3. 2015年9月29日 12:06:40
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ハーバードの知性に学ぶ「日本論」 佐藤智恵 【第4回】 2015年9月29日 佐藤智恵 [作家/コンサルタント]アメリカは日本人から見て、なぜこんなに“不便な国”なのか? ロザベス・モス・カンター教授に聞く(1) アメリカを訪れた日本人なら誰でも思う。「何て不便な国なんだ」。まず日本人にとっては電車が遅れるのが信じられない。今年6月、筆者が乗ったニューヨーク-ボストン間の電車は行きも帰りも1時間以上も遅れた。ニューヨークの地下鉄には時刻表があるのかどうかも分からない。マンハッタンでは平日夕方になるとタクシースタンドの長い行列ができる。空港に行けば、国内線は平気で遅れる。経済大国とは思えない交通事情だ。 なぜ、アメリカはこんなに“不便な国”になってしまったのか。今年5月、アメリカのインフラストラクチャーをテーマに著書を出版したロザベス・モス・カンター教授にその理由を聞いてみた。(聞き手/佐藤智恵インタビューは2015年6月23日) なぜアメリカのインフラ事例から リーダーシップが学べるのか ロザベス・モス・カンター Rosabeth Moss Kanter ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理。特に経営戦略、イノベーション、変革リーダーシップを専門に研究。ハーバード大学アドバンスド・リーダーシップ・イニシアティブプログラム教授兼ディレクター。2013年、Thinkers50「世界で最も影響力のあるビジネス思想家50人」の1人に選出。ハーバード・ビジネス・レビュー誌の元編集長でもある。著書・共著書は合わせて19作。最新作は“MOVE: Putting America's Infrastructure Back in the Lead” (W.W. Norton & Company, 2015)。 佐藤これまでリーダーシップの本を多数出版されてきましたが、なぜ、今年、アメリカのインフラストラクチャーについての本を出版されたのでしょうか。
カンタービジネスを取り巻くシステムはますます複雑になっています。その中で次世代を担うリーダーたちは、新しいビジネスを生み出していかなくてはなりません。 1980年〜1990年代であれば、ビジネスリーダーは「効率的にお金を儲けること」を目指せばよかったわけです。ところが現在、どの国のリーダーもいわゆる「エコシステム」(複数の企業によって構築された製品やサービスを取り巻く共通の収益環境)の中に組み込まれています。その中で結果を出していかなければならないのです。 「将来のリーダーたちにとって最も役に立つ題材は何だろうか」と考えていたときに、アメリカのインフラストラクチャーについて書くことを思いつきました。中でも輸送インフラについて詳しく取材しようと思いました。人がどのように動くか、モノをどのように動かすか、は、多くの業界が関わってくる問題だからです。 私はリーダーシップ論の専門家として知られていますが、アメリカのインフラストラクチャーが抱える課題を解決するためには、何よりもリーダーシップが必要であることが分かります。多くの利害関係者をまとめていくには、人を動かすためのビジョン、ストーリーが必要なのです。 ハーバードビジネススクールのエグゼクティブ講座で教鞭をとるロザベス・モス・カンター教授。 (c)Evgenia Eliseeva /Harvard Business School 佐藤ハーバード大学で学んでいるエグゼクティブは、アメリカのインフラについてどの程度興味を持っているのでしょうか。
カンター私は現在「ハーバード大学アドバンスド・リーダーシップ・イニシアティブプログラム」のディレクターを務めています。このプログラムでは、元CEO等、ベテランの経営者たちがその知見を生かし、世界が抱える課題解決に貢献するプロジェクトを推進しています。 インフラのような大きな問題は、1つの組織で解決できるものではありません。多くの関係者が関わります。しかも利害関係が複雑なので、1つにまとめるのは極めて困難です。ところが次世代のリーダーは、こうした環境の中で仕事をしていかなければなりません。プログラムに参加しているエグゼクティブの中には、食品のサプライチェーン、エネルギーの分野に興味を持っている人もいます。どれも輸送インフラが深く関わっている分野です。 なぜ今、アメリカのインフラが 注目されているのか さとう・ちえ 1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。2001年米コロンビア大学経営大学院卒業(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。2004年よりコロンビア大学経営大学院の入学面接官。近年はテレビ番組のコメンテーターも務めている。主な著書に『世界最高MBAの授業』(東洋経済新報社)、『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードはなぜ仕事術を教えないのか』(日経BP社) 佐藤智恵オフィシャルサイト 佐藤アメリカで著書が出版されて以来、マスコミはこぞって「これはアメリカのインフラに警鐘をならす本だ」と取り上げていますね。インフラといえば、日本やドイツのほうが進んでいる印象がありますが、なぜあえてアメリカのインフラを取り上げたのでしょうか。
カンターハーバードビジネススクールは、世界を変革するリーダーを育成する教育機関ではありますが、アメリカの競争優位性を研究する専門のプロジェクトがあります。アメリカの政治的、経済的影響力は依然として大きく、アメリカがこれからも強国でありつづけるのか、という問題は、世界の未来に大きな影響を与えるからです。 他の国がアメリカより優れている点は山ほどあります。日本の新幹線などはその良い例ですね。ところが世界の人々が、世界基準として比較対象としているのはアメリカなのです。だから私は今回、日本やドイツではなく、アメリカのインフラについて書くことにしたのです。 佐藤著書では老朽化具合を生々しく描いていらっしゃいますね。 カンターアメリカの国民に警鐘を鳴らしたいと思ったからです。これまでもアメリカのインフラの老朽化が進んでいることを問題視する人はいました。ところが、それをどのように改善したらいいのか、どのぐらい深刻なのか、という点についてはほとんど議論されてきませんでした。そこで私は、道路、鉄道など主要な交通インフラの歴史、テクノロジーの進歩が与えた影響、都市の進化などについて詳細に調査することにしたのです。 なぜアメリカのインフラは遅れているのか “MOVE: Putting America's Infrastructure Back in the Lead” (ロザベス・モス・カンター著、W.W. Norton & Company, 2015)。アメリカのインフラ老朽化に警鐘を鳴らし、国内で話題に 佐藤私自身もアメリカを訪れるたびに、「世界一の経済大国なのに、なぜこんなに不便なのか」と感じます。電車は1時間も遅れるし、渋滞はひどいし、空港もボロボロ。アメリカが他国に比べてインフラ分野で遅れをとっているのはなぜでしょうか。
カンターいくつか理由があります。1つは、アメリカのインフラ関係の建物や施設は、他国よりも古い時代に建造されているということです。その当時は世界一の技術を駆使して作られましたが、長い年月を経て老朽化が進んだということです。 特に老朽化が進んでいるのが、鉄道です。かつて鉄道は、アメリカ経済を発展させ、国民の生活を向上させるために重要な役割を果たしてきました。インフラには、「メンテナンスと改善」が不可欠なのですが、そのための予算をとるというのは、新しいものをつくるより難しいことなのです。 佐藤鉄道だけではなく、空港も道路も老朽化が進んでいます。 カンターアメリカの航空産業は、第二次世界大戦直後、世界一の技術と規模を誇っていたのです。その頃は多くのパイロットが養成され、民間の航空会社が次々と誕生しました。ところが、アメリカはインフラを築くところにはお金をかけても「メンテナンスと改善」にはお金をかけませんでした。最新のインフラもメンテナンスをしなければ、老朽化が進むのは当然です。 道路についても同じです。1950年代、アメリカは多額の国家予算を割いて、道路網の整備に注力しました。その結果、自動車産業が急速に成長し、他国よりも優位な地位を築くことができました。新たに道路をつくり、維持していく資金は主にガソリン税でまかなわれていました。ところがその税率はヨーロッパよりも低かったため、メンテナンスにまでお金がまわらなくなりました。アメリヵ国民は、税金を払いたがらなかったからです。 佐藤新しいものを建設するときには簡単に予算がついて、「メンテナンスや改善」には予算がつかないのはなぜでしょうか。 カンター本にも書きましたが、「メンテナンスや改善」というのは、政治的リーダーが掲げるキャッチフレーズとしてあまり魅力的ではないからです。 アメリカ政府が巨額な予算を投じて国家プロジェクトを推進する際、その理論的根拠となってきたのが「国防」です。「国家防衛のためにはこれだけの予算が必要なのですよ」と言えば、国民から理解を得やすいからです。 たとえば、アメリカの巨大な州間高速道路網は、全米州間国防高速道路法(1956年施行)のもとで整備されました。巨額な予算をかけて道路を建設した理由は「外国から攻撃されたとき、国民が速やかに避難できるようにするため」です。現実に米国本土が戦地になったことはありませんでしたが、当時は、そう言えば国民は納得してくれたのです。 冷戦期には、国家防衛教育法(1958年施行)のもと、科学、テクノロジー、高等教育に多額の予算が割かれました。ソ連との宇宙開発競争に勝つためです。このときの投資は、アメリカの国力に大きな利益をもたらしました。現在、アメリカの技術力と高等教育が世界最高レベルにあるのは、この分野に巨額の資金が投じられたからです。 佐藤教育への投資は、インフラのように物理的に劣化しません。同じように予算を投じても結果が分かれたということですね。 カンターリーダーは人を動かすためのストーリーをつくり、ストーリーを語ります。第二次世界大戦から冷戦期まで、そのストーリーの中心となっていたのは、国防でした。「国防のために」という建前があれば、インフラだけではなく、様々な国家プロジェクトに予算を使うことができたのです。 佐藤メンテナンスにお金がまわらない理由は、ストーリーとして弱い、ということですか。確かに「国防のために道路を舗装するぞ」とはいかないですね。でも道路のメンテナンスについては、ガソリン税が使われることが法律で定められています。それなのになぜメンテナンスにまでお金がまわらないのでしょうか。 カンターガソリン税という制度そのものが古くなってしまったからです。今は電気自動車が走っている時代です。自動車も燃費効率がよくなっています。昔に比べれば、ガソリンそのものの消費も減りました。ミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)の中には、車を所有しない人もいます。スマートフォンを使って車をシェアすれば十分だと思っているからです。この制度を根本から見直すときがきていると私は考えています。 >>続編『日本のインフラが米国より優れている3つの理由』は10月1日(木)公開予定です。 http://diamond.jp/articles/-/78166
[32削除理由]:削除人:関連が薄い長文 |