1. 2015年9月24日 18:33:33
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コラム:ギリシャ総選挙が摘み残した危機再発の芽=田中理氏 田中理第一生命経済研究所 主席エコノミスト [東京 24日] - 20日のギリシャ総選挙はチプラス前首相率いる与党・急進左派連合(SYRIZA)が第1党の座を守り、1月の総選挙後と同様に、右派・独立ギリシャ人(ANEL)と組んで連立政権を発足させた。事前の世論調査では、最大野党の中道右派・新民主主義党(ND)がSYRIZAを猛追し、両党の大接戦が予想されていた。いずれの党が勝利しても単独での政権発足は困難な情勢で、総選挙後の連立協議の行方を不安視する見方もあったが、選挙結果はSYRIZAが35.5%の支持を集め、NDの28.1%に大きく水をあけた。 第1党へのボーナス議席(50)を加えたSYRIZAの獲得議席は145と過半数(151議席)にはわずかに届かなかったものの、議席獲得が危ぶまれたANELが10議席を獲得したため、再び連立パートナーに指名した。 NDは選挙戦終盤で追い上げたが、ユーロ残留や支援再開と引き換えに緊縮受け入れに舵を切ったSYRIZAとの間で、政策面での目立った相違を打ち出せなかったことが敗因だったのだろう。また、政権の方針転換や難民問題の激化を受け、反緊縮や移民排斥を訴える極右政党「黄金の夜明け」の躍進が不安視されたが、改選前から1議席の上積みにとどまった(18議席で第3党)。 緊縮受け入れに反発し、SYRIZAを離党したラファザニス前エネルギー相が旗揚げした極左の新党・国民連合(LAE)は、事前の世論調査で10議席程度の獲得が目されていたが、十分な反緊縮票を集めることができず、議席獲得に必要な3%に届かなかった。 首相に返り咲いたチプラス氏にとって今回の選挙結果は、NDの追い上げもあり、当初目論んだ議会基盤の強化には必ずしもつながらなかったものの(連立政権の獲得議席は1月の総選挙時が162議席だったのに対して、今回は155議席にとどまった)、緊縮受け入れでの政権の方針転換や党分裂後も1月の総選挙時に迫る議席を獲得したことで、政権運営での国民の信任を得たことになる。 加えて、ラファザニス前エネルギー相やコンスタントプル議会議長など党内の不満分子を議会から一掃し、ANELの議席獲得により、くみしやすい連立パートナーを確保することにも成功した。チプラス首相は、対立姿勢が目立ったバルファキス元財務相に代わって前政権で支援協議の指揮を執ったチャカロトス氏を再び財務相に指名。債権者との対話を重視する姿勢を改めて示したと言える。 <政局安定化への遠い道のり> こうした結果(チプラス首相の再任と強硬派の離党)を受けて、ギリシャの政治リスクは後退し、新政権が債権者側の要求する緊縮路線を今後も堅持する可能性が高まったとの見方もある。だが、本当にそうなのだろうか。結論から言えば、ギリシャ政局が安定化に向かうかは引き続き予断を許さない。 まず、チプラス首相が全ギリシャ社会主義運動(PASOK)やポタミ(TO POTAMI)といった親欧州派の中道政党を連立相手に選ばなかったことに対し、債権者の一部から失望の声も上がっている。 チプラス首相が債権者の要求する厳しい緊縮策を最終的に受け入れたのは、金融システム崩壊やユーロ離脱の危機を回避するうえで他に選択肢がなかったために過ぎない。新政権はひとまず債権者との合意を遵守するとみられるものの、連立を組む両党は今も緊縮見直しの基本姿勢を共有しており、合意を全面的に履行し続けるかは不透明だ。 また、SYRIZA内で最左派に位置した派閥「左派プラットフォーム」の所属議員が議会解散後に離党したものの、党内には依然として緊縮受け入れや政権の方針転換に厳しい目を向ける議員が多数いる。チプラス首相を含めた党内の現実派と離党した「左派プラットフォーム」の中間に位置する派閥「グループ53」に所属する議員の一部は、3次支援に先駆けて行われた議会採決で、党の方針に従わずに棄権票を投じた。 今後、ギリシャ国民が感じる緊縮の痛みが一段と増すとともに政権への風当たりが高まるとみられ、追加支援に必要な改革関連法案の議会審議を進める際に、さらなる党内対立が表面化する恐れも残っている。新政権の獲得議席は議会の過半数をわずか4議席上回るに過ぎず、政権基盤は心許ない。今回の選挙結果を受けて、ギリシャの政局が安定化に向かうと決めつけるのは早計だろう。 <10月中に多くの改革実行が必要> 資金繰りもいまだ綱渡りが続いている。3年間で総額860億ユーロの3次支援プログラムの初回融資260億ユーロのうち、銀行救済に充てる100億ユーロは融資の実行主体である欧州安定メカニズム(ESM)の管理下に置かれており、130億ユーロが8月後半にギリシャ政府の手に渡っている。 このうち50億ユーロ程度は8月の欧州中央銀行(ECB)向け国債償還と9月の国際通貨基金(IMF)向け融資返済に、残りは10月に期限を迎える欧州連合(EU)向けつなぎ融資返済などに充てられる。 初回融資のうち未実行分の30億ユーロは、12月と来年1月のIMF向け融資返済の原資となるもので、ギリシャによる改革条件の履行状況を見極めたうえで融資実行が判断される。支援再開で当面のデフォルト危機を回避したものの、将来の危機の芽が摘み取られたとは言い難い。 チプラス政権にとって喫緊の課題は、10月中に開始予定の初回融資のレビューを無事に終了することだ。債権者と交わした支援の覚書きによれば、年金改革、民営化、規制緩和、行政の効率化、銀行の不良債権処理、来年度の予算案や中期予算計画の策定など、多くの改革が9―10月中の実行を求められている。 総選挙中の協議中断で法制化作業の遅れは避けられず、初回融資のレビューは年末近くにずれ込む可能性がある。レビューを無事に終了すれば、次回融資の承認、ギリシャの債務負担軽減協議の開始、ECBが量的緩和の対象にギリシャ国債を含める特例の決定、資本規制の解除に必要な銀行の資本増強、EU補助金を活用した雇用創出・投資活性化策の前倒し執行などに道を開くことになる。 ギリシャ支援への参加を見合わせているIMFは、同国の改革の全貌が明らかとなったうえで、債務の持続可能性を確保する債務負担の軽減にEUが応じた場合に、支援に参加する可能性を示唆している。EU側は元本削減を伴う債務再編には応じない構えで、利払いの支払い猶予期間や元本の返済期間の延長などを通じて、負担を軽減する方針を示唆している。 また、ギリシャ政府は3次支援の再開に先駆けて、債権者からEUの新たな「銀行再生・破綻処理指令」を承認することを求められた。同指令は来年1月に発効し、その後は銀行の優先債保有者や預金保険対象外の高額預金者の一定の損失負担後でなければ、公的資金による銀行救済ができなくなる。 ギリシャの高額預金の多くは、中小企業の運転資金と言われ、銀行救済が来年以降にずれ込めばギリシャ経済に深刻な影響が及ぶ恐れがある。年内に追加融資、債務負担軽減、銀行救済など難しい協議を終える必要があり、新政権に残された時間は少ない。 *田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。 *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら) http://jp.reuters.com/article/2015/09/24/column-osamutanaka-idJPKCN0RO0L020150924
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