったこと」の方が多かった。例えば、サイバー攻撃にせよ、南シナ海の問題にせよ、人権問題にせよ、若干前進した部分があっても、残りは、ほとんど平行線だったと言えるでしょう。その意味では、「千里の道の第一歩」を踏み出した程度と言えるかもしれません。

橋)
カメラの前で、まるで顔に張り付けたような笑顔をつくるオバマ大統領。ふたりの会談はこれで6回目。しかし、オバマ大統領にとって、習主席ほど「気を遣わせる首脳」は、ほかにいないかも知れません。「新たな大国どうしの関係」を築き上げたいとする中国側の意気込みとは裏腹に、いまのアメリカの世論は中国に対して厳しい眼差しを向けています。その一方で、相手の真意をひとつ読み誤れば、たちまち緊張と対立を増幅しかねない危うさもはらんでいるからです。

そんなアメリカ側が中国への懸念として真っ先に取り上げたのは、サイバー攻撃の問題でした。民間企業から知的財産を盗み出す産業スパイ行為には中国の当局が関与しているのではないか。そうにらんだオバマ政権は「制裁措置も辞さない」として、これまで以上に強い態度で会談に臨んだはずでした。ところが、サイバー犯罪への捜査協力に向けて対話を進めることでは合意に漕ぎ着けたものの、中国政府に実効的な対策を確約させるというアメリカ側が期待していた成果は得られませんでした。

加藤)
中国にしてみれば、サイバー問題で、アメリカの経済制裁を回避できたことが最大の成果といえましょう。ただ、もともと中国側は、自分たちの方こそ外国からサイバー攻撃されている被害者だと主張してきました。アメリカに対するサイバー攻撃にしても、政府自体は関わっていないとしています。ですから、今回の会談で、話し合いの枠組みを作ることになったとはいえ、どこまで効果を期待できるか、やってみないことにはわかりません。

橋)
安全保障の分野で、アメリカは、いま中国が近隣諸国を悩ませている海洋進出の問題も取り挙げました。中国は「平和的に台頭する」と建前では言いながら、現に、南シナ海では岩礁を埋め立てて新たな軍事拠点を築く構えを見せ、アメリカに真っ向から対抗する意図を隠そうともしない。そうした挑戦的な姿勢が、偶発的な衝突のリスクを増しているというのです。

今回の会談で、米中の軍どうしの衝突を防ぐため、新たにコミュニケーションのチャンネルを拡充することが合意されたのは、数少ない成果のひとつであったとは言えるでしょう。しかし、中国側が描く「対立せず互いの核心的な利益を尊重しあう関係」を、アメリカ側がそのまま受け入れたと解することは到底できません。米中が互いをけん制しあう基本構図に変化の兆しは見えませんでした。


加藤)
安全保障面での妥協が難しいということを、中国は事前に分かっていたと思います。そこで今回は、経済に重点を置いて、アメリカ陣営の切り崩しにかかったといえましょう。
中国経済はこのところ成長速度の減速や株式市場のバブル崩壊など世界経済への影響を懸念する見方も高まっていますが、首脳会談を前に、習近平主席は、今回300機の旅客機購入を決めたボーイング社を見学したほか、ITのトップリーダーたちや、著名な投資家と次々に会見し、米中の経済関係がいかに重要であるかをアピールしました。また、首脳会談でも通貨人民元切り下げを警戒するアメリカ側に対して、長期的に人民元切り下げはしないとの姿勢を示しました。経済での対立は極力避けたいという思惑が見て取れます。

橋)
オバマ大統領も、経済面では中国への厳しい批判を抑えてみせました。「今や中国からの投資がアメリカの雇用を支えている」。そう持ち上げて、中国との経済的な結びつきの強化には、リップサービスを惜しみませんでした。中国経済を既存の国際ルールに取り込むかたちで改革と市場開放を促せば、やがてアメリカにも多大な利益をもたらす。そこに、中国への「関与政策」を進めるアメリカ側の本音があるからです。

加藤)
実は、中国側にはアメリカに弱みを握られるのではないかという危機意識がありました。汚職が蔓延する中国では、多くの腐敗幹部が不正な資金を持って海外に逃亡しています。中国ではそうした幹部を「狐」と呼んで、必死に追いかけています。実は最大の大物キツネが、アメリカに潜伏しているのです。かつて国家主席の側近だった幹部の弟です。この大キツネは大胆にも中国の国家機密2700点以上を持ち出し、それを暴露するそぶりを見せているのです。その秘密をすべて暴露されたら中国の政権が崩壊しかねないとまで言われている、まさに「時限爆弾」です。中国は、この大物幹部の身柄を引き渡すようアメリカ側に強く求めています。その取引材料になるのでしょうか。アメリカから中国を訪れた際、違法な活動をしたとしてとらえられた女性がいることも最近、明るみになりました。

橋)
相手に弱みを握られているということで言えば、アメリカから見ても、中国はアメリカ国債の最大の保有国です。しかも、いまや世界第2となった中国経済の変調が、アメリカばかりか世界経済をも揺るがすことも、先の株式市場の混乱によって証明されたばかりです。


米中が、これから相互の依存関係を深めていくのにつれて、交渉テーブルの上ではあれこれ注文を付けあい厳しく批判を応酬する一方で、実はテーブルの下では密かに手を握り合う。そうした場面は増えていくのかも知れません。
ただ、オバマ大統領の任期は残り1年と4か月足らず。次の大統領に誰がなるにせよ、中国に対する外交姿勢は、いまより厳しくなるだろうとの見方もあります。アメリカと中国が、中長期的な関係のあり方を互いに見出すまでには、なお相当な時間がかかりそうです。

加藤)
今回の首脳会談からも見えてきたように、米中の間には、まだ相当大きな溝があります。
ただ、その一方で米中両国は、その関係を決裂させないよう、駆け引きを続けながら共存しようとする動きも今回見えてきました。米中の間には、反発力と吸引力という二つの逆方向の力が入り組んで働いているということを忘れてはならないと思います。

橋)
かつて米中が電撃的に接近して国交を結ぶ以前、ある日本の外交官は、両国が突然、日本の頭越しに手を結んでいる夢をみて慄然としたと言います。夢はのちに現実となり、米中の本音と建前を常に冷静に見定めよという戒めの言葉となりました。今回の米中首脳会談は、そうした多面的で一筋縄ではいかない米中関係の現実に、あらためて目を向けさせる機会になったのではないでしょうか。

(加藤 青延 解説委員/高橋 祐介 解説委員)

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/228191.html


 

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コメント
 
1. 2015年9月30日 11:28:16 : jXbiWWJBCA
中国と米国を分け隔てる思想の違い
5つの大きな相違点、少なくとも1つは類似点があるが・・・・
2015.9.30(水) Financial Times
(2015年9月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

米政府職員の個人情報に不正アクセス、約400万人 中国が関与か
世界の2大大国の米国と中国はものの見方が大きく異なる〔AFPBB News〕
 「米国の大統領と中国の国家主席は、お互いにどう話しかけたらよいのかよく分からずにいる。異なるオペレーティング・システム(OS)で動いているコンピューターのようだ」。これは筆者がかつて、数々の米中首脳会談を間近で見てきたある米政府高官から聞いた意見だ。

そのため、先週行われた習近平国家主席とバラク・オバマ大統領の会談は建設的なものだったと双方が強調しているものの、筆者は疑いを抱いている。というのは、中国と米国は世界の見方が著しく異なっているからだ。筆者には、大きな相違点が5つ見て取れる。

(1)循環的vs直線的

 中国の歴史は非常に長く、米国の歴史は非常に短い。習主席は「中国は古代から続く文明だ。5000年の歴史がある」という表現を好んで使う。一方の米国は、国ができてまだ250年にも満たない。

 この視座の違いは、世界に対する両国首脳の考え方に大きな影響を及ぼしている。大まかに言えば、中国人は物事を循環的に考える。中国の歴史は、いくつもの王朝の興隆と没落の繰り返しだからだ。何世紀も続くことがある良い時代の後には、やはり何世紀も続くことがある悪い時代がやって来るのだ。

 これとは対称的に米国は1776年の建国以来、基本的にずっと同じ方向、すまわち、国力の増強と個人の繁栄に向かって進んできている。その結果、米国の政治家たちは歴史を直線的にとらえ、進歩を当たり前の現象と考えることが多い。

(2)普遍主義vs個別主義

 米国建国の信条は、「人は生まれながらにしてみな平等」で同じ不可侵の権利を有しているというものだ。このため米国人は、自由や民主主義といった、理想的にはどこにおいても適用されるべき普遍的な価値観の存在を直感的に信じている。

 対称的に中国人は個別主義者だ。中国にとって正しいことが世界全体にとって正しいとは限らず、その反対も同じだと信じている。この見方の違いが、外国での紛争への介入や人権保護に対して両国が対称的なアプローチを取ることの土台になっている。

(3)イデオロギーvs民族性

 米国という国家は、独立宣言と合衆国憲法に記された思想を基盤に作られている。何百万もの人々が、米国に居住し、かつそうした思想を受け入れることによって米国人になった。中国は対称的に、中国人であるとはどういうことかという問いを米国よりもはるかに民族的な視点からとらえている。

 もし筆者が米国に移住すれば、割と速やかに「米国人」になれるだろうし、筆者の子供たちも間違いなく米国人になるだろう。

 しかし、筆者が中国に移住しても、それだけでは筆者も子供たちも中国人にはならないだろう。その結果、中国と米国は、国家であることや市民権、移民といった重要な問題について、いくらか異なる想定を抱く傾向がある。

(4)個人vs共同体

 米国の指導者たちは個人の権利を強調し、中国の指導者たちは共同体の利益を強調する。米国の個人主義と中国の共同体主義の違いは、国家に対する態度ににじみ出ている。米国では、強力すぎる国家から個人を守る必要があるという考え方が憲法や政治家の言説に組み込まれている。

 片や中国では、過去に内戦や流血の惨事に至ったこともある「カオス」に対する最善の保証は強い国家だと論じられることの方が普通だ。

米中首脳、サイバー攻撃抑止などで合意も人権・領有権で意見に相違
9月25日、ホワイトハウスで会談するバラク・オバマ米大統領(右)と中国の習近平国家主席〔AFPBB News〕
 米国にはこの中国の論法を、共産党の利己主義を反映しているにすぎないと思い込んでいる人が多い。しかし、これにははるか昔にまで及ぶルーツもある。

 米国人は、自分たちが個人の権利を強調する起源を18世紀の独立戦争に求めるかもしれないが、中国の指導者層は強い国家の必要性を強調する時に、紀元前476年に始まった「戦国時代」に無意識に言及するのだ。

(5)権利vsヒエラルキー

 国家に対する態度の違いは、社会を束ねていくものについての大きな見解の相違にもつながっている。米国人は個人の権利と法を強調する。片や中国では、「法の支配」を強化する必要性が以前よりもかなり頻繁に語られるようになってはいるが、共産党はヒエラルキー(序列)や責務の感覚を重んじる儒教の伝統を、社会を円滑に機能させるのに欠かせないものとして奨励している。

 これもまた、国際関係に影響を及ぼしている。なぜならこの思想は、中国のような大国と比較的小さな近隣諸国との適切な関係とはどのようなものかという中国の見方に関係してくるからだ。

米中両国が持つ「ミドルキングダム」意識

 中国の巨大な規模は常に、中国の世界観を形作ってきた。だが、ここに、ようやく1つ、米国との著しい類似点がある。どちらの国も、ちょっとした「ミドルキングダム(中央王国)」意識を抱いているのだ。

 ミドルキングダムの概念は中国の過去に根差している。ある歴史家はこれを「自分たちの国がすべての中心に位置していると考える中華民族の驚くべき信念」と表現する。

 この信念は、欧州と日本の帝国主義者が戦いで中国を倒した1840年代に始まった「屈辱の世紀」によって、多少、揺らいだ。だが、蘇った中国はいま、時折、特に他のアジア諸国の扱い方において、いわゆる中華思想に戻っていると批判される。

 一方、米国は世界唯一の超大国としての役割に慣れた。米国の外交政策はまだ、米国は世界秩序を確保するうえで「欠くことのできない大国」だという信念に基づいている。米国の大統領は昔の中国の皇帝と同じように、外国人から高価な貢物を受け取ることに慣れている。

 中国と米国が非常によく似ている点が少なくとも1つあることを発見すると、心強くなる。問題は、どちらの国も自分たちを「ミドルキングダム」と見なしているかもしれないが、両者とも正しいということはあり得ない、ということだ。

By Gideon Rachman

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44884

 


2. 2015年9月30日 11:28:40 : jXbiWWJBCA
世界の警官から秘密警官へ、米国の恐ろしい急変ぶり
データが如実に示す、オバマ大統領裏の顔は暗殺指令者
2015.9.30(水) 堀田 佳男
米特殊部隊「シールズ」、女性にも門戸解放へ 報道
米特殊部隊は女性も門戸を開いた。写真は、米ジョージア州フォートベニングで、陸軍の指揮官養成課程レンジャー・スクールに参加する男女の兵士ら〔AFPBB News〕
 知らないことほど恐ろしいものはないと思える事態が世界で進行している。

 実は、米国のバラク・オバマ政権はジョージ・ブッシュ前政権よりもはるかに多くの米特殊作戦軍(以下SOCOM:いわゆる特殊部隊)の隊員を、世界中に派遣していることが分かった。

 複数の情報を総合すると、今年だけでもSOCOMはすでに世界135か国に隊員を送り込み、派遣している隊員数は1万1000人に達している。

 SOCOMは特殊部隊を統合する総合軍で、配下に陸軍、海軍、空軍、海兵隊の特殊作戦部隊が入っている。よく耳にする陸軍デルタフォースや海軍シールズ(SEALs)もSOCOMの指揮下にある。

2倍に増員された特殊部隊

 特殊部隊の活発化は隊員数の推移を見ても分かる。国外に派遣されている1万1000人を含めた総隊員数は7万人に達する。2001年には約3万3000人だったので、ほぼ2倍になった。

 オバマ大統領がなぜ特殊部隊に力を注いでいるのだろうか。過去数年、国防総省(ペンタゴン)の規模と予算は縮小傾向にあり、表向きの国防方針と矛盾している。

 オバマ大統領はこれまで「米国は世界の警察官ではない」というフレーズをたびたび使ってきた。例えば2013年9月のテレビ演説では、警察官としての役割を否定し、内戦の激化するシリアには大規模な地上軍(陸軍)は派遣しないと述べた。

 その理由の1つは、ブッシュ前政権が始めた対テロ戦争で多数の米兵を中東に派遣しながら、収束できていない現実がある。テロ組織を壊滅することが容易でないばかりか、戦費拡大と米兵の犠牲が内外から批判されてきたのだ。

 すでに世界の警察官の立場を降りたと言える数字もある。2001年から始まった対テロ戦争で、米国は累計で約1.5兆ドル(約180兆円)もの国防予算を使った。

 前政権の国防政策への反省もあり、オバマ政権が誕生してからの対テロ戦費は下降し続け、2013年度以降は年間1000億ドル(約12兆円)を下回っている。イラクとアフガニスタンに駐留する米兵数も減少し、イラクからは撤退、アフガニスタンからもゆくゆくは撤退する方向だ。

 それではなぜいま特殊部隊を世界中に拡散させ、隊員数も予算も増やしているのか。

 ワシントン・ポスト紙によると、ブッシュ政権時代、特殊部隊が展開した国数は約60か国だったが、2010年には70か国になり、今夏には135か国にまで膨らんだ。

 さらに特筆すべきなのは中東に駐留する特殊部隊が減り始め、それに代わって東欧や日本を含めた極東地域などに隊員を増やしていることだ。

東欧と中南米、極東に注力

 SOCOMのジョセフ・ヴォーテル司令官は今年7月、コロラド州アスペンで行われた安全保障フォーラムで次のように発言している。

 「東欧に力点を置き始めています。同時にコロンビアをはじめとする中米諸国、さらに環太平洋地域の重要な同盟国との連携も強化しているところです」

 その発言を裏づける数字が米会計検査院(GAO)から公表されている。

 2006年、特殊部隊の85%は中東諸国に集中していた。しかし昨年までに中東での割合は69%に落ちた。代わって3%だった欧州での比率が6%に、太平洋地域が7%から10%に、中米諸国が3%から4%へと増えている。

 ここから見えてくるのは、陸・海・空・海兵隊の米正規軍の隊員に代わって、秘密警察と呼べる特殊部隊を世界中で増員させている事実だ。まるで忍者のように、米国に敵対する組織やテロ集団を水面下で制圧しようとしているかに見える。

 さらに特徴的なのは、特殊部隊を他国で独自に活動させるのではなく、派遣した国の軍隊と共同訓練の形態を取っていることだ。ほとんどの場合、米特殊部隊が主導的な役割を担うばかりか、他国の隊員を訓練することもある。

 つまり米軍は従来型の戦闘機や中距離ミサイルなどを撃ち込む戦闘から、小規模で臨機応変に対応できる特殊部隊による戦いへと変化しつつあるということだ。それには同盟国との連携が必須だ。

 分かっているだけで、米特殊部隊が展開する135か国中60か国の軍隊と、米軍は共同訓練を行っている。特に14か国では米大使館に特殊部隊の隊員を武官として置いている。

 ちなみに14か国というのはオーストラリア、ブラジル、カナダ、コロンビア、エルサルバドル、フランス、イスラエル、イタリア、ヨルダン、ケニヤ、ポーランド、ペルー、トルコ、英国で、日本は入っていない。

自衛隊とも共同作戦

 ただ今年8月12日、沖縄県うるま市伊計島の沖合に米軍ヘリコプターが墜落した時、乗員の中に自衛隊の中央即応集団「特殊作戦群」の隊員もいた。すでに米特殊部隊と自衛隊が共同訓練している証拠とも言える。

 それでもオバマ政権は「米国は世界の警察官ではない」というスタンスでいる。それは取りも直さず、米国1か国で現在の国際紛争を解決できないことを中東で学んだということである。前出のヴォーテル司令官はアスペンでのフォーラムで述べている。

 「SOCOMは今後、世界の過激派組織と戦うためになくてはならない存在で、大変重要な役割を担っています。シリアやイラクでの戦で学んだことは、米国だけでは決して勝利することができないということなのです」

 こうした背景を眺めると、オバマ大統領は米市民に虚言を吐いているとも解釈できる。

 表向きは米軍を縮小させて、大規模な地上軍を派遣しない立場でいながら、実際には特殊部隊を派遣してオサマ・ビンラディンを殺害したような軍事行動を取らせてもいる。今年5月、過激派組織「イスラム国」のアブ・サヤフ幹部を殺害したのも特殊部隊だった。

 オバマ大統領が指示を出し、すべてが終わった後に公表された。

 特殊部隊の活動によって世界の平和と安全が約束されるのであればいいが、表面的に世界の紛争に関与しないそぶりを見せながら、実際はほとんどの人の目に触れないところで着実に地歩を固めているのが現実だ。

 特殊部隊という秘匿性の高い軍隊であれば、情報を公表しなくて済むという理由もあるかもしれない。ただそれがオバマ流の世界での戦い方であるのなら、紛争の危険性はより高まったと言えなくないのか。

 オバマ大統領の「世界の警察官ではない」発言はいまや「世界の秘密警察官になった」と解釈していいほどである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44880


3. 2015年9月30日 11:31:00 : jXbiWWJBCA

「軍権掌握」を急ぎすぎた習近平
30万人兵員削減の宣言は大きな失態?
2015.9.30(水) 阿部 純一
中国、抗日70年行事で新型ミサイル初披露 「空母キラー」と紹介
中天安門広場で行われた抗日戦争勝利70年を記念する軍事パレードに登場した新型対艦弾道ミサイル「DF-21D」(2015年9月3日撮影)。(c)AFP/GREG BAKER〔AFPBB News〕
 中国政治を語るためには、過去と現在を照らし合わせる作業が必須である。習近平はなぜ、前例のないシチュエーションで軍事パレードを実施したのか。なぜ、30万人の兵員削減を約束したのか。歴史的先例にならい、分析することにしたい。

軍事パレードと兵員削減で軍権を確立したケ小平

 先例はケ小平にある。ケ小平が軍事パレードを閲兵したのは1984年の国慶節で、100万人の兵員削減を宣言したのは1985年であった。

 軍事パレードは、建国35年を祝う名目であったが、中途半端な印象は拭えなかった。いずれにせよ、軍事パレードにおける閲兵と、兵員削減の大鉈を振るうことでケ小平の軍権は確立した。

 ケ小平が党内での実権を掌握したのが1978年12月の党11期3中全会であるとすれば、軍の掌握に5年以上を要したことになる。もともと軍を権力基盤にしていたケ小平にとっても、軍権の掌握は容易なことではなかったことが分かる。

 習近平は、政権に就いてわずか3年でケ小平の前例に並びかけている。その間、反腐敗キャンペーンで徐才厚、郭伯雄という2人の前中央軍事委副主席を汚職容疑で立件するなど、強引ともいえるやり方で軍へのコントロールを強めてきた。

 国慶節以外では前例のない軍事パレードを、「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年」を名目に実施し、パレード当日のスピーチで30万人の兵員削減を明言したことで、表向きはケ小平と肩を並べたように見える。

 しかし、内実は「軍権掌握」を確実なものにしたと言えるかについては疑問符がつく。

 習近平は国産最高級車「紅旗」の車上で閲兵するにあたり、左手で敬礼するという失態を演じたが、軍務経験のある習近平にしては考えられないミスであった。いや、ミスというよりも、緊張のあまり利き腕の右手で体を支えるのが精一杯だったのかもしれない。

 習近平の緊張ぶりは、軍事パレード実施に際しての過剰なまでの警備態勢からも推察できる。ロシアのプーチン、韓国の朴槿恵など外国元首、要人を来賓として迎えるなかで、不測の事態を防ぐため、徹底した警備態勢を敷くことは当然のことだが、それに加え、習近平自身の身の安全にも万全を期す必要があった。それは、これまでにも習近平に対する暗殺未遂の案件が複数指摘されていることを考えれば首肯できる。それでも、短時間とはいえ、車から上半身を露出して行う閲兵は、狙撃される可能性を考えれば習近平にとって生きた心地がしなかったはずだ。

「米国に対抗できる」軍事力をアピール

 習近平が軍事パレードの実施を決めたのは2014年末のことだとされている。2014年11月の北京で開催されたAPEC総会における米中首脳会談の後で、今年秋の習近平訪米招請の打診がなされていたと想定すれば、軍事パレードは訪米を意識したイベントであったとも言える。実際に習近平の国賓としての9月訪米が決まったのは2015年2月だが、訪米がこのときに突然降って湧いた話であるはずがない。同時に習近平にとって、9月訪米と創設70周年を迎える国連総会へ出席し演説するというイベントを組み合わせれば、この軍事パレードの意味が浮き彫りにされる。

 中国が第2次大戦の戦勝国の主要メンバーであり、安保理常任理事国である権利を持つことの正当性をアピールし、かつ米国に対しては習近平の主唱する米中の「新型大国関係」を米国に明確に受け入れさせるために、中国の軍事力が米国に対抗できるものであることを内外に示す必要があると考えたのであろう。

 今回の軍事パレードは中国の「国産新兵器」のオンパレードだった。なかでもメディアの関心を引いたのが新型の弾道ミサイルである。射程1000キロメートルで沖縄を射程に収めるDF-16短距離弾道ミサイル、空母キラーと呼ばれるDF-21D対艦弾道ミサイル、射程4000キロメートルでグアムの米軍基地を射程に収め、かつ対艦攻撃も可能とされるDF-26中距離対艦弾道ミサイル、弾頭をMIRV(複数個別誘導再突入弾頭)化したDF-5B大陸間弾道ミサイルなどがパレードの隊列に加わっていた。しかも、ご丁寧にミサイルの側面にDF-16等々の白色の印字が施されていたせいもあり、識別が容易であった。ミサイルの種別を示す印字は今回が初めてではないが、網羅的に表示されたことはなかった。

 上述したミサイルは、いずれも米国を意識した戦力である。とりわけ初登場となったDF-21D対艦弾道ミサイル、DF-26中距離対艦弾道ミサイルは、西太平洋における米国海軍の優位を脅かす存在として注目された。特にDF-21Dについては、米軍はIOC(初期作戦能力)を獲得したものと評価し、警戒を強めている。DF-26については、米軍がどう評価しているかはまだ明らかではないが、通常弾頭も核弾頭も積めるという性格から、戦術目的にとどまらず戦略目的にも使用可能なミサイルという位置づけなのであろう。

軍事パレードにどれほどの対米効果があったのか

 このような中国のミサイルは、言うまでもなく西太平洋における米国海軍の行動を制約し、中国大陸への接近を阻止しようとするものである。とりわけ中国が想定しているのは、台湾有事の際における米国海軍の介入阻止であることは疑いない。

 しかしながら、本質を突いた議論をすれば、中国の対艦弾道ミサイルに代表される兵器は、海上戦力において米国に対抗することができないために作られた窮余の兵器であり、非対称戦略の典型例である。

 非対称戦略がうまくいく場合もあり得る。米海軍が警戒し射程内に空母を入れなければ効果があったことになるからだ。しかし、それに伴うリスクもある。例えば、弾道ミサイル発射を探知できる早期警戒衛星を運用しているのは米国だけだが、発射されたミサイルの弾頭が通常弾頭か核弾頭かの区別はつかない。DF-21やDF-26は核弾頭装備の可能性があるだけに、米軍が反射的に核ミサイルで応戦する可能性があることは否定できない。

 圧倒的に地上配備のミサイルに核抑止を依存している中国は、先制核攻撃に極めて脆弱である。米軍がそのことを中国に十分に警告し、知らしめすことができるなら、中国は安易に弾道ミサイルを発射できなくなる。核戦力の規模で言えば、米国は中国をはるかに凌駕し、その差は容易に縮まるものではない。

 よって、米国では中国のDF-21D対艦弾道ミサイルに関し、一定の警戒感は持つものの、そのために行動が制約されてもやむを得ないなどという議論にはなっていない。中国の軍事パレードの対米効果はその程度のものであろう。

具体的な構想がない30万人兵員削減

 習近平が軍事パレードの場で30万人の兵員削減を掲げたのは、軍事力強化に邁進する中国というイメージをトーンダウンさせるための「平和愛好国家」アピールの側面があることは否定しようもない。それは訪問する米国へのメッセージにもなるし、習近平がいよいよ「軍権掌握」を固めたことを明示することで、自らの権威付けにもなる。

 しかし、それ以上に、2013年11月の党18期3中全会で打ち上げた“改革の全面深化”の一環として提示された軍における改革を推進するにあたって、「贅肉を削ぎ落とす」意思を明確にしたことになる。中国国防部は、30万人削減を2017年末までに遂行するとしている。それによって、習近平の「軍権掌握」が強固なものになるのは間違いない。

 しかし、その具体的な内容やプロセスは明らかにされていない。そこが問題なのである。要するに、習近平の軍事改革は30万人兵員削減に伴う具体的な構想が出てきていないのだ。

 1985年にケ小平が100万人兵員削減を決定したとき、同時にこれまでの11大軍区を現在の7大軍区に整理統合している。また、従来の軍団を集団軍に再編し24の集団軍に集約した。当時の人民解放軍は総員400万の大所帯で、階級制度もなければそれに伴う定年制もなかった。文化大革命時代に軍が行政部門まで関与せざるを得なかったため肥大化を余儀なくされたわけだが、ケ小平は軍をスリム化し戦える軍隊に再編しようとしたのだった。

 習近平政権も中国の直面する安全保障環境と国防戦略に照らし、軍事改革を目指しているはずである。現に、7大軍区を改変し、4つの戦区に統合するとか、利権の絡む総後勤部や総装備部を国務院の行政部門である国防部に統合し、党(人民解放軍は党の軍隊)も関与するといった議論も中国のメディアには出ている。軍の教育機関を整理統合し、関係する人員をすべて文官にするとか、軍に所属する歌舞団など非戦闘要員を整理するという人員削減策も同様に垣間見られる。

 しかし、そのどれも正式決定されているわけではない。国防部が2017年末までと削減の期限を切ったからには、すでに削減のプログラムがあるはずだ。しかし、それを明らかにしないのは、まだ公にできない理由が存在すると思われる。それにもかかわらずなぜ習近平は早々と30万人兵員削減を打ち出したのか。

 具体的な方針なり対応が提示されていないなかで、30万人兵員削減を先行して打ち出したことによって生じる人民解放軍内部での疑心暗鬼が、今後の政策推進に大きな抵抗となって立ちはだかる可能性がある。ケ小平のように時間をかけ周到に練った人員削減策でないとすれば、「軍権掌握」を誇示することを焦った習近平の大きな失態であり、「軍権掌握」はむしろ遠のいたと言わざるをえない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44849


いよいよ中国からも見限られ始めた北朝鮮 人民解放軍は金正恩体制崩壊の日も視野に
2015.9.30(水) 古森 義久
南北合意は「核兵器のおかげ」、金正恩第1書記
北朝鮮・平壌で開催された第4回退役軍人全国会議で演説する金正恩第1書記(2015年7月25日撮影)(c)AFP/KCNA VIA KNS〔AFPBB News〕
 中国人民解放軍は北朝鮮になぜこれほど冷淡なのか――?

 米国の首都ワシントンでは、中国と北朝鮮との関係に改めて関心が集まってきた。米国の政府内外の専門家たちが中朝関係の実態についてますます力を入れて調査し、分析するようになったのだ。

 その理由は1つは、北朝鮮が再びミサイル発射や核爆発実験を断行しようとしていることだろう。第2には、金正恩政権が目に見えて不安定化し、場合によっては政権崩壊というシナリオも考えられるようになったことが挙げられる。

 以上のことが現実となった場合に中国が北朝鮮をどう扱うかは、米国にとっては重大な関心事なのである。

 万が一、米国も北朝鮮への圧力を増して、金正恩政権が崩壊の危機に瀕した場合、中国はどのような行動に出るのか。金政権の立て直しを図るのか、あるいは見捨ててしまうのか。これは米国の朝鮮政策の中枢課題だと言ってよい。だから米国では、中国と北朝鮮の関係の研究が深く広く進められているのである。

中国と北朝鮮はイデオロギーを共有していない

 そうした研究のなかで、「中国の軍部が北朝鮮をどう認識しているか」という点に照準を絞って綿密な調査を続ける専門家たちが存在する。その1人、若手の中国軍事研究家ネーセン・ブシャムスタファガ氏がこのほど興味ある分析をワシントンで公表した。

 その最も重要な点は、「人民解放軍は、北朝鮮の政府や人民軍を、有事には必ず防衛する同盟相手とはもはや見なしていない」という指摘だった。

 ブシャムスタファガ氏はジョージワシントン大学や北京大学で中国の安全保障関連分野について研究し、イギリスの国際戦略研究所や米国のジェームズタウン財団でさらに中国の安保や軍事の研究を続けてきた。

 同氏は、ワシントンの研究機関「米国韓国経済研究所」(KEI)がこのほど開いた「北朝鮮についての中国人民解放軍の論評を解読する」と題するシンポジウムにおいて基調報告を行い、中国軍部の北朝鮮に対する姿勢の変化を明らかにした。

 まずブシャムスタファガ氏は、中国の人民解放軍幹部たちが最近公表した北朝鮮に対する評論や発言として以下の例を報告した。いずれも中国の軍人たちの言葉である。

「中朝友好協力相互援助條約の軍事相互支援『参戦条項』が存在するが、現実には中国は北朝鮮が第三国から攻撃されても、崩壊に瀕しても、自働的な軍事支援は行わない」

「中国は北朝鮮を見捨てるわけではないが、救世主でもない。朝鮮情勢を左右するようなことや、介入して火をつけるようなことをする意図はない」

「中国は北朝鮮の核兵器開発には明確に反対であり、人民解放軍も同様である。北朝鮮の核開発は、すでに中国に環境汚染の危機をもたらしている」

「中国は北朝鮮とはもはやイデオロギーを共有していない。現在の北朝鮮はマルクス・レーニン主義、プロレタリアート独裁、社会主義のいずれをも維持していない」

「中朝関係は友邦関係であって、同盟関係ではない。この点で、共同防衛を明確に規定する米日同盟や米韓同盟とは基本的に異なる」

 以上は、中国人民解放軍の元南京軍区副司令官で中将の王洪光氏や元海軍高官の滕建群氏がここ1年足らずの間に中国の官営の紙誌で発表した言葉だという。

中国にとって望ましいのは現状の継続だが・・・

 これらの言葉は、かつての中朝関係の緊密さからみれば革命的な変化を示していると言える。

 中国と北朝鮮は共産主義のイデオロギーを共有するだけでなく、朝鮮戦争では文字どおり一心同体となって米軍や韓国軍と戦った。そして長年にわたり中朝関係は「血で固められた友誼」や「唇と歯のように緊密な関係」とまで評されてきた。だが今では、北朝鮮の人民軍と一体になった中国の人民解放軍の幹部たちが「もう同盟ではない」とまで言い切っているのだ。

 中国軍幹部たちのこうした発言の意味について、ブシャムスタファガ氏は次のような解釈を示した。

・こうした中国軍部の発言が中国指導層全体の政策を正確に反映しているか否かは、なお疑問が残る。だが、中国政府や共産党全体を見ると、最近は人民解放軍の現旧高官たちが、他の論者たちよりも北朝鮮に対する主張を頻繁に述べている。中国指導層は、朝鮮戦争時のような緊密な中朝軍事同盟はもう機能しないという現状を、自国の軍部に述べさせて北朝鮮に認識させることが最も効果的だと考えたのだと見られる。

・中国指導層は、北朝鮮は中国にとってもはやこれまでのような同盟相手ではなく、相互の国益に基づく、国家対国家としての正常な関係の相手だとする政策を固めつつある。中国が特に北朝鮮の核兵器開発に反対していることは確実だろう。その核武装が、中国を北朝鮮に対して冷淡にさせた主要な原因の1つだとも言える。

・しかし、中国人民解放軍の複数の高官が「中国の安全と安定にとって、北朝鮮が現状のように緩衝地帯のままであることが必要だ」と主張していることも注視すべきだ。中国は北朝鮮に対して軍事面で冷淡な態度を示しても、体制の崩壊や南北統一は望んでいない。現状の継続が中国の対外戦略には最適だと考えていると思われる。

 ブシャムスタファガ氏は結論として以下のように総括していた。

・中国人民解放軍幹部たちの北朝鮮への突き放すような言葉は、従来の中朝同盟が真の同盟ではなくなってきた現実を示している。

・北朝鮮の核武装や、韓国に対する挑発を中国は問題視している。中国の北朝鮮への態度の変化には、そうしたことへの抗議が込められているという政治要素も割り引いて解釈しなければならない。

 ブシャムスタファガ氏によると、人民解放軍の幹部の1人は「金政権が崩壊した際には、中国人民解放軍部隊は2時間で平壌に急行できる」と述べたという。こうした予断を許さない中朝関係の実態については、言うまでもなく日本も正確な考察を怠ることはできない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44873


4. 2015年9月30日 12:48:22 : jXbiWWJBCA

「中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス」
習近平訪米、成果喧伝の裏側で…

冷淡さ際立つ米国は中国との「取引」に乗るのか

2015年9月30日(水)福島 香織


写真:AP/アフロ
 習近平の訪米が終わった。どのような成果があったかをまとめてみたい。

 当たり前ではあるが、これは中国で報道されているのと、中国の外で報道されているのとではかなり温度差がある。米国の報道をみれば、実に低調で、CNN報道など、わざとかと思うくらい、習近平訪米ニュースを無視していた気がする。建前上、国賓待遇のもてなしであったが、政治的外交的成果は?というと、サイバー攻撃問題に関する合意にしても、軍事衝突の回避に関する合意にしても、気候変動協力に関する共同声明にしても、えーっと、だから?というぐらい、さらっとしか報じられていない。劇的に米中関係が改善されたとか、米国の中国に対する疑念が薄まったとか、信頼が深まったとか、ポジティブな評価がほとんどない。

ローマ法王大歓迎、習近平は「恥知らず」

 27日、中国の共同主催で国連で開かれたジェンダーの平等と女性の地位向上をテーマにしたサミットでは、UNウィメンに1000万ドルを寄付したり、女性の権利尊重を中国指導部として打ち出したりと、いいこと言っているのに、ヒラリー・クリントンから「フェミニスト活動家を迫害しておきながら、国連で女性の権利に関する会議を主催だと? 恥知らずな」とツイッターで突っ込まれるなど、冷ややかな反応しか見えてこなかった。実際、習政権は公共交通機関におけるセクハラ撲滅を訴えるフェミニスト活動家を「挑発罪」で不当逮捕して長らく拘束するなど、とても女性の権利重視の政権とはいえない。いいことを口でいっても行動がともなっていないのだから、この反応は仕方あるまい。

 習近平訪米に対する米国のメディアや世論の冷淡さは、ほぼ同じ時期に初訪米したローマ法王フランシスコ猊下関連報道の盛り上がりと対比すると、さらに際立つ。法王は習近平のかなわなかった米議会での演説を果たし、会場は満員御礼。テレビチャンネルのどこを開けても法王ニュース。一方、習近平の国連演説は閑古鳥が鳴いていた様子で、中国共産党に対して意地の悪い香港の蘋果日報がわざわざフランシスコ演説の写真と並べて報じていた。習近平サイドは、法王に話題を持っていかれるのが嫌で訪米日程をずらしてくれ、と内々に頼んだらしいが、オバマサイドは、時間の都合がつかない、ということでその要求を一蹴したとか。ひょっとしてオバマ政権の習近平政権に対する嫌がらせか、と思うほどの格差待遇であった。むしろ、日本メディアの方が、よほど好意的に報じていた気がする。

 習近平訪米が米国内であまり話題にならなかったのは、そもそもこの訪米自体が習近平の内政向けメンツのためのもので、米国にとっては、いわゆる大きな外交成果、利益が期待されるようなものではなかったことがある。中国側にとってもオバマ政権はすでにロスタイムに入っていると、あからさまに舐めていたところがあろう。なので、中国にとっての今回の訪米成果は、中国国内でどう報じられたか、その政治宣伝によって、習近平の権力掌握や権力闘争にどういう影響があるかに、本当の意味がある。

「歴史を書き換える成果」続々

 では中国国内ではどう報じられているか。今回の訪米は「歴史を書き換える成果」があったと大宣伝されている。

 まず「米中は新型大国関係を発展させることを再確認し、習近平オバマ会談以降、それは新しい高みに登っていく」(新華社)という。いつの間に、米中の間でそんな確認が行われたんだ、と慌てて会見録をみるも、公式の記者発表では、オバマから一言も新型大国関係という言葉は出ていない。こんな報道をすれば、日本ならば、捏造報道か?あるいは非公開の裏会談があったのか?とメディアに追及されるところだが、中国においては、報道は政治宣伝であるから問題ない。

 中国としては、今回の訪米の最大の目的は、中国の大国ぶりをオバマに見せつけ、中国が米国と対等に付き合える大国である、ということを米国に認めさせ、米国との対等なパートナーシップを国内の政敵に見せつけて権力闘争を有利に運び、「大国米国と対等に渡り合える力強い指導者・習近平」のイメージを大衆に刷り込むためのパフォーマンスである。

 そもそも、「『カイロ宣言』の陰の立役者は毛沢東、ルーズベルトは毛沢東を絶賛」という映画を作り、「中国が米国とともに、反ファシスト戦争を戦い戦後秩序を構築した」といった戦勝国自称など、これまでも好き放題、歴史を書き換えてきたのだから、今さら「歴史を書き換える成果」の一つや二つは珍しいことではない。

 新華社の報道によれば、今回の訪米の成果は「政治、経済貿易、人文、気候変動、科学技術、執法、国防、航空、基礎インフラなどの領域49項目においての重要な共通認識を確認。その第一項目が新型大国関係を発展させることの再確認だ」という。

 そして「2013年6月の初会談から双方が新型大国関係の構築に対し重要な共通認識をもち、努力を続けてきた。…2014年11月のオバマ訪中期間に、新型軍事関係に進展があった。…中米新型大国関係は“中国脅威論”に対する有力な反撃力である。…中米新型大国関係は両国民の根本利益にかなう。…」と論評している。

裏テーマは令完成の引き渡し

 次に、大きな成果として喧伝されているのが「人民元の国際化がさらに進んだ」「人民元のSDR加入に対する米国の態度は軟化」である。確かに訪米の目的の一つは、人民元のSDR構成通貨入りへの“お願い”であるが、これは好感触があったということなのだろうか。しかしこれまでの中国の唐突で中途半端な切り下げや、市場ルールより行政指導でコントロールされる金融業界体質をみるに、この調子の人民元が国際通貨になった暁には、国際金融市場はものすごく不安定化してしまうのではないか。それでも米国は中国に花を持たせるのだろうか。

 またオバマが「台湾独立、チベット独立、新疆独立を支持せず、香港事務に介入しない」と確認したことも成果として報じられている。これは米国側の発表には触れられていない。

 ところで公式報道にはないが、この訪米の裏テーマとして注目されていた件がある。米国に逃亡中の実業家・令完成および郭文貴の引き渡し問題である。

 令完成とは、胡錦濤の側近で、権力闘争の犠牲として失脚した元統一戦線部長の令計画の弟である。彼は、令計画から預かった習近平政権の命取りになる国家機密をもったまま米国に逃亡し、8月にはニューヨークタイムズが政治亡命を申請中と、その米国在留の事実を報じている。郭文貴は曾慶紅と親密な実業家で、王岐山のスキャンダルを握ったまま米国に逃亡中とされている。

 習近平訪米前に、この二人を含む、“汚職の逃亡犯”の引き渡し要求交渉が水面下で行われていたという。そして、9月21日の訪米直前に東方日報など一部香港メディアで、令完成の中国への引き渡しに米国が応じるとの密約が交わされていると報じられた。日本メディアもこのニュースを転電した。真偽不明とわざわざただし書きするほど、にわかに信じがたい情報だが、確認がとれなくても思わず転電してしまうほど、ショッキングなニュースでもある。

 香港で流れている情報を整理すると、習近平訪米を控えて、重大腐敗事件に関する処理について米中双方で話し合いが行われており、訪米後には、米国への中国人逃亡犯と不法移民の強制送還が実現される見通しという。今年3月の段階で、中国側は米国に返還要求リストを提出。中国側がリストアップしている逃亡汚職犯100人余りのうち約40人が米国に居住し、9月18日、および24日にすでに二人が強制送還されているそうだ。このリストの中に二人の名前ははいっていないが、彼らについては別の窓口で慎重に交渉が続けられていたようだ。

「中国版スノーデン事件」の行方は

 令完成に関しては、中国側は引き渡してくれるなら二つの条件を飲む、と提案したという。一つは令完成が米国に所有する6億ドル相当の資産の返還を求めないということ。二つ目には米国にいる2万5000人の不法移民の引き取りに応じるということ。中央政法委書記の孟建柱が習近平の特使として派遣され、この交渉をまとめた、というのだ。

 このネタ元は、「令完成事件」調査に参与する北京サイドの人物、つまり習近平サイドのリークなので、多分に令計画や胡錦濤サイドら政敵の動揺を誘うフェイク報道の可能性もある。実際、かつて“令完成逮捕”というフェイク情報を香港メディアを通じて流し、抵抗していた令計画一族を追い詰めたこともある。

 令完成が持ち逃げした「国家機密」は、兄の令計画が中央弁公庁主任時代から集めていた政治、軍事、経済、外交、文化など2700件の機密文書、という膨大なもので、「中国版スノーデン事件」とまで呼ばれている。

 その中で米国サイドが特に注目しているのは、サイバー攻撃の幹部名簿、米国に潜入している中国側諜報員リスト、対米外交戦略の内幕などだと言われている。習近平サイドが心配しているのは、習近平や王岐山ファミリーの不正蓄財情報、セックススキャンダルのほか、権力闘争の内幕だとか。

 東方日報は、令完成はそれらの機密の一部をすでに米国政府に提供しており、最近出されたランド研究所の「米中軍事スコアカード」リポートには、令完成がもたらした情報も反映されているのではないか、という憶測も報じている。

問われる米国の良心と威厳

 元CIA局員のエドワード・スノーデンは香港に逃亡後、2013年6月の習近平初訪米の際に、インターネット監視システムを使った米国NSAによる個人情報収集手口(プリズム計画)を暴露し、米国の信用と評価を落とし、結果的に中国の対米強硬外交に加担することになった。そのスノーデンを中国当局はロシアに逃がしたのに、米国が令完成を中国に引き渡したとしたら、米国の“良心”が問われることにもなる。中国では、国家機密漏洩は最高死刑判決もありうる重大犯罪であり人道的な問題もあるが、それ以上に、2017年の党大会を控えて激化している習近平と胡錦濤派、共産主義青年団派との権力闘争の行方に重大な影響を及ぼし、おそらくは習近平政権の独裁路線強化に加担する結果となる。

 まさか、そんなことがあるわけがない、というのが大勢の見方なのだが、一部では、(根が親中派の)オバマ政権ならやりかねない、という不信感や動揺が広がっていることも確かだ。

 そんな不信感や疑念が流れてしまうほど米国の国力と威厳がかすんでいることを露呈したのが、中国にとって最大の訪米成果かもしれない。

新刊! 画期的中国人論
『本当は日本が大好きな中国人』

反日デモ、抗日ドラマ……。連日のメディアの情報は「中国人はみんな反日だ」というイメージを私たちに植えつける。
しかし実際は、今や東京の町中は中国人の観光客だらけ。なぜ彼らはいがみ合う日本に夢中になるのか。
そこには共産党政権を背景とした複雑な歴史、文化、社会状況が大きく関係していた。両国の知られざる関係を浮き彫りにした画期的文化論。
朝日新書/2015年5月13日発売。


このコラムについて
中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス

 新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。
 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。
 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/092900015/


5. 2015年9月30日 12:50:36 : jXbiWWJBCA
米中首脳会談で「完結」した習近平の「大国」キャンペーン

「始まり」は抗日戦勝70周年式典にあった

2015年9月30日(水)森 永輔

9月25日、オバマ米大統領と習近平国家主席による3回目の米中首脳会談が行われた。サイバーセキュリティー問題や南シナ海問題は平行線に終わり、成果はなかったとの見方が多い。だが中国側の視点に立つと、この会談の違った像が見えてくる。新進気鋭の中国研究家、加茂具樹・慶応義塾大学教授に聞いた。
(聞き手は、森 永輔)
9月25日に米中首脳会談が行われました。加茂さんは、どこに注目していましたか。


加茂具樹(かも・ともき)
慶応義塾大学総合政策学部教授。専門は現代中国政治外交研究、比較政治学、国際関係論(日中関係)。1955年、慶応義塾大学総合政策学部を卒業。2004年、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。駐香港日本国総領事館 専門調査員、國立政治大学国際事務学院客員准教授などを経て、2015年4月から現職。近著に『現代中国政治と人民代表大会 人代の機能改革と『領導・被領導』関係の変化』など。
加茂:中国が描く米中関係の姿と、米国が描く米中関係の姿がどこまで同じで、どこまで異なるのか。この点に注目していました。両者が大きく異なり、どこまで譲ることができるのかのレッドラインを読み間違えることがあれば、最悪の場合、軍事衝突につながりません。

 9月26日付の人民日報が、今回の会談の成果として49項目からなるリストを掲載しました。リストから感じ取れる中国側がアピールしたい「成果」が、習近平国家主席とバラク・オバマ米大統領が並んだ共同記者会見を含めた米国側の発言のトーンとずいぶん異なるのです。これが、米中それぞれが描く2国間関係の違いを表しているように思います。


新型大国関係を「成果」として挙げる

どんな違いがあったのですか。

加茂:最も大きいのは新型大国関係です。人民日報の記事は、これを49項目の筆頭に掲げ、米中がこの関係の構築に向けてあたかも合意したかのように表現していました。一方、米国側は新型大国関係に全く言及していません。

 ただし、中国が本当に「米中が合意した」と理解しているのか、それとも「合意できつつある」ことを中国国内や世界に向けて宣伝する意図なのか、そこは分かりません。中国は米中関係を「新型大国関係」と繰り返し表現してきました。一方、米国は一貫してこれをスルーしてきました。


オバマ大統領と共に記者会見に臨んだ習近平国家主席(写真:UPI/アフロ )
米国が新型大国関係に言及しないことは何を意味しているのでしょう。「言及しない」ことは必ずしも「同意しない」ことを意味するのではないと思います。

加茂:そうですね。「同意しない」場合、面と向かって「否定する」という対応と、「言及しない」という対応が考えられます。米国は「言及しない」の方を選択したのです。米国は中国との間に緊密で安定した関係を築くことが重要と考えています。否定することで対立・対決を招く必要はないでしょう。

時間は中国に味方する

米国が「同意しない」と明確に言わない間に、新型大国関係が実質的に出来上がってきているように見えます。環境をはじめとする協力できる分野では協力する。サイバーセキュリティー問題や南シナ海の問題など「相違」の部分について、米国は実質的に受け入れてしまっている。中国を言葉で非難してはいるものの、具体的な行動を取っているようには見えません。

加茂:新型大国関係の構築に向けて、中国はどこまでなら米国が許容するかを測りながら、焦ることなく、着々と既成事実を積み上げているわけですね。「時間は中国に有利に働いている」と考えて、こうした行動を取っているのだと思います。オバマ大統領の任期はあと1年半。これに対して習近平国家主席は順当にいけばあと7年の時間を残しています。

米国と並ぶルールメーカーになる

米国との間に新型大国関係を築こうとする中国が思い描く最終ゴールは何でしょう。「米国と対等な覇権国」になることでしょうか。

加茂:「覇権国」が、「ルールと秩序を作る国を」意味するのであれば、イエスだと思います。

米国に「取って代わる」という意図もありますか。

加茂:それはないでしょう。中国が考えているのは、ルール作りに参加する大国の一角を占めることです。大国とは米国、中国、ロシア、EU(欧州連合)です。

 中国の意識はリーマンショックを境に大きく変わりました。米国や欧州が右往左往する姿を見て、これで対等な位置に立てる、同じ土俵に立てると確信したのです。

中国は既に、さまざまなルール作りに関与しているのではないでしょうか。国連安保理の常任理事国ですし、イラン核協議にも参加しています。

加茂:中国の理解はそうではありません。中国の研究者と話をしていると「国際法の多くは慣習の積み重ねで出来上がっている。この過程に中国は関与していない」ということを強調します。

アヘン戦争に負けてから、1949年に中華人民共和国が出来上がるまでの間に、国際関係における様々な規範が生まれました。この過程に中華人民共和国は参加することができなかった。ここに大きな悔いがあるのでしょうか。

加茂:その通りです。なので、既存の国際秩序は維持するけれども、中国の発展とぶつかる部分は修正を加えてゆく。これからの新しいルール作りには関与する。これが中国の意図だと思います。

中国の意図がそこにあるとすると、現在失速している経済を何がなんでも復調させるでしょうね。中国の国力・発言力の源泉はその市場の巨大さにあるわけですから。

加茂:おっしゃる通りだと思います。

軍事パレードから首脳会談は一連の流れ

話を、中国から見た首脳会談の成果に戻したいと思います。加茂さんからご覧になって、中国は成果を上げられたのでしょうか。新型大国関係は中国が一方的に成果として挙げているだけのようなので、これを別にして。

加茂:上げられました。なんと言っても、習近平国家主席が国賓待遇で訪米したことです。中国にとっては、これだけで会談は成功したと言っても過言ではないでしょう。中国が米国と対等になったことを明示的に示す出来事だからです。

 新型大国関係というと、中国は米国との衝突を避けながら、自らの核心的利益を米国に認めさせることばかりが注目されていますが、その結果として「米中が対等な2つの大国として地位を確立する」ことも重要な要素。国賓待遇の訪米は、後者を象徴的に示します。

 9月3日に行った抗日戦勝70周年式典から今回の会談に続く一連の出来事を通じて、中国国内に対して「大国・中国」「強い習近平」をアピールできたことも大きい。私は、一連の出来事は1セットのものと捉えています。

 まず式典の演説で習近平国家主席は、中国が今後の国際関係において主導的な役割を果たす決意を示しました。「中国は既存の国際秩序を擁護する。と同時に、新しい国際関係を作り上げていく」という趣旨のことを言っています。重点は後者の「新しい国際関係」にあるでしょう。そして軍事パレードによって、新しい国際関係を主導する力が中国にあることを示した。

 次に訪米し、シアトルを訪問。ここでは米ボーイングから航空機を300機購入するなどして経済的な力を見せつけました。そして、ワシントンに移動してオバマ大統領とサシで会談。こうした行動を取ることで「大国・中国」「強い習近平」をアピールしたのです。

習近平国家主席を国賓待遇で招くことについて、米国内では共和党などから批判の声が上がっていました。

加茂:そうですね。それでもオバマ政権は国賓待遇で招いた。オバマ政権にそう思わせたことも中国が得た成果と言えるでしょう。

米国と戦争はしたくない

日本では、中国が南シナ海の岩礁を埋め立てている問題に注目が集まっていました。この点は、平行線に終わりました。オバマ大統領が「国際法が許す場所ならばどこへでもいく」と航行の自由を主張したのに対して、習近平国家主席は「南シナ海は古来、中国の領土だ」と繰り返すだけでした。

加茂:そうですね。中国に言わせれば、なんら不正なことはしていません。そもそも、フィリピンやベトナムも岩礁に軍事基地を建設してきました。中国はここにきて両国と同じことをしただけ。南シナ海の領有権については歴史的に中国が権利を持っている地域であり譲歩する余地はないとの考えです。人民日報が掲載した成果リストも、南シナ海問題に触れていません。

 折り合いが付かないであろうことは、米中ともに会談前から分かっていたでしょう。

南シナ海における空の軍事衝突を防止する措置については合意できました。

加茂:これは中国にとっても大きな成果です。中国は米国と本気で戦争する気などありません。勝てないことが分かっていますから。なので、偶発的な軍事衝突の芽を摘むことは重要なことです。

偶発的な軍事衝突を起こしたくない中国が、2013年には東シナ海に防空識別区を設定しています。軍事衝突のタネをわざわざ蒔いたのはなぜでしょう。

加茂:あの当時は日米のレッドラインがどこにあるか探っていたのだと思います。その結果、日米の結束が固く、これ以上押してはいけないことを理解した。

日米同盟が抑止力を発揮したわけですね。

加茂:そう思います。

米中でサイバー空間のルールを作る

サイバーセキュリティーについて閣僚級の対話メカニズムを創設することを決めました。これをどう評価しますか。

加茂:これは非常に重要です。こうした問題を解決するスキームは首脳会談でなければ作れません。また、視点を将来に向けた点も重要です。これまでにどちらがどちらを攻撃したとか、していないかとかに拘泥せず、将来に問題を起こさないための仕組み作りを進めました。

 中国は「米国はサイバーに関しても最大の大国であるが、中国には6億人にのぼるインターネットユーザーがいる。これらを持ち寄れば大きな成果を生むことができる」と考えています。

 ただし、米国にとって今回の合意は、この分野における長い交渉の始まりにすぎないでしょう。米国は今回、私企業の知的財産権に焦点を当てました。しかし、今後は軍備管理などにテーマを広げていくと思います。インターネットをはじめとするサイバー空間は米国が国力を維持する柱の一つです。ここでの安全保障を確立することは米国にとって不可欠。したがって、冷戦時代にソ連との間で核の軍備管理を行ったのと同じように、サイバーの分野でも軍備管理を実現しようとすると思います。

サイバー空間が持つ重要性は核兵器と同等になったというわけですね。

 もし米中両国がサイバー空間における軍備管理のルールを定めたら、他の国もそのルールに従わざるを得ないでしょう。ここでも新型大国関係が実質的に出来上がってしまうかもしれません。

加茂:そうですね。ここでも既成事実ができつつあるのだと思います。

投資協定のネガティブリストは“お土産”になるはずだった…

次に経済分野についてうかがいます。オバマ大統領は、条件さえ満たせば、人民元がSDR*の構成通貨なることを支持する姿勢を示しました。この点について中国の意図と米国の対応をどのように分析していますか。

*:国際通貨基金の国際準備資産「特別引出権」のこと。ドルや円、ユーロなどの通貨から構成される。
加茂:中国は最終的には人民元をドルと並ぶ基軸通貨にしたいのだと思います。人民元のプレゼンスを高めることは「中国の復興」を実現する構成要素の一つです。ただし、これを一足飛びに実現することはできないことを中国は知っています。なので、そのためのステップを一つ一つ進めている。人民元を、SDRを構成する通貨の一つにすることは、そのステップの一つなのだと思います。

 米国としても、中国経済がここまで大きくなり、人民元による決済も増えている中で、「ノー」とは言えない。人民元が強くなりつつある現実に適応しようとしているところでしょう。

米中投資協定については、「妥結に向けて交渉を加速」することが今回の首脳会談で決まりました。

 今夏に開かれた米中戦略・経済対話で、9月にネガティブリストをまとめることが決められていました。訪米する習近平国家主席への“お土産”にするとも言われていましたが、実現しませんでした。これは、協定に盛り込む文言の詰めに時間がかかるなどテクニカルは理由からでしょうか。それとも、米中関係に亀裂が生じている可能性があるでしょうか。

加茂:私もネガティブリストがまとまらなかったことにビックリしました。中国メディアは、今回の習近平訪米の目玉は経済であるとずっと報道していましたから。シアトルに立ち寄り、米経済人と接触したのも経済重視の表れです。人民日報が掲載した成果リストにも経済案件がたくさん載っています。

 今回、ネガティブリストがまとまらなかったのは、テクニカルな理由だと思います。中国国内の改革の進展度合いをもうしばらく見る必要があるという議論が米国側にあったようです。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉の遅れが影響したことも考えられます。米国国内に、TPPを締結し、それに基づいてリストの内容を協議する方が有利に進められる、という議論がありました。

TPPと言えば、中国はTPPへの参加を望んでいるのでしょうか。

加茂:中国では多くの識者が「TPPは中国囲い込みの一環」と捉えています。そうであるならば、中国もTPPに参加してルール作りに関与した方がよい。しかし、TPPに参加するためには国有企業のあり方など様々な改革を迫られます。これを実現するためには、既得権益を持つ国内の反対派と対峙しなければなりません。これは習近平政権にとって荷の重いことでしょう。米中の経済交流を深めることには皆賛成でしょうが、構造改革を迫られるのは避けたいところです。

ルールメーカーになることを目標にしている中国にとって、TPPによって中国抜きで太平洋の経済秩序が出来上がっていくのは面白くないでしょうね。

加茂:きっと、そうでしょう。

習近平国家主席が進める一路一帯構想は中国版のTPPと捉えてよいものでしょうか。

加茂:そう思います。

米国とともに世界のルールを作っていくことを目標とする中国としては、一路一帯構想に米国が賛同し、一緒にルールを作っていく姿勢を示せば、これを排除する気はないわけですね。

加茂:はい、米国と一緒に進めていく選択肢を選ぶと思います。

中国外交部は日本課を廃止

最後に日本への影響についてうかがいます。

加茂:9月21日、中国が外交部にあった日本を担当する「処」(「処」は「課」に相当)を廃止したことが明らかになりました。この措置が、9月3日に行われた抗日戦勝70周年式典と米中首脳会談の間にあったことに注目しています。中国は、これを「通常の統廃合」だと説明しています。しかし、中国が何かを発表する時、そのタイミングには意味があるのかもしれません。

 これまで○○処という部署を設置していたのは、米国向け、ロシア向け、そして日本向けだけだといわれています。このうち米ロは中国にとって、ともにルールを作っていく大国です。しかし、日本はそのメンバーではありません。このことを明示的に示したのでしょう。少なくとも中国国内にとってはあまりよいメッセージではありません。

 もしくは「中国がそう考えている」と日本が考えるように仕組んだのかもしれません。そうでなければ、このタイミングでなくてもよかったわけですから。

 ただし中国が日本を重視する姿勢は変わらないと思います。東アジアにおいて、日本は依然として大国です。中国は意識していかざるを得ません。また、日本処の処長はそのまま北東アジア処の処長を務めていますから。

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6. 2015年10月05日 02:56:38 : IGgHPFUNbw
 どの評者も「嫉妬」、「やきもち」全開だW。
日本のように国力が落ち目で、戦略思想の無い国はアメリカの世界戦略では只の
「使いっパシリ」であり、「パートナー」だと自惚れているのは当の日本だけ。
ボケジジィ、役立たずの中年、既得権益の若造の自称ビジネスマン実際は税金寄生虫はそれを薄々感じているが認めたくないんで、前出の如き評論を読んで安堵する。黄昏、消滅していく者の姿と哀れさ。
こういう日本人の中の屑、低能向けの記事を読む者が購買力を持っていることが日本経済の非効率性の表れだ。

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